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注目新刊:「コメニウス・セレクション」第3弾、第2期「ライプニッツ著作集」第2巻、ほか

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『覚醒から光へ――学問、宗教、政治の改善』J・A・コメニウス著、太田光一訳、東信堂、2016年10月、本体4,600円、A5判上製366頁、ISBN978-4-7989-1388-9
『ライプニッツ著作集 第Ⅱ期[2]法学・神学・歴史学――共通善を求めて』G・W・ライプニッツ著、酒井潔+長綱啓典+町田一+川添美央子+津崎良典+佐々木能章+清水洋貴+福島清紀+枝村祥平+今野諒子訳、工作舎、2016年10月、本体8,000円、A5判上製452頁、ISBN978-4-87502-477-4
『隷従への道』フリードリヒ・ハイエク著、村井章子訳、日経BPクラシックス、2016年10月、本体2,800円、4-6変型判536頁、ISBN978-4-8222-5173-4

★上記3点はすべて発売済。コメニウス『覚醒から光へ』は『地上の迷宮と心の楽園』(藤田輝夫訳、東信堂、2006年)、『パンパイデイア』(太田光一訳、東信堂、2015年)に続く「コメ二ウス・セレクション」の第3弾。遺稿『人間に関わる事柄の改善についての総合的熟議〔De rerum humanarum emendatione consulatio cacholica〕』全7部のうち、総序「ヨーロッパの光である人々へのあいさつ」(『パンパイデイア』掲載の訳文を再掲)、第1部「パンエゲルシア 普遍的覚醒」、第2部「パンアウギア 普遍的光」を全訳したもの(昨年配本の『パンパイデイア』は第4部「普遍的教育」の全訳)。底本はコメニウスの死後300年を経て初めて公刊された1966年のチェコスロバキア科学アカデミー版。訳者の太田さんは巻頭のはしがきでコメニウスについて「世界が戦争をやめて平和になり、すべての人が賢くなるという願望は、教育を普及させるという希望は、誰よりも強かった。彼はパネゲルシアの第五章でこう断言する、哲学、政治、宗教の目的は、平和である」〔57頁〕と」(ii頁)。帯文はこうです、「従来のイメージを一新する先駆的社会改革者像」。

★『ライプニッツ著作集 第Ⅱ期[2]法学・神学・歴史学』は書名の通り工作舎版ライプニッツ著作集第Ⅱ期の第2回配本となる第2巻です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カバーソデ紹介文にはこうあります。「数学・論理学の「理性の心理(必然的心理)」とともに、自然史・生命史をふくむ歴史などの「事実の心理(偶然的心理)」を重視したライプニッツの法学・神学・歴史学をめぐる多彩な探究プロセスが、300年の時空を超えて本邦初公開される」。より良い世界の建設をめぐるコメニウス(1592-1670)とライプニッツ(1646-1716)の新刊が立て続けに刊行されたことは非常に印象的です。なおライプニッツ著作集第Ⅱ期の最終巻である第3巻の書名は「技術・医学・社会システム――豊饒な社会の実現に向けて」と予告されています。

★村井章子訳『隷従への道』は、一谷藤一郎訳『隷従への道――全体主義と自由』(東京創元社、1954年;第二版、1979年;改訳新装版、一谷藤一郎+一谷映理子訳、東京創元社、1992年)、西山千明訳『隷属への道』(春秋社、1992年;新装版、ハイエク全集新版第Ⅰ期別巻、2008年)に次ぐ新訳です。巻頭にはブルース・コールドウェルによる序文が置かれているほか(ちなみに春秋社新装版ではミルトン・フリードマンによる「1994年版への序文」を読むことができます)、「初版序文」「1956年アメリカ・ペーパーバック版序文」「1976年版序文」の三つも訳出されています。ハイエクの主著であるだけでなく、20世紀における社会主義批判の古典としても名高い『The Road to Serfdom』(1944年)ですが、アメリカでは三社の版元から断られたそうです。結果的に同国ではベストセラーとなっています。コールドウェルの序文はその経緯を明かしていて、興味深いです。出版社がボツにしたからと言って駄作とは限らないのは、近年のより一般的な例では『ハリー・ポッター』シリーズが示しているのは周知の通りです。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』花田菜々子+北田博充+綾女欣伸編、朝日出版社、2016年11月、本体1,600円、四六変型判並製280頁、ISBN978-4-255-00963-6
『竹山道雄セレクション(I)昭和の精神史』竹山道雄著、平川祐弘編、藤原書店、本体4,800円、四六判上製576頁、ISBN978-4-86578-094-9

