★まず、文庫本の新刊既刊より注目書を列記します。
『眼がスクリーンになるとき――ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』』福尾匠(著)、河出文庫、2024年8月、本体1,300円、文庫判368頁、ISBN978-4-309-42116-2
『シブいビル――高度成長期生まれ・東京レトロビルガイド』鈴木伸子(著)、白川青史(写真)、河出文庫、2024年6月、本体900円、文庫判184頁、ISBN978-4-309-42113-1
『アインシュタインの旅行日記―― 日本・パレスチナ・スペイン』アルバート・アインシュタイン(著)、ゼエブ・ローゼンクランツ(編)、畔上司(訳)、草思社文庫、2024年8月、本体1,200円、文庫判400頁、ISBN978-4-7942-2739-3
『崩壊学――人類が直面している脅威の実態』パブロ・セルヴィーニュ/ラファエル・スティーヴンス(著)、鳥取絹子(訳)、草思社文庫、2022年12月、本体1,100円、文庫判320頁、ISBN978-4-7942-2619-8
『パレスチナ詩集』マフムード・ダルウィーシュ(著)、四方田犬彦(訳)、ちくま文庫、2024年7月、本体1,400円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-43953-6
『いつか死ぬ、それまで生きる わたしのお経』伊藤比呂美(著)、朝日文庫、2024年7月、本体780円、A6判並製336頁、ISBN978-4-02-265158-7
『ウォールデン 森の生活』ヘンリー・D・ソロー(著)、田内志文(訳)、角川文庫、2024年6月、本体1,360円、文庫判496頁、ISBN978-4-04-114254-7
『金より価値ある時間の使い方』アーノルド・ベネット(著)、河合祥一郎(訳)、角川文庫、2023年12月、本体800円、文庫判128頁、ISBN978-4-04-114144-1
『サラゴサ手稿〈中〉』ヤン・ポトツキ(著)、工藤幸雄(訳)、創元ライブラリ、2024年6月、本体1,200円、文庫判392頁、ISBN978-4-488-07060-1
『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上』ジョーゼフ・キャンベル(著)、倉田真木/斎藤静代/関根光宏(訳)、ハヤカワノンフィクション文庫、2015年12月(2024年4月10刷)、本体900円、文庫判320頁、ISBN978-4-15-050452-6
『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下』ジョーゼフ・キャンベル(著)、倉田真木/斎藤静代/関根光宏(訳)、ハヤカワノンフィクション文庫、2015年12月(2024年4月9刷)、本体900円、文庫判352頁、ISBN978-4-15-050453-3
★河出文庫より2点。『眼がスクリーンになるとき』は、批評家で哲学者の福尾匠(ふくお・たくみ, 1992-)さんのデビュー作(フィルムアート社、2018年)の文庫化。「ドゥルーズに伏在する「言葉と物」の二元論から、今世紀の日本の批評を導いてきた「否定神学批判」の限界に迫る」(カバー表4紹介文より)。巻末には文庫版解説として、著者と批評家の黒嵜想さんといぬのせなか座の山本浩貴さんによる座談会「批評とリテラリティ」(326~359頁)が加えられています。
★『シブいビル』は、雑誌「東京人」の元編集者で著述家の鈴木伸子(すずき・のぶこ, 1964-)さんの同名著書(リトルモア、2016年)に大幅加筆し、再編集を施したもの。現存する15棟(日本橋、有楽町、新橋、丸の内、銀座、永田町、竹橋、新宿、目黒、池袋、中野)と、なくなった6棟(銀座、有楽町、赤坂、虎ノ門)を紹介。書店関係では「紀伊國屋ビル」が取り上げられています。
★草思社文庫より2点。『アインシュタインの旅行日記』は、2019年に草思社より刊行された訳書の文庫化。『The Travel Diaries of Albert Einstein: The Far East, Palestine, and Spain, 1922–1923』(Princeton University Press, 2018)の訳書で、長大な解説「歴史への手引き」と、アインシュタインの「旅日記」、そして関連書簡などが「テキスト補遺」として収められています。「旅日記」は原文がドイツ語のため、プリンストン大学出版の『アインシュタイン全集』第13巻から訳出されています。
★『崩壊学〔コラプソロジー〕』は、2019年に草思社より刊行された訳書の文庫化。フランスの著述家パブロ・セルヴィーニュ(Pablo Servigne, 1978-)とベルギー出身の環境コンサルタント、ラファエル・スティーヴンス(Raphaël Stevens)の著書『Comment tout peut s'effondrer. Petit manuel de collapsologie à l'usage des générations présentes』(Seuil, 2015)の訳書。「崩壊という言葉を使うことによって、「人新世」の概念を生き生きと、明確なものにできる」(序文、18頁)。2年前の新刊ですが、いまなお興味深いです。
★角川文庫より2点。『ウォールデン 森の生活』は訳し下ろし。米国の作家ソロー(Henry David Thoreau, 1817-1862)の代表作『Walden; or, Life in the Woods』(1854年)の新訳です。同書は現在でも複数の訳書が文庫で入手可能です。佐渡谷重信訳『森の生活 ウォールデン』(講談社学術文庫、1991年)、飯田実訳『森の生活 ウォールデン』(上下巻、岩波文庫、1995年)、酒本雅之訳『ウォールデン』(ちくま学芸文庫、2000年)、今泉吉晴訳『ウォールデン 森の生活』(上下巻、小学館文庫、2016年)。角川文庫でも1953年に富田彬訳『森の生活 ウォールデン』が刊行されていましたが、久しぶりの新訳となります。巻末解説「ウォールデン湖のほとりで彼が試みたこと」は管啓次郎さんによるもの。曰く「この本は、いまも人の生き方を変える力をもっている」(493頁)。
