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注目新刊:ヤン・アスマン『文化的記憶』福村出版、ほか

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『文化的記憶――古代地中海諸文化における書字、想起、政治的アイデンティティ』ヤン・アスマン(著)、安川晴基(訳)、福村出版、2024年7月、本体6,300円、A5判上製424頁、ISBN9784571300424
『道元「赴粥飯法」』道元(著)、石井修道(監修)、ビギナーズ日本の思想:角川ソフィア文庫、2024年6月、本体1,060円、文庫判320頁、ISBN978-4-04-400721-8



★『文化的記憶』は、ドイツのエジプト学者ヤン・アスマン(Jan Assmann, 1938-2024)の主著『Das kulturelle Gedächtnis: Schrift, Erinnerung und politische Identität in frühen Hochkulturen』(Beck, 1992)の待望の全訳。訳者解説によれば、ドイツ語版第七版(2013年)と著者自身によって加筆されている英語版(2011年)を参照し翻訳したとのことです。「本書の三つのテーマが、このささやかなドラマから聞こえてくる。すなわち、「私たち」「あなた方」「私」に表されているアンデンティティというテーマ。この「私たち」を基礎づけ、構成する出エジプトの物語に表されている想起というテーマ。そして、父と子のこの関係に表されている継続と再生産というテーマである」(序論、3頁)。


★「本書は、これらの三つのテーマ――「想起」(あるいは過去の参照)、「アンデンティティ」(あるい政治的想像力」)、そして「文化の継続」(あるいは伝統の形成)――の関連を扱う。どの文化も、その〈連結構造〉と呼べるかもしれないものを形成する。この連結構造は、結びつけ、つなぎ合わせる働きをする。それも二つの次元――社会の次元と時間の次元でそうする。この連結構造は、「象徴的な意味世界」(バーガー/ルックマン)として、ある共有の経験と期待と行為の空間を形作ることで、人々を互いにつなぎ合わせる」(同頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本年2月に逝去したヤン・アスマンの著書の翻訳には以下のものがあります。『エジプト初期高度文明の神学と信仰心』吹田浩訳、関西大学出版部、1998年。『エジプト人モーセ――ある記憶痕跡の解読』安川晴基訳、藤原書店、2017年。


★『道元「赴粥飯法」』は、曹洞宗の食事作法書。「禅では「さとり」の境地を、日常の営みの中に見出す。そのため、生活の要である「食」は、大事な修行の場でもあるのだ。〔…〕やさしい現代語訳と解説に豊富な写真資料を加え、「解題」「道元禅師の生涯」も収録した決定版」(カバー表4紹介文より)。監修者の石井さんはこう紹介されています。「本書は、食事作法について、一挙手一投足の動きや注意事項を極めて詳細に記している。読まれた方は、道元禅師が示す教えがあまりにも細かいことに、きっと驚きを持たれるに違いない。しかしこれは、修行する者を規則で縛って不自由にすることを意味しない。示されている作法は、最も合理的で無駄の無い、崇高な美を体現しているものである。本書の姉妹編ともいうべき『典座教訓』にも、食を作る心構えや、それを担う典座の職はさとった仏のはたらきと同じであることなどが詳しく記されている」(はじめに、4頁)。


★食をめぐる心得と作法について、食べる側のそれを説いた『赴粥飯法』と、作る側のそれを説いた『典座教訓』は対となる著作であり、講談社学術文庫では両書が1冊にまとまっていますが、角川ソフィア文庫では別々になっています。藤井宗哲訳『道元「典座教訓」――禅の食事と心』(2009年)がそれで、現在版元品切ですが、電子書籍はあります。『赴粥飯法』が発売となったいま、いずれ重版されることを期待したいです。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『林達夫のドラマトゥルギー ――演技する反語的精神』鷲巣力(著)、平凡社、2024年6月、本体3,800円、4-6判上製400頁、ISBN978-4-582-83963-0
『岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注――裁判記録からみる戦国末期の秦(上)』柿沼陽平(編訳注)、東洋文庫:平凡社、2024年6月、本体3,200円、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80918-3

『岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注――裁判記録からみる戦国末期の秦(下)』柿沼陽平(編訳注)、東洋文庫:平凡社、2024年6月、本体3,200円、B6変型判上製函入282頁、ISBN978-4-582-80919-0

『楽しみと日々――壺中天書架記』高遠弘美(著)、法政大学出版局、2024年6月、本体7,000円、四六判上製878頁、ISBN978-4-588-46025-8

『二人のウラジーミル――レーニンとプーチン』伴野文夫(著)、藤原書店、2024年6月、本体2,200円、四六変型判上製240頁、ISBN978-4-86578-427-5

『甦るシモーヌ・ヴェイユ 1909-1943――純粋にして、勇敢・寛容(別冊『環』29)』鈴木順子(編)、藤原書店、2024年6月、本体2,800円、菊変判並製224頁、ISBN978-4-86578-423-7

『現代思想2024年7月号 特集=ウィーナーとサイバネティクスの未来』青土社、2024年6月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1467-4

