★まもなく発売となるちくま学芸文庫の12月新刊6点を列記します。
『唯信鈔文意』親鸞(著)、阿満利麿(解説)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,000円、文庫判160頁、ISBN978-4-480-51220-8
『移民の歴史』クリスティアーネ・ハルツィヒ/ディルク・ヘルダー/ダナ・ガバッチア(著)、大井由紀(訳)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,300円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-51219-2
『新版 プラトン 理想国の現在』納富信留(著)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,400円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51204-8
『ナショナリズムとセクシュアリティ――市民道徳とナチズム』ジョージ・L・モッセ(著)、佐藤卓己/佐藤八寿子(訳)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51210-9
『改訂増補 バテレン追放令――16世紀の日欧対決』安野眞幸(著)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,300円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-51212-3
『ガロアの夢――群論と微分方程式』久賀道郎(著)、ちくま学芸文庫、2023年12月、本体1,200円、 文庫判272頁、ISBN978-4-480-51223-9
★文庫版オリジナルは『唯信鈔文意』と『移民の歴史』の2点。単行本の文庫化は『新版 プラトン 理想国の現在』『ナショナリズムとセクシュアリティ』『改訂増補 バテレン追放令』『ガロアの夢』の4点です。
★『唯信鈔文意』は、帯文に曰く「親鸞による最高の念仏入門。親鸞思想のエッセンスが詰まった『教行信証』とならぶ代表作」。聖覚の『唯信鈔』と親鸞によるその注釈書『唯信鈔文意(ゆいしんしょうもんい)』の原文を収め、後者に対する阿満利麿(あま・としまろ, 1939-)さんの詳細な解説を中核に据えた一冊。阿満さんはこう書きます。「法然上人は、「ただ念仏するだけでよい」と教えられた。それは、念仏が阿弥陀仏から与えられた「行」であり、私たちは「ただ唱えるだけ」なのである。煩悩を「そのまま」にして、ただ念仏を唱えればよい」(あとがき、104頁)。
★『移民の歴史』は、米国の移民史家や移民研究者の3氏による共著『What is Migration History?』(Polity Press, 2009)の訳書。もともとはハルツィヒが執筆していたものを彼女の死後に、配偶者のヘルダーと友人のガバッチアが協力して完成させたもの。帯文に曰く「労働市場・難民・受入社会・文化変容――越境移動から読む人類史」。
★『新版 プラトン 理想国の現在』は、慶應義塾大学出版会より2012年に刊行された単行本を文庫化したもの。「プラトン主著の核心を読み解き、「理想」とは何かを問う」(帯文より)。文庫化に際し、新版あとがきと、付録として納富さんによる「プラトン『ポリテイア』を読むために」というガイドが加えられ、熊野純彦さんによる解説「いまだ到来しない世界へ」が巻末に収められています。
★『ナショナリズムとセクシュアリティ』は、ドイツ出身で米国などで活躍した歴史家ジョージ・L・モッセ(George Lachmann Mosse, 1918-1999)による1985年の著書『Nationalism and Sexuality: Respectability and Abnormal Sexuality in Modern Europe』の訳書(柏書房、1996年)を文庫化したもの。「「正常な性意識」が、ナチズムを支えた――セクシュアリティ研究と歴史学を結んだ先駆的名著」(帯文より)。文庫化に際し、メアリー・ルイーズ・ロバーツによる「モッセ著作集版(2020年)解説」と、共訳者の佐藤八寿子さんによる訳者解題が加えられています。親本にあった佐藤卓己さんによる訳者解説は、同文庫で先行して文庫化された『大衆の国民化』の文庫版訳者あとがきに吸収活用されています。
★『改訂増補 バテレン追放令』は、1989年に日本エディタースクール出版部より刊行された単行本の文庫化。「秀吉はなぜこの禁令を発したのか。日本史上における意味を問う」(帯文より)。巻末特記によれば「文庫化にあたっては、改訂の上、プロローグと第Ⅱ部の「バテレン追放令」をさしかえ、補論を付した」とのことです。補論というのは「長崎開港と神功皇后との奇しき縁」「「岬の先端」の歴史と「精霊流し」」の2篇。著者の安野眞幸(あんの・まさき, 1940-)さんは弘前大学名誉教授。本書は当時サントリー学芸賞を受賞しています。