★『金より価値ある時間の使い方』は訳し下ろし。英国の作家アーノルド・ベネット(Arnold Bennett, 1867-1931)の高名な著書『How to Live on 24 Hours a Day』(1908/1910年)の新訳。既訳書には、堀秀彦訳「一日二十四時間を如何に生活するか」(『如何に生くべきか――24時間生活法/結婚生活』所収、新教養選書:池田書店、1960年)や、渡部昇一訳『自分の時間――1日24時間でどう生きるか』(三笠書房、1982年;知的生きかた文庫、1990年;三笠書房、1994年;新版2003年;新装版2016年)、北沢あかね訳「1日24時間でどう生きるか」(『人生を豊かにする時間術』所収、フォーエバー選書:ソフトバンククリエイティブ、2005年)があり、渡部訳はロングセラーとなっています。今回の新訳では、参考文献として以下の3篇を併録しているのが特徴です。「ハズリットのエッセイ「詩一般について」抄訳」「オシアン「セルマの歌」夏目漱石訳」「時間をめぐるシェエイクスピアの名言」。
★ちくま文庫、朝日文庫、創元ライブラリ、ハヤカワ文庫より各1点。『パレスチナ詩集』は、『壁に描く』(書肆山田、2006年)の文庫化。パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュ(Mahmoud Darwish, 1941-2008)の詩作品を独自に編んだもの。訳者の四方田さんによる長文の訳者解説が巻末に付されています。
★『いつか死ぬ、それまで生きる わたしのお経』は、朝日新聞出版より2021年に刊行された単行本の文庫化。詩人の伊藤比呂美(いとう・ひろみ, 1955-)さんが「知恩」誌で連載した、浄土宗の経典の現代語訳や、「熊本日日新聞」などで発表してきたエッセイをまとめたもの。巻末に「老犬とわたし――文庫版あとがきにかえて」が加わっています。
★『サラゴサ手稿〈中〉』は全3巻の中巻。上巻は5月に発売済。2008年の仏語決定版以前の1989年版を底本としポーランド語版も参照したいわば「異本版」の全訳。中巻では第20日から第41日までを収録。下巻は今月末発売予定です。
★『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』上下巻は4月に重版され、NHK-Eテレのテレビ番組「100分de名著」の7月放送で扱いに合わせた帯が巻かれています。米国の神話学者ジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell, 1904-1987)の代表作『The Hero with a Thousand Faces』(1949年)の新訳です。既訳書は人文書院より上下巻で1984年に刊行され、2004年に再刊されています。
★続いて、作品社さんの8月新刊より3点をご紹介します。
『喉に棲むあるひとりの幽霊』デーリン・ニグリオファ(著)、吉田育未(訳)、作品社、2024年8月、本体2,700円、四六判並製296頁、ISBN978-4-86793-040-3
『パリ十区サン=モール通り二〇九番地――ある集合住宅の自伝』リュト・ジルベルマン(著)、塩塚秀一郎(訳)、作品社、2024年8月、本体3,600円、四六判並製392頁、ISBN978-4-86793-043-4
『諸兵科連合の歴史――100年にわたる戦争での戦術、ドクトリン、兵器および編制の進化』ジョナサン・M・ハウス(著)、梅田宗法(訳)、作品社、2024年8月、本体3,600円、A5判並製416頁、ISBN978-4-86793-044-1
★『喉に棲むあるひとりの幽霊』は、アイルランドの詩人デーリン・ニグリオファ(Doireann Ní Ghríofa, 1981-)の散文デビュー作『A Ghost in the Throat』 (Tramp Press/Biblioasis, 2020)の全訳。帯文に曰く「18世紀に実在した詩人と著者自身の人生が入りまじる、新しいアイルランド文学」。巻末には件の詩人であるアイリーン・ドブ・ニコネルの詩「アート・オレイリーのための哀歌〔クイネ〕」のアイルランド語原文とニグリオファによる英訳、英訳からの日本語訳が併録されています。ニグリオファの訳書刊行はこれが初めてのことです。
★『パリ十区サン=モール通り二〇九番地』は、フランスの作家でドキュメンタリー映画監督のリュト・ジルベルマン(Ruth Zylberman, 1971-)の著書『209 rue Saint-Maur, Paris Xe. Autobiographie d’un immeuble』(Seuil/Arte Éditions, 2020)の訳書。帯文に曰く「東欧からのユダヤ系移民たちや貧しい人びとが数多く住むパリの集合住宅〔…〕に生まれ、暮らし、消えていった名もなき無数の人びとの物語を丹念に紡ぎだす、唯一無二の歴史ドキュメンタリー」。別冊附録として「主要人物一覧/訳者あとがき」が投げ込まれています。
★『諸兵科連合の歴史』は、米国陸軍出身の軍事史家でゴードン大学教授のジョナサン・M・ハウス(Jonathan M. House, 1950-)の著書『Combined Arms Warfare in the Twentieth Century』(University Press of Kansas, 2001)の全訳。書名にある「諸兵科連合」とは「歩兵、火砲、航空支援、情報およびその他の重要な要素がすべて連携して最大の効果を発揮させる部隊運用や組み合わせなどの基本的な考え方」(帯文より)。本書は「アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシアおよびフランスの5つの主要な軍隊における100年にわたる戦争の進化をたどる」(同)もの。