★最近出会いのあった新刊を列記します。
『吉本隆明全集34[1990-2004]』吉本隆明(著)、晶文社、2024年4月、本体7,100円、A5判変型上製704頁、ISBN978-4-7949-7134-0 C0395
『連合の系譜』互盛央(著)、作品社、2024年4月、本体15,000円、A5判上製1286+127頁、ISBN978-4-86793-028-1
『現代思想2024年5月号 特集=民俗学の現在』青土社、2024年4月、本体1,600円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1463-6
『現代思想2024年5月臨時増刊号 総特集=アントニオ・ネグリ――1933-2023』青土社、2024年4月、本体2,000円、A5判並製294頁、ISBN978-4-7917-1464-3
『第三の無意識――ウイルス時代の精神空間』フランコ・ベラルディ(ビフォ)(著)、杉村昌昭(訳)、航思社、2024年4月、本体2,800円、四六判上製256頁、ISBN978-4-906738-49-6
『縫い目のほつれた世界――小氷期から現代の気候変動にいたる文明の歴史』フィリップ・ブローム(著)、佐藤正樹(訳)、法政大学出版局、2024年4月、本体3,600円、四六判並製414頁、ISBN978-4-588-35237-9
『二匹のけだもの/なけなしの財産 他五篇』デル・ニステル/ドヴィド・ベルゲルソン(著)、赤尾光春/田中壮泰(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2024年4月、本体3,600円、四六判変上製400頁、ISBN978-4-86488-297-2
『政党政治家と近代日本――前田米蔵の軌跡』古川隆久(著)、人文書院、2024年4月、本体4,500円、4-6判上製404頁、ISBN978-4-409-52092-5
『戦後期渡米芸能人のメディア史――ナンシー梅木とその時代』大場吾郎(著)、人文書院、2024年4月、本体4,800円、4-6判並製420頁、ISBN978-4-409-24160-8
★『吉本隆明全集34[1990-2004]』は、晶文社版全集第35回配本。版元紹介文によれば「『吾輩は猫である』『夢十夜』などの漱石の12作品を論じた『夏目漱石を読む』(小林秀雄賞受賞作)、英国留学と満韓の旅を論じた『漱石の巨きな旅』、新聞雑誌の社会・政治時評を再構成した『吉本隆明のメディアを疑え』などを収める。単行本未収録47篇」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。付属の「月報35」は、上村武男さんによる「『隆明だもの』の読後に」と、清岡智比古さんによる「ひとつの街があそこで住んでいた」を収録。次回配本は2024年9月、第35巻「[2004-2007]思想のアンソロジー・中学生のための社会科」。
★『連合の系譜』は、思想史家で編集者の互盛央(たがい・もりお, 1972-)さんによる書き下ろし4500枚、本文だけでも2段組1300頁近い大作。後記によれば本書は『エスの系譜――沈黙の西洋思想史』(講談社、2010年;講談社学術文庫、2016年)と『言語起源論の系譜』(講談社、2014年)に続くもので、「三冊は一体をなしている。この構想は『フェルディナン・ド・ソシュール――〈言語学〉の孤独、「一般言語学」の夢』(作品社、2009年)の基となった博士論文の第一稿に含まれていたものである」とのこと。帯文に曰く「古代ギリシア・ローマから近現代に至る精神史を追跡し、限りなき連合の姿を甦らせつつ人間的営為の根源に迫る」と。章立てを転記しておきます。
プロローグ 残されたアリア
第一部 プネウマのラプソディ
第Ⅰ章 ラプソディの時間
第Ⅱ章 グラウンド・バスの歌――古代~12世紀
第Ⅲ章 ムスカ・ムンダーナの声――13~16世紀
第Ⅳ章 デタシェの技法――17世紀
第二部 無限の連合
第Ⅴ章 ハーモニーの場所――18世紀
第Ⅵ章 ポリフォニーの共同体――19世紀
第Ⅶ章 クオドリベットの残響――20世紀へ
エピローグ アリア・ダ・カーポ
後記
書誌
人名・作品名索引
