★今回も新刊多数のため、注目既刊書の紹介は次回に再度持ち越します。まずは、まもなく発売となる、待望の學魔訳『ポリフィルス』から。
『ポリフィルス狂戀夢』フランチェスコ・コロンナ(著)、ジョスリン・ゴドウィン(英訳)、高山宏(日本語訳)、東洋書林、2024年2月、本体7,500円、A5上製560頁(図版213点)、ISBN978-4-88721-832-1
帯文より:エロイムエッサイム、出でよ、ポリフィロ、出でよ、ポリア。廻り廻る夢の夢の夢の果てまでを巡り巡る綺想・綺観……東西の學魔の黙し交した密契によって絢爛豪華に召喚される、夢幻にして無限の唐草模様を描く愛の遍歴譚。ドラコニア推奨の稀覯書、遂に邦訳。
目次:
序|ジョスリン・ゴドウィン
ポリフィルス狂戀夢|フランチェスコ・コロンナ
前口上
壱之書
弐之書
附録
1. 寓意的人名とその意味
2. 建築用語集
3. 美女神キュテレイアの島の略図
解題
1. アルチンボルドの源泉とポリフィロの緑夢|マウリツィオ・カルヴェージ(伊藤博明訳)
2. Vita voluptuariaとしての重訳|高山宏
版元による概要説明:
ルネサンス後期となる1499年にイタリアで刊行された原典は、黎明期の活版印刷書籍である「初期刊本(インキュナブラ)」の中でも最高峰の贅を尽くしたフォリオ判(二つ折り判)の挿絵入り大型本。原典著者には諸説あるが、本書ではヴェネツィアのドミニコ会士コロンナ説を採用。
テクストはイタリア語文法を基礎にしたラテン語・ギリシア語の混淆で、大量の造語も混じるその難解さ故に、有力な現代イタリア語訳ですら漸く1980年の刊となるほど、完訳は長らく不可能視されていた。そうした原典を『キルヒャーの世界図鑑』などの著書によって好事家に知られる神秘学研究の泰斗ゴドウィンが20年の歳月をかけ英訳。
迎え撃つは本邦人文書の最後のスター高山宏。ゴドウィン訳を底本に、無論のこと原典を縦横に対照しつつ、晩年の澁澤龍彥に推奨されていた完全邦訳の約定を、高山調とも呼ぶべき流麗な文体によって堂々の遂行。
版元による内容紹介:
主人公ポリフィロは胸に秘めた乙女ポリアへの想い故にまたもや眠れぬ夜をまんじりともせず過ごしていた──会いたい、会ってその手を取りたい。そうした一念に没頭するうち、ふと気付けば見たこともない森に迷いこんでいるポリフィロ。建築術、博物学等々のルネサンス後期の新知識や奇想、そして愛の技巧に彩られた「夢中」の彷徨の始まりである。神の恩寵、猛獣の脅威、仙女の誘惑に出逢い乍ら彼は果たしてポリアと結ばれるのか?
カバー表3掲載の讃辞:
「と言うわけで、私のささやかな蔵書の中の逸物とも言うべき、『ポリフィルス』の、世にもみごとな版が、今日、「数多ノ太陽ニモ比ベラレナイ」ものとして、そこに入っているのだ。私は、それを喜んで、愛好家たちの目にさらすのである。彼らは、それが、またとない本であることを認めずにはいられない……」(シャルル・ノディエ「フランシスクス・コロンナ」、篠田知和基訳『炉辺夜話集』牧神社、1975年)。
「オリエント的-古代秘文字術の最初の詩的-マニエリスム的叙述であるフランチェスコ・コロンナの「ポリフィルスの夢」は……恋に溺れたポリフィルスの体験する夢のイメージについての報告である。……謎書、謎絵はシェイクスピア時代のヨーロッパを席捲し魅了した!……この作品は、錯綜たる寓意画的組み合わせのための宝物庫として当時すでに充分に一家をなしているのである」(グスタフ・ルネ・ホッケ「謎術としての寓意画法」、種村季弘訳『文学におけるマニエリスム』第17章より、平凡社ライブラリー、2012年)。
★『ポリフィルス狂戀夢』は今月中旬より発売。幻の奇書『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』(1499年)の、ジョスリン・ゴドウィン(Joscelyn Godwin, 1945-)による英訳『Hypnerotomachia Poliphili: The Strife of Love in a Dream』(Thames & Hudson, 1999/2005)からの、高山宏(たかやま・ひろし, 1947-)さんによる日本語訳。同書の翻訳に至る経緯の一端は、高山さんご自身によって本書の解題2と、「Curiouser and Curiouser――奇書のマニエリスム」(「ユリイカ2023年7月号 特集=奇書の世界」所収、青土社、2023年6月)で明かされています。なお、イタリア語原典版からの完訳には大橋喜之訳『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ――全訳・ポリフィルス狂恋夢』(八坂書房、2018年12月)があります。
★続いて、まもなく発売となるちくま学芸文庫の2月新刊5点を列記します。
『他者といる技法――コミュニケーションの社会学』奥村隆(著)、ちくま学芸文庫、2024年2月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51222-2
『江戸の戯作絵本2』小池正胤/宇田敏彦/中山右尚/棚橋正博(編)、ちくま学芸文庫、2024年2月、本体1,800円、文庫判624頁、ISBN978-4-480-51225-3
『生のなかの螺旋――自己と人生のダイアローグ』ロバート・ノージック(著)、井上章子(訳)、ちくま学芸文庫、2024年2月、本体1,900円、文庫判592頁、ISBN978-4-480-51227-7
『本地垂迹』村山修一(著)、ちくま学芸文庫、2024年2月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN 978-4-480-51230-7
『種村季弘コレクション 驚異の函』種村季弘(著)、諏訪哲史(編)、ちくま学芸文庫、2024年2月、本体1,300円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-51232-1
★『他者といる技法』は、日本評論社より1998年に刊行された単行本の文庫化。著者の奥村隆(おくむら・たかし, 1961-)さんは社会学者。「文庫版あとがき」によれば「内容はそのままにするのがよいと思った。ただ、表現としてあまりにもくどいと感じる箇所は修正し、「精神分裂病」を「統合失調症」に改めるなどの用語の変更と、書誌情報の追加・修正のみ行うことにした」とのことです。巻末解説「理解できないあなたの隣りにいるために」は、哲学者の三木那由他さんがお書きになっています。
★『江戸の戯作絵本2』は、現代教養文庫の『江戸の戯作絵本(三)変革期黄表紙集』(1982年)と同四巻『末期黄表紙集』(1983年)の合本文庫化。凡例によれば「文庫化に際しては、棚橋正博氏にご協力を仰ぎ、誤記誤植を改めた。また図版は状態のよいものに適宜改めた。〔…〕文庫化に際し、一部底本とは別の図版を掲載したものもある」とのことです。帯文に曰く「忖度一切なし! 政治と下のハナシは格好の茶化しネタ。筆禍事件を招いた発禁策をはじめ16作品を収録」。
★『生のなかの螺旋』は、アメリカの哲学者ロバート・ノージック(Robert Nozick, 1938-2002)の著書『The Examined Life: Philosophical Meditations』(Simon & Schuster, 1989)の全訳書(青土社、1993年)の文庫化。ノージックの著書の文庫化は初めて。文庫化にあたり、「人名表記を一部改めた」とのことです。文庫版訳者あとがきのほか、法哲学者の吉良貴之さんによる解説「人生は強いられず、ただ示される」が加えられています。ノージックの著書のなかでは親しみやすい本ではないでしょうか。それは本書が「生きること、人生で重要なことは何かについて」(12頁)書かれたもので、「人生についての哲学的省察は、理論でなくある肖像画を提供することである」(13頁)からかもしれません。
★『本地垂迹』は、吉川弘文館の「日本歴史叢書」で1974年に刊行された単行本(新装版、1994年)の文庫化。著者の村山修一(むらやま・しゅういち, 1914-2010)さんは逝去されているため、文庫化にあたっての改訂はなし。巻末の文庫版解説「神仏の源流を求めて」は、仏教学者の末木文美士さんがお書きになっています。末木さんは「今日でも神仏習合、本地垂迹をこれほど見事に総合的な視点から描いた著作は出ていない。この分野を学ぶとき、まず読むべき古典として屹立している」とお書きになっています。
★『種村季弘コレクション 驚異の函』は、文庫オリジナル編集。諏訪哲史さんによる編者解説「無限迷宮の歩き方」によれば、「種村季弘の入門的セレクションとして、国書刊行会の傑作撰〔『種村季弘傑作撰(Ⅰ)世界知の迷宮』2013年6月刊、全17篇;『種村季弘傑作撰(Ⅱ)自在郷への退行』2013年7月刊、全21篇〕からさらに精選した代表的な論考も織り交ぜつつ、読みやすい自伝的随想や講演録、対談等を大幅に加え、新たに編み直した、ビギナーズ向けの決定版的な文庫選集」とのこと。収録作を以下に転記しておきます。
吸血鬼幻想
神話の中の発明家
怪物の作り方
洋の東西怪談比較
少女人形フランシーヌ
ケベニックの大尉
地球空洞説
落魄の読書人生
器具としての肉体
物体の軌跡
K・ケレーニイと迷宮の構想
泉鏡花作品に見るオシラ様
グロッソラリー・狂人詩・共感覚
文字以前の世界――童話のアイロニー
偏在する怪物――怪物論のトポス(谷川渥との対談)
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。書誌情報を列記します。
『感じやすいあなたのためのスピリチュアル・セルフケア――エンパスとして豊かに生きていく』ジュディス・オルロフ(著)、串崎真志(監修)、浅田仁子(訳)、2024年1月、本体3,800円、A5判並製406頁、ISBN978-4-7724-2008-2
『うつ病 隠された真実――逃れるための本当の方法』ヨハン・ハリ(著)、山本規雄(訳)、作品社、2024年1月、本体3,200円、四六判並製416頁、ISBN978-4-86182-843-0
『詳解『源氏物語』文物図典――有職故実で見る王朝の世界』八條忠基(著)、平凡社、2024年1月、本体4,800円、B5判並製400頁、ISBN978-4-582-83947-0
『エドワード・サイード ある批評家の残響』中井亜佐子(著)、書肆侃侃房、2024年1月、本体1,700円、四六判並製208頁、ISBN978-4-86385-612-7
『食と農のソーシャル・イノベーション――持続可能な地域社会構築をめざして』大石尚子(編)、藤原書店、2024年1月、本体4,400円、A5上製288頁、ISBN978-4-86578-411-4
『新ランボー論――慈悲愛と大地母神的宇宙への憧憬』清眞人(著)、藤原書店、2024年1月、本体3,600円、A5判並製上製336頁、ISBN978-4-86578-412-1
『医療とは何か――音・科学そして他者性』方波見康雄(著)、藤原書店、2024年1月、本体2,700円、四六判上製448頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-400-8
★『感じやすいあなたのためのスピリチュアル・セルフケア』について特記しておくと、同書は、米国の精神科医ジュディス・オルロフ(Judith Orloff, 1951-)による『Thriving as an Empath: 365 Days of Self-Care for Sensitive People』(Sounds True, 2019)の全訳。帯文に曰く「一日一ページ、豊かに生きるためのセルフケア365。エンパス(感じやすい人)の心の平穏のために、毎日行う具体的なセルフケアやものの見方、瞑想を紹介します」と。オルロフの既訳書には、以下のものがあります。
『第二の視力』小林サリー(訳)、ヴォイス、1998年9月
『ポジティブ・エネルギー――心・体・魂をすこやかにする』矢鋪紀子(訳)、サンマーク出版、2006年10月
『スピリチュアル・パワーアップ・レッスン――幸せになる第六感の磨き方』サリー・キヨモト(訳)、ハート出版、2007年3月
『こだわらない人ほどうまくいく!(上)泥濘〔ぬかるみ〕の人生からサヨナラできる本!』栗山圭世子(訳)、ヒカルランド、2017年5月
『こだわらない人ほどうまくいく!(下)人生を輝かせる驚きの秘訣』栗山圭世子(訳)、ヒカルランド、2017年5月
『LAの人気精神科医が教える共感力が高すぎて疲れてしまうがなくなる本』桜田直美(訳)、SBクリエイティブ、2019年12月
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