★まもなく発売となる新刊書の中から注目書を列記します。
『あなたがたに話す私はモンスター ――精神分析アカデミーへの報告』ポール・B・プレシアド[著]、藤本一勇[訳]、法政大学出版局、2022年11月、本体1,500円、B6変型判並製142頁、ISBN978-4-588-13034-2
『政治的身体とその〈残りもの〉』ジャコブ・ロゴザンスキー[著]、松葉祥一[編訳]、本間義啓[訳]、法政大学出版局、2022年11月、本体3,800円、四六判上製300頁、ISBN978-4-588-01151-1
『7・8元首相銃撃事件――何が終わり、何が始まったのか?』河出書房新社編集部編、2022年11月、本体1,800円、A5判並製256頁、ISBN978-4-309-22871-6
『灰燼のなかから――20世紀ヨーロッパ史の試み』上下巻、コンラート・H・ヤーラオシュ[著]、橋本伸也[訳]、人文書院、2022年11月、本体各5,500円、A5判上製410/436頁、ISBN978-4-409-51095-7/978-4-409-51096-4
『プラットフォーム資本主義』ニック・スルネック[著]、大橋完太郎/居村匠[訳]、人文書院、2022年11月、本体2,200円、4-6判並製180頁、ISBN978-4-409-03119-3
『SNSフェミニズム――現代アメリカの最前線』井口裕紀子[著]、人文書院、2022年11月、本体2,000円、4-6判上製202頁、ISBN978-4-409-24150-9
★法政大学出版局さんの近刊書2点。いずれも著者の2冊目の訳書になります。『あなたがたに話す私はモンスター』は、スペイン出身の哲学者でトランス・クィア活動家のポール・B・プレシアド(Paul B. Preciado, 1970-;出生名Beatriz)が2019年11月17日にパリで開催された〈フロイトの大義〉学派の国際大会における講演の原稿全文『Je suis un monstre qui vous parle : Rapport pour une académie de psychanalystes』(Grasset, 2020)を全訳したもの。当時は聴衆からの反感と主催者の非協力的応対によって4分の1しか発表できなかったそうで、その反響の大きさから海賊版が出ていたと言います。
★「この場で、フロイトの女性嫌いやラカンの人種差別主義やトランス嫌いを告発するつもりもありません。私が非難しているのは、20世紀に作られた精神分析が、いつまでも性差の認識論と西洋の植民地主義的な支配理性に忠実なままであることです。これは個人の善意によって解決できるような問題ではありません。〔…〕けれども、あなたがたには集団的な責任があります」(71~72頁)。
★「私の使命は、精神分析と精神医学の「対象」が、ジェンダーや性や人種について規範の暴力を維持している制度的・臨床的・ミクロ政治的な諸装置に仕返しできるようにすることです。私たちには臨床転換が必要です。これは精神分析を革命的に変異させることとその家父長制的-植民地主義的な諸前提を批判的に乗り越えることによってしかなしえません」(100頁)。
★「今日、私はみなさまの前に糾弾者として現れたのではありません。そうではなく、むしろ性差の認識論的暴力の警報装置として、新しいパラダイムの探究者として現れたのです。/認識転換に賛同する精神分析家のみなさん、私たちに加わってください! 一緒に出口を作りましょう!」(101頁)。
★『政治的身体とその〈残りもの〉』は、フランスの哲学者ジャコブ・ロゴザンスキー(Jakob Rogozinski, 1953-)さんによる身体論をめぐる論文7本を日本語版独自編集でまとめた1冊。書き下ろしの「日本の読者へのメッセージ」も付されています。曰く「この論集を構成しているテクストを通じて見出され、少しずつ錬成されるのがこの〔私-肉の〕現象学であり、私は読者の皆さんに、本書に収録されたさまざまなエスキスのなかに、脱身体化-再身体化のモチーフ、残りもののモチーフ、交差配列の危機のモチーフが浮かび上がっていることを見ていただきたいと思っている」(2頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。
