★まず、最近出会いのあった新刊を列記します。
『ゲンロン16』ゲンロン、2024年4月、本体2,300円、A5判並製280頁、ISBN978-4-907188-54-2
『ウクライナの小さな町――ガリツィア地方とあるユダヤ人一家の歴史』バーナード・ワッサースタイン(著)、工藤順(訳)、作品社、2024年4月、本体3,600円、四六判並製376頁、ISBN978-4-86793-025-0
★『ゲンロン16』は、巻頭を飾るのが小特集「ゲンロンが見たウクライナ」。東浩紀さんの論考「ウクライナと新しい戦時下」、上田洋子さんの論考「戦争はどこに「写る」のか──ボリス・ミハイロフとハルキウ派」、さらにキーウ在住の夫妻への上田さんによるインタヴュー「「戦争が始まった朝はどうすればいいのかわからなかった」」、ユダヤ系ロシア人でウクライナとも関わりが深いという映画監督イリヤ・フルジャノフスキーさんへの東さんと上田さんによるインタヴュー「ユダヤとロシアのあいだで──バービン・ヤルの虐殺とソ連という地獄」が掲載されています。また、2023年12月17日にゲンロンカフェで行われた、東さんと加藤文元さん、川上量生さんによる公開座談会「真理とはなにか――数学とアルゴリズムから見た『訂正可能性の哲学』」が、編集され改稿されて「訂正する真理──数学、哲学、エンジニアリング」として掲載されています。同号の目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。
★『ウクライナの小さな町』は、英国生まれの歴史学者でシカゴ大学名誉教授のバーナード・ワッサースタイン(Bernard Wasserstein, 1948-)の近著『A Small Town in Ukraine: The Place we came from, the place we went back to』(Allen Lane, 2023)の訳書。「ガリツィア地方という、国と国のはざま。そしてユダヤ人という、民族と民族のはざま。――二つの「はざま」の視点から、ガリツィア地方、ウクライナ、そして東欧の人びとがくぐり抜けた歴史が照らし出される」(カバー紹介文より)。訳者の工藤順さんによる「『ウクライナの小さな町』に寄せて」がウェブ公開されています。「本書が扱う歴史じたい非常に苦しいものだが、翻訳の作業には歴史とリアルタイムの現実とがシンクロしてしまう苦しさもあった。ウクライナとガザは繫がっているのだ」と工藤さんはお書きになっています。
★続いて注目既刊書を記します。
『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く(上)』ナオミ・クライン(著)、幾島幸子/村上由見子(訳)、岩波現代文庫、2024年3月、本体1,650円、A6判480頁、ISBN978-4-00-603344-6
『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く(下)』ナオミ・クライン(著)、幾島幸子/村上由見子(訳)、岩波現代文庫、2024年3月、本体1,650円、A6判496頁、ISBN978-4-00-603345-3
『人類歴史哲学考(三)』ヘルダー(著)、嶋田洋一郎(訳)、岩波文庫、2024年3月、本体1,160円、文庫判408頁、ISBN978-4-00-386034-2
『わたしの本はすぐに終る――吉本隆明詩集』吉本隆明(著)、講談社文芸文庫、2024年3月、本体2,900円、A6判300頁、ISBN978-4-06-534882-6
『存在と思惟――中世哲学論集』クラウス・リーゼンフーバー(著)、山本芳久(編・解説)、村井則夫/矢玉俊彦(訳)、講談社学術文庫、2024年3月、本体1,100円、A6判256頁、ISBN978-4-06-535262-5
『新版 蜻蛉日記 全訳注』上村悦子(訳著)、講談社学術文庫、2024年3月、本体2,700円、A6判848頁、ISBN978-4-06-534804-8
『名婦伝[ラテン語原文付]』ジョヴァンニ・ボッカッチョ(著)、日向太郎(訳)、知泉学術叢書〈イタリア・ルネサンス古典シリーズ〉:知泉書館、2024年2月、本体6,400円、新書判上製746頁、ISBN978-4-86285-401-8
『デカルト・エリザベト王女等の書簡集』フーシェ・ド・カレイユ(編著)、山田弘明(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2023年12月、本体4,200円、新書判上製328頁、ISBN978-4-86285-397-4
★岩波書店の先月の文庫新刊より3点。現代文庫ではついに、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』上下巻が待望の文庫化。親本は2011年に上下巻で刊行。文庫化に際し「訳文を若干改訂した」とのことです。下巻巻末に、幾島幸子さんによる「岩波現代文庫版訳者あとがき」と、中山智香子さんによる解説」が加わっています。原著『The Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism』は2007年に刊行。同書はNHKEテレの「100分de名著」で2023年6月に取り上げられたこともあり、再び注目が集まっています。
