『碩学の旅Ⅱ オリエントへの旅――建築と美術と文学と』マリオ・プラーツ(著)、伊藤博明/金山弘昌/新保淳乃(訳)、マリオ・プラーツ都市文化論:ありな書房、2023年8月、本体2,400円、A5判並製204頁、ISBN978-4-7566-2386-7
『ヴァイトリング著「人類」――革命か啓蒙か』石塚正英(訳編著)、社会評論社、2023年7月、本体2,200円、四六判上製208頁、ISBN978-4-7845-1899-9
『タローマンなんだこれは入門』藤井亮(豪勢スタジオ)/NHK「TAROMAN」制作班(著)、小学館入門百科シリーズEX:小学館、2023年6月、本体3,000円、A5変型判上製144頁、ISBN978-4-09-227277-4
『創造性はどこからやってくるか――天然表現の世界』郡司ペギオ幸夫(著)、ちくま新書、2023年8月、本体940円、新書判288頁、ISBN978-4-480-07575-8
『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』ナンシー・フレイザー(著)、江口泰子(訳)、白井聡(解説)、ちくま新書、2023年8月、本体1,100円、新書判320頁、ISBN978-4-480-07565-9
『未来を語る人』ジャレド・ダイアモンド/ブランコ・ミラノヴィッチ/ケイト・レイワース/トーマス・セドラチェク/レベッカ・ヘンダーソン/ミノーシュ・シャフィク /アンドリュー・マカフィー /ジェイソン・W・ムーア(著)、大野和基(編)、2023年8月、本体900円、新書判224頁、ISBN978-4-7976-8127-7
★『オリエントへの旅』は、マリオ・プラーツ都市文化論「碩学の旅」シリーズの第2巻。表題作をはじめ11編(1956年6本、1964年5本)を収録。帯文に曰く「永遠の都ローマを知り尽くした碩学が、遥かなる憧憬に導かれてオリエントを巡り、建築と美術と文学の迷宮にやわらかく陥入し、時空を超えたテクストと記憶の織りなす、人類文化の始原へと分け入る、珠玉のエッセイ集」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『ヴァイトリング著「人類」』は、東京電機大学名誉教授で『革命職人ヴァイトリング――コミューンからアソシエーションへ』(社会評論社、2016年)などの著書がある石塚正英(いしづか・まさひで, 1949-)さんによる翻訳と論考を3部構成で1冊にまとめたもの。第1部は、19世紀ドイツの手工業職人で革命家、ヴィルヘルム・ヴァイトリング(Wilhelm Weitling, 1808-1871)の著書第一作『人類――あるがままの姿とあるべき姿』(Die Menschheit, wie sie ist und wie sie sein sollte, Paris, 1838)の翻訳。底本には1945年にベルンで刊行された第2版が使用されています。第2部「〈革命か啓蒙か?〉――ロンドン労働者教育協会における連続討論から 1845.2.18~46.1.14」は、石塚さんのデビュー作『叛徒と革命――ブランキ・ヴァイトリング・ノート』(イザラ書房、1975年)に付録として収録されていた翻訳の改訂版。ヴァイトリングが参加したロンドン労働者教育協会の議事録(討論の記録)からの抄訳で、訳者解説によれば「ヴァイトリングが『人類』第2版を刊行した1845年前後の時期における資料」とのこと。第3部「フォースとヴァイオレンス」は石塚さんによる論考で、1975年、2019年、2022年に発表された自著やアンソロジーの一部や雑誌論文、計4本を再構成したもの。
★ヴァイトリングは『人類』末尾でこう述べています。「財産共同体は人類の救済手段である。それは義務を権利に転じ、幾多の犯罪行為をその根から断ち切ることにより、この地上をいわば天国に改造するものだ。〔…〕どうすれば共同体に到達できるのか? それは叡知と勇気と隣人愛とによってである。〔…〕抑圧者に対する納税を拒み、彼らの警官や憲兵を家から追い払う勇気のあるものは、専制者を打倒する者と同じような、賞讃に値する。〔…〕自分の信念を貫いて戦う勇気と決断を立証せよ。我々はもはや貧困と抑圧を望まない、と旗幟に記すことだ。自らの指導者を自ら選ぶことだ。その際、富者や権力者に注目してはならない」(52~53頁)。
