
★まず、2024年11月から2025年1月までの既刊単行本から注目書を列記します。
『スピノザ全集 第Ⅵ巻 往復書簡集』河合徳治/平尾昌宏(訳)、岩波書店、2025年1月、本体6,200円、A5判上製586頁、ISBN978-4-00-092856-4
『聖ボナヴェントゥラ著作選集』ボナヴェントゥラ(著)、フランシスコ会日本管区(監修)、小高毅(編訳)、キリスト教古典叢書:教文館、2024年12月、本体8,800円、A5判上製668頁、ISBN978-4-7642-1815-4
『新潮 2025年1月号』新潮社、2024年12月、本体1,091円、A5判並製324頁、雑誌04901-01
『増補新装版 ZERRO』松田行正(著)、牛若丸(発行)、Book&Design(発売)、2024年12月、本体2,800円、A5判変型上製288頁、ISBN978-4-909718-13-6
『平等について、いま話したいこと』トマ・ピケティ/マイケル・サンデル(著)、岡本麻左子(訳)、早川書房、2025年1月、本体2,000円、46判上製168頁、ISBN9784152104014
『考えるという感覚/思考の意味』マルクス・ガブリエル(著)、姫田多佳子/飯泉佑介(訳)、講談社選書メチエ、2024年12月、本体2,400円、四六判並製464頁、ISBN978-4-06-535293-9
『パイデイア――ギリシアにおける人間形成(下)』W・イェーガー(著)、曽田長人(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2024年12月、本体5,500円、新書判上製632頁、ISBN978-4-86285-425-4
『万人のための哲学入門――この死を謳歌する』佐々木中(著)、草思社、2024年11月、本体1,300円、四六判変型96頁、ISBN978-4-7942-2758-4
『改訂新版 異神――中世日本の秘教的世界(Ⅰ)新羅明神・摩多羅神編』山本ひろ子(著)、戎光祥出版、2024年11月、本体3,500円、四六判並製408頁、ISBN978-4-86403-543-9
『改訂新版 異神――中世日本の秘教的世界(Ⅱ)宇賀弁才天・牛頭天王編』山本ひろ子(著)、戎光祥出版、2024年11月、本体3,500円、四六判並製448頁、ISBN978-4-86403-544-6
★『スピノザ全集 第Ⅵ巻 往復書簡集』は、全6巻別巻1の第5回配本。帯文に曰く「『遺稿集』の公刊(1677年)後、今日までに発見された全書簡を収録。文通者ならびに17世紀の宗教・政治・社会状況についての詳細な訳注と解説を付す」。84篇が収録されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。次回配本は2025年夏、第Ⅱ巻『神学政治論』です。
★『聖ボナヴェントゥラ著作選集』は、没後750年記念出版。帯文に曰く「同時代の盟友トマス・アクィナスと双璧をなす中世スコラ学の巨星が残した霊的・神学的著作を精選して収載。〔…〕フランシスコ会の総長を務め、枢機卿にも叙された非凡な聖人の全体像を活写する詳細解説付き」。論考、手紙、説教など、収録作は書名のリンク先をご覧ください。
★『新潮 2025年1月号』は、蓮實重彦さんと千葉雅也さんの対談「驚きの連鎖を生きる」や、東浩紀さんのエッセイ「哲学とはなにか」、谷川俊太郎さんの追悼特集などに注目。蓮實千葉対談は版元紹介文によれば「伝説の式辞から、AIの神髄まで。自己のフィクション性を見つめる二人の、世代を超えた知の応酬」と。現在は品切。
★『増補新装版 ZERRO』は、2003年に初版が刊行されてから様々な色合いの装丁で版を重ねてきた「121項目の古今東西の文字・符号・記号・暗号のカタログ集」(版元紹介文より)のロングセラーの増補新装版。写真は2004年に刊行された第二版(濃い緑色)。当時の発売元は星雲社でした。今回の増補新装版では判型が一回り小さくなるとともに分厚くなりました。巻末の「おわりに(新版)」によれば、「本書は、20年前に刊行された『ZERRO』(牛若丸、2003)をベースに、拙著『アルファベット・モア(AB+)』(LIXIL、2020)のなかから『ZERRO』の項目に該当する箇所を抜き出し、合体・大幅加筆して増補新装版にしている」とのことです。今回も三方は、カバー、オビ、表紙、見返しの紙と同色の明るい緑色に塗られており、とても美しいです。私は某書店の人文書売場新刊台で買いましたが、売行堅調のようでした。
