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注目新刊:リチャード・ライト『地下で生きた男』作品社、ほか

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★最近出会いのあった新刊を列記します。


『ジャック・デリダ──その哲学と人生、出来事、ひょっとすると』ピーター・サモン(著)、伊藤潤一郎/松田智裕/桐谷慧/横田祐美子/吉松覚(訳)、ele-king books;Pヴァイン、2024年2月、本体3,400円、四六判並製464頁、ISBN978-4-910511-68-9
『大西巨人論――マルクス主義と芸術至上主義』山口直孝(著)、幻戯書房、2024年2月、本体4,500円、A5上製402頁、ISBN978-4-86488-293-4

『鳥たちのフランス文学』岡部杏子/福田桃子(共編)、幻戯書房、2024年2月、本体3,400円、四六上製352頁、ISBN978-4-86488-294-1

『地下で生きた男』リチャード・ライト(著)、上岡伸雄(編訳)、作品社、2024年2月、本体3,600円、46判上製384頁、ISBN978-4-86793-019-9

『町の本屋という物語――定有堂書店の43年』奈良敏行(著)、三砂慶明(編)、作品社、2024年2月、本体2,200円、46判上製240頁、ISBN978-4-86793-013-7

『かくして、死刑は執行停止される』菊田幸一(著)、作品社、2024年2月、本体2,400円、四六判並製224頁、ISBN978-4-86793-011-3

『レヴィナスの論理』ジャン=フランソワ・リオタール(著)、松葉類(訳)、法政大学出版局、2024年2月、本体3,300円、四六判上製274頁、ISBN978-4-588-01167-2

『サルトル「特異的普遍」の哲学――個人の実践と全体化の論理』竹本研史(著)、法政大学出版局、2024年2月、本体4,700円、A5判上製478頁、ISBN978-4-588-15134-7

『暴力の表象空間――ヨーロッパ近現代の危機を読み解く』岡本和子(編)、法政大学出版局、2024年2月、本体4,000円、四六判並製396頁、ISBN978-4-588-13040-3



★ele-king booksさんの新刊より1点。『ジャック・デリダ』は、オーストラリア出身で英国の在住の作家ピーター・サモン(Peter Salmon, 1955-)さんの著書『An Event, Perhaps: A Biography of Jacques Derrida』(Verso, 2020)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の伊藤さんは本書を次のように評価されています。「本書の最大の美点は、おそらく作家という姿勢〔ポジション〕ゆえの大胆な情報の取捨選択と文体の力にある。〔…〕脱構築は主体を抹消する思想ではなく、それぞれのポジションからの語りが、既存の秩序の外部へと通じていくのを肯定する思想なのだ。それゆえ、明確に自分自身のポジションからデリダを語り、問いを立てていくサモンの書きぶりは、脱構築の精神に忠実だといえるだろう」(訳者あとがきより)。國分功一郎さんは次のような推薦文を寄せておられます。「デリダの戦いは全く終わっていない。我々はもう一度デリダのように緊張しなければならない。この本を読みながら、緊張することを学ぶのだ」。


★幻戯書房さんの新刊より2点。『大西巨人論』は、二松学舎大学文学部教授で日本近代小説がご専門の山口直孝(やまぐち・ただよし, 1962-)さんが2000年以降に各媒体で発表してきた論考を集成したもの。あとがきによれば「文学芸術運動、革命運動の並走者である武井照夫、湯地朝雄にかんする文章も収載した」と。一冊にまとめるにあたり「若干の修正を行い、いくつかの用語を揃えるなどした以外は、初出の通りとした。初稿の間違いで気づいたことは、「追記」で触れている」とのこと。


★『鳥たちのフランス文学』は、9名の仏文学研究者(中村英俊/岡部杏子/博多かおる/石橋正孝/福田桃子/新島進/前之園望/三枝大修/笠間直穂子)の論考を収めた論文集。帯文に曰く「18世紀の自然誌から、デボルド゠ヴァルモール、ジョルジュ・サンド、バルザック、ヴェルヌ、ビュトール、プルースト、ルーセル、ブルトン、ボヌフォワ、マリー・ンディアイまで――18世紀から21世紀にいたるフランス文学の世界を飛び翔る鳥たちの姿を渉猟、精読する」と。目次詳細はこちらをご覧ください。


★作品社さんの新刊より3点。『地下で生きた男』は米国の黒人作家リチャード・ライト(Richard Wright, 1908-1960)の著書『The Man Who Lived Underground』(Library of America, 2021)のうち、表題の長編作を訳出し、 併せて中短篇5作(「川のほとりで」「長く暗い歌」「でかくて親切な黒人さん」「何でもできる男」「影を殺した男」)を収録。編訳者あとがきによれば、『地下で生きた男』はその内容の重さゆえに出版社に拒絶され、削除したり書き直したりしたヴァージョンを1944年に雑誌に発表。その後、1961年に刊行された短篇集『八人の男』(赤松光雄/田島恒雄訳、晶文社、1969年)に収録され、原稿をもとにオリジナルに近い形で出版されたのが2021年だったとのこと。


★表題作「地下で生きた男」から、帯表4にも掲出されている印象的なくだりを、その前段も含めて引用します。「彼は叫びたかった。“この人は無実だ! 俺も無実だ! みんな無実だ!”この考えがあまりにも激しく彼の心に現われたので、彼は自分が実際に叫んでしまったのかと思った。しかし、声には出していなかった――歯を食いしばったままだ。言葉は彼の内部で発せられたものであり、熱い言葉が堅固な壁を突き破ろうとしていたのだ。そして、彼は再びあの回避できない感情に圧倒された。この地下の生活の基盤に切り込んでくる感情、彼にこう語りかけてくる感情である――おまえは無実だが有罪であり、咎はないが告発され、生きているが死ななければならない。そして、威厳ある人生を送る能力を持ちながら、屈辱の一生を生きなければならず、見たところは合理的な世界に生きているようでいながら、完全に不合理な死を遂げなければならないのである」(121~122頁)。


