
★まず、最近出会いのあった新刊4点を列記します。
『ドイツ赤軍(Ⅰ)1970-1972』RAF(著)、初見基/CHINO RICH_O(訳)、革命のアルケオロジー:航思社、2025年4月、本体3,600円、四六判上製352頁、ISBN978-4-906738-52-6
『ジャン゠リュック・ゴダール――思考するイメージ、行動するイメージ』ニコル・ブルネーズ(著)、堀潤之/須藤健太郎(訳)、フィルムアート社、2025年3月、本体3,600円、四六判並製400頁、ISBN978-4-8459-2324-3
『映画の隔たり』ジャック・ランシエール(著)、堀潤之(訳)、青土社、2025年3月、本体3,400円、四六判上製216頁、ISBN978-4-7917-7704-4
『現代思想2025年4月号 特集=教育は敗北したのか――新自由主義教育・子どもの貧困・闇バイト……』青土社、2025年3月、本体1,800円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1479-7
★『ドイツ赤軍 Ⅰ 1970-1972』は、1970年に結成され1998年に解散したRAF(Rote Armee Fraktion:ドイツ赤軍)の公表された文書やビラを集成したもの。帯文に曰く「第1巻は、60年代後半の組織結成にいたる前史から、72年「黒い九月」によるミュンヒェン・オリンピック闘争に関する声明までを収録」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末には関連年表あり。「RAF自らの言葉で記した文章がまとめて邦訳されるのは本書(および続刊)がはじめてとなる」(訳者あとがき)とのことです。「革命のアルケオロジー」シリーズでは続刊予定として、ランシエール『政治的なものの縁で』が予告されています。
★ニコル・ブルネーズ『ジャン゠リュック・ゴダール』とジャック・ランシエール『映画の隔たり』は、出版社が違いますが、いずれも堀潤之さんが翻訳に関わっておられます。前者は、パリ第三大学映画・視聴覚研究科教授のニコル・ブルネーズ(Nicole Brenez, 1961-)の著書『Jean-Luc Godard: Écrits politiques sur le cinéma et autres arts filmiques, Tome 2』(De L'incidence, 2023)の全訳。ゴダールの死から数か月後に上梓された「ブルネーズとゴダールとの積年の関わりを凝縮した一冊」(訳者あとがき)とのこと。「最晩年の協力者の一人が綴る、最も先鋭的かつ最も情熱的なゴダール論集成。〔…〕ゴダールからの機知に富んだ58通のEメールも収録」(帯文より)。ブルネーズの既訳書には『映画の前衛とは何か』(須藤健太郎訳、現代思潮新社、2012年)があります。
★後者は、パリ第8大学名誉教授で哲学者のランシエール(Jacques Rancière, 1940-)の著書『Les écarts du cinéma』(La Fabrique, 2011)の全訳。訳者あとがきによれば、映画論を集成した『映画的寓話』(原著:La Fable cinématographique, Seuil, 2001;訳書:中村真人・堀潤之監訳、インスクリプトより刊行予定)の「続篇とも言いうる著作で、『映画的寓話』の基本的な枠組みを踏まえつつ、主に2000年代に書き継がれた6篇の映画論をもとに編まれたもの」。文学の後で、芸術の境界、映画作品の政治学、の三部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。
★藤原書店さんの3月新刊3点を列記します。
『僕たちのサードプレイス――学校のなかに「居場所」をつくる』宮田貴子(著)、藤原書店、2025年3月、本体2,200円、四六判並製240頁、ISBN978-4-86578-453-4
『ゾラ・セレクション 別巻 ゾラ事典』小倉孝誠(編)、小倉孝誠/佐藤正年/髙井奈緒/高橋愛/田中琢三/寺田寅彦/寺田光徳/中村翠/林田愛/福田美雪/宮川朗子/吉田典子(著)、藤原書店、2025年3月、本体5,800円、四六変型判上製624頁、ISBN 978-4-86578-454-1
『「地政学」批判――生と風土』野尻亘(著)、藤原書店、2025年3月、本体6,200円、A5判上製552頁、ISBN978-4-86578-455-8
★『ゾラ事典』は『ゾラ・セレクション』全11巻別巻1の最終回となる第12配本で、シリーズはこれにて完結です。帯文に曰く「“近代化の中の人間”を描き尽くしたゾラの魅力!〔…〕人と作品世界の全貌を、この1冊で、存分に」と。作品紹介、作家活動とそのテーマ、ゾラの全体性――芸術・社会・歴史・科学、人名・地名事典、ゾラと日本、の五部構成。人名事典ではルイ・アシェット、ジョルジュ・シャルパンティエ、ウジェーヌ・ファスケル、アルベール・ラクロワ、といった出版人も取り上げられていて興味深いです。
★作品社さんの3月新刊および4月近刊、4点5冊を列記します。『やさしい密教』はまもなく発売。そのほかは発売済です。
『やさしい密教――「川崎大師だより」より』吉田宏晢(著)、作品社、2025年4月、本体2,400円、46判並製256頁、ISBN978-4-86793-067-0
