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注目新刊:ちくま学芸文庫7月新刊、ほか

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★まもなく発売となるちくま学芸文庫の7月新刊4点を列記します。


『セクシュアリティの歴史』ジェフリー・ウィークス(著)、赤川学(監訳)、武内今日子/服部恵典/藤本篤二郎(訳)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,400円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51246-8
『日中15年戦争』黒羽清隆(著)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,900円、文庫判768頁、ISBN978-4-480-51247-5
『中世政治思想講義――ヨーロッパ文化の原型』鷲見誠一(著)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51248-2
『日本人』柳田國男(編)、ちくま学芸文庫、2024年7月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51251-2


★『セクシュアリティの歴史』は文庫版オリジナルの訳し下ろし。英国の歴史社会学者ジェフリー・ウィークス(Jeffrey Weeks, 1945-)による『What is Sexual History?』(Polity, 2016)の全訳です。ウィークスの著書としては『セクシュアリティ』(原著1986年;上野千鶴子監訳、河出書房新社、1996年)、『われら勝ち得し世界』(原著2007/2015年;赤川学監訳、弘文堂、2015年)に続く3冊目の訳書です。「性の歴史とは何か。それはいかにして書かれ、何について語ってきたか。19世紀から現在までの展開を簡潔に記した、第一人者による画期的概説書」(カバー裏紹介文より)。主要目次を転記しておきます。


序文・謝辞
イントロダクション
第1章 性の歴史を組み立てる
第2章 性の歴史の発明
第3章 同性関係の歴史を問い直し、クィア化する
第4章 ジェンダー、セクシュアリティ、権力
第5章 性の歴史の主流化
第6章 性の歴史のグローバル化
第7章 記憶、コミュニティ、声
監訳者解説
さらなる読書案内
原注
人名索引/事項索引


★「性の歴史は今日、高度な理論とコミュニティ(共同体)の歴史の両面を、つまり象牙の塔の専門主義と民主的実践の双方を内包している。それは、より上位の歴史学的実践においても大きな存在感を示し、性政治の実践における歴史的存在になっている。/性の歴史に関する簡潔な概要にすぎない小著が、完全に包括的であることは不可能である。だから私は、いくつかの鍵となる主題に絞ることにした。主体の「発明」と批判的な性の歴史学の展開、同性愛の歴史化と性/ジェンダーの見解の相違、ジェンダーと権力関係、抑圧と抵抗の諸次元の交差性、性の歴史の主流化と「近代セクシュアリティ」の登場、性の歴史のグローバル化、コミュニティの歴史が有する意義である。これらの主題を探究することによって、性の歴史を実践するという、より広がりある冒険に対する洞察を読者が得られることを、私は望んでいる」(序文、12~13頁)。


★『日中15年戦争』は、教育社より3巻本で1977年から79年にかけて刊行された単行本の文庫化。「「戦争へのあこがれ」に抗して――多様な人びとの視点とともに描く全体像」(帯文)。文庫版解説は、埼玉大学教授の一ノ瀬俊也さんによる「戦争の全体像復元の壮大な試み」。著者の黒羽清隆(くろは・きよたか, 1934-1987)さんは歴史学者。文庫化された著書に『太平洋戦争の歴史』(講談社学術文庫、2004年)がありますが、現在は品切。


★『中世政治思想講義』は、政治学者の鷲見誠一(すみ・せいいち, 1939-)さんの著書『ヨーロッパ文化の原型――政治思想の視点より』(南窓社、1996年)の改題文庫化。巻末特記によれば「書名を変更し、本文内の誤りは適宜訂正した」とのこと。著者による「文庫版あとがき」が付されています。「政治と宗教が未分離だった時代、中世。近代を用意する政治思想の誕生と発展に迫った出色の講義」(帯文)。


★『日本人』は、1954年に毎日新聞社の「毎日ライブラリー」の1冊として刊行されたものの文庫化。「柳田國男とその愛弟子たちによる日本人論の白眉」(帯文)。執筆分担は以下の通り。一「日本人とは」柳田國男、二「伝承の見方・考え方」萩原龍夫、三「家の観念」柳田國男、四「郷土を愛する心」堀一郎、五「日本人の生活の秩序」直江広治、六「日本人の共同意識」最上孝敬、七「日本人の表現力」大藤時彦、八「日本人の権威観」和歌森太郎、九「文化の受けとり方」萩原龍夫、十「不安と希望」堀一郎。論考の後には執筆陣による座談会が収められています。巻末には、阿満利麿さんによる文庫版解説「「日本人」論のむつかしさ」が加わっています。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。『パリと五輪』のみまもなく発売で、その他は発売済です。