★『タローマンなんだこれは入門』は、NHKのTV番組「TAROMAN――岡本太郎式特撮活劇」の関連書。映像作家の藤井亮(ふじい・りょう, 1979-)さんによる巻末の「おわりに――おとなのみなさんへ」に曰く、「昭和の児童書にあったでたらめさ、理不尽さ、うさんくささ、過剰な熱量。それらをタローマンの世界観で全力で再現することに努めました。そのインチキなノスタルジーを楽しんでいただけたら幸いです」と。古き良き「小学館入門百科シリーズ」を模した体裁は素晴らしく、ヌキアワセをわざとズラしたり、まっすぐにしなければならない行のごく一部を斜めに組んだりと芸が細かいです。内容的にはあくまでもフィクションなので、大人向きではあります。
★ちくま新書8月新刊より2点。『創造性はどこからやってくるか』は、郡司ペギオ幸夫(ぐんじ・ぺぎお・ゆきお, 1959-)さんの新書第3作。これまでに『生きていることの科学――生命・意識のマテリアル』(講談社現代新書、2006年)、『群れは意識をもつ――個の自由と集団の秩序』(PHPサイエンス・ワールド新書、2013年)が上梓されており、新書では久しぶりの新作となります。今回の新著は巻頭の「はじめに」によれば「本書は、アートに基づく「創造入門」である。私はこれまで生命や創造に関する理論的考察を行ってきたが、実際、私自身、この二年で初めて作品を制作し、インスタレーションによる展示を行った。本書はその過程の記録でもある」とのこと。
★『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』は、米国の政治学者ナンシー・フレイザー(Nancy Fraser, 1947-)の近著『Cannibal Capitalism』(Verso, 2022)の訳書。カバーソデ紹介文は以下の通り。「なぜ経済が発展しても私たちは豊かになれないのか。それは、資本主義が私たちの生活や自然といった存立基盤を餌に成長する巨大なシステムだからである。資本主義そのものが問題である以上、「グリーン資本主義」や表面的な格差是正などは目くらましにすぎず、根本的な解決策にはなりえない。破局から逃れる道はただ一つ、資本主義自体を拒絶することなのだ――。世界的政治学者が「共食い資本主義の実態を暴く話題作」。主要目次は以下の通りです。
序章 共食い資本主義――私たちはもう終わりなのか
第1章 雑食――なぜ資本主義の概念を拡張する必要があるのか
第2章 飽くなき食欲――なぜ資本主義は構造的に人種差別なのか
第3章 ケアの大喰らい――なぜ社会的再生産は資本主義の危機の主戦場なのか
第4章 呑み込まれた自然――生態学的政治はなぜ環境を超えて反資本主義なのか
第5章 民主主義を解体する――なぜ資本主義は政治的危機が大好物なのか
第6章 思考の糧――21世紀の社会主義はどんな意味を持つべきか
終章 マクロファージ――共食い資本主義の乱痴気騒ぎ
謝辞
解説(白井聡)
原注
索引
★『未来を語る人』は、国際ジャーナリストの大野和基(おおの・かずもと, 1955-)さんによる最新インタヴュー集。「いま世界で最も注目されている経済学者たちに、従来型の資本主義をどのように捉え、改善し、改革していけば、あるいは別の考え方を取り入れれば、未来社会をより良いものにすることができるのか、じっくりと訊いています」(新書編集部「はじめに」より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『構造人類学ゼロ』クロード・レヴィ=ストロース(著)、佐久間寛(監訳)、小川了/柳沢史明(訳)、中央公論新社、2023年8月、本体4,000円、A5判上製352頁、ISBN978-4-12-005688-8
『構造人類学【新装版】』クロード・レヴィ=ストロース(著)、荒川幾男/生松敬三/川田順造/佐々木明/田島節夫(訳)、みすず書房、2023年5月、本体7,200円、A5判上製498頁、ISBN978-4-622-09623-8
『現代思想2023年9月臨時増刊号 総特集=関東大震災100年』青土社、2023年8月、本体1,400円、A5判並製198頁、ISBN978-4-7917-1450-6
『魂を失った都――ウィーン1938年』マンフレート・フリュッゲ(著)、浅野洋(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2023年8月、本体5,000円、四六判上製540頁、ISBN978-4-588-01157-3
『ブキの物語/クレオール民話』シュザンヌ・コメール=シルヴァン/マダム・ショント(著)、松井裕史(訳)、作品社、2023年8月、本体2,700円、46判上製304頁、ISBN978-4-86182-986-4
『新版 仏教と事的世界観』廣松渉/吉田宏晳(著)、塩野谷恭輔(解説)、作品社、2023年8月、本体2,700円、46判上製232頁、ISBN978-4-86182-695-7
★『構造人類学ゼロ』は、フランスの人類学者レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss, 1908-2009)の論文集『Anthropologie structurale zéro』(Seuil, 2019)の全訳。帯文の文言を借りると、『構造人類学』(原著1958年)の刊行前に主に英語で発表された17篇の論考を5つのテーマに分けて収録しているとのこと。目次を以下に転記します。★印は既訳があるもので、▲印はレヴィ=ストロースの他の本に一部が組み込まれています。
序文――編者による解説(ヴァンサン・ドゥベーヌ)
本版に関する注記
歴史と方法
第1章 フランス社会学 ★
第2章 マリノフスキー追悼
第3章 エドワード・ウェスターマークの業績
第4章 ナンビクワラ族の名称について
個人と社会
第5章 五つの書評
第6章 幸せのテクニック
互酬性とヒエラルキー
第7章 南米インディオにおける戦争と交易 ★▲
第8章 未開部族における首長権力の社会的および心理学的側面
――マト・グロッソ州北西部のナンビクワラ族 ★▲
第9章 互酬性とヒエラルキー
第10章 未開社会の外交政策 ▲
芸術
第11章 インディオの化粧
第12章 アメリカ自然史博物館の北西沿岸部の芸術 ▲
南米の民族誌
第13章 ブラジル・インディオ間の親族語彙の社会的用法
第14章 南米における双分組織について
第15章 トゥピ・カワイブ族
第16章 ナンビクワラ族
第17章 グアポレ川右岸の諸部族
地図
訳者あとがき
注
索引
★編者のドゥベーヌ(Vincent Debaene, 1973-)は序文で次のように述べています。「本書は重要であるがあまり知られておらず、しかもその大部分が当初は英語できわめて多様な雑誌に掲載され、見つけることがほぼ困難なテクストを、あらためて利用可能にしようとする。1958年にレヴィ=ストロースが取りのけたこれら17論文は、それぞれが興味深いことに加え、構造人類学の前史をえがき出しているのである。つまり、1950年代半ば、クロード・レヴィ=ストロースという個人に対して、構造人類学という企てが与えていた理論に関する計画と意味とを逆方向からよりよく理解させてくれるのだ」(16頁)。
★なお、当の『構造人類学』は周知の通り、みすず書房さんより訳書が出ています。一時品切で古書価が高額となっていましたが、10出版社共同復刊「書物復権」で選ばれて今年5月に新装版が発売されています。本文組自体は旧版のままです。
★『現代思想2023年9月臨時増刊号』は、総特集「関東大震災100年」。版元紹介文に曰く「関東大震災の惨禍とその後の復興の歩みは、100年後の私たちに何を問いかけるのか。忘却に抗い、未来に記憶をつないでいくためのメモリアル」。討議1本、マンガ1本、論考13本。詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。
★『魂を失った都』は、デンマーク生まれでドイツで活躍する作家マンフレート・フリュッゲ(Manfred Flügge, 1946-)の著書『Stadt ohne Seele. Wien 1938』(Aufbau Verlag, 2018)の訳書。「オーストリア共和国が第三帝国によって合併されるまでの20年間を描いた時代小説」であり、「1938年の合邦前夜の状況を詳述し、精神科学、文学、音楽、大衆芸術、大学、教会、メディア等を精査し、フロイト、ムージル、ヴェルフェル、ロート、クラウス、フリーデルを中心とする、じつに600名を超える登場人物の人生を作品を20世紀初頭以降のウィーンの文化環境のなかに埋め込んだ壮大なパノラマ」(訳者あとがきより)。
★作品社さんの8月新刊は2点。『ブキの物語/クレオール民話』は、アンティル諸島グアドループの民話集『クレオール民話』(1935年)と、ハイチの民話集『ブキの物語』(1940年)の2冊の翻訳を1冊にまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。もう1点『新版 仏教と事的世界観』は、哲学者の廣松渉(ひろまつ・わたる, 1933-1994)さんと密教学者の吉田宏晳(よしだ・こうせき, 1935-)さんの対談本。朝日出版社の「エピステーメー叢書」の一冊として1979年に刊行されたものの再刊です。再刊にあたり、誤字脱字が訂正され、注を追加し、吉田さんによる「[新版]はじめに 仏教の幸福観――復刊によせて」と、塩野谷恭輔(しおのや・きょうすけ, 1995-)さんによる解説が加えられています。
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※雑記はお盆休みのため、休載します。