『レペルトワール Ⅲ:1968』ミシェル・ビュトール[著]、三ツ堀広一郎/中野芳彦/堀容子/ほか[訳]、石橋正孝[監訳]、幻戯書房、2023年1月、本体5,600円、A5判上製512頁、ISBN978-4-86488-265-1
★『レペルトワール Ⅲ:1968』は、フランスの作家ミシェル・ビュトール(Michel Butor, 1926-2016)の評論集全5巻の第3巻。原著は1968年刊。帯文に曰く「文芸×美術を自在に旋回する、アクロバティックな創作゠批評の饗宴」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭の評論「批評と発明」で、ビュトールはこう書いています。「われわれはひとり残らず、巨大な図書館の内部にいて、本と向き合いながら一生を送る。あまりにも多くの本がすでに存在しているため、われわれがこの世を去るまでに読書という営みに割ける時間は限られている以上、すべてを読めるはずもないことは瞬時にして明らかとなる」(12頁)。
★「図書館はわれわれに世界を与えるか、偽の世界を与えるのだ。時々ひび割れが生じて、現実が書物に反抗し、われわれの眼、言葉、ある特定の本を通して外部がわれわれに合図を送り、われわれは閉じ込められているのだと感じさせる。図書館は城塞になってしまう。/新しい本を付け加えることで、われわれは全表面を再編し、そこにいくつもの窓が穿たれるようになる」(13頁)。
★「完成はされたものの、著者が没にされる恥辱を怖れて人目に触れさせなかった原稿、書きはじめられたものの、放棄されてしまった原稿、夢見られはしたものの、第一行すらついに掛れずに終わった原稿がどれだけあったことか!〔…〕/本職の小説家とは、われわれの全員が漠然とは思い描きはするが、たいがい断念せざるをえなくなるこの活動を最後までやり切った者であり、その活動をわれわれの代わりに継続してくれている者のことである」(同頁)。
★「批評的営みは、作品を未完成と見なすことにあり、詩的営み、「霊感」は現実そのものを未完成なものとして明示するのだ。/実践的に。/独創的な作品、発明が現れるたびごとに、それが当初はいかに無意味に思われようとも、その作品を起点にして、われわれが属しているこの世界を改修する必要性が徐々に生じてくる。/いかなる作品も社会参加なのであり、これ以上になく因襲的な作品ですらそうであるのは、あらゆる精神の活動が社会における函数だからである。作品は本質的に創意豊かであればあるほど、変革を迫るものなのだ。/世界は段階的にそれ自身に対する批評を生み出し、われわれのうちで苦心しながら自らを発明しているのである」(24頁)。
『原視紀行――地相と浄土と女たち』石山修武[著]、中里和人[写真]、野田尚稔[解説]、コトニ社、2023年1月、本体3,000円、A5判並製144頁、ISBN978-4-910108-09-4『現代思想2023年2月号 特集=〈投資〉の時代――金融資本主義・資産運用・自己啓発…』青土社、2023年1月、本体1,600円、A5判並製頁246頁、ISBN978-4-7917-1442-1『新装版 シェリング著作集(6c)啓示の哲学〈下〉』諸岡道比古[編]、文屋秋栄、2022年6月、本体9,000円、A5判上製536頁、ISBN978-4-906806-10-2
★『原視紀行』は、建築家の石山修武(いしやま・おさむ, 1944-)さんによる「古く深い日本の地相と歴史をたずねた」「原始旅行のガイドブック」(帯文より)とのこと。書き出しはこうです。「三つの小さな旅の記録であるが、風景は皆大きい。/一、フォッサマグナ、糸魚川日本海沿岸の旅。/二、奥州平泉、そしていわき市白水の浄土庭園の旅。/三、伊勢松坂をめぐる旅」(7頁)。「位置は列島における大地溝帯とシャーマニズム探訪を目的とした」(同頁)。「二は奥州平泉の列島最大級の浄土式庭園が藤原氏一族の女性たちの完成と構想力の産物であろう〔こと〕を、探ろうとした」(8頁)。「三は列島文化の象徴でもあろう天皇の社である伊勢大社を、大社周辺から考えようと試みた」(同頁)。「旅は古きを訪ねるが極上である」(9頁)という著者の思いに中里さんの写真が見事に呼応する美しい一書です。
