★注目新書の新刊既刊を列記します。
『アフリカ哲学全史』河野哲也(著)、ちくま新書、2024年7月、本体1,300円、新書判480頁、ISBN978-4-480-07636-6
『倫理資本主義の時代』マルクス・ガブリエル(著)、斎藤幸平(監修)、土方奈美(訳)、ハヤカワ新書、2024年6月、本体1,200円、新書判304頁、ISBN978-4-153-40028-3
『哲学史入門(Ⅲ)現象学・分析哲学から現代思想まで』谷徹/飯田隆/清家竜介/宮﨑裕助/國分功一郎/斎藤哲也(著)、NHK出版新書、2024年6月、本体1,050円、新書判288頁、ISBN978-4-14-088721-9
『哲学史入門(Ⅱ)デカルトからカント、ヘーゲルまで』上野修/戸田剛文/御子柴善之/大河内泰樹/山本貴光+吉川浩満/斎藤哲也(著)、NHK出版新書、2024年5月、本体1,050円、新書判288頁、ISBN978-4-14-088719-6
『戦時から目覚めよ――未来なき今、何をなすべきか』スラヴォイ・ジジェク(著)、富永晶子(訳)、NHK出版新書、2024年5月、本体1,100円、新書判288頁、ISBN978-4-14-088720-2
『「科学的に正しい」とは何か』リー・マッキンタイア(著)、網谷祐一(監修)、高崎拓哉(訳)、ニュートン新書、2024年5月、本体2,182円、新書判528頁、ISBN978-4-315-52808-4
『宇宙の超難問 三体問題』マウリ・ヴァルトネン/ジョアンナ・アノソヴァ/コンスタンティン・ホルシェヴニコフ/アレクサンドル・ミュラリ/ヴィクトル・オルロフ/谷川清隆(著)、谷川清隆(監訳)、田沢恭子(訳)、ハヤカワ新書、本体1,360円、新書判360頁、ISBN978-4-15-340022-1
『隠された聖徳太子――近現代日本の偽史とオカルト文化』オリオン・クラウタウ(著)、ちくま新書、2024年5月、本体920円、新書判272頁、ISBN978-4-480-07621-2
『携帯版 Q文書』山田耕太(著)、YOBEL新書、2024年4月、本体1,500円、新書判176頁、ISBN978-4-911054-19-2
★まずは、ちくま新書。河野哲也『アフリカ哲学全史』は「歴史篇――アフリカ哲学全史」と「テーマ篇――現代哲学への視角」の二部構成で、「日本発のアフリカ哲学の入門書として、サハラ以南のアフリカ、カリブ海諸国で展開された哲学、アフリカ大陸における哲学に影響を及ぼしたアメリカやヨーロッパでのアフリカ人の哲学を解説」(カバーソデ紹介文より)。オリオン・クラウタウ『隠された聖徳太子』は、「一神教に染まる聖徳太子」「乱立するマイ太子像」「ユダヤ人論と怨霊説」「オカルト太子の行方」の四章立て。「歴史と偽史の曖昧な境界を歩みつつ、その真相を読み解く」(カバーソデ紹介文より)。著者は1980生まれ、サンパウロ大学卒、東北大博士課程修了、東北大学准教授。単独著既刊に『近代日本思想としての仏教史学』(法蔵館、2012年)があります。
★次に、ハヤカワ新書。マルクス・ガブリエル『倫理資本主義の時代』は、日本オリジナル企画の書き下ろし作『Doing Good: How Ethical Capitalism Can Save Liberal Democracy』の訳書。「我々が目指すべきは道徳的価値と経済的価値の再統合、すなわち「倫理資本主義」だ」(カバーソデ紹介文より)。「道徳的な人間の進歩を、モノやサービスの社会経済的生産手段と、さらには豊かさや繁栄と早急に再統合しなければならない」(はじめに、4頁)。ヴァルトネンほか『宇宙の超難問 三体問題』は、『The Three-Body Problem from Pytagoras to Hawking』(Springer, 2016)の訳書。「はじめに」の言葉を借りると、「互いに引力を及ぼし合う三つの天体の運動を記述する「三体問題」を」めぐる、「一般読者を対象」とした解説書。帯には「劉慈欣『三体』読者必読」とあります。