『日本人の死生観(Ⅰ)霊性の思想史』鎌田東二(著)、作品社、2025年3月、本体2,700円、46判上製256頁、ISBN978-4-86793-076-2
『日本人の死生観(Ⅱ)霊性の個人史』鎌田東二(著)、作品社、2025年3月、本体2,700円、46判上製248頁、ISBN978-4-86793-077-9
『悪の法哲学――神的暴力と法』仲正昌樹(著)、作品社、2025年3月、本体2,700円、46判並製352頁、ISBN978-4-86793-078-6
『スピリチュアルケア――臨床宗教師によるインターフェイス実践の試み』日本臨床宗教師会(編著)、作品社、2025年3月、本体2,700円、46判並製320頁、ISBN978-4-86793-080-9
★鎌田東二さんの『日本人の死生観』は、「おそらく、これがわが最期の著作、いわゆる「遺作」になるだろう。〔…〕ステージIVのがんの進展により、当初のもくろみの目次通りの論述を達成することはできなかった」(第Ⅰ巻あとがき)とのことです。担当編集は髙木有さん。参考までに当初の目次予定と刊行された本の目次を並べてみます。
◎当初案
序章 能登からの発信――能登地震と大雨の二重被害が警告すること
超越の回路~両義性の場所から
第一章 真脇遺跡と縄文の死生観
第二章 神道のあの世観と仏教のあの世観
第三章 聖徳太子、空海、源信、法然、親鸞、一遍の死生観
第四章 吉田兼倶の隠幽教
第五章 本居宣長と平田篤胤の死生観
第六章 明治十三年の祭神論争
第七章 出口王仁三郎――出雲神族の二度の敗退
終章 地球の呼び声に応える
◎第Ⅰ巻「霊性の思想史」
序章 安部公房と三島由紀夫の比較から始める
第一章 「霊」あるいは「霊性」の宗教思想史
第二章 うたといのりと聖地の死生観
第三章 いのりをめぐる東西の自然理解と死生観
第四章 モノと霊性――ものづくりからもののあはれまで
終章 言霊と神道――草木言語から人間言語・地域言語への射程
初出一覧
参考文献
あとがき――出雲系死生観
補記 出雲魂ルネサンス
◎第Ⅱ巻「霊性の個人史」
序章 極私的随想
第一章 死に臨む
第二章 死と死後について――信長と篤胤の死生観
第三章 「複雑性悲嘆」と「複雑性感謝」ということ
第四章 「グリーフ」と「ウソつく心」
第五章 うたの力――ピュタゴラス教団の合唱と『古事記』『平家物語』と「ガン遊詩人・神道ソングライター」のうた
第六章 「同行二人」で逝きましょう!――「おひとりさま」では死ねません
あとがき――臨終の向かう過程で
補記 鎌田家人生会議覚書
★人文書院さんの2月、3月新刊7点を列記します。
『日高六郎の戦後啓蒙――社会心理学と教育運動の思想史』宮下祥子(著)、人文書院、2025年3月、本体4,500円、四六判上製364頁、ISBN978-4-409-24171-4
『シェリング政治哲学研究序説――反政治の黙示録を書く者』中村徳仁(著)、人文書院、2025年3月、本体4,500円、四六判上製350頁、ISBN978-4-409-03137-7
『戦後ドイツと知識人――アドルノ、ハーバーマス、エンツェンスベルガー』橋本紘樹(著)、人文書院、2025年3月、本体4,500円、四六判上製324頁、ISBN978-4-409-03136-0
『地域研究の境界――キーワードで読み解く現在地』田浪亜央江/斎藤祥平/金栄鎬(編)、人文書院、2025年3月、本体3,600円、四六判並製320頁、ISBN978-4-409-24170-7
『関西の隠れキリシタン発見――茨木山間部の信仰と遺物を追って』マルタン・ノゲラ・ラモス/平岡隆二(編)、人文書院、2025年3月、本体2,600円、四六判並製254頁、ISBN978-4-409-52096-3
『クライストと公共圏の時代――世論・革命・デモクラシー』西尾宇広(著)、人文書院、2025年2月、本体6,800円、A5判上製390頁、ISBN978-4-409-24168-4
『美学入門』ベンス・ナナイ(著)、武田宙也(訳)、人文書院、2025年2月、本体2,600円、四六判並製210頁、ISBN978-4-409-03135-3
★『シェリング政治哲学研究序説』は、ご専門が近現代ドイツ哲学、社会思想史で、三重大学人文学部助教の中村徳仁(なかむら・のりひと, 1995-)さんが2022年度に京都大学へ提出された博士論文「反政治の黙示録としての哲学と宗教――シェリング政治哲学研究序説」を加筆修正したもの。序論「正統と革命のはざまに立つシェリング――先行研究の整理」の第6節「三つの主要テーゼと本論の全体構成」から引きます。「シェリングにとっての「(反)政治」とは、一般的な意味での政治――人びとのあいだの利害や信条の対立――が人間の生を支配しないように、哲学と宗教によってそれを抑制するという、より高次の意味での政治、いわば〈政治に支配されないための政治〉なのである。〔…〕本書が明らかにせんとするシェリングにとっての「(反)政治」の基本的特徴は〔…〕三つのテーゼに集約される」(46頁)。ネタバレを避けて、もっとも興味深い第三テーゼのみ引きます。「シェリングにとっての「(反)政治」は、悲劇的意識に根差しながらも、〈いま・ここ〉のなかに潜む、未来へといたる「道」をつねに哲学的に模索し、その「道」を探求することで人格の完成へとむかう、人格主義とユートピア的終末論を特徴とする」(46~47頁)。
