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注目新刊および既刊:マッカーシー=ジョーンズ『悪意の科学』インターシフト、ほか

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★最近出会いのあった注目新刊を列記します。


『悪意の科学――意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』サイモン・マッカーシー=ジョーンズ[著]、プレシ南日子[訳]、インターシフト[発行]、合同出版[発売]、2023年1月、本体2,200円、四六判並製272頁、ISBN978-4-7726-9578-7
『阿弥衆――毛坊主・陣僧・同朋衆』桜井哲夫[著]、平凡社、2023年1月、本体3,800円、4-6判上製286頁、ISBN978-4-582-84238-8



★『悪意の科学』は、アイルランドのトリニティ・カレッジ准教授で、幻覚症状の専門家であるサイモン・マッカーシー=ジョーンズ(Simon McCarthy-Jones)の著書『Spite: The upside of your dark side』(Basic Books, 2021)の訳書。「悪意は人間が他者に欲しない特性であり、「すべての人に危害を及ぼす」悪徳であると〔ジョン・ロールズは〕言っている。だが、これは本当だろうか? 悪意をより詳しく検証していくと、異なる側面が見えてくる」(12頁)と著者は言います。


★「というのも、どうやら悪意には善を促す力があるようなのだ。悪意はわたしたちが自分を高め、何かを創造する助けとなることもある。しかも、必ずしも協力の妨げになるとは限らない。実際のところ、悪意は逆説的に協力を促すこともある。また、必然的に不公平を生み出すわけではなく、不公平をなくすための最強のツールの1つとなることもある。不公平や正しがたい不平等がある限り、人間には悪意が必要なのだ」(同頁)。


★「利己、利他、協力、悪意という4つの顔〔…〕人間は多面的であり、〔…〕自分自身を理解するには1つの面だけではなく、自分のすべての面を理解する必要があるのだ」(13頁)。目次詳細や巻末解説などが書名のリンク先で立ち読みできます。


★『阿弥衆』は、平凡社選書の最新刊。フーコー論などで知られる東京経済大学名誉教授で社会学者、足利市の時宗・真教寺44世住職を務める桜井哲夫(さくらい・てつお, 1949-)さんによる、諸芸に通じた阿弥の名(阿号、阿弥号)を持つ歴史上の群像の実態に迫る研究書です。


★このほか、昨年下半期の既刊書のなかで、購入が少し遅れたため取り上げそびれていた注目書を列記します。


『ジョルダーノ・ブルーノ著作集(2)聖灰日の晩餐』ジョルダーノ・ブルーノ[著]、加藤守通[訳]、東信堂 2022年11月、本体3,200円、A5判上製192頁、ISBN978-4-7989-1774-0
『ユングの芸術』C・G・ユング著作財団[編]、山中康裕[訳]、青土社、2022年10月、本体18,000円、B5変型判上製272頁、ISBN978-4-7917-7341-1

『メタモルフォーゼの哲学』エマヌエーレ・コッチャ[著]、松葉類/宇佐美達朗[訳]、勁草書房、2022年10月、本体3,000円、4-6判上製224頁、ISBN978-4-326-15484-5

『身体諸部分の用途について(2)』ガレノス[著]、坂井建雄/池田黎太郎/福島正幸/矢口直英/澤井直[訳]、京都大学学術出版会、2022年10月、本体3,100円、四六変判上製288頁、ISBN 978-4-8140-0423-2

『寛容書簡』ロック[著]、山田園子[訳]、京都大学学術出版会、2022年9月、本体4,500円、四六判上製464頁、ISBN978-4-8140-0436-2

『新装版 シェリング著作集(2)超越論的観念論の体系』久保陽一/小田部胤久[編]、深谷太清/前田義郎/竹花洋佑/守津隆/植野公稔[訳]、久保陽一/小田部胤久[解説]、文屋秋栄、2022年8月、本体8,000円、A5判上製452頁、ISBN978-4-906806-11-9

『ストーリーが世界を滅ぼす――物語があなたの脳を操作する』ジョナサン・ゴットシャル[著]、月谷真紀[訳]、東洋経済新報社、2022年7月、本体2,000円、四六判並製320頁、ISBN978-4-492-44469-6



★『聖灰日の晩餐』は、「ジョルダーノ・ブルーノ著作集」第5回配本。16世紀のイタリアの哲学者ブルーノが2年半にわたる英国滞在中に執筆したイタリア語著作のうちの、2番目の対話篇『La cena de le ceneri』(1584年)の訳書です。底本はフランスのベル・レットル社より刊行されたジョヴァンニ・アクィレッキアによる校訂版(1994年)。帯文に曰く「地動説の解釈や聖書の記述内容との矛盾をめるぐ論争を通して〔…〕コペルニクスとも異なった独自の「宇宙の無限性」を考察」した「熾烈な哲学論議」。奥付の発行月は9月になっていますが、実際の店頭発売は11月になった様子です。