★『現代思想2024年5月号 特集=民俗学の現在』と『現代思想2024年5月臨時増刊号 総特集=アントニオ・ネグリ』は同時発売。通常号の「民俗学の現在」特集は「現代民俗学の最前線を、アメリカなど国外の動向にも目を向けつつ多彩なトピックを通じて一望する」(版元紹介文より)。臨時増刊号の「ネグリ」特集は「活動の原点から近代政治思想史家としての事績、その理論と実践が遺した広範な足跡と応答の数々に至るまで、ネグリ思想の全体像を改めて見つめ直すとともに、未来へと継ぐ。昨年12月に惜しくも逝去した現代の「闘士」に捧ぐ追悼特集」(同)。海外からの追悼文はエティエンヌ・バリバールとサンドロ・メッザードラによる各1篇。ネグリの最晩年のインタヴューも収録されています。各号の目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。
★『第三の無意識』は、イタリア出身で欧米で活躍するフランコ・ベラルディ(Franco BIFO Berardi, 1949-)の著書『The Third Unconscious: The Psycho-sphere in the Viral Age』(Verso, 2021)の全訳。「私が本書で描いたのは、ウイルスによるトラウマのもたらす集合的無意識の変化である。社会生活の加速的活動の突然の停止とその持続による集合的無意識の変化である」(日本語版序文より、3頁)。「21世紀という新世紀の第三の十年期〔2020年代〕に入った今日、〈第二の無意識〉の段階は閉じつつあるように思われる。われわれは、〈第三の無意識〉が形を現しつつある新たな精神空間に入りつつあるのである」(序文より、18頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。リンク先では日本語版序文と原著版序文がためし読みできます。
★『縫い目のほつれた世界』は、ドイツの歴史家で作家のフィリップ・ブローム(Philipp Blom, 1970-;現在はオーストリア在住)の著書『Die Welt aus den Angeln. Eine Geschichte der Kleinen Eiszeit von 1570 bis 1700 sowie der Entstehung der modernen Welt, verbunden mit einigen Überlegungen zum Klima der Gegenwart』(Hanser, 2017)の訳書。帯文に曰く「16~17世紀に世界を襲った寒冷化と、それに伴う飢饉、疫病、戦争。近代への転換点となった〈氷の時代〉を描く一大歴史絵巻」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「この本のはじめにあるのは、打ち消しようもない現代の課題をはらんだ一個の単純な問いである。もし気候が変化したら、社会の何が変わるのか。〔…〕長い17世紀は、気候変動が人間生活のすべての局面に及ぼす影響を探究し、さらにはそれを理解する姿勢を身につけるのにうってつけの時代である」(プロローグ、15~16頁)。
★『二匹のけだもの/なけなしの財産 他五篇』は、〈ルリユール叢書〉第39回配本(53冊目)。ウクライナに生まれ、スターリン時代に粛清されたユダヤ人作家2氏の短篇7篇を収めています。収録作は、ドヴィド・ベルゲルソン(Dovid Bergelson, 1884–1952)による「改宗者」「二匹のけだもの」「盲目」「生き証人」、デル・ニステル(Der Nister, 1885–1950)による「酔いどれ」「堀のそばで(レヴュー)」「なけなしの財産」。ロシアのイディッシュ文学に親しむことのできる貴重な一冊です。なお、西成彦編訳『世界イディッシュ短篇選』(岩波文庫、2018年)には、ベルゲルソン「逃亡者」と、ニステル「塀のそばで(レヴュー)」が収められています。後者の訳者は赤尾光春さんで、今回の新刊にも再録されました。
★人文書院の新刊2点。『政党政治家と近代日本』は帯文に曰く「原敬の政党政治に影響を受けた、保守系の政党政治家・前田米蔵(1882-1954)はなぜ戦時協力をしたのか? 〔…〕戦後は不遇な政治家とされるも、戦後自民党の保守合同のさきがけともなった前田の初の本格的研究」。著者の古川隆久(ふるかわ・たかひさ, 1962-)さんは日本大学文理学部教授。『昭和天皇』(中公新書、2011年)でサントリー学芸賞を受賞されています。
★『戦後期渡米芸能人のメディア史』は帯文によれば「日本とアメリカにおいて音楽、映画、舞台、テレビなど、ジャンルとメディアをまたいで活躍し、日本人女優で初のアカデミー受賞者となったナンシー梅木の知られざる生涯を初めて丹念に描き出す労作」。ナンシー梅木ことミヨシ・ウメキ(Miyoshi Umeki, 1929-2007;本名=梅木美代志)さんは、ジャズ歌手で女優。著者の大場吾郎(おおば・ごろう)さんは佛教大学社会学部教授。