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注目新刊:森脇透青ほか『ジャック・デリダ 「差延」を読む』読書人、などなど

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★まず、まもなく発売となる注目新刊を列記します。

『ジャック・デリダ 「差延」を読む』森脇透青/西山雄二/宮﨑裕助/ダリン・テネフ/小川歩人[著]、読書人、2023年4月、本体1,200円、新書判並製224頁、ISBN978-4-924671-57-7
『「消えたい」「もう終わりにしたい」あなた』水島広子[著]、細川貂々[イラスト]、紀伊國屋書店、2023年4月、本体1,200円、46判並製120頁、ISBN9784314011945
『バングラデシュの飲料水問題と開発援助──地域研究の視点による分析と提言』山田翔太[著]、英明企画編集、2023年3月、本体2,700円、A5判上製224頁、ISBN978-4-909151-40-7

★特筆したいのは『ジャック・デリダ 「差延」を読む』。脱構築研究会の主催により2022年8月27日に東京都立大学で行われた同名の夏合宿をもとにまとめられた一冊。第Ⅰ部「ジャック・デリダ「差延」解説」は森脇透青(もりわき・とうせい, 1995-)さんによるもの。第Ⅱ部はそれを受けての「討論」で、西山雄二、宮﨑裕助、ダリン・テネフ、小川歩人、の各氏がコメントし、森脇さんが応答。会場での質疑応答には五氏が答えています。「差延」論文はデリダが1968年に学会発表し、原著1972年刊の『哲学の余白』(法政大学出版局、2007年;新装版2022年)に収めています(訳書では上巻所収)。「デリダのすべてが「差延」から出てくる」とナンシーに言わしめた論考をめぐっての、デリダ入門ともなる懇切な解説書となっています。

★最近出会った新刊を列記します。

『再読だけが創造的な読書術である』永田希[著]、筑摩書房、本体1,800円、四六判並製224頁、ISBN978-4-480-81682-5
『交差するパレスチナ――新たな連帯のために』在日本韓国YMCA[編]、2023年3月、本体2,400円、四六判並製208頁、ISBN978-4-400-40759-1
『vanitas No. 008 特集=ファッションと倫理』蘆田裕史+水野大二郎[責任編集]、アダチプレス、2023年3月、本体2,000円、四六判変型184頁、ISBN978-4-908251-16-0

★特筆したいのは『再読だけが創造的な読書術である』。帯文に曰く「本を繰り返し開くことは、自分自身と向き合うことである。「多読という信仰」を相対化し、「自分ならではの時間」を生きる読書論」と。「読みづらさを肯定しつつ、並行して「再読」を可能にする方法を模索しています」(3頁)とも。再読は、時間貧乏な現代人にとってもっともアクチュアルかつラディカルな挑戦ではないでしょうか。永田希(ながた・のぞみ, 1979-)さんの第一作『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス、2020年)の姉妹編と言っていいと思います。この二冊の担当編集者はいずれも方便凌さん。積読から再読へ、見事なタッグです。

★続いて、作品社さんの3月新刊より2点。

『現代語訳 源氏物語 一』紫式部[作]、窪田空穂[訳]、作品社、2023年3月、本体2,700円、46判並製392頁、ISBN978-4-86182-963-5
『クレマンソー』ミシェル・ヴィノック[著]、大嶋厚[訳]、作品社、2023年3月、本体6,000円、46判上製424頁、ISBN978-4-86182-962-8

★特筆したいのは『現代語訳 源氏物語 一』。隔月刊行予定の全四巻の第一巻です。帯文に曰く「歌人にして国文学界の泰斗による現代語訳。作品の叙事と抒情、気品を保ち柔らかな雰囲気を残す逐語訳と、和歌や平安時代の風俗・習慣への徹底した註釈」と。窪田空穂(くぼた・うつぼ, 1877-1967)さんによる現代語訳の再刊は、角川書店版『窪田空穂全集』の第27巻および第28巻に収録(1967年)以来のことで、久しぶりです。

