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注目新刊:東信堂版『ジョルダーノ・ブルーノ著作集』全7巻完結

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『ジョルダーノ・ブルーノ著作集(4)無限・宇宙・諸世界について』ジョルダーノ・ブルーノ(著)、加藤守通(訳)、東信堂、2024年11月、本体3,800円、A5判上製240頁、ISBN978-4-7989-1927-0
『加耶/任那――古代朝鮮に倭の拠点はあったか』仁藤敦史(著)、中公新書、2024年10月、本体900円、新書判256頁、ISBN978-4-12-102828-0
『在野と独学の近代――ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで』志村真幸(著)、中公新書、2024年9月、本体960円、新書判288頁、ISBN978-4-12-102821-1


★『無限・宇宙・諸世界について』は、東信堂版『ジョルダーノ・ブルーノ著作集』全7巻の最終回配本。『De l'infinito, universo e mondi』(1584年)の翻訳は、清水純一訳『無限、宇宙および諸世界について』(現代思潮社、1974年;改訳版、岩波文庫、1982年)以来のことで、改訳版から数えて42年ぶりの新訳となります。清水訳はジョヴァンニ・アクィレッキア編『イタリア語対話篇』(1958年)が底本でした。今回の加藤訳は同じくアクィレッキア編ですが、フランスのベル・レットル社から2006年に出版された校訂版を底本にしています。加藤守通(かとう・もりみち, 1954-;東北大学名誉教授)さんは本書の解説で次のように述べておられます。「清水氏は、『ジョルダーノ・ブルーノの研究』(創文社、1970年)の著者でもあり、我が国におけるブルーノ研究の偉大な先駆者であった。当然のことながら本書においても、解釈に疑問が生じた場合には、清水氏の訳と相談させていただいた。もっとも、清水氏の訳と拙訳との間には、解釈においてかなりの相違があることも指摘したい」(226頁)。


★「残された結論は、包摂する無限の領域と空間が存在し、それがすべてを含み、すべてに浸透している、ということになります。この無限の空間の中には、それに似た無数の物体〔世界〕が存在し、それらの中のどれとして他のもの以上に宇宙の中心にあるわけではありません。なぜならば、宇宙は、無限であるがゆえに、中心も端も持たないからです。しかし、中心と端は、宇宙の中にある世界のどれにも当てはまります」(「第三対話」125頁)。


★東信堂版『ジョルダーノ・ブルーノ著作集』は第1回配本の『原因・原理・一者について』(1998年)に始まり、26年をかけて今回の配本をもって全7巻完結となります。すべて加藤さんによる翻訳で、偉業と形容するにふさわしい個人全訳となりました。


第1巻(第2回配本)『カンデライオ』2003年7月
第2巻(第5回配本)『聖灰日の晩餐』2022年9月
第3巻(第1回配本)『原因・原理・一者について』1998年4月
第4巻(第7回配本)『無限・宇宙・諸世界について』2024年11月
第5巻(第4回配本)『傲れる野獣の追放』2013年9月
第6巻(第6回配本)『天馬のカバラ』2023年8月
第7巻(第3回配本)『英雄的狂気』2006年6月


★当初の予定ではこのほか、第8巻『形而上学と宇宙論――『三十の像の灯明』『フランクフルト三部作』』、第9巻『記憶術論――『イデアの影』『キルケの歌』『印の印』』、第10巻『魔術論――『魔術について』『絆について』』、別巻『ジョルダーノ・ブルーノとルネサンス思想(仮)』、別巻『ジョルダーノ・ブルーノ研究(仮)』がありましたが、昨夏の第6回配本から全7巻に再編され、関連書として3冊が帯表4に掲出されました。加藤さん自身による著作で『ジョルダーノ・ブルーノ伝(仮)』(続刊)、そしてヌッチョ・オルディネさんの著書の加藤さんによる翻訳2点です。『ロバのカバラ――ジョルダーノ・ブルーノにおける文学と哲学』(2002年)、『影の敷居(仮)』(続刊)。


★「この地球が唯一の固有の中心であるという考えを破壊してください」(加藤訳、200頁)。「この地球が真の唯一の中心だという考えを崩してやりたまえ」(清水訳、254頁)。二つの翻訳によって、ブルーノ哲学の理解はいっそう深まるはずです。


★中公新書の新刊既刊を1点ずつ。『加耶/任那』は、『日本書紀』にある記述「任那日本府」について「近年の文献・考古学の研究を踏まえ」(223頁)、「戦前以来の通説だったヤマト王権の出先機関説を明確に否定」(220頁)したもの。任那日本府は「倭から派遣された使者、土着した二世の旧倭臣、在地系の加耶人という三つから構成された集団である。〔…〕ヤマト王権からは独立した集団」(225頁)と。歴史家だけでなく一般読者も「皇国史観、韓国民族主義史観を超えて」(帯文より)再考するための、良い機会を与えてくれます。著者は国立歴史民俗博物館教授で日本古代史がご専門の仁藤敦史(にとう・あつし, 1960-)さん。


★『在野と独学の近代』は、帯文に曰く「南方熊楠を軸に、ダーウィン、マルクスから福来友吉、牧野富太郎、三田村鳶魚ら、英日の独学者たちの姿を活写する。さらに郵便、辞書、雑誌、図書館といった「知」のインフラやシステムにも着目。彼らの営為と、変化する環境を通し、学問の意味や可能性を探る」。第一部ではイギリス、第二部では日本が取り上げられます。イギリスでは国家と結びつかないプロ集団としての大学人や、無数の強力なアマチュアが活躍し、官学の強い日本では「官と民のあいだの学問」が発展した、という両国の対比は非常に興味深いです。著者の志村真幸(しむら・まさき, 1977-)さんは慶応義塾大学准教授で、熊楠を扱った著書が複数あります。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『近代世界における死』トニー・ウォルター(著)、堀江宗正(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、本体5,000円、四六判上製552頁、ISBN978-4-588-01174-0
『住居に都市を埋蔵する――ことばの発見』原広司(著)、住まい学エッセンス:平凡社、2024年10月、本体3,600円、B6変型判上製268頁、ISBN978-4-582-54362-9


★『近代世界における死』は、英国の死生学者トニー・ウォルター(Tony Walter, 1948-)さんの著書『Death in the Modern World』(Sage, 2020)の訳書。帯文に曰く「各国の歴史や文化、法律や制度による違いに注目しつつ、医療や家族のあり方、宗教やメディアや戦争の影響などをグローバルに考察した集大成の書」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ウォルターさんの既訳書には『いま死の意味とは』(原著2017年;堀江宗正訳、岩波書店、2020年)があります。10年前(2014年11月)には東大で来日講演「死と臨終、東と西と(Death and Dying in the East and the West)」を行っており、その翻訳は『死生学・応用倫理研究』第21号(東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター、2016年)に「死にゆくこと、東と西と」(堀江宗正・鷹田佳典共訳)と題して掲載されています。


★ウォルターは自著『近代世界における死』について「今日の社会が、死とその過程と死別とを管理する〔…〕ありようを規定するのは何だろう。近代諸国はすべてに通っているのだろうか。文化、物理的環境、国民の歴史、法律や制度、グローバル化は、どれくらい重要だろう。これら多様な要因全体が合わさって、近代世界の死とその過程をどのように形成しているのだろう。本書は、それを見渡す最初の本である。言わば、ジグソー・パズルの全体を完成しようとした最初の本である」(序論、1頁)。


★「死とその過程について書いている社会科学者のほとんどは、ほんのいくつかの要因、ジグソー・パズルのほんのいくつかのピースだけに焦点を合わせてきた。たとえば、アラン・ケリヒア〔『死にゆく過程の社会史』未訳〕は、経済構造がどのようにして数千年にわたって死の過程に影響を与えてきたかを示した。これについては第一部〔「近代性」〕で考察する。歴史家のフィリップ・アリエス〔『死を前にした人間』みすず書房〕は、観念と文化の力を強調した。これについては第三部〔「文化」〕で考察しよう。ルース・マクマナス〔『グローバル時代の死』未訳〕は、グローバル化の諸理論を応用した。これについては第五部〔「グローバル化」〕で紹介する。これらのピースだけでなく、本書はジグソー・パズルに新しいピースをはめ込む。リスクと環境(第二部)、そして国民集団(第四部)である。また、これまでに使用されていなかった理論(脱物質主義など)と視点(比較分析など)を応用し、私たち近代人が今のように人生最終段階を処理するように至った理由を明らかにする」(同、5~6頁)。


★『住居に都市を埋蔵する』は、1990年に住まいの図書館出版局のシリーズ「住まい学大系」の1冊として刊行されたものの再刊。巻末に著者による「新版あとがき」と、山本理顕さんへのインタヴュー「建築家にして教育者」(聞き手=植田実)が加わっています。「「有孔体」から「反射性住居」「多層構造」へ。世界の集落調査、古今の思想を導きの糸に均質空間にあらがって掘り進められた設計プロセスと省察」(帯文より)。著者の原広司(はら・ひろし, 1936-)さんは建築家で東京大学名誉教授。


★「対称性の強いいくつかの住居は、私が設計した住居のなかでももっとも安定している。一言であらわせばライプニッツの「モナド」に似ている。出発点はトポスにあったが、微細な求心的空間を多数形成すること、つまりジョルダーノ・ブルーノの「世界の多数性」にあった。これは「中心と周縁」という単独峰の地形モデルに対して、小刻みな山が点在する地形モデルを据えることを意味する。しかし私にはひとつの意図があって、「反転」した地形モデル、つまり「谷」が「マイナスの中心」として出現する構図の実現である。対称性は基本的には「門」であるが、「谷」の表出に活用したわけである。対称性は歴史的にみれば権力の表現にほかならない。対称性に依存するかぎりにおいて、建築は古典的かつ権力的にならざるをえない。しかし一方において、マイナスの自己権力の表出がジョルダーノ・ブルーノの真意ではなかったか。ここに私は対称性の今日的意味を見いだそうとしたのだった」(「呼びかける力」16頁)。



★シリーズ「住まい学エッセンス」は、版元紹介文を引くと「「住居・建築・まちを探検するコンパクト・ブックス」として、積水ハウス「住まいの図書館出版局」より1987年から2014年にかけて刊行されたシリーズ「住まい学大系」は、建築家による設計プロセスの精緻な表現、住居をめぐって掘り起こされた歴史、住まい手による生活記録の集積から建築批評に新たな視座をもたらし、ジャンルをこえ幅広い読者を獲得しました。平凡社では惜しまれながら絶版となった「住まい学大系」のなかから読み継がれるべき書を精選、新たな顔ぶれも加えた新シリーズ「住まい学エッセンス」を2024年夏より刊行開始します」と。7月には第1弾として、伊東豊雄ほか『中野本町の家』と、関島寿子『バスケタリーの定式――かごのかたち自由自在』が刊行されています。続刊予定として、松山巖『町は町だったころ』、山本理顕『新編 住居論』(2024年12月刊行予定)、大橋晃朗『トリンキュロ――思考としての家具』が予告されています。

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