『農業と経済 2024年春号(90巻2号)』英明企画編集、2024年6月、本体1,700円、A5判並製224頁、ISBN978-4-909151-61-2



★『林達夫のドラマトゥルギー』は、帯文に曰く「戦前戦後を通じ、岩波書店、中公公論社、角川書店、平凡社などの出版社で書籍雑誌を編み、「饒舌な編集者」にして「寡黙な執筆者」として活動した林達夫。不透明な時代を生きるわれわれに強く響く、その思想と行動の軌跡」。「その精神形成」「存在証明としての翻訳」「思想運動としての編集」「方法としての反語」「何が林達夫を支えたのか」の五部構成。資料編として、林の二篇の文章「中央公論社の現状について」「ルネッサンス」を併録。なお平凡社では『林達夫著作集』全7巻(1971~1972年、1987年)と、平凡社ライブラリー版『林達夫セレクション』全3巻(2000年)の刊行実績があります。


★『岳麓書院蔵秦簡 「為獄等状四種」訳注』上下巻は、東洋文庫の第918巻と第919巻。書名のヨミは「がくろくしょいんぞうしんかん・いごくとうじょうよんしゅ・やくちゅう」。版元紹介文によれば本書は「中国・湖南大学の岳麓書院が入手した、戦国時代の秦から統一頃までの裁判記録。世界各地の研究成果を網羅・整理した訳注の決定版」。法制史の第一級の史料であり、秦の統治下における庶民の生活が垣間見えます。上巻は案例一から七を収録し、下巻は八から十五までを収録。編訳注者の柿沼陽平(かきぬま・ようへい, 1980-)さんは早稲田大学教授で、長江流域文化研究所所長。東洋文庫の次回配本は7月発売予定、『正宗敦夫文集1』とのこと。


★『楽しみと日々』は、明治大学名誉教授で仏文学者の高遠弘美(たかとお・ひろみ, 1952-)さんが半世紀にわたって様々な媒体で発表し、単行本未収録であった文章を一冊にまとめたもの。「プルーストの花咲く街」「月光に照り映える街」「言の葉の調べ漂う街」「親しき外国人街」「旅人宿が立ち並ぶ街」「雑踏往来の街」「小さな図書館の街」「遊園地のある街」の八部構成。まえがきによれば、これらの「街区」はすべて担当編集者の赤羽健さんの構成によるもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★『二人のウラジーミル』は、NHKの解説委員で杏林大学で教鞭を執られた伴野文夫(ばんの・ふみお, 1933-)さんによる書き下ろし。「2024年1月21日は、レーニンが53歳で早逝してからちょうど百年にあたる年だ。〔…〕この機会に「レーニンの失敗の本質」を徹底的に追及する必要がある。〔…〕プーチンの言語道断の隣国に対する武力侵略は、まさに歴史的な大ロシア主義から生まれたものであり、レーニンとプーチンという“二人のウラジーミル”には、名前だけではない多くの共通点があるのだ」(はじめに、11~12頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★『甦るシモーヌ・ヴェイユ 1909-1943』は『別冊 環』第29号。帯文に曰く「混迷の時代の渦中で、「真に強靭で、真に純粋で、真に勇敢で、真に寛大」であるために。〔…〕専門領域の垣根を超えた多様なアプローチにより、シモーヌ・ヴェイユの生涯と思想を俯瞰する画期的論集」。「総論 今、なぜヴェイユか」「「犠牲」と「歓び」の思想――永遠なるものと内奥の往還」「共にあるために――「利己」と「利他」の間で」「歴史を問うヴェイユ、歴史に問われるヴェイユ」「ヴェイユ研究をひらく」の五部構成。巻末の資料編は、略年譜と文献一覧。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。


★『現代思想2024年7月号』の特集は「ウィーナーとサイバネティクスの未来」。版元紹介文に曰く「生誕130年/没後60年……サイバネティクスの創始者、その思想に迫る」と。ユク・ホイ「機械とエコロジー」原島大輔訳、イ・アレックス・テックァン「リヴァイアサンと惑星的サイバネティックス――新たな政治哲学に向けて」鍵谷怜訳、近藤和敬「ウィーナーのサイバネティクスにおける実証主義哲学――〈神とゴーレム社〉の欽定」をはじめ、16本の論考を収録。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号8月号の特集は「長期主義――遠い未来世代のための思想」。


★『農業と経済 2024年春号』の特集は、辻村英之、久野秀二、坂梨健太、の3氏による責任編集で「海を越えてくる食べ物の裏側──食料調達におけるSDGsとは」と題されています。「持続可能な食料調達・食資源とは」「オルタナティブ調達によって社会問題に立ち向かう」「調達不安を引き起こす社会・環境問題」の三部構成。巻末の「編集雑感」によれば「日本に届く食物の産地で起こっている問題と、その改善の取り組み、そして持続可能な調達について検討されて」いるとのこと。目次詳細はこちらをご覧ください。

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