★印象的な言葉にはこのほかこんなものもあります。「人間は時が刻まれるごとにゆっくりと死んでいる。戦争で死んでいくのと同じように。この荒涼として広大な光景に対し、人間の嘆きや悲しみはまったく不充分なのである。/彼は自分が見たもの、感じたものを正当に扱うことのできる感情を掻き立てられなかった。この生々しい悲劇に直面して空虚感しか抱けない。その思いが高まって、ついには圧倒的な罪悪感となった。こうした究極の難問に直面したときの無力さが、無限の悔恨の念をもって彼を責め、消耗させたのだ。そうだ、こんな絶望的な光景を見下ろして、この無意味さを受け止めることのできる存在は、神しかいないだろう。それだ! おそらく人間は自分たちが感じられないものを感じるために神を発明し、神が自分たちに向けてくれる哀れみに慰めを見出したのだ……! 自分たちの人生のどうしようもない弱さを見下ろしているとき、人間は恥ずかしさと罪の意識を抱き、それに圧倒されてしまうのだから」(108~109頁)。


★「世界は見たところ美しい。しかし、この魅惑的な覆いの下に、恐ろしいものが隠れているように感じた。物事の様相が優しければ優しいほど、しりごみせずにはいられない」(112~113頁)。訳者の上岡伸雄(かみおか・のぶお, 1958-)さんはライトの代表作の新訳も一昨年に上梓されています。『ネイティヴ・サン――アメリカの息子』(新潮文庫、2022年)。


★『町の本屋という物語』は、昨年4月に43年の営業を終えた鳥取の定有堂書店の店主、奈良敏行(なら・としゆき, 1948-)さんが各種媒体に寄稿してきた文章をまとめたもの。著者による書き下ろしの「あとがき」と、編者でTSUTAYA BOOKSTORE梅田MeRISEにお勤めの三砂慶明(みさご・よしあき, 1982-)さんによる「編者後記」のほか、定有堂書店の書棚をテーマ別に再現した「定有堂書店の本棚 往来のベーシックセオリー」、そして「奈良敏行・定有堂書店略年譜」が加えられています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、奈良さんは三砂さんが編者を務めたアンソロジー『本屋という仕事』(世界思想社、2022年)にも、「本屋から遠く離れて――定有堂教室「読む会」のこと」という一文を寄せておられます。併読をお薦めします。


★『かくして、死刑は執行停止される』は、明治大学名誉教授で弁護士の菊田幸一(きくた・こういち, 1934-)さんによる死刑廃止論をまとめたもの。「著者は、国家が殺人者を法の名のもとに殺すことは絶対にあってはならないと半世紀もの長期にわたり著書や論文で、あるいは講演で訴えてきた」(3頁)。「本書の出版目的は「死刑執行モラトリアムをどう実現すべきか」に全力を費やすことにある」(6頁)。作品社さんより刊行された関連書には、菊田さんによる『死刑と日本人』(2022年)や、ロベール・バダンテール『そして、死刑は廃止された』(2002年)があります。


★法政大学出版局さんの新刊より3点。『レヴィナスの論理』は、フランスの哲学者ジャン=フランソワ・リオタール(Jean-François Lyotard, 1924-1998)によるレヴィナス論集『Logique de Levinas』(Verdier, 2015)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭に編者のポール・オーディ(Paul Audi, 1963-)による序文「本書の紹介」が置かれ、巻末にはリオタール論やレオ・シュトラウス論などの著書があるジェラール・スフェズ(Gérald Sfez)による長篇解題「〈他者〉の厚み」が添えられています。スフェズはこう述べています。「本書に集められたテクストは多様な視点から、他性の厚みの認識についてのリオタールによる省察を示している」(185頁)。「本書でのリオタールのレヴィナスにかんする省察は、諸問題を明示するにあたって一貫しており、決定的である」(186頁)。


★『サルトル「特異的普遍」の哲学』は、法政大学人間環境学部人間環境学科 教授の竹本研史(たけもと・けんじ, 1977-)さんの初めての単独著。博士論文「個人の実践と全体化の論理――ジャン=ポール・サルトルにおける特異性の位相」(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻、2020年2月公開審査)に数章を加えたうえで全体を再構成し、大幅な加筆修正を行ったもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は「サルトルの思想において、個人の実践と対他関係、個人の実践と集団統合、「特異的普遍」という三つの位相で、《個人の実践と全体化》がどのようになされているか、またその際に諸個人の「特異性」はどのように捉えられているか、その理路を分析することで、サルトルの社会哲学に関して総合的な研究を行うことを目的とするものである」(序章、13頁)。


★『暴力の表象空間』は、明治大学人文科学研究所の総合研究「暴力の表象空間」(2018~2020年度)に関わった研究者9氏による論文集。「暴力の根源を探る」「暴力との対峙」「暴力の記述を読み解く」の三部構成。帯文に曰く「精神分析論、翻訳論、パンデミック危機に伴う暴力を剔出し、社会的承認論、ケアと贈与、サッカーと市民社会をめぐる考察から共同体と暴力との関係を問い直すとともに、大テロル期ソ連、戦間期ベルリン、北アイルランド紛争時代の文学を通じて暴力の根源に迫る」と。



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