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注目新刊:『ゲンロン17』ゲンロン、ほか

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★最近出会いのあった新刊書籍を列記します。


『ゲンロン17』ゲンロン、2024年10月、本体2,400円、A5判並製336頁、ISBN978-4-907188-55-9
『現代思想2024年11月臨時増刊号 総特集=安部公房――生誕一〇〇年』青土社、2024年9月、本体1,800円、A5判並製294頁、ISBN978-4-7917-1472-8

『現代思想2024年10月号 特集=〈人種〉を考える――制度的レイシズム・人種資本主義・ホワイトネス…』青土社、2024年9月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1471-1

『江戸・明治のロゴ図鑑――登録商標で振り返る企業のマーク』友利昴(著)、作品社、2024年9月、本体2,400円、46判並製288頁、ISBN978-4-86793-047-2

『もう一人の舞姫――鴎外の隠し妻異譚』西村正(著)、作品社、2024年9月、本体1,800円、46判上製180頁、ISBN978-4-86793-049-6

『風俗のパトロジー〈新版〉』バルザック(著)、山田登世子(訳・解説)、今福龍太/町田康/青柳いづみこ(新版序)、藤原書店、2024年9月、本体2,200円、A5判上製248頁、ISBN978-4-86578-437-4

『言葉果つるところ〈新版〉』石牟礼道子/鶴見和子(著)、赤坂憲雄/赤坂真理(新版序)、藤原書店、2024年9月、本体2,200円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86578-435-0
『日中が育てた絵本編集者 唐亜明』城島徹(著)、藤原書店、2024年9月、本体3,000円、四六判並製448頁、ISBN978-4-86578-436-7



★『ゲンロン17』はまもなく発売。「特集」とは謳われていませんが、今号のメインになっているのは「旧ユーゴを歩く」と題して、旧ユーゴ圏への取材記やボスニア戦争の従軍作家へのインタヴューを収録した、巻頭の80頁強です。東浩紀さんの論考「平和について、あるいは「考えないこと」の問題(前半)」、上田洋子さんの連載「ロシア語で旅する世界」の第13回「ナショナリズムとストリート」、そして東さんと同世代の二氏、セルビアの哲学者で詩人のジェリミール・ヴカシノヴィッチ(Želimir Vukašinović, 1970-)へのインタヴュー「ユーゴはヨーロッパの未来だった」と、ボスニアの詩人で作家のファルク・シェヒッチ(Faruk Šehić, 1970-)さんへのインタヴュー「戦争に声を与える」を収めています。二氏へのインタヴューは東さんと上田さんが聞き手になっています。そのほか本誌の目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。


★東さんは「平和について」でこう書いています。「ぼくたちは偽物の平和のなかに生きている。だから本物の平和について考えなければならない。けれども本物の平和について考え始めると、平和はなぜか戦時の論理のなかに溶け去っていく。ではどうしたら良いのか」(47頁)。「ぼくは平和の本質は、「考えないこと」なのだと強調してきた」(48頁)。「思考の空白そのものは悪ではない。それどころかときに必要ですらある。あらゆる局面で合理的な判断を行い、道徳的な正しさを引き受けることができる人間など存在しないからだ。ひとは弱い。だからこそ平和を必要とする。ぼくはその前提から人間について考えている。しかし、その思考の空白が、未来から振り返ったときに愚かさの苗床にすぎなかったとしたらどうだろう」(同)。「「考えないこと」にはおそらくふたつの面がある。肯定的な、未来に開かれた思考停止、つまり平和と、否定的な、未来から遡行的に発見された思考停止、つまり愚かさのふたつの面が。平和について考えるときに、僕たちはけっしてその両義性を逃れることができない」(49頁)。


★東さんはここしばらく「悪の愚かさについて」をめぐって、チェルノブイリ原発事故、ヴェトナム戦争、ルワンダ虐殺などについて論じてこられましたが、いずれそれらは一冊の書籍になるとのことです。その本の冒頭章が、今回の「平和について」となるようです。


★月刊誌『現代思想』の最新刊は、10月通常号が特集「人種を考える」で、11月臨時増刊号が「安部公房」。前者は「批判的人種理論や人種資本主義などの議論を踏まえつつ、無視するのでも本質化するのでもないかたちで〈人種〉についてさまざまな視座から考える」(版元紹介文より)。討議1本、翻訳1本、論考17本。後者は「小説の枠を超えたメディアの越境者として、時代に巣喰う不安の在り処をあらゆる角度から触診しつづけた飽くなき実験の数々。その全貌を見渡すべく迫る、100年目の総特集」(版元紹介文より)。討議1本、論考21本、主要著作解題1本。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★作品社の9月新刊より2点。『江戸・明治のロゴ図鑑』は、「日本のロゴマークの歴史と発展。ロゴの由来や知られざるエピソードにも丹念な調査で迫る。ありそうでなかった本邦初の図鑑」(帯文より)。商標登録制度誕生140周年記念とのこと。太田胃散、住友グループ、三越、ミツカン、サッポロビール、花王、ライオン、任天堂、森永製菓、丸善、等々、興味深い歴史を学べます。『もう一人の舞姫』は「忘れ去られた鴎外の大切な人「児玉せき」への限りないエールを込めたノンフィクション・ノベル」(帯文より)。


