Quantcast
Channel: URGT-B(ウラゲツブログ)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

注目新刊:杉田俊介『糖尿病の哲学』作品社、ほか

$
0
0
_a0018105_23365285.jpg

★最近出会いのあった新刊を列記します。


『実存主義者のカフェにて』サラ・ベイクウェル(著)、向井和美(訳)、紀伊國屋書店、2024年3月、本体3,800円、46判上製592頁、ISBN978-4-314-01204-1
『糖尿病の哲学――弱さを生きる人のための〈心身の薬〉』杉田俊介(著)、作品社、2024年3月、本体2,400円、四六判並製240頁、ISBN978-4-86793-024-3
『40歳から凡人として生きるための文学入門』森川慎也(著)、幻戯書房、2024年3月、本体2,400円、四六判並製192頁、ISBN978-4-86488-295-8


『ねこかしら』おかざき乾じろ(著)、オライビパアフ、2024年2月、非売品、A5横変型判上製36頁、ISBNなし

『翻訳とパラテクスト――ユングマン、アイスネル、クンデラ』阿部賢一(著)、人文書院、2024年3月、本体4,500円、4-6判上製346頁、SBN978-4-409-16101-2
『ゾンビの美学――植民地主義・ジェンダー・ポストヒューマン』福田安佐子(著)、2024年3月、本体4,500円、4-6判上製274頁、ISBN978-4-409-03131-5

『はじまりのテレビ――戦後マスメディアの創造と知』松山秀明(著)、人文書院、2024年3月、本体5,000円、4-6判並製556頁、ISBN978-4-409-24159-2



★『実存主義者のカフェにて』はまもなく発売。英国の作家ベイクウェル(Sarah Bakewell, 1963-)のベストセラーノンフィクション『At the Existentialist Cafe: Freedom, Being, and Apricot Cocktails』 (Chatto & Windus, 2016)の訳書。「実存主義を脇へ追いやった華やかな思想たちも、すでにそれ自体がひどく古び、衰退してしまった。21世紀の関心事は、もはや20世紀後半の関心事と同じではない。もしかしたら、現代のわたしたちは新しい哲学を探しているのかもしれない。/それならば、試しに実存主義者たちを再訪してみてはどうだろう。大胆で力強いその主張から、きっと新鮮な視点を得られるに違いない」(第1章、44頁)。


★「彼らは奇抜な専門用語をもてあそんだりはしなかった。同時代を生きる多くの他者とともに投げ入れられた世界で、人間性あふれた本来的な人生を生きるということはどういうことか、そうした大きな問題を問いかけていた。また、核戦争や環境問題、暴力、一触即発の時代に国と国との関係をどう保つかという問題とも格闘してきた。彼らの多くは世界を変えたいと熱望し、そのためにわたしたちがどんな犠牲を払うことになるのか、あるいはならないのかを考えた」(同、44頁)。


★「無神論の実存主義者は、どうすれば神なしでも意味のある人生を生きられるかを問うた。実存主義者たちはだれもが、選択の重大さに圧倒される存在者としての経験や不安について記した。このような不安感は、21世紀の比較的裕福な国々において、これまでになく強いものになっている。いっぽうで、現実世界での選択さえ許されない人たちもいる。実存主義者たちは、災害や不平等や搾取について悩み、それらの悪に対して打つ手があるかどうかを考えた。そして、このような問題に対して、個人になにができるか、自分たち自身はなにを進言すべきかを問うたのである」(同、44~45頁)。


★版元紹介文に曰く「1933年、パリ・モンパルナスのカフェで3人の若者、 ジャン=ポール・サルトル、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、レイモン・アロンが、 あんずのカクテルを前に、現象学について語り合っていた。 ここから生まれた新しい思想は、 やがて世界中に広がり、第二次世界大戦後の学生運動、公民権運動へとつながっていく――ハイデッガー、フッサール、ヤスパース、アーレント、メルロ=ポンティ、レヴィナス、カミュ、ジュネ……哲学と伝記を織り合わせたストーリー・テリングによって多くの読者を魅了した傑作ノンフィクション」。目次を以下に転記します。