★『現代思想2023年2月号 特集=〈投資〉の時代』は、版元紹介文に曰く「国家・企業・家庭など様々な次元を横断しながら〈投資〉なるものを多方面から検討する。為替や財政問題に耳目が集まる昨今、資本主義と向き合うためのキーワードとしての〈投資〉について、それを内側から組み替えるような試みにも迫りながら、その内実を問う」と。人文学にとって金融資本主義の批判的考察はもっとも重要な課題のひとつです。2018年3月号の特集「物流スタディーズ」などと並んで繰り返し特集化されることを期待したいです。
★先週、8月刊の第2巻と一緒に取り上げそびれた『新装版 シェリング著作集(6c)啓示の哲学〈下〉』は、『啓示の哲学』第二部全14講(第24講~第37講、1858年刊;諸岡道比古訳)のほか、付録として『積極的哲学の諸原理の別の演繹』諸岡道比古訳、『ベルリンでの第一講 1841年11月15日』諸岡道比古訳、を収録。解説も訳者の諸岡さんがお書きになっています。『啓示の哲学』は「シェリング哲学の総決算」(帯文より)。燈影版『シェリング著作集』では『啓示の哲学』の第1講~第8講を収録した5b巻のみ刊行でした。文屋秋栄版で全訳が叶いました。
★続いて、藤原書店さんの1月新刊4点。
『女がみた一八四八年革命(下)』ダニエル・ステルン[著]、志賀亮一/杉村和子[訳]、藤原書店、2023年1月、本体4,400円、四六判上製704頁、ISBN978-4-86578-373-5
『震災復興はどう引き継がれたか――関東大震災・昭和三陸津波・東日本大震災』北原糸子[著]、藤原書店、2023年1月、本体5,300円、A5判上製512頁+カラー口絵8頁+モノクロ口絵4頁、ISBN978-4-86578-376-6
『アイヌの時空を旅する――奪われぬ魂』小坂洋右[著]、藤原書店、2023年1月、本体2,700円、四六判上製352頁、ISBN978-4-86578-377-3
『高校生のための「歴史総合」入門――世界の中の日本・近代史(2)欧米の「近代」に学ぶ』浅海伸夫[著]、藤原書店、2023年1月、本体3,000円、A5判並製472頁、ISBN978-4-86578-370-4
★特記したいのは2点。まず1点目は、先月の上巻刊行に続く下巻の発売で全2分冊完結となる、ステルン『女がみた一八四八年革命』(原著1850/1853年刊)。帯文に曰く「マルクス『共産党宣言』で知られる1848年とは、どういう時代だったか!? ジャーナリスト〈ダニエル・ステルン〉として活躍したマリー・ダグー伯爵夫人が描きつくした1848年革命は、ブルジョワジーではなくプロレタリアートによる革命、民衆の時代の幕開けだった!! 民衆の喚声と慟哭と鬨の声が聞こえる名著、初の邦訳刊行!」と。「人民は、自身の運命の主人公なのだ」(1279頁)という彼女の言葉は、いまなお貧困の解決と、教育と生活の改善を追究し続けている170年後の現代人にとって、痛切な響きを帯びています。
★もう1点。『震災復興はどう引き継がれたか』は、災害史研究の碩学、北原糸子(きたはら・いとこ, 1939-)さんの著書『関東大震災の社会史』(朝日新聞出版、2011年)を第二部とし、第一部の書き下ろし「「近代復興」の起点・継承・その終焉――関東大震災・昭和三陸津波・東日本大震災」と併せ、第三部に「関東大震災・資料篇」を加えた大冊。関東大震災百周年記念出版、とのこと。2023年は関東大震災をめぐるテレビ特番や研究書などが一定数世に問われる一年となるのでしょう。遠からず日本を襲うかもしれない大地震などに備えて、各種防災本やグッズと併せ、書店さんでコーナー展開されても良いような気がします。