★続いてNHK出版新書。『哲学史入門(Ⅲ)』『哲学史入門(Ⅱ)』は全3巻の第2巻(近代篇)と第3巻(現代篇)。第2巻は特別章として、山本貴光さんと吉川浩満さんによる対談「哲学史は何の役に立つのか」を収め、第3巻は終章として國分功一郎さんによる「「修行の場」としての哲学史」が収められています。コンパクトで読みやすい好シリーズです。スラヴォイ・ジジェク『戦時から目覚めよ』は、『Too Late to Awaken』(Allen Lane, 2023)の訳書。「本書は〔…〕「新しい何か」を実現するための指針を探っている。また、たんに厳しい現実を認識するだけではなく、本当の意味での目覚めをもたらそうという切迫した試みでもある」(序、25頁)。「環境危機と戦争という現在も悪化の一途をたどる危機に対処するためには、本書で私が大胆にも「戦時共産主義」と呼ぶ要素が必要だ。すなわち、通常の市場ルールだけでなく、民主主義の確立されたルールさえも破らざるをえないような行動(民主主義的な同意なしの対策の実施や自由の制限)が必要なのである」(結論、274頁)。「戦時共産主義」については、2020年8月14日付のジジェクのインタヴュー動画「We need wartime communism」や、『分断された天――スラヴォイ・ジジェク社会評論集』(中林敦子訳、Ele-king books:Pヴァイン、2022年)もご参照ください。
★最後に、ニュートン新書とヨベル新書を1点ずつ。『「科学的に正しい」とは何か』は、『The Science Attitude: Defending Science from Denial, Fraud, and Pseudoscience』(MIT Press, 2019)の訳書。「本書は科学における過去の成功と失敗の例を「科学的態度」でひもときながら、疑似科学や陰謀論との違いなどにも踏み込み、「科学の何が特別なのか」というテーマを追究」(カバー表4紹介文より)。著者のリー・マッキンタイア(Lee McIntyre, 1962-)はボストン大学哲学・科学史センターリサーチフェロー。既訳書に『ポストトゥルース――現代社会の基本問題』(原著『Post-Truth』MIT Press, 2018:人文書院、2020年9月)があります。
★『携帯版 Q文書』は、日本新約学会会長の山田耕太(やまだ・こうた, 1950-)さんによる研究書『Q文書――訳文とテキスト・注解・修辞学的研究』(教文館、2018年)の姉妹編となる書き下ろし。ギリシア語原典と日本語訳の対訳版をメインに、山田さんによる解説3篇「Q文書の文学的・社会学的・神学的特徴」「Q文書の研究史」「イエス研究史」が併録されています。Q文書ないしQ資料とは、マルコ福音書より早く成立し、マタイやルカがマルコ福音書とともに参照したと推測されるイエス語録であり、共通資料、典拠(Quelle)と見なされているもの。「福音書文学の最古層」(169頁)が新書版で読めるようになりました。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『ポンペイ最後の日(上)』エドワード・ブルワー=リットン(著)、田中千惠子(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2024年6月、本体4,000円、四六判上製424頁、ISBN978-4-86488-301-6
『ポンペイ最後の日(下)』エドワード・ブルワー=リットン(著)、田中千惠子(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2024年7月、本体4,000円、四六判上製372頁、ISBN978-4-86488-302-3
『正宗敦夫文集(1)ふぐらにこもりて』財団法人正宗文庫(監修)、小川剛生(編注)、東洋文庫:平凡社、2024年7月、本体4,000円、B6変型判上製函入320頁、ISBN978-4-582-80916-9
『物語考――異様な者とのキス』円堂都司昭(著)、作品社、2024年7月、本体2,600円、46判並製288頁、ISBN978-4-86793-039-7
『思想としてのミュージアム――ものと空間のメディア論 増補新装版』村田麻里子(著)、人文書院、2024年6月、本体3,800円、四六判並製330頁、ISBN978-4-409-24163-9
『21世紀の自然哲学へ』近藤和敬/檜垣立哉(編)、人文書院、2024年7月、本体5,000円、四六判上製384頁、ISBN978-4-409-03132-2
『神道・天皇・大嘗祭』斎藤英喜(著)、人文書院、2024年7月、本体6,500円、四六判上製510頁、ISBN978-4-409-54088-6
★『ポンペイ最後の日』上下巻は、ルリユール叢書の第40回配本(54冊目)、第41回配本(55冊目)。19世紀英国の作家エドワード・ブルワー゠リットン(Edward Bulwer-Lytton, 1803-73)の代表作の完訳。帯文に曰く「古代ポンペイを舞台にギリシア人美女をめぐり青年貴族と魔術師が対決。魔術、占星術、イシス女神を駆使し、人間の愛憎、キリスト教の黎明、剣闘士の死闘を描く。〔…〕ブルワー゠リットンの波乱万丈の歴史小説――不朽の名作が待望の完訳でよみがえる」と。