★『平等について、いま話したいこと』は、日米同時発売。英語題は『Equality: What It Means and Why It Matters』です。ピケティとサンデルによる対話本で、9章立てになっています。巻頭の特記によれば「2024年5月20日にパリ毛材学校で対談した内容を編集したもの」。ピケティの『平等についての小さな歴史』(広野和美訳、みすず書房、2024年9月)と『実力も運のうち――能力主義は正義か?』(鬼澤忍訳、早川書房、2021年;ハヤカワ文庫、2023年9月)を踏まえた内容となっています。目次を以下に掲出しておきます。
第1章 なぜ不平等を懸念するのか
第2章 お金はもっと重要でなくなるべきか
第3章 市場の道徳的限界
第4章 グローバリゼーションとポピュリズム
第5章 能力主義
第6章 大学入試や議員選挙にくじ引きを取り入れるべきか
第7章 課税、連帯、コミュニティ
第8章 国境、移民、気候変動
第9章 左派の未来――経済とアイデンティティ
解説(吉田徹)
主要著作リスト
★『考えるという感覚/思考の意味』は、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル(Markus Gabriel, 1980-)の著書『Der Sinn des Denkens』(Ullstein, 2018)の全訳。「まえがき」によれば「本書は『なぜ世界は存在しないのか』、『「私」は脳ではない』に続く、三部作の最後を締めくくるものですが、先の二作を読んでいなくても理解できるように書いてあります。本書は、全二作と同様、哲学的にいろいろ考えてみたいというすべての読者を対象にしたものです。そして、この考えるというプロセスこそがテーマになっています。これから私は、誰にでも分かるような、とっつきやすい方法で(人間的)思考の理論を展開していきます」(11頁)。
★『パイデイア(下)』は、ドイツの古典学者イェーガー(Werner Wilhelm Jaeger, 1888-1961)の古典的名著『Paideia: die Formung des griechischen Menschen』(3 vols., 1933–1947)の全訳全3巻の完結篇。第三部「偉大な教育者と教育体系の時代――後半」を収録。「イソクラテスの弁論・修辞術やプラトンの『パイドロス』『法律』を主に扱う。ソフィストの登場にギリシアの教育の大きな画期を認め、教育の二つの柱としての哲学および弁論術について、相互の接点や対立も含め詳述する」(カバー表4紹介文より)。巻末には訳者による「解説」と「訳者あとがき」、さらに「概念名・作品名・その他の用語解説」「人名・神名・地名・家名・部族名の用語解説」「索引(人名・神名・地名・家名・部族名)」が付されています。
★『万人のための哲学入門』は、哲学者で作家の佐々木中(ささき・あたる, 1973-)さんによる書き下ろし。「序」の一部と目次詳細はこちらでご覧いただけます。「「哲学入門」を手に取って読み始めたということは、すでにあなたは「哲学」の圏内に居る、一人の哲学者なのです」(21頁)。「自分の生に意味があるかどうかは問題ではない。意味は与えられるものではありません。むしろあなたが意味を与える側なのです」(跋、88頁)。「いくらわれわれの生と死がはかなくなっていくばかりだとしても、われわれには意味を与える力は残されている」(同、89頁)。
★『改訂新版 異神』は、日本宗教思想史がご専門の山本ひろ子(やまもと・ひろこ, 1946-)さんの主著の再刊。凡例によれば、単行本初版(平凡社、1998年)とその文庫版(上下巻、ちくま学芸文庫、2003年)に「全面的な見直しを行った」もの。新羅明神、摩多羅神、宇賀弁才天、牛頭天王、といった謎の多い神々について論じた重要書です。平凡社版も文庫版もまったく安くならないので、今回の再刊を心待ちにされていた読者も多いのではないでしょうか。1月に重版され2刷となりましたが早くも版元品切とのことなので、買い逃しておられた方は書店さんの店頭でお早めにお探しになることをお薦めします。