★『レペルトワール Ⅲ:1968』は、フランスの作家ミシェル・ビュトール(Michel Butor, 1926-2016)の評論集全5巻の第3巻。原著は1968年刊。帯文に曰く「文芸×美術を自在に旋回する、アクロバティックな創作゠批評の饗宴」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭の評論「批評と発明」で、ビュトールはこう書いています。「われわれはひとり残らず、巨大な図書館の内部にいて、本と向き合いながら一生を送る。あまりにも多くの本がすでに存在しているため、われわれがこの世を去るまでに読書という営みに割ける時間は限られている以上、すべてを読めるはずもないことは瞬時にして明らかとなる」(12頁)。
★「図書館はわれわれに世界を与えるか、偽の世界を与えるのだ。時々ひび割れが生じて、現実が書物に反抗し、われわれの眼、言葉、ある特定の本を通して外部がわれわれに合図を送り、われわれは閉じ込められているのだと感じさせる。図書館は城塞になってしまう。/新しい本を付け加えることで、われわれは全表面を再編し、そこにいくつもの窓が穿たれるようになる」(13頁)。
★「完成はされたものの、著者が没にされる恥辱を怖れて人目に触れさせなかった原稿、書きはじめられたものの、放棄されてしまった原稿、夢見られはしたものの、第一行すらついに掛れずに終わった原稿がどれだけあったことか!〔…〕/本職の小説家とは、われわれの全員が漠然とは思い描きはするが、たいがい断念せざるをえなくなるこの活動を最後までやり切った者であり、その活動をわれわれの代わりに継続してくれている者のことである」(同頁)。
★「批評的営みは、作品を未完成と見なすことにあり、詩的営み、「霊感」は現実そのものを未完成なものとして明示するのだ。/実践的に。/独創的な作品、発明が現れるたびごとに、それが当初はいかに無意味に思われようとも、その作品を起点にして、われわれが属しているこの世界を改修する必要性が徐々に生じてくる。/いかなる作品も社会参加なのであり、これ以上になく因襲的な作品ですらそうであるのは、あらゆる精神の活動が社会における函数だからである。作品は本質的に創意豊かであればあるほど、変革を迫るものなのだ。/世界は段階的にそれ自身に対する批評を生み出し、われわれのうちで苦心しながら自らを発明しているのである」(24頁)。
『原視紀行――地相と浄土と女たち』石山修武[著]、中里和人[写真]、野田尚稔[解説]、コトニ社、2023年1月、本体3,000円、A5判並製144頁、ISBN978-4-910108-09-4『現代思想2023年2月号 特集=〈投資〉の時代――金融資本主義・資産運用・自己啓発…』青土社、2023年1月、本体1,600円、A5判並製頁246頁、ISBN978-4-7917-1442-1『新装版 シェリング著作集(6c)啓示の哲学〈下〉』諸岡道比古[編]、文屋秋栄、2022年6月、本体9,000円、A5判上製536頁、ISBN978-4-906806-10-2
★『原視紀行』は、建築家の石山修武(いしやま・おさむ, 1944-)さんによる「古く深い日本の地相と歴史をたずねた」「原始旅行のガイドブック」(帯文より)とのこと。書き出しはこうです。「三つの小さな旅の記録であるが、風景は皆大きい。/一、フォッサマグナ、糸魚川日本海沿岸の旅。/二、奥州平泉、そしていわき市白水の浄土庭園の旅。/三、伊勢松坂をめぐる旅」(7頁)。「位置は列島における大地溝帯とシャーマニズム探訪を目的とした」(同頁)。「二は奥州平泉の列島最大級の浄土式庭園が藤原氏一族の女性たちの完成と構想力の産物であろう〔こと〕を、探ろうとした」(8頁)。「三は列島文化の象徴でもあろう天皇の社である伊勢大社を、大社周辺から考えようと試みた」(同頁)。「旅は古きを訪ねるが極上である」(9頁)という著者の思いに中里さんの写真が見事に呼応する美しい一書です。