★『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』は、1年前に花田さんと北田さんが制作された同名の無料ZINEの続編ともいうべき1冊。「まだどこにも紹介されたことのない日本全国のおもしろい本屋22店を現役の書店員22名が文章で案内」と帯にあります。聞いたことのないユニークな本屋の数々に驚いていると本書の最後に一言、「本書に掲載されている本屋はすべて架空のものです」と。本屋ガイドは数あれど、取り上げているすべての書店が実在しないガイドブックというのはもはや新しいジャンルと言っていいかもしれません。22の書店とその紹介者はこちらの一覧をご覧ください。このほか版元2名、取次1名、印刷所1名の寄稿もあります。朝日出版社の綾女欣伸さんによる「夢の編集 インペリアルプレス」、ミシマ社の渡辺佑一さんによる「夢の営業 アツアツ・バーニング」、日本出版販売の有地和毅さんによる「夢の取次 ギタイ化する本」、藤原印刷の藤原章次さんによる「夢の印刷 印刷物責任法」。たしか有地さんは日販傘下のあゆみBOOKSご出身でしたっけ。

★平川祐弘編『竹山道雄セレクション』は全4巻予定で今月第I巻「昭和の精神史」が発売。「昭和の精神史」「一高と戦争」「ナチス・ドイツを凝視する」「戦後日本の言論空間」の四部構成。収録作については書名のリンク先をご覧ください。巻末には秦郁彦さんによる解説「「竹山史観」の先駆性」と牛村圭さんによる読解(「竹山道雄を読む」と銘打たれています)「竹山道雄にめぐり会えて」が併載されています。竹山さんはニーチェの翻訳家として、また小説『ビルマの竪琴』の作家として著名。1983年に福武書店より『竹山道雄著作集』全8巻が刊行されていますが絶版となっており、『竹山道雄セレクション』は新しいスタンダードになるのではないかと思われます。同セレクションは以後、第Ⅱ巻「西洋一神教の世界」、第Ⅲ巻「美の旅人」、第Ⅳ巻「主役としての近代」と続く予定。編者の平川さんには竹山道雄さんの女婿(長女の夫)にあたり、2013年に藤原書店より評伝『竹山道雄と昭和の時代』を上梓されています。今月から勉誠出版より『平川祐弘決定版著作集』全34巻の刊行が開始される予定で、第5巻「西欧の衝撃と日本」と第6巻「平和の海と戦いの海――二・二六事件から「人間宣言」まで」が近日発売と聞きます。

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★最後にまもなく発売となる近刊書の中からご紹介します。

『nyx 第3号:マルクス主義からマルクスへ/なぜベートーヴェンか』堀之内出版、2016年11月、本体1,800円、A5判並製284頁、ISBN978-4-906708-70-3
『論理哲学入門』エルンスト・トゥーゲントハット+ウルズラ・ヴォルフ著、鈴木崇夫+石川求訳、ちくま学芸文庫、2016年11月、本体1,300円、文庫判並製368頁、ISBN978-4-480-09762-0
『乾浄筆譚――朝鮮燕行使の北京筆談録 1』洪大容著、夫馬進訳注、東洋文庫、2016年11月、B6変判上製函入286頁、ISBN978-4-582-80860-5
『徂徠集 序類 1』荻生徂徠著、澤井啓一+岡本光生+相原耕作+高山大毅訳注、東洋文庫、2016年11月、本体2,800円、B6変判上製函入362頁、ISBN978-4-582-80877-3

★『nyx 第3号』は明日、11月7日発売予定。第一特集「マルクス主義からマルクスへ」(主幹=マルクス研究会)、第二特集「なぜベートーヴェンか――音と思想が交叉する音楽家」(主幹=岡田安樹浩)の二本立て。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。各特集の口上にはこう書かれています。第一特集は「マルクス研究会のメンバーが中心となり、MEGAにもとづいた最新の文献情報を元にして、マルクスの思想をもう一度吟味し、国内と海外の研究を一般の読者に紹介することを目的としている。晩期マルクスのエコロジーやジェンダー論のような、これまであまりなじみのないテーマを扱うだけでなく、初期マルクスや恐慌論など先行研究の多いテーマにも新たな光を当てていきたい。そこから浮かび上がるのは、生涯にわたって多岐にわたる学問的探究を行った、専門への細分化の時代が始まる直前の、いわば「最後の」知識人として、『資本論』の完成を目指したカール・マルクスの姿である」(7頁)。第二特集は「ベートーヴェンのさまざまな側面に触れていただけるよう、音楽家、音楽学者、哲学・ドイツ思想の専門家による多岐にわたる内容を配した。〔・・・〕この作曲家が西洋音楽の枠組みを超えて議論されてきた歴史的経緯や音楽学からのベートーヴェンとその作品へのアプローチ、そして現代の音楽家の思想に触れていただくことで、音楽と思想が交叉する瞬間の目撃者となっていただければと思う」(177頁)。次号は第一特集が「開かれたスコラ学(仮)」、第二特集が「政治哲学のフロンティア――分析系政治哲学と大陸系政治哲学をめぐって(仮)」と予告されています。