★紀伊國屋書店新宿本店では同叢書の「刊行50冊突破記念フェア」を8月1日~14日に開催。同月3日(土)14時から15時半には、本店3Fアカデミック・ラウンジでトークイベント「〈ルリユール叢書〉から世界文学の翻訳を考える――文学の仲介者ヴァレリー・ラルボーとともに」が開催されます。出演者は千葉大学名誉教授の西村靖敬さん、東京工業大学教授の山本貴光さん、ライターで編集者の鳥澤光さん。参加無料、先着20名、要予約。ご予約なしのお客様は立ち見となります。なお、ルリユール叢書では、ヴァレリー・ラルボーの翻訳論『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』が西村さんの翻訳で一昨年に刊行されていることは周知の通りです。
★ルリユール叢書の次回配本は2冊同時発売、ポール・ヴァレリー『メランジュ 詩と散文』鳥山定嗣訳、ブラニスラヴ・ヌシッチ『不審人物 故人 自叙伝』奥彩子/田中一生訳、とのことです。
★『正宗敦夫文集(1)』は全2巻予定の第1巻。東洋文庫の第916弾。副題にある「ふぐら」とは文庫、すなわち書庫のこと。帯文によれば「万葉集総索引などの〔…〕知られながら、豊かな知見を論文に残すことの少なかった傑出した国文学者。地域に残された文章などを編み、その学問の広さと深さを展望する」と。「生涯と学問」「蒐書と文庫」「歌よみの姿」「師友追憶」の四部構成で23篇を収録。「各篇に注釈を施し、解題・略年譜を附した」(凡例)。家系図も巻末に配されています。正宗敦夫(まさむね・あつお, 1881-1958)は国文学者。作家の正宗白鳥(まさむね・はくちょう, 1879-1962)の実弟です。東洋文庫の次回配本は8月刊行予定、『尹致昊日記(6)1903–1906年』。
★『物語考』は、文芸・音楽評論家の円堂都司昭(えんどう・としあき, 1963-)さんによる書き下ろし(一部、既発表原稿に加筆修正)。ヴィルヌーヴ夫人『美女と野獣』、ユゴー『ノートルダム・ド・パリ』、ルルー『オペラ座の怪人』、フケー『ウンディーネ』、アンデルセン『雪の女王』、クンツェ『エリザベート』などを取り上げ、「それらの元型が小説や映像、舞台などへアダプテーションされる際、どのように変化したか、また近似した要素を有するべつの物語とどのような対比をみせているかを、物語の構造、心理的な意味、社会との関係などから多角的にとらえることを目指す」(まえがき、3頁)。「異様な者にシンパシーを寄せる〔…〕そのキスをめぐる魅惑と畏怖」(4頁)に迫るもの。
★人文書院の新刊より3点。『思想としてのミュージアム 増補新装版』は発売済、『21世紀の自然哲学へ』『神道・天皇・大嘗祭』はまもなく発売。
★『思想としてのミュージアム 増補新装版』は、関西大学社会学部教授の村田麻里子(むらた・まりこ, 1974-)さんによる初の単独著(2014年刊)の増補新装版。社会学者の吉見俊哉さん曰く「博物館・美術館の解体新書」。帯文によれば「旧版から十年、植民地主義の批判にさらされる現代のミュージアムについて、欧州と日本の事例を繙きながら論じる新章を追加」とのこと。新章というのは増補新装版のための補論「ミュージアムの苦悩と再生――なぜ脱植民地化するのか」のことかと思われます。
★『21世紀の自然哲学へ』は、檜垣立哉さんの大阪大学退職をきっかけに企画されたアンソロジー。帯文に曰く「元素、大気、大地、菌類から人間までをも貫く哲学は可能か〔…〕多様な理論を手掛かりにした気鋭たちによる熱気みなぎる挑戦」。寄稿者は、ジミー・エイムズ、小川歩人、小倉拓也、織田和明、久保明教、小林卓也、佐古仁志、得能想平、永吉希久子、平田公威、古村信明、水橋雄介、山崎吾郎、山森裕毅、米田翼、の15氏のほか、編者の2氏も執筆されています。目次詳細は書名のリンク先でご覧ください。
★『神道・天皇・大嘗祭』は、佛教大学歴史学部教授の斎藤英喜(さいとう・ひでき, 1955-)による書き下ろし1200枚。「『古事記』『日本書紀』、アマテラス、陰陽道、中世神話、異端神道、平田篤胤、折口信夫など、著者のこれまでの研究のすべてを動員し、学問分野を積極的に越境しつつ、大嘗祭の起源から現代までと、それを巡る論争と思想を描き出す」(帯文より)。「神道や天皇、そして大嘗祭を歴史的に解明していく学問的な実践は、きわめてアクチュアルな課題である」(はじめに、19頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。