★『ユングの芸術』は、『The Art of C. G. Jung』(Norton, 2018)の訳書。トーマス・フィッシャー、メデア・ホッホ、ウルリッヒ・ヘルニ、ベッティーナ・カウフマン、ジル・メリック、ダイアン・フィニエッロ・ツェルヴァスの6氏による、ユングの芸術作品(デッサン、絵画、彫刻、など)の紹介本。帯文に曰く「本書では未発表の芸術作品も数多く紹介し、その変遷と芸術的意義を明らかにする」もの。高額ですが、関連する絵画も含めてフルカラーの贅沢な大型本です。


★『メタモルフォーゼの哲学』は、イタリアの哲学者で現在フランスの社会科学高等研究院で教鞭を執っているエマヌエーレ・コッチャ(Emanuele Coccia, 1976-)のフランス語の著書『Métamorphoses』(Rivages, 2020)の全訳。「メタモルフォーゼとは、二つの身体が同じ一つの生であるという奇跡である」(183頁)と著者は書きます。「わたしが本書で示したかったのは、こうした関係がイモムシやチョウに限定されるのではなく、世界のすべての身体のあいだに存在し、そして生きているすべての身体と地球とのあいだに存在しているということだった」〔同頁〕。コッチャの単独著の既訳書には、『植物の生の哲学――混合の形而上学』(嶋崎正樹訳、勁草書房、2019年)があります。「新しいエコロジーの試み」と訳者が評している『メタモルフォーゼの哲学』とともに、大陸哲学の先端を形成する重要作となっています。


★『身体諸部分の用途について(2)』は、西洋古典叢書の2022第2回配本で、全4巻中の第2巻。帯文に曰く「ローマ帝政期ギリシア人医学者による解剖学の主著の一つ。〔…〕本分冊では腹部内臓と栄養の問題、および胸部内臓と生命精気の問題が取り扱われる。本邦初訳」。西洋古典叢書でのガレノスの訳書は、1998年『自然の機能について』、2005年『ヒッポクラテスとプラトンの学説(1)』(全2冊予定)、2011年『解剖学論集』、2016年『身体諸部分の用途について(1)』に続いて5冊目。同叢書の次回配本はまもなく発売と聞く、ボエティウス『哲学のなぐさめ』松﨑一平訳。


★『寛容書簡』は、「近代社会思想コレクション」の第34巻。帯文に曰く「為政者の寛容義務に関する約15年にわたる論戦を綴った未完を含む4通の書簡、3通のプロウストの反論を収める」と。4通のうちもっとも有名な第一書簡『寛容書簡』は「寛容についての書簡」として近年までに複数の訳書が誕生していますが、4通の翻訳は今回が初めてです。第一寛容書簡の底本は1690年の英語版第二版(修正版)。ラテン語初版(1689年)からのウィリアム・ポプルによる英訳で、英訳初版と英訳第二版とラテン語のニュアンスが異なる個所については適宜注記されています。なお抄訳となっているのは、ロックの「第三寛容書簡」と、ジョン・プロウストの反論書簡の2通目「一六九一年反論」です。


★『超越論的観念論の体系』は、「新装版 シェリング著作集」の第7回配本。『System des transzendentalen Idealismus』(1800年)の訳書です。帯文に曰く「若きシェリングの主著にして、フィヒテの『全知識学の基礎』とヘーゲルの『精神現象学』を媒介する、ドイツ観念論の最重要著作」。既訳には古いものですが、赤松元通訳『先験的観念論』(古今書院、1930年;『先験的観念論の体系』蒼樹社、1948年;1949年)がありました。新装版著作集の残りはあと5巻となりました。


★『ストーリーが世界を滅ぼす』は米国の文学研究者ゴットシャル(Jonathan Gottschall, 1972-)の近著『The Story Paradox: How Our Love of Storytelling Builds Societies and Tears them Down』(Basic Books, 2021)の訳書。「技術と文化が激変する時代に、物語が私たちの心を狂わせ、私たちをそれぞれ異なる現実の中に閉じ込め、社会を分断しようとしている」(28頁)と著者は警告します。フェイクニュースに翻弄されるポスト・トゥルース時代に生きる現代人にとって示唆的な本です。認知心理学者のスティーブン・ピンカーに賞賛され、歴史家ティモシー・スナイダーからは手厳しい評言を下されています。米田綱路さんの書評「単純化へとなびかせる力」もご参照ください。なおゴットシャルの既訳書には『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』(松田和也訳、青土社、2016年)があります。


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