★トゥーゲントハット+ヴォルフ『論理哲学入門』は9日発売予定。原書は『Logisch-semantische Propädeutik〔論理学・意味論への序説〕』(Reclam, 1983)で、親本は晢書房より1993年刊行。訳者の鈴木さんによる「ちくま学芸文庫版への訳者あとがき」によれば、「今回の再版にあたっては、誤記や誤植のたぐいの訂正と、ごく一部の訳語の変更を除いて、旧版をそのまま踏襲した。〔・・・〕巻末の「参考文献一覧」については、一部補充してある」とのことです。目次は下段で列記しておきます。鈴木さんは本書の独創性について「まったく色褪せていない」として、以下の3点を挙げておられます。1)問題の核心が何か、そしてその問題についてどのような思考が紡がれてきたのかを説明する際の目配りの確かさ。2)主題の啓明における思索の徹底性。3)論述の平明さ。

序言
第1章 「論理学」とは何か
第2章 文、言明文、言明、判断
第3章 論理的含意と論理的真理――分析性とア・プリオリ性
第4章 矛盾律
第5章 伝統的論理学の基本性格――判断論と三段論法
第6章 単称文と一般文の構造に関する現代の考え方――論理的・意味論的形式と文法的形式
第7章 複合文
第8章 一般的名辞、概念、クラス
第9章 単称名辞
第10章 同一性
第11章 存在
第12章 存在〔ある〕、否定、肯定
第13章 真理
第14章 必然性と可能性
参考文献一覧
訳者あとがき
ちくま学芸文庫版への訳者あとがき

★洪大容『乾浄筆譚 1』は14日発売予定。東洋文庫の第860巻です。全2巻予定の第1巻で、帯文は以下の通り。「18世紀朝鮮時代の実学派儒者・洪大容が北京に赴き、中国の若き儒者たちと縦横無尽に語り合った筆談の記録。数奇な個性との出会いと、国境を越えた知識人の奔放な交友の記録」。第1巻では1766年正月30日までのごく短い前段と、2月1日~16日までの記録が収められています。地図、注、解説つき。2月16日に以下のような興味深いやりとりがあります(169~170頁参照、発言以外の部分は刈り込んであります)。注によれば金在行は当時49歳だったとのことで、会話に年輪がにじみ出ている気がします。

厳誠「貧乏し苦労する中で著述することも、まあまあ悪くはありません。それもだめなら、新でから名を残すより、いま一杯の酒をやった方がましです」
金在行「死んだあとは貴賤がありません。官位を獲得できなくても、本当のものが身についておれば不朽です。ただ(私は)本当のものが身についておりません」
潘庭筠「努力して著述すれば、自然と不朽になりますよ」
厳誠「きっと伝わります、きっと伝わりますよ」
金在行「不朽だからといって、何のいいところがありますか。死んでしまえば、一つの“虚”となるだけです。ですから私は養虚を自分の号としているのです。〔・・・〕文章は作るかもしれませんが、これも後世に伝えようとは思いません。とりあえず生前一杯の酒を楽しむことこそ、養虚の極意です」

★『徂徠集 序類 1』も14日発売予定。東洋文庫第877巻です。全2巻予定の第1巻。の帯文はこうです、「「序」とは書籍に対するもののほか、ある人物を祝ったり、その旅立ちに送る文章を指す。『徂徠集』収録の40点の成立順に配列、丹念に訳注を施し、古文辞学の生成過程をたどり直す」。第1巻には「秦君の五十を賀するの序」から「子和の三河に之きて書記を掌るに贈るの序」までの21篇を収録。第2巻には19篇が収められる予定です。1篇ごとに現代語訳、訳注、原文、書き下し、という順番の構成。以下では第14篇「雨顕允を送るの序」から少し引きます。

「不朽の事業として世の中の人々に重んじられるためには、詩にまさるものはありません。/孔子は「詩を学ばなければ、なにも言えない」と述べています。そもそも六経はすべて言葉であるのに、どうして孔子は詩だけを選んだのでしょうか。詩の教えは「温厚和平」にあって、その言葉は人情に従っていて、事の宜しきにかなっており、これを教化に用い、人々の習俗に施すことができ、比興、喩えや仮託といった表現は、こまやかであやをなしており、なごやかである〔・・・〕。「温厚和平」によって詩は作られているのですよ。そのため、詩は、上は宗廟・朝廷から下は庶民の住む村や街、内は閨房、外は諸侯の外交儀礼で用いられるのですが、[詩の表現は婉曲なので]これを口にしても罪に問われることはなく、これを聞いた人も怒ることがないのです。ひしひしと心に感じ、のびのびと楽しみ、すっきりと理解し、まるで大河の流れのような、止めることはできないのです。詩は、すぐれた言葉の第一だと言えるでしょう」(230~231頁)。

★東洋文庫次回配本は12月、『渡辺崋山書簡集』別所興一訳注、とのことです。


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