★藤原書店の9月新刊より3点。うち2点、バルザック『風俗のパトロジー〈新版〉』と石牟礼道子/鶴見和子『言葉果つるところ〈新版〉』はいずれも新版。前者は、フランスの文豪バルザックによる巨大な作品群『人間喜劇』の重要な一角を占める分析的研究『Pathologie de la vie sociale〔社会勢活の病理学〕』(1839年/1981年)の全訳。新評論より1982年に刊行され、1992年に訳者あとがきを改めて藤原書店より『風俗研究』と改題されて復刊。そして今般、今福龍太/町田康/青柳いづみこ、の3氏の新しい序文を付して、書名をもとに戻して新版として再刊されるものです。「19世紀前半のパリ風俗を皮肉と諷刺で鮮やかに活写した不朽の名著。バルザックの炯眼が鋭く捉えた“近代の毒と富”のリアル」(帯文より)。


★バルザックは「現代社会がつくりだした三階級」として「労働する人間、思考する人間、何もしない人間」の三種に分類し、それに対応する生活形態を「暇なし生活、芸術家の生活、優雅な生活」と表しています。「優雅な生活とは、大きく言って休息を楽しくする術をいう。/つねひごと労働に勤しんでいる者には優雅な生活がわからない」(14頁)。「優雅な生活とは外面的、物的に洗練された生活のことである。または、いかにも才人らしく収入を使う術である。〔…〕もっと上手に言えば、身のまわりにある品々をすべて優雅なもの、趣味良きものにしてゆくこと。より論理的には、財産を上手にひけらかす方法である」(16頁)。


★「社会にあってこのかたつねに政治とは、つまるところ金持同士が貧乏人に対抗するために勝手に取り決めた安全保障契約であった。一方には全てを他方には無を、というこの〔…〕分配は、国民の間に闘争をひきおこし、社会に生きる一人ひとりの胸に立身出世の情熱を呼び覚ます」(18頁)。「おかげで自尊心はむやみにふくれあがり、虚栄心も煽りたてられた。ところでこの虚栄心というのは何とかして毎日毎日着飾ってみせたいという欲求以外の何ものでもないから、誰もが自分の権勢のしるしに何か表徴を身につけたいと望むようになってきた」(19頁)。「誰だってありふれた人間にはなりたくない!……だから優雅な生活はそもそも立居振舞の学問なのである」(21頁)。200年近く前の痛烈な諷刺が現代人にも刺さるというのは、科学や技術がどんなに発展しても、人間の内面はさほど変わらないことを示していますね。


★『言葉果つるところ〈新版〉』は、「鶴見和子・対話まんだら」シリーズ全10巻の第1回配本『石牟礼道子の巻――言葉果つるところ』(藤原書店、2002年)の再刊。鶴見さんと石牟礼さんが2000年3月と6月に京都で行った対談をまとめたもの。巻末の編集部付記によれば今回の新版では「注の記述を見直し、新たに巻頭に「本書を推す」を掲載した」とのこと。「本書を推す」というのは、赤坂真理さんによる「じゃなかしゃば、あるいは、はらいそ(天国)」と、赤坂憲雄さんによる「ただ感謝の思いを」の二篇。


★鶴見さんはご自身が脳溢血で倒れ、生死をさまよった経験をもとにこう語っています。「私が西洋哲学史の中で一番好きなのはスピノザなの」(100頁)。「西行とスピノザは時代は違うし、全然住んでいた世界も違う。そころが共通点が一つある。そしてかつて権力の機構の中にいたということなの。スピノザは時の政権担当者デ・ウィットの信頼篤く重用されていたが、デ・ウィットの死後、彼は権力を去った。スピノザは自由思想のゆえにユダヤ教会からも破門されて、隠棲した。その隠れ家が「スピノザ・フイス」である。隠れ家でレンズ磨きをしていた。西行も権力を捨てて、西行庵に引き籠った。権力を断念して隠れ家に住む、そしてそこでスピノザは彼の『エティカ』を完成した、レンズ磨きで暮らしを立てながら。西行はそこで歌人としての生涯を送った。武士を捨てて。よく似てる。それが急に結びついたのね。こういう状態になって、自分が一度死んだから、断念ということと、それは国を超える力をもっているということがわかってきた。断念した人間の紡ぎだす思想というものは、普遍的な意味をもつ」(102頁)。


★『日中が育てた絵本編集者 唐亜明』は、高名な絵本編集者唐亜明(たん・やみん, 1953-)へのインタヴュー取材をもとに、彼の半生や幅広い交友録、日中の文化をめぐる所感などをまとめた一冊。習近平主席と同年齢の唐さんの歩んだ人生の軌跡は興味深く、日本の出版史における貴重な一頁を彩るものです。著者の城島徹(じょうじま・とおる, 1956-)さんはジャーナリスト。毎日新聞社で長く報道に携わり、大学で研究員や講師を務められました。

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