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注目新刊:東浩紀『訂正可能性の哲学』ゲンロン、ほか

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『訂正可能性の哲学』東浩紀(著)、ゲンロン叢書:ゲンロン、2023年8月、本体2,600円、四六判並製360頁、ISBN978-4-907188-50-4
『シラー戯曲傑作選 メアリー・ステュアート』フリードリヒ・シラー(著)、津﨑正行(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2023年8月、本体3,900円、四六変型判上製408頁、ISBN978-4-86488-280-4

『シラー戯曲傑作選 ドン・カルロス――スペインの王子』フリードリヒ・シラー(著)、青木敦子(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2023年8月、本体5,200円、四六変型判上製544頁、ISBN978-4-86488-281-1

『尹致昊日記(4)1895–1896年』尹致昊(著)、木下隆男(訳注)、東洋文庫:平凡社、2023年8月、本体4,000円、B6変型判上製函入436頁、ISBN978-4-582-80915-2

『現代思想2023年9月号 特集=生活史/エスノグラフィー ――多様な〈生〉を記録することの思想』青土社、2023年8月、本体1,700円、ISBN978-4-7917-1451-3



★『訂正可能性の哲学』はまもなく発売。ゲンロン叢書の第14弾です。第71回毎日出版文化賞受賞作『観光客の哲学』(初版、2017年4月;増補版、2023年6月)の続編。発売前からSNSでトレンド入りするなど、大きな話題を呼んでいます。2部9章構成。目次詳細を以下に転記しておきます。


第1部 家族と訂正可能性
 第1章 家族的なものとその敵
 第2章 訂正可能性の共同体
 第3章 家族と観光客
 第4章 持続する公共性
第2部 一般意志再考
 第5章 人工知能民主主義
 第6章 一般意志という謎
 第7章 ビッグデータと「私」の問題
 第8章 自然と訂正可能性
 第9章 対話、結社、民主主義
おわりに
文献一覧
索引


★第1部と第2部第7章までは、2021年から2022年にかけて『ゲンロン』誌や『文藝春秋』誌で発表されてきたものに大幅な加筆修正を施したもの。第2部第8~9章は書き下ろしです。「ぼくの最初の本『存在論的、郵便的』は、いまから四半世紀前、1998年に出版されている。〔…〕そこにはすでに、「ひとは何故哲学をするのか。僕は途中から半ば本気で、その大きな問題について考え始めていた」と記している。〔…〕いまは、かつての問いに明確な答えを与えることができる。それが本書である。/本書はその意味では、52歳のぼくから27歳のぼくに宛てた長い手紙でもある」(「あとがき」より、346~347頁)。


★以下、東さん自身の言葉で語られる本書のポイントを引用します。「第一部では、保守とリベラルの対立を超え、より柔軟に共同体の構成原理について語るためには、「家族」と「訂正可能性」の概念を新しく設立することが重要であることを示す。〔…〕問題設定は2017年に出版した『観光客の哲学』という著作を引き継いでいる。〔…〕ぼくはいまの政治は、世界的にも国内的にも、また古典的な政治においてもネットの争いにおいても、「友」と「敵」の観念的な対立に支配されていると考えている。したがって、その対立を抜け出すことが決定的に重要である」(第1章6頁)。


★「第一部の議論は、〔…〕現実の変化に対する哲学からの応答でもある。家族という言葉は、辞書のなかでも、哲学の議論においても、おそろしく古いまま残されている。だから家族に議論しようとすると、その言葉を記すだけで復古主義的に響き、新しい現実に対応できない。その罠を逃れるためには、まずは家族という言葉そのものをアップデートしなければならないのだ」(第3章78頁)。「家族とは閉じた共同体だと考えられてきた。けれども本論では、家族を、閉ざされた人間関係ではなく、訂正可能性に支えられる持続的な共同体を意味するものとして再定義したい」(第3章76頁)。


★「第二部では、現代世界が直面する民主主義の危機を概観したうえで、それを「訂正可能性」の論理を用いていかに克服するかを論じる。〔…〕2011年に刊行した『一般意志2.0』という著作の主題を引き継いでいる」(第5章138頁)。「2020年代のいま、日本でも世界でも、統治から不安定な人間を追放し、政治的な意思決定はアルゴリズムとビッグデータに任せたほうがいいという思想が台頭している。ぼくはそれを人工知能民主主義と名づけた。それがこの第二部の出発点だった。〔…〕人工知能民主主義は、一般意志〔人民の意志〕の観念を単純化して捉え、そこに付随するはずの「訂正可能性」の契機を消してしまう。そこに欠点があるというのがぼくの考えである」(第8章260頁)。