★続いて、藤原書店さんの3月新刊全3点。

『ロシアの二〇世紀――100の歴史の旅』マイケル・ホダルコフスキー[著]、山内智恵子[訳]、宮脇淳子[跋]、藤原書店、2023年3月、本体3,600円、四六上製432頁、ISBN978-4-86578-382-7
『別冊環(28)後藤新平――衛生の道 1857-1929』後藤新平研究会[編]、後藤新平/青山佾/石浦薫/ほか[著]、藤原書店、2023年3月、本体3,600円、菊変判並製520頁、ISBN978-4-86578-381-0
『占領期女性のエンパワーメント――メアリ・ビーアド、エセル・ウィード、加藤シヅエ』上村千賀子[著]、藤原書店、2023年3月、本体4,400円、A5判上製432頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-383-4

★特筆したいのは『ロシアの二〇世紀』。帯文に曰く「ウクライナ出身のユダヤ人歴史学者が、1900年~2000年に至る“ロシアの20世紀”を、1年ごとに丹念に追い、ロシア現代史の真実を伝える。ロシアとは? 西洋か? 独自の存在か? プーチン大統領の「偉大なるロシア」とは? 「ルースキー」(いわゆるロシア人)と「ロシヤーニン」(ロシア人の支配下にある諸民族)で構成される多民族世界――今こそ読むべき必読書」。原著は『Russia's 20th century: A Journey in 100 Histories』(Bloomsbury Academic, 2019)で、巻頭には「日本の読者へ」「日本の読者への自伝的覚書」という二篇が加えられています。ホダルコフスキー(Michael Khodarkovsky, 1955-)はキーウに生まれ、1978年に渡米。現在シカゴ・ロヨラ大学教授。専門はロシア史です。同姓同名のチェス・プレイヤーが同じく米国にいますが、1958年生まれで別人です。

★最後に、平凡社さんの3月新刊より7点。

『北斎富嶽二〇〇景』和田京子[編]、HOKUSAI BOOKS:平凡社、2023年3月、本体3,800円、A6判並製416頁、ISBN978-4-582-66219-1
『北斎画法』和田京子[編]、HOKUSAI BOOKS:平凡社、2023年3月、本体5,200円、A6判並製896頁、ISBN978-4-582-66220-7
『尹致昊日記(3)1893‐1894年』尹致昊[著]、木下隆男[訳注]、東洋文庫:平凡社、2023年3月、本体4,000円、B6変判上製函入528頁、ISBN978-4-582-80913-8
『雲は美しいか――和歌と追想の力学』渡部泰明[著]、ブックレット〈書物をひらく〉:平凡社、2023年3月、本体1,000円、A5判並製96頁、ISBN978-4-582-36469-9
『知と奇でめぐる近世地誌――名所図会と諸国奇談』木越俊介[著]、ブックレット〈書物をひらく〉:平凡社、2023年3月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36468-2
『危機の時代の神学――フロマートカ著作選』ヨゼフ・ルクル・フロマートカ[著]、平野清美[訳]、佐藤優[監訳]、平凡社、2023年3月、本体8,400円、4-6判上製616頁、ISBN978-4-582-71725-9
『クマタカ生態図鑑』若尾親[著]、山﨑亨[監修]、平凡社、2023年3月、本体8,000円、B5変判並製600頁、ISBN978-4-582-54268-4

★特筆したいのは、国際共同出版企画だというシリーズ「HOKUSAI BOOKS」の2点と、フロマートカの未邦訳論文集。まず『北斎富嶽二〇〇景』は、北斎の描いた富士山を207点収録したもの。『北斎画法』は、北斎の絵手本を10タイトル、15冊、合計800頁以上、3000図以上収録したもの。文庫サイズで楽しめる北斎本と言えば、ロングセラーとなっている『北斎漫画』(全3巻、青幻舎ビジュアル文庫シリーズ、2010~2011年)が有名ですが、 今回の平凡社版は新たな切り口で楽しめると思います。分厚い『北斎画法』の束幅は、かの、レリス『幻のアフリカ』(平凡社ライブラリー、2010年)の48mmを超える、驚異の57㎜です。

★『危機の時代の神学』は、チェコのプロテスタント神学者フロマートカ(Josef Lukl Hromádka, 1889-1969;かつて日本では「ロマドカ」ないし「ロマデカ」と表記)の、佐藤優さんによる再評価本の第五弾で、未邦訳論文四篇を収録したもの。佐藤さんはこれまでに、単独訳で『なぜ私は生きているか――J・L・フロマートカ自伝』新教出版社、1997年;オンデマンド版、2008年)のほか、監訳で『神学入門――プロテスタント神学の転換点』(平野清美訳、新教出版社、2012年)、『人間への途上にある福音――キリスト教信仰論』(平野清美訳、新教出版社、2014年)、『宗教改革から明日へ――近代・民族の誕生とプロテスタンティズム』(平野清美訳、平凡社、2017年)を上梓されています。

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【雑記6】

YMOは自分の小中学生時代に強い、決定的な刻印を残した存在でした。それだけに高橋幸宏さんと坂本龍一さんを喪った今、自分にとっての昭和がまたひとつ区切りを迎えつつある思いがします。光化学スモッグとTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』、五島勉『大予言』シリーズを時代の空気として吸い込んだ自分は、それらによって暗い〈終末〉の予感を抱く一方で、ウォークマンとYMOによって鮮やかな〈未来〉の到来をも感じていました。その二つのヴィジョンは映画『ブレードランナー』によって結び合わされましたが、その暗い側面は結果として「オウム真理教事件」として到来しました。1999年に世界の終焉は起こりませんでした。しかし、90年代前半に出版社に就職し、三つめの会社で働いていた当時、出版不況の影は年々濃くなっていました。「[本]のメルマガ」の創刊同人となり、その後十年間関わったのも、1999年がスタートです。そのように振り返ることができます。もう少し細部がありますが、今は措くとします。翌2000年、アマゾン・ジャパンが開設。月曜社を設立したのもその年です。それからの22年強はあっという間に過ぎていきました。

教授が旅立たれ、タモリ俱楽部が終わり、八重洲ブックセンター本店が閉店した三月末。残った自分はここからもう一度始めます。それは良くも悪くも、昭和から始まった道のりを、年号が変わっても、否応なく辿り続けることです。私たちはみな同じ時代を生きているとも言えますが、みな異なった時代を背負っているとも言えます。先人に追いつき追い越すことは不可能なのです。同時代を生きつつも、別々の枝分かれにそれぞれが進んでいるのだから。誰もが個人としては前人未踏の道を歩みます。有名か無名かは関係ありません。平凡か非凡かも無関係です。

先週はアマゾン・ジャパンでの書籍「新品」の高額出品問題について書きました。今回は一言だけ付言しておこうと思います。アマゾン・ジャパンの書籍販売における最大の問題のひとつは、「定価表示がない」ということです。定価を表示しないせいで、出品者が定価以上の値段を付けていても、正しい価格が何なのかが分かりません。先述した通り、アマゾン・ジャパンは再販売価格維持制度を今までさんざん軽んじてきました。あちらとしては「そんなことはない」などと言い訳をしそうですが、そもそも定価表示を今なお行っていないこと自体が再販制を軽視する態度そのものです。そのことをどうして問題視できないのか、不思議です。顧客第一主義を掲げながら、顧客に不利益を負わせることもある。非常に無責任です。

先週掲出した書目は4月3日現在「通常1~2か月以内に発送します」となっています。これはアマゾンの発注調達部数が少なすぎるからです。同書には先の高額出品者とは別の人物が新品を高額出品しており、中古品を高額出品している人物もいますが、今なおリアル書店では定価で購入が可能です。版元在庫も潤沢にあります。読者の皆様におかれましては、アマゾン・ジャパンが「販売・発送」を両方とも担っていない商品については、購入する前に一度、出版社のウェブサイトで定価と在庫を確認し、他のオンライン書店で扱っていないかを見ていただけたらと思います。版元在庫がない場合は、アマゾンのほかにも古書横断検索サイトやオークション、フリマサイトなどで比較検討なさって下さい。アマゾンでの高額出品に引っかからないよう、くれぐれもご注意ください。

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