『パリと五輪――空転するメガイベントの「レガシー」』佐々木夏子(著)、以文社、本体2,700円、四六判並製328頁、ISBN978-4-7531-0387-4
『古くて新しい国――ユダヤ人国家の物語』テオドール・ヘルツル(著)、村山雅人(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2024年7月、本体4,000円、四六判並製414頁、ISBN978-4-588-01168-9

『文藝 2024年秋季号』河出書房新社、2024年7月、本体1,400円、A5判並製568頁、雑誌07821-08

『夜の日記』ヴィーラ・ヒラナンダニ(著)、山田文(訳)、金原瑞人選モダン・クラシックYA:作品社、2024年7月、本体2,200円、46判並製240頁、ISBN978-4-86793-041-0

『現代ネット政治=文化論――AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』藤田直哉(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、46判並製352頁、ISBN978-4-86793-037-3

『ベルリオーズ ドラマと音楽――リスト・ワーグナーとの交流と共に』村山則子(著)、作品社、2024年6月、本体3,600円、46判上製440頁、ISBN978-4-86793-035-9

『わからないままの民藝』朝倉圭一(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、四六判並製272頁、ISBN978-4-86793-033-5

『インドの台所』小林真樹(著)、作品社、2024年6月、本体2,700円、四六判並製272頁、ISBN978-4-86793-031-1



★『パリと五輪』はまもなく発売。フランス在住の文筆家・翻訳家の佐々木夏子(ささき・なつこ)さんによる五輪論です。「パリと五輪の因縁から、進行するジェントリフィケーション、そして「オリンピックマネー」まで。〔…〕2007年より在仏の著者が描く、どこよりも詳しいパリ五輪の顛末」(帯文)。「国際オリンピック委員会の主催するイベントが、開催都市がどこであれ必ず同質の問題を生んでしまう構造を解明することは、本書の大きな目的のひとつである」(序、4頁)。「おそらく日本のメディアは「さすがフランスでやるオリンピックは素敵」といった言説を形成するはずだ。それらを止められるとまでは思っていないが、対抗言説で先制することで日本におけるメガイベント批判に貢献できれば」(同、6~7頁)とのこと。以文社ウェブサイトでの佐々木さんの連載「誰がパリ五輪に抵抗しているのか?」(2021年11月~2023年7月)の発展形と理解してよさそうです。


★『古くて新しい国』は、オーストリアの作家でシオニストのテオドール・ヘルツル(Theodor Herzl, 1860-1904)の小説『Altneuland』(Seemann Nachf., 1902)の訳書。帯文に曰く「シオニズム運動の推進者であり、イスラエル建国の立役者として知られるユダヤ人作家」による「シオニズムの宣言書『ユダヤ人国家』〔1896年〕での構想をより克明に描き出し、〔…〕多くの反響を呼んだ近未来小説の初邦訳」。


★訳者解説では次のように紹介されています。「『古くて新しい国』は各部が六章からなる全五部構成である。内容は二つの部分に分けられる。反ユダヤ主義が強まっていた1902年当時のウィーンを舞台に、リベラリズム全盛の1870年代以降に一般化していた、高学歴を積むことによって自分の将来の夢を描くが定職に就けず、その結果、高等プロレタリア化していくユダヤ人インテリ、豪奢な生活ぶりをまだ誇示できたブルジョアのユダヤ人、そしてシオニズムに活路を開こうとする東方ユダヤ人難民と、ユダヤ人の諸相が映し出される第一部。そして、それから二十年後のパレスチナに築かれた、他民族との平等互恵を実現した超近代的で理想的なユダヤ人国家が、人びとの生活風景を通じて具体的に描出される残りの四部である。小説で重要な部分を成しているのは、表題が示すとおり後半の四部である」(397頁)。


★「『古くて新しい国』は実際、空想未来小説としても読める。しかし、政治的シオニズムの指針を示した『ユダヤ人国家』で示された国家像を、登場人物たちの活動を通じて細部に至るまで具体的に描出したこの小説は、明らかに『ユダヤ人国家』の小説ヴァージョンであり、ヘルツルの集大成だと言っていい。そして、本書は成立の過程や内容と作者の発言に鑑みて、ユダヤ人および非ユダヤ人に向けた政治的シオニズムのプロパガンダ小説とみなすことができる(以上の理由から、邦訳版では「ユダヤ人国家の物語」という副題を付け加えた。/本訳書が、パレスチナ-イスラエル問題の現実と、さらに、その根源、および政治的シオニズムの起こりについて考えるきっかけとなれば幸いである」(407~408頁)。