★「政治的正しさは、政治的な訂正可能性としてしかありえないのだ。/ぼくたちはつねに誤る。だからそれを正す。そしてまた誤る。その連鎖が生きるということであり、つくるということであり、責任を取るということだ。本書は、そんなおそろしくあたりまえな認識を、哲学や思想の言葉でガチガチになってしまったひとに思い出してもらうために書かれた書物でもある」(第9章343頁)。


★家族や民主主義という言葉は、政治や宗教、学問の世界で様々な立場から都合良く用いられてきましたが、本書の決定的な貢献はまさにその家族観や民主主義観にまつわるモヤモヤを解消するための手引きになるという点です。左右いずれかの陣営の問題ではなく、党派を超えた議論への糸口があるのではないかと感じます。






★『シラー戯曲傑作選』2点は、ルリユール叢書の第33回配本(46、47冊目)。同叢書では2021年10月に『ヴィルヘルム・テル』(本田博之訳)が刊行されており、今回の新刊は『シラー戯曲傑作選』の第2弾、第3弾となります。帯文の文言を借りると、『ドン・カルロス』は「前期シラーの自由概念の到達点となった、全五幕の長大な歴史悲劇」。『メアリー・ステュアート』は「メアリーの「精神的自由」という理念のドラマを、古典主義規範によって理性と感性の調和として厳密に構成した、全五幕の傑作悲劇」。『ドン・カルロス』の訳者、青木敦子(あおき・あつこ, 1957-)さんはさる6月に月曜社より訳書『シラー詩集』全2巻を上梓されています。


★ルリユール叢書の次回配本は9月刊、フランスの哲学者ガブリエル・マルセル(Gabriel Marcel, 1889–1973)の戯曲『稜線の路』の古川正樹さんによる初訳が予告されています。マルセルの戯曲の訳書が出るのは『マルセル著作集(7)』(春秋社、1970年)以来のことではないでしょうか。実に半世紀以上を経ての出版。 


★『尹致昊日記(4)』は、全15巻の第4巻。東洋文庫の第915番です。尹致昊(ユン・チホ, 1865-1945)は朝鮮の政治家。第4巻は1895~1896年の期間の日記で、帰国後の朝鮮における日々が綴られています。帯文に曰く「尹致昊が帰国した朝鮮は激動の最中にあった。親日政権による甲午改革の破綻、閔妃暗殺事件、高宗のロシア公使館移御。高宗の命を受けた尹致昊は、ニコライ二世戴冠式列席の旅に発つ」。東洋文庫次回配本は12月、『岳麓書院蔵秦簡「為獄等状四種」』。


★平凡社さんでは平凡社ライブラリーでまもなく、東雅夫編『龍潭譚/白鬼女物語――鏡花怪異小品集』、9月にソロー『コッド岬――浜辺の散策』齊藤昇訳、10月にハンス・ブルーメンベルク『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』村井則夫編訳、などが予定されています。『真理のメタファーとしての光』はかつて朝日出版社のエピステーメー叢書で『光の形而上学』(生松敬三/熊田陽一郎訳、1977年)として訳出されていたものですね。ドイツの思想史家ブルーメンベルク(Hans Blumenberg, 1920-1996)の初めての文庫化になります。喝采を送りたいです。


★『現代思想2023年9月号 特集=生活史/エスノグラフィー』は版元紹介文に曰く「人生=生活を聴き、見つめ、書き残すことの意味を問う」と。討議1本、論考16本。詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。先月末に62歳で逝去された社会学者の立岩真也(たていわ・しんや, 1960-2023)さんへの追悼文3篇も併載。川口有美子(かわぐち・ゆみこ, 1962-)さん、小松美彦(こまつ・よしひこ, 1955-)さん、美馬達哉(みま・たつや, 1966-)さんによるもの。立岩さんが編者をつとめる『生活史論集』(ナカニシヤ出版、2022年)や『東京の生活史』(筑摩書房、2021年;第76回毎日出版文化賞)、『大阪の生活史』(筑摩書房、近刊)などとともにひもときたいです。次号10月号の特集は「スピリチュアリティの現在(仮)」。


★なお青土社さんでは新入社員を募集中。条件は「新卒、既卒3年程度まで」で、履歴書と作文「青土社を志望する理由」800字を10月10日必着で郵送。詳細はこちら。

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