★つぎに、最近出会いのあった新刊を列記します。
『現実化しえないもの――存在論の政治に向けて』ジョルジョ・アガンベン(著)、上村忠男(訳)、みすず書房、2025年2月、本体5,200円、四六判上製288頁、ISBN978-4-622-09761-7
『7つの安いモノから見る世界の歴史』ラジ・パテル/ジェイソン・W・ムーア(著)、福井昌子(訳)、作品社、2025年1月、本体2,700円、四六判並製296頁、ISBN978-4-86793-069-4
『山本周五郎[未収録]ミステリ集成』山本周五郎(著)、末國善己(編)、作品社、2025年1月、本体5400円、四六判上製544頁、ISBN978-4-86793-072-4
★『現実化しえないもの』はまもなく発売。イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben, 1942)の近著『L'irrealizzabile. Per una politica dell'ontologia』(Einaudi, 2022)の全訳。「現実化しえないもの」と「太古の森――コーラ 空間」の二部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。カバー表4紹介文に曰く「著者の「脱構成的な可能態の理論」は、〈ホモ・サケル〉シリーズの最終巻『身体の使用』から実り豊かな深化を遂げた。関連しあう二本の論考および基本的テーマを先取りした付録「准教授採用試験のための講義」を収める」。
★巻頭の「註記」にはこう書かれています。「本書を構成している二つのテクストはそれぞれ独立したものであるが〔…〕二つのテクストは、思考をそれ本来の第一義的な対象である「物」に返還しようとする二つのこころみとして、連続して読むことができる。哲学は科学でもなければこれから実現すべき理論でもなく、すでに完全に現実的な、そしてそのようなものであるかぎりで、現実化できない可能性である。そして、この可能性に執着して離れようとしない政治こそが、唯一の真の政治なのである」(1頁)。
★『7つの安いモノから見る世界の歴史』は、英国出身で米国在住のジャーナリスト、ラジ・パテル(Raj Patel, 1972-)と同じく米国の世界史家ジェイソン・W・ムーア(Jason W. Moore, 1971-)の共著『 A History of the World in Seven Cheap Things』(University of California Press, 2017)の全訳。帯文に曰く「自然、貨幣、労働、食料、ケア、エネルギー、生命――これらを不当に「安く」してきたのが、人類と資本主義の発展の歴史だった!」と。「『肥満と飢餓』『値段と価値』などの著作で独自の視点から現代経済の足元に切り込んできたパテルと、「資本新世」を提唱し注目を集めるムーアがタッグを組んだ話題作、待望の邦訳」(カバーソデ紹介文より)。
★「日本語版へのまえがき 安価な自然は対立の現場だ――生命の網におけるエコ社会主義を求めて」に曰く「われわれはとりわけ、今日の危機の端々で見られるようなグリーン資本主義者とマルサス主義的な環境保護主義者のばかげた小手先だけのごまかしを問題だと受け止めている。〔…〕グリーン資本の誘惑に対する警告として、またフェミニスト的で反帝国主義的なエコ社会主義の必要性と喜びを示すものとして、複合危機の時代にこれらの考察を示すのである。そのような取組みによってのみ、われわれに与えられた資本新世の作り直しを想像することが可能になるのだ」(5頁)。
★『山本周五郎[未収録]ミステリ集成』は、帯文に曰く「「少年少女譚海」掲載の冒険譚から、「新少年」掲載の短篇ミステリ、「講談雑誌」掲載の艶笑譚まで――。文豪・山本周五郎による、これまでの全集/選集に収録されていなかったミステリを大集成!長篇3作品、短篇10作品、すべて単行本初収録」と。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。なお、4月には姉妹編『山本周五郎[未収録]時代小説集成』を刊行予定とのことです。