★『現代思想2023年2月号 特集=〈投資〉の時代』は、版元紹介文に曰く「国家・企業・家庭など様々な次元を横断しながら〈投資〉なるものを多方面から検討する。為替や財政問題に耳目が集まる昨今、資本主義と向き合うためのキーワードとしての〈投資〉について、それを内側から組み替えるような試みにも迫りながら、その内実を問う」と。人文学にとって金融資本主義の批判的考察はもっとも重要な課題のひとつです。2018年3月号の特集「物流スタディーズ」などと並んで繰り返し特集化されることを期待したいです。
★先週、8月刊の第2巻と一緒に取り上げそびれた『新装版 シェリング著作集(6c)啓示の哲学〈下〉』は、『啓示の哲学』第二部全14講(第24講~第37講、1858年刊;諸岡道比古訳)のほか、付録として『積極的哲学の諸原理の別の演繹』諸岡道比古訳、『ベルリンでの第一講 1841年11月15日』諸岡道比古訳、を収録。解説も訳者の諸岡さんがお書きになっています。『啓示の哲学』は「シェリング哲学の総決算」(帯文より)。燈影版『シェリング著作集』では『啓示の哲学』の第1講~第8講を収録した5b巻のみ刊行でした。文屋秋栄版で全訳が叶いました。
★続いて、藤原書店さんの1月新刊4点。
『女がみた一八四八年革命(下)』ダニエル・ステルン[著]、志賀亮一/杉村和子[訳]、藤原書店、2023年1月、本体4,400円、四六判上製704頁、ISBN978-4-86578-373-5
『震災復興はどう引き継がれたか――関東大震災・昭和三陸津波・東日本大震災』北原糸子[著]、藤原書店、2023年1月、本体5,300円、A5判上製512頁+カラー口絵8頁+モノクロ口絵4頁、ISBN978-4-86578-376-6
『アイヌの時空を旅する――奪われぬ魂』小坂洋右[著]、藤原書店、2023年1月、本体2,700円、四六判上製352頁、ISBN978-4-86578-377-3
『高校生のための「歴史総合」入門――世界の中の日本・近代史(2)欧米の「近代」に学ぶ』浅海伸夫[著]、藤原書店、2023年1月、本体3,000円、A5判並製472頁、ISBN978-4-86578-370-4
★特記したいのは2点。まず1点目は、先月の上巻刊行に続く下巻の発売で全2分冊完結となる、ステルン『女がみた一八四八年革命』(原著1850/1853年刊)。帯文に曰く「マルクス『共産党宣言』で知られる1848年とは、どういう時代だったか!? ジャーナリスト〈ダニエル・ステルン〉として活躍したマリー・ダグー伯爵夫人が描きつくした1848年革命は、ブルジョワジーではなくプロレタリアートによる革命、民衆の時代の幕開けだった!! 民衆の喚声と慟哭と鬨の声が聞こえる名著、初の邦訳刊行!」と。「人民は、自身の運命の主人公なのだ」(1279頁)という彼女の言葉は、いまなお貧困の解決と、教育と生活の改善を追究し続けている170年後の現代人にとって、痛切な響きを帯びています。
★もう1点。『震災復興はどう引き継がれたか』は、災害史研究の碩学、北原糸子(きたはら・いとこ, 1939-)さんの著書『関東大震災の社会史』(朝日新聞出版、2011年)を第二部とし、第一部の書き下ろし「「近代復興」の起点・継承・その終焉――関東大震災・昭和三陸津波・東日本大震災」と併せ、第三部に「関東大震災・資料篇」を加えた大冊。関東大震災百周年記念出版、とのこと。2023年は関東大震災をめぐるテレビ特番や研究書などが一定数世に問われる一年となるのでしょう。遠からず日本を襲うかもしれない大地震などに備えて、各種防災本やグッズと併せ、書店さんでコーナー展開されても良いような気がします。