★『文藝 2024年秋季号』の特集は、「世界文学は忘却に抵抗する」「怖怖怖怖怖」の2本立て。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。どちらの特集も興味深いです。特集の扉頁ある紹介文を引くと、前者は「本特集では、数々の訳書を手がける翻訳者による鼎談、アジアの作家たちによる「戦争」をテーマにした書き下ろし小説と、往復書簡、エッセイ、さまざまな言語圏の翻訳者・研究者へのアンケートを掲載し、世界の文学の「いま」をとらえる」。後者は「作家、歌人、精神科医、研究者、テレビプロデューサーなどが、さまざまな分野から「いまこの時代の新しい怖さとは何なのか?」「なぜ怖いのか?」を探る」。後者では、春日武彦さんと梨さんの対談「本当に怖いフィクションとは何か?」、大森時生さんによる、墨塗りが所々にあるエッセイ「衝動的煩悩」、木澤佐登志さんによる卓抜な論考「この世界という怪異――実話怪談と思弁的怪異」などに惹かれます。


★作品社の新刊5点。『夜の日記』は新シリーズ「金原瑞人選モダン・クラシックYA」の第2弾。米国の作家ヴィーラ・ヒラナンダニ(Veera Hiranandani)の小説『The Night Diary』の訳書です。「この作品は、1947年8月のインドとパキスタンの分離独立をテーマにして小説」(訳者あとがきより)とのこと。「この一家の経験は、おおむねわたしの父がわの家族の経験をもとにしています。〔…〕家とたくさんの持ち物を失い、見知らぬ場所で難民として再出発することを強いられました。わたしの親類が経験したことをもっとよく知りたい。その気持ちが大きな動機になって、この本を書きました」(著者あとがき)。


★『現代ネット政治=文化論』は、日本映画大学准教授で批評家の藤田直哉(ふじた・なおや, 1983-)さんが2014年から2023年にかけて各種媒体で発表してきた論考をまとめたもの。「本書は、インターネットが大きく変えている現在の政治状況を、文化との連続性の観点から考えるものである。/大きく注目する文化は、初期のネットカルチャーと連続性を持っていたサブカルチャーとオタクカルチャーである。〔…〕現在起こっている政治や社会の現象を理解するには、初期のインターネットやオタクカルチャーの歴史を知っておく必要がある。そこで涵養されたマインドや価値観が、今にまで影響しているように思われるからだ」(はじめに)。


★『ベルリオーズ ドラマと音楽』は、作家の村山則子(むらやま・のりこ=りおん)さんによる音楽家論。「ベルリオーズの人間性に焦点を当て、多方面からの視点を加えて、その立体像を浮かび上がらせることを心掛けた。彼の音楽作品については、その全体像を見るのではなく、あくまで「ドラマと音楽」という観点から、三作品〔幻想交響曲、ロメオとジュリエット、トロイアの人々〕のみに留めた。主に残された書簡や自伝から構成し、ベルリオーズ、そして彼を取り巻くワーグナーやリスト等の声が直接響き、こだまする作品にしたいと考えた」(終わりに)とのこと。


★『わからないままの民藝』は、飛騨高山の山奥の古民家で民芸の器を中心に新旧の生活道具を扱い、私設図書館を併設する「やわい屋」の店主、朝倉圭一(あさくら・けいいち, 1984-)さんによるエッセイ集。「民藝に対しての詩的な想いと、これまであまりまとめて語られることがなかった飛騨と民藝運動の関わりについての話、そして古民家を移築再生して営んでいる「やわい屋」の始まりについて書き記した一冊」(はじめに)とのことです。


★『インドの台所』は、インド食器や調理器具などの専門店「有限会社アジアハンター」の代表取締役、小林真樹(こばやし・まさき)さんによる「インド台所紀行」(帯文)。「本書で紹介するのは、北は夏でも朝晩寒いカシミールから、南は呼吸するだけで汗の出るタミルの最南部まで、巨大な冷蔵庫を6台も抱える大富豪から、わずかな身の回り品しか持っていない路上生活者までの、さまざまな調理現場である。〔…〕一戸一戸の立場や地位、地域は異にしながらも、全体として共通するインド像が浮かび上がってきた」(はじめに)。カラー図版多数。

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