★河出書房新社さんの新刊『7・8元首相銃撃事件』は、大澤真幸さんをはじめとする20名の識者の寄稿と、白石嘉治さんと栗原康さんの対談が掲載された、アンソロジーです。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「この事件の一報を聞いた時に「やった」と思いました。悪いやつは殺られるはずだと思っていたから遅いくらいでした。彼が個人で決起したというのが分かった時に、これをすぐに映画にしたいと考えました」(足立正生「映画で山上を引き継ぎたい――なぜ『REVOLUTION+1』を撮ったのか」252頁)。このストレートな発言には釘付けになりました。
★人文書院さんの新刊より3点。『灰燼のなかから』は、ドイツ出身で米国ノースカロライナ大学にて教鞭を執っている歴史学者コンラート・H・ヤーラオシュ(Konrad H. Jarausch, 1941-)さんの著書『Out of Ashes: A New History of Europe in the Twentieth Century』(Princeton University Press, 2015)の全訳。「繁栄の輝きと破壊の悲惨を往還する20世紀ヨーロッパ〔をめぐる〕トランスナショナルな歴史の試み」(上巻帯文より)であり、「複数形のモダニティが競合する20世紀ヨーロッパ、その像を生き生きとした描写で描く」(下巻帯文より)大著です。ヤーラオシュさんの初めての訳書となります。巻頭には2021年11月1日付の「日本語版へのはしがき」と、2022年4月12日付の「「日本語版へのはしがき」へのポストスクリプト」が付されています。後者ではロシアによるウクライナ侵攻が言及されています。
★『プラットフォーム資本主義』は、英国で教鞭を執るカナダ出身の哲学者ニック・スルネック(Nick Srnicek, 1982-)さんの初の単独著『Platform Capitalism』(Polity, 2016)の訳書。アレックス・ウィリアムズ(Alex Williams)さんとの2013年の共作論考「加速派政治宣言」(『現代思想』2018年1月号所収、著者名はスルニチェクと表記)で知られる、注目の若手の注目書です。「本書の力点は、メジャーなテック企業を、資本主義的な生産様式の枠内における経済的なアクターとして考えることによって、そうした企業について多くのことを理解できるようにする点にある」(11頁)。「本書の目的は、これらのプラットフォームをより広範な経済学の歴史の文脈に位置づけることであり、利益を生み出す手段としてそれらを理解し、それらが結果的に作り出したいくつかの傾向の概略を述べることにある」(15頁)。
★『SNSフェミニズム』は、米国のフェミニズム研究がご専門の井口裕紀子(いのくち・ゆきこ, 1991-)さんの初の単独著。博士論文「現代アメリカにおけるソーシャルメディアから広がるフェミニスト・ムーブメント」が本書のベースになっているとのことです。「アメリカで活動する300のグループを調査した、現代フェミニズムの熱気を伝える最新の研究」(帯文より)。巻末には各グループの名称と活動テーマが一覧になっています。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『バッサ・モデネーゼの悪魔たち』パブロ・トリンチャ[著]、栗原俊秀[訳]、共和国、2022年11月、本体2,800円、菊変型判並製352頁、ISBN978-4-907986-92-6
『統一教会と改憲・自民党』佐高信[著]、作品社、2022年11月、本体2,000円、四六判並製270頁、ISBN978-4-86182-945-1
『曙食堂』東野光生[著]、作品社、2022年11月、本体1800円、46判上製308頁、ISBN978-4-86182-938-3
『あの日々』高木國雄[著]、作品社、2022年11月、本体1800円、46判上製316頁、ISBN978-4-86182-944-4
★『バッサ・モデネーゼの悪魔たち』は、ドイツに生まれイタリアで活躍するジャーナリスト、パブロ・トリンチャ(Pablo Trincia, 1977-)の著書『Veleno. Una storia vera』(Einaudi, 2019)の訳書です。原題をそのまま訳すと『毒――ある実話』。1997~8年に北イタリアのバッサ・モデネーゼで起きたカルト犯罪の真実に迫ったノンフィクションです。子供たちに対する性的虐待や悪魔的儀式の疑いで複数の両親たちが逮捕され、子供たちは家族から引き離されたものの、事件の裏には若い女性カウンセラーやソーシャルワーカーによる、子供たちへの長時間にