★最近出会いのあった新刊を列記します。
『フェリックス・ガタリの哲学――スキゾ分析の再生』山森裕毅(著)、人文書院、2024年10月、本体4,500円、四六判上製324頁、ISBN978-4-409-03134-6
『戦争はいつでも同じ』スラヴェンカ・ドラクリッチ(著)、栃井裕美(訳)、人文書院、2024年10月、本体2,800円、四六判並製222頁、ISBN978-4-409-24165-3
『移民都市』レス・バック/シャムサー・シンハ(著)、有元健/栢木清吾/挽地康彦(訳)、人文書院、2024年10月、本体4,800円、四六判並製380頁、ISBN978-4-409-24166-0
『スリー』アン・クイン(著)、西野方子(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2024年10月、本体3,200円、四六変型判上製336頁、ISBN978-4-86488-307-8
『ジュネーヴ短編集』ロドルフ・テプフェール(著)、加藤一輝(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2024年10月、本体4,500円、四六変型判上製336頁、ISBN978-4-86488-308-5
『パットゥパーットゥ――古代タミルの「十の長詩」』高橋孝信(訳)、東洋文庫:平凡社、2024年10月、本体4,500円、B6変型判上製函入484頁、ISBN978-4-582-80921-3
『進化論の知られざる歴史――ダーウィンとその〈先駆者〉たち』レベッカ・ストット(著)、高田茂樹(訳)、作品社、2024年10月、本体3,600円、四六判並製480頁、ISBN978-4-86793-046-5
『カント「人倫の形而上学」の生成――理念論の道をたどる』宮村悠介(著)、春風社、2024年10月、本体4,000円、四六判上製244頁、ISBN978-4-86110-976-8
『叛乱論/結社と技術 増補改訂新版』長崎浩(著)、革命のアルケオロジー:航思社、2024年10月、本体3,800円、四六判上製520頁、ISBN978-4-906738-50-2
『現代思想2024年11月臨時増刊号 現代思想+ わたしの留学記』青土社、2024年10月、本体1,800円、B5並製174頁、ISBN978-4-7917-1473-5
『現代思想2024年11月号 特集=「自治」の思想』青土社、2024年10月、本体1,600円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1474-2
★人文書院の10月新刊より3点。『フェリックス・ガタリの哲学』は、『ジル・ドゥルーズの哲学――超越論的経験論の生成と構造』(人文書院、2013年)に続く、山森裕毅(やまもり・ゆうき, 1980-)さんによる単独著第二弾。2011年から2023年にかけて各媒体で発表してきた論文に加筆修正を施し一冊にまとめたもの。「端的にいえばスキゾ分析はガタリ一代で途絶えた謎多き実践なのである。/このような状況において本書が取り組むのは、この失われた実践を文字通り実線として可能なかぎり再生してみるということである」(「導入」10頁)。
★『戦争はいつでも同じ』と『移民都市』はまもなく発売。前者はクロアチアの作家でジャーナリスト、スラヴェンカ・ドラクリッチ(Slavenka Drakulić, 1949-)さんが1990年代のユーゴスラヴィア紛争をめぐって30年以上にわたって執筆してきたエッセイをまとめた『Rat je svugdje isti』(Fraktura, 2022)の訳書。本書を世に問うた理由について著者は次のように述べています。
★「戦争が人間に起こりうる最悪の不幸の一つであるかぎり、人々は戦争を一刻も早く忘れたいとは思っている」(「序文」4頁)。「〔本書を出版すべき理由は〕第一に、まさに過去の抑圧された記憶のためである。記憶の抑圧を許す限り、祖国に起こった戦争に関する私たち自身の真実との対峙は起こり得ない。そうやって生きていく方がストレスもなく、自分の責任、協調性や臆病さについて考える必要もない。しかし真実の究明どころか、数多くの戦犯裁判も進捗せず、近隣諸国との関係正常化も未だしの状況は不幸でなくて何であろう。あまつさえ真実と過去の隠蔽の上に、日常的にナショナリズムを感情的に政治利用する類の政治がのさばり続けている状況だ。若い世代は家庭や学校で耳にする以外にあの戦争が何であったかを知る機会もなく、〔…〕親の世代の偏見は年々繰り返されているばかりである」(同5頁)。
★後者『移民都市』は、英国の社会学者レス・バック(Les Back, 1962-)とシャムサー・シンハ(Shamser Shinha)の共著書『Migrant City』(Routledge, 2018)の訳書。「これは、21世紀初頭の激しい反移民感情が渦巻く時代にこの首都を生きる、若い移民たちの目から見たロンドンの物語です」(「日本語版への序文」13頁)。「本書の完成には10年もの時間がかかりましたが、その理由の一つは、私たちが対話と社交的社会学に深くコミットしたからです。私たちはできる限り、移民についてではなく、移民とともに研究しようとしてきました」(同14頁)。なお、レス・バックの既訳書には『耳を傾ける技術』(有元健訳、せりか書房、2014年)があります。
★幻戯書房「ルリユール叢書」の第40回配本は58、59冊目となる2点。『スリー』は、英国の作家アン・クイン(Ann Quin, 1936–1973)の長編小説第二作『Three』(1966年)の初訳。中流階級の夫婦と共同生活を送っていた少女が行方不明になり、少女が残した日記や音声テープを通じて夫婦が真相に迫ろうとする物語。『ジュネーヴ短編集』は、スイスの作家ロドルフ・テプフェール(Rodolphe Töpffer, 1799–1846)の短篇8篇の初訳をまとめたもの。「伯父の書斎」「遺産」「アンテルヌ峠」「ジュール湖」「トリヤン渓谷」「渡航」「グラン・サン=ベルナール」「恐怖」を収録。評論家サント=ブーヴによる略伝も併録されています。同叢書の来月配本は、米国の小説家エヴァン・ダーラの第一作『失われたスクラップブック』(1995年)とのこと。
★『パットゥパーットゥ』は、東洋文庫の第921弾。「1~3世紀頃の南インド・タミル古代文学(通称サンガム文学)の「二大詞華集」の一つ『パットゥパーットゥ(十の長詩)』の全訳」(凡例より)。「ムルガン神への誘い」「歌舞人の案内記」「小竪琴奏者の案内記」「大竪琴奏者の案内記」「ムッライの歌」「マドゥライ詠唱」「長きよき北風」「クリンジの歌」「町との別れ」「山から滲み出る音」を収録。二大詞華集のもう一作『エットゥトハイ(八詞華集)』は同じ訳者の高橋孝信(たかはし・たかのぶ, 1951-)さんによって、東洋文庫より2007年に訳書が上梓されましたが、現在は品切のようです。
★『進化論の知られざる歴史』は、英国の作家レベッカ・ストット(Rebecca Stott, 1964-)の著書『Darwin's Ghosts: The Secret History of Evolution』(2012年)の全訳。底本には2013年にBloomsburyより出版されたペーパーバック版が使用されているとのことです。なおこのPB版では副題が「In Search of First Evolutionists」となっています。「ダーウィンの『種の起源』出版に繋がった数多くの〈先駆者〉たちの苦難と曲折に満ちた足跡を辿る」(カバーソデ紹介文より)とのこと。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『カント「人倫の形而上学」の生成』は、カント『人倫の形而上学 第二部 徳論の形而上学的原理』(岩波文庫、2024年4月)を今春上梓したばかりの宮村悠介(みやむら・ゆうすけ, 1982-)さんのカント論7本をまとめ、「序」と「あとがき」を付したもの。帯文に曰く「遺稿や講義録などの綿密な読解をとおして、30年におよぶカントの思想形成史そのものともいうべき、理念論の〈道〉としての「人倫の形而上学」を明らかにする」。なお宮村さんの訳でまもなくゲルハルト・クリューガー『カントの批判における哲学と道徳』が月曜社より刊行されます。
★『叛乱論/結社と技術 増補改訂新版』は、シリーズ「革命のアルケオロジー」の第10弾。評論家の長崎浩(ながさき・ひろし, 1937-)さんの初期代表作二点、『叛乱論』(合同出版、1969年;新版、彩流社、1991年)と『結社と技術』(情況出版、1971年)を合本し、書き下ろしの「はじめに」「あとがき」、さらに廣瀬純さんによる解説「長崎浩の世紀はすでに到来している」を付したもの。凡例によれば「改訂にあたり、旧版の誤字脱字は可能なかぎり訂正し、新たに編集部による補筆・注釈を追加した」とのことです。
★『現代思想』11月号の臨時増刊号と通常号は、前者が『現代思想+〔プラス〕』の第二弾で、31氏の留学記を収めています。詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。なお第一弾は45月刊の『15歳からのブックガイド』でした。一方通常号の特集は「「自治」の思想」。小川さやかさんと松本卓也さんによる討議「「目的外」のインフォーマリティ――アナーキーな自治のために」をはじめ、16本の論考を収録。松本さんは「「自治」する病院――ガタリ、ウリ、そしてラカン」という論考も寄せておられます。来月末発売予定の12月通常号は「特集=田中美津とウーマンリブの時代」と予告されています。