★岩波文庫からはヘルダー『人類歴史哲学考(三)』。全5巻の第3巻。第2部第10巻から第3部第13巻までを収録。帯文に曰く「東・中央アジアから中東、そしてギリシアへ。風土に基づき民族性、言語、国家、文化や道徳を縦横に論じる」と。なお岩波文庫の4月新刊は12日発売ですが、私の立ち寄る書店には未入荷。カントの訳書2点、『道徳形而上学の基礎づけ』大橋容一郎訳、カント『人倫の形而上学 第二部』宮村悠介訳、さらに『孝経・曾子』末永高康訳注、『新編 虚子自伝』岸本尚毅編、と充実しています。
★講談社の先月の文庫新刊より3点。文芸文庫の吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』は巻末特記によれば「『吉本隆明初期詩集』(講談社文芸文庫、1992年10月刊)の続巻にあたり、私家版の詩集『転位のための十篇』発行(1953年9月)より後に発表された作品を収録」したとのこと。「吉本隆明がつねに第一に考えていたのは詩作であった。〔…〕言語表現の拡張をめざしつづけた詩人の集大成」(カバー裏紹介文より)。以下の5部構成となっています。1:定本詩集(4、5)+新詩集、2;新詩集以後、3:記号の森の伝説歌、4:言葉からの触手、5:十七歳/わたしの本はすぐに終る。巻末にはハルノ宵子さんによる「佃渡しで――著者に代わって読者へ」、高橋源一郎さんによる解説「そして、ぼくは、吉本隆明の詩を読んだ」が収められています。底本情報は書名のリンク先の「製品情報」に記載されています。
★学術文庫からは2点。リーゼンフーバー『存在と思惟』は巻末特記によれば「1995年に創文社より刊行された『中世哲学の源流』(上智大学中世思想研究所中世研究叢書)所収の論文から精選し、新たな配列で編み直したもの」。以下の6篇を収録。「中世思想における至福の概念」「トマス・アクィナスにおける言葉」「トマス・アクィナスにおける存在理解の展開」「存在と思惟――存在理解の展開の可能性を探って」「トマス・アクィナスにおける神認識の構造」「神の全能と人間の自由――オッカム理解の試み」。巻末解説は東京大学大学院教授の山本芳久さんによるもの。
★『新版 蜻蛉日記 全訳注』は巻末特記に曰く「1978年に講談社学術文庫のために訳し下ろしされた『蜻蛉日記』上中下巻を1冊にまとめ、新版としたもの」。帯文に曰く「藤原道綱母が告白する、貴族たちの愛憎劇。紫式部に影響を与え、数々の小説家が惚れ込んだ、文学史上屈指の日記文学」。「2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』をより深く味わう」とも謳われています。なお講談社では、講談社文庫で1980年に川瀬一馬さんによる校注と現代語訳で『蜻蛉日記』上中下巻を刊行しており、こちらは現在、電子版でのみ配信されています。
★知泉書館の「知泉学術叢書」より2点。ボッカッチョ『名婦伝[ラテン語原文付]』は、同叢書第29巻で〈イタリア・ルネサンス古典シリーズ〉と題されたものの第1弾。『De mulieribus Claris』(1375年)の「自筆写本および三種の校訂版を参照し、詳細な注を施した決定訳」(カバー裏紹介文より)。「新約・旧約聖書を始め、ギリシア神話、ホメロス作品、オウィディウスやウェルギリウスなどラテン語の古典、さらには教父やタキトゥスの歴史書などを典拠として、古代から同時代の女王に至る106人の女性のエピソードを諧謔に富んだ筆致で描き出す」(同)。106人の明細は書名のリンク先でご確認いただけます。なお〈イタリア・ルネサンス古典シリーズ〉は、版元紹介文によれば「わが国で未開拓のルネサンス研究の基礎を築く」とのこと。とても楽しみです。
★『デカルト・エリザベト王女等の書簡集』は、同叢書第28巻。『Descartes, la princesse Élisabeth et la reine Christine : d'après des lettres inédites』(par A. Foucher de Careil, Frederik Muller, 1879)の訳書。凡例によれば「エリザベト書簡の邦訳は戦前から数種類ある。最近のものでは、拙訳『デカルト=エリザベト往復書簡』(講談社学術文庫、2001年、品切重版未定)、共訳『デカルト全書簡集 第5巻~第8巻』(知泉書館、2013年、2015~2016年)があり、本書はそれらを踏まえ改訂してある」とのこと。
★なお、知泉学術叢書では、山田弘明/吉田健太郎訳で『デカルト小品集』が刊行予定とのことです。また、今月末にはイェーガー『パイデイア――ギリシアにおける人間形成』の中巻がいよいよ発売。上巻は2018年に刊行済です。