第1章 ねえあなた、実存主義ってなんておぞましいのかしら!
第2章 事象そのものへ
第3章 メスキルヒの魔法使い
第4章 世人、良心の呼び声
第5章 ニワザクラを噛み砕く
第6章 自分の原稿を食べるなんてまっぴらだ
第7章 占領と解放
第8章 荒廃
第9章 人生の研究
第10章 ダンスをする哲学者
第11章 かくも深き対立
第12章 もっとも恵まれない者の目で
第13章 あのすばらしき現象学
第14章 いわく言いがたい輝き
登場人物紹介
謝辞
訳者あとがき
原註
おもな参考文献
図版クレジット
索引


★『糖尿病の哲学』はまもなく発売。批評家の杉田俊介(すぎた・しゅんすけ, 1975-)さんが糖尿病患者の当事者として「日々の気持ちや感情の変化を記録したもの」(はじめに、5頁)。「病んだり、疲れたり、老い衰えたりしている自分の身体と生活をまずはそこそこに肯定し、それなりに尊重しながら、それでも何事かを考え続けていくこと」(同、14頁)。「糖尿病患者のプラグマティズム、病者の肉体をよりよく生きるための実践哲学」(同、15頁)。


★「「死」が具体的なもの、身近なものとして体感されてしまう。漠然として詩の恐怖ではなく、コントロールのきかない体の、「モノ」のような詩の具体的な手触り。自分はあと何年生きられるのだろうか」(「糖尿病者の日記」3日目、32頁)。「わずかずつ積み重ねてきた自分の日々の努力を認めよう。〔…〕明日には明日にふさわしい労苦がある。死ぬまでは生きられる。それでよし、否、それがよし、としよう」(146日目、224頁)。


★「これからも生活の調子を見ながら、糖尿病、鬱病、アトピー性皮膚炎、等々……身体と精神の様々な不具合や老い衰えについて、病者の哲学、あるいはパンセ(考え、思考)を折にふれて書きつづっていくことができたなら」(はじめに、11頁)。等身大の記述が胸に沁みます。



★『40歳から凡人として生きるための文学入門』は発売済。北海学園大学人文学部教授で英文学者の森川慎也(もりかわ・しんや, 1976-)さんが「40代以上の読者を想定して」書いた「凡人による凡人のための本」。「40歳を過ぎたら多くの人は自らが凡人であることを自覚するようになる。しかしそれでは物足りない。自覚の一歩先に、凡人として生きる覚悟がほしい。覚悟を持つには文学を読むのが一番である。だが、文学を読むには時間がかかる」(まえがき、5頁)。


★「本書は、凡人として生きるための知恵を文学から学び、読者のみなさんに健やかに軽やかに生活してもらうことを願って書いたものである。凡人として生きる術を身につけるためには、文学を読むのが一番いい。私は自分の経験に基づいてそう言っている」(同、4頁)。「凡人の私が、作者と読者の間に勝手に介入して、凡人としての読み方をお示ししよう」(同、5頁)。「文学を手がかりに凡人の人生にどのような意味を付与できるのか考えよう、というのが本書のねらいである」(同、6頁)。


★「今も昔も人間は意味を作り続ける存在である。だから文学にも意味は存在する。作者自身が書きながら意味を作り、読者はその作品世界から作者の意味を読み取ろうとする。作者が提示する意味は、その作者にとって真実であり、読者もまたそれを真実として受け取る。そのとき文学を介した作者と読者のコミュニケーションが生じるのである」(第V章、140頁)。


★「文学とは何か、文学を読むことにどのような意味があるのか、といった問いは、私にとって、人生とは何か、人生に意味はあるのか、といった問いと本質的に同じである」(同、141頁)。「凡人の生き方の極意は、一言で表せば、開き直りである。自分は凡人なのだと覚悟を決めたら、開き直ってやりたいことを健やかに軽やかにやればよいのである」(第VI章、185頁)。肩ひじ張らずに生きるための伴侶となる一冊です。


★『ねこかしら』は、造形作家の岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう, 1955-)さんによる絵本の私家版。尾道市立美術館の展覧会図録『絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界』(青幻舎、2019年)の特別付録として発行された、手のひらサイズの絵本を、サイズを拡大した私家版として再刊したもの。付録版と私家版の大きな違いは、付録版の最終2頁が私家版では6頁に分割され、テクストの改訂はありませんが、ねこの絵が新しく2点加わっているところかと思います。細かく見ると、テクストの改行やねこの絵のレイアウトなどが変わっている箇所もあります。岡﨑さんの愛猫が自身のことを淡々と語る(と私は理解しました)、味わい深い一冊。様々な色彩で描かれた筆絵の猫の自由な線が心地良いです。


_a0018105_23374180.jpg

★なお現在、岡崎さんの25年ぶりとなる彫刻作品新作展「くにつかみのくとにおす」が、2024年3月10日(日)から5月12日(日)まで都内某所で開催されています。詳しくは催事名のリンク先をご覧ください。また2023年の新作絵画《雲のかたちに合意をみる。空気を動かすのは水の分子、やりとりされる熱量の活発、それが水の分子をまた動かす。雲と雲の間で何か合図が交わされていても、そのかたちはソフトクリームのようにかき回され練られた、計画が実行されているのです。雪のように白く金色に燃え立つ、その外見ほど新しく自由で敏感な表面もないけれど、そんな荘厳な集合体もときが来ればたちどころに走り出し崩れ去る。遠くの山上に浮かぶへんてこなもの、泡立てクリーム塩あじビスケット、コケモモ、サクランボ入りのお菓子。イギリスのからし。ドイツのからし。特別ヒリッとして、尖った歯でもあるように舌をさす、勝利のしるし。ぼくは忘れないし恐れない。一瞬ごとに自然が笑いながら意志を伝えてくるんだもの。》が、BankART Stationにて6月9日まで展示されているとのことです。



★人文書院さんの最新刊3点。『翻訳とパラテクスト』は、帯文によれば「19世紀初頭の民族再生運動のなかで、チェコ語の復興をめざし、芸術言語たらしめようとした近代チェコ語の祖ユングマン。ナチスが政権を掌握しようとした時代、多民族と多言語のはざまで共生を目指したユダヤ系翻訳家アイスネル。冷戦下の社会主義時代における亡命作家クンデラ。ボヘミアにおける文芸翻訳の様相を翻訳研究の観点から明らかにする」。著者の阿部賢一(あべ・けんいち, 1972-)さんは、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。チャペックやハヴェルなどの翻訳を手掛けていらっしゃいます。


★『ゾンビの美学』は、福田安佐子(ふくだ・あさこ, 1988-)さんが京都大学に2021年に提出した博士論文「ゾンビの美学――植民地主義・「人に似たもの」・ポストヒューマニズム」に加筆修正したもの。帯文に曰く「ゾンビの歴史を通覧し、おもに植民地主義、ジェンダー、ポストヒューマニズムの視点から重要作に映るものを子細に分析する。アガンベンの生権力論を援用し、ゾンビに原題および近未来の人間像をみる力作」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。福田さんの共訳書には、マキシム・クロンブ『ゾンビの小哲学』(人文書院、2019年)があります。


★『はじまりのテレビ』は、「番組、産業、制度、放送学などあらゆる側面から、初期テレビが生んだ創造と知を、膨大な資料をもとに検証する」(帯文より)もの。「現在のインターネットや動画配信の行く末を考えるためにも、まずは初期テレビの歴史をきちんと読みとく必要があるだろう。メディアの歴史は一定の反復性があるがゆえに、テレビ史からみえるインターネットや動画配信の未来もあるはずだ。テレビ離れとマスコミ批判の時代だからこそ、テレビの歴史を記述しなければならない」(序論、15頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。著者の松山秀明(まつやま・ひであき, 1986-)さんは関西大学社会学部准教授。本書は単独著としては『テレビ越しの東京史――戦後首都の遠視法』(青土社、2019年)に続く2冊目です。



Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

Trending Articles