★『ガロアの夢』は、Math&Sciencesシリーズの1冊。1968年に日本評論社より刊行された単行本の文庫化です。帯文に曰く「ガロア理論を視覚化。伝説の名著、復刊」。巻末特記には「文庫化にあたり、若干の修正を施した」とありますが、著者の久賀道郎(くが・みちお, 1928-1990)さんはすでに故人のため、修正は編集部によるものかと推測されます。巻末の文庫版解説は数学者の飯高茂(いいたか・しげる, 1942-)さんがお書きになっています。
★続いて最近出会いがあった新刊を列記します。
『頭のうえを何かが――Ones Passed Over Head』岡﨑乾二郎(著)、ナナロク社、2023年12月、本体2,300円、A5判横長並製144頁、ISBN978-4-86732-023-5
『文学のエコロジー』山本貴光(著)、講談社、2023年11月、本体2,500円、四六判上製448頁、ISBN978-4-06-533645-8
『戒厳令』アルベール・カミュ(著)、中村まり子(訳)、岩切正一郎(解説)、松岡和子/松井今朝子/中村まり子(解説鼎談)、藤原書店、2023年11月、本体2,200円、四六変型判上製224頁、ISBN978-4-86578-405-3
『正義の人びと』アルベール・カミュ(著)、中村まり子(訳)、岩切正一郎(解説)、篠井英介/中村まり子(解説対談)、藤原書店、2023年11月、本体2,200円、四六変型判上製192頁、ISBN978-4-86578-404-6
『新しい野間宏――戦後文学の旗手が問うたもの』尾西康充(著)、藤原書店、2023年11月、本体3,000円、四六判上製384頁、ISBN978-4-86578-406-0
『ノートル・ダムの残照――哲学者、森有正の思索から』大森恵子(著)、藤原書店、2023年11月、本体2,700円、四六判上製336頁+口絵4頁、ISBN97-8-486578-407-7
★『頭のうえを何かが』はまもなく発売。造形作家で批評家の岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう, 1955-)さんが一昨年秋に脳梗塞を患い、その1ヶ月後から麻痺した右手で描いたという40作以上の絵を収録し、パートナーのぱくきょんみさんによるキャプションを添え、さらに岡﨑さん自身による「リハビリ記」を併録したもの。すべてが生生しい、胸打つ一冊です。刊行記念に、入院中に描いたドローイングの原画展が以下の通り行われます。
会期:2023年12月4日(月)~23日(土)11:00~18:30 ※日祝休廊
会場:南天子画廊(東京都中央区京橋3-6-5)
★『文学のエコロジー』は、文筆家の山本貴光(やまもと・たかみつ, 1971-)さんが月刊誌「群像」2022年3月号~2023年6月号で連載した「文学のエコロジー」全16回をもとに加筆訂正を施したもの。帯文に曰く「文芸作品をコンピュータで動くシミュレーションとして〔……〕ゲームクリエーターの目、プログラマーの目で眺める。構造やメカニクスに焦点を当て〔…〕作品世界を探検するための地図」と。主要目次は以下の通りです。
プロローグ
第Ⅰ部 方法――文学をエコロジーとして読む
第1章 文芸作品をプログラマーのように読む
第Ⅱ部 空間
第2章 言葉は虚実を重ね合わせる
第3章 潜在性をデザインする
第4章 社会全体に網を掛ける方法
第Ⅲ部 時間
第5章 文芸と意識に流れる時間
第6章 二時間を八分で読むとき、なにが起きているのか
第7章 いまが起源八〇万二七〇一年と知る方法
第Ⅳ部 心
第8章 「心」という見えないものの描き方
第9章 心の連鎖反応
第10章 関係という捉えがたいもの
第11章 思い浮かぶこと/思い浮かべることとの間で
第12章 「気」は千変万化する
第13章 「気」は万物をめぐる
第14章 文学全体を覆う「心」
第15章 小説の登場人物に聞いてみた
第Ⅴ部 文学のエコロジー
第16章 文学作品はなにをしているのか
エピローグ
あとがき
註
★藤原書店さんの11月新刊は4点。特記したいのは、アルジェリア出身でフランスの作家アルベール・カミュ(Albert Camus, 1913-1960)の戯曲2点の新訳。どちらも俳優の中村まり子さんの翻訳です。『戒厳令』(原著『L'État de siège』1948年)は俳優座所蔵の台本(ルノー・バロー劇団公演、パリ・マリニー座、1948年)が底本。帯文に曰く「“緊急事態宣言”が連発される新型コロナ下、本訳は俳優座で上演。話題になった小説『ペスト』(1947)同様、人々が疫病に倒れ、独裁者が支配する管理・監視社会に、我々は何を考えるのか」。『正義の人びと』(原著『Les Justes』1949年)の底本は、ガリマールの1977年改訂新版。帯文はこうです。「若きテロリストたちの素顔――「思想のために死ぬ、そのことこそがその思想と同じ高みに行ける唯一の手段」。20世紀初頭モスクワのセルゲイ大公暗殺事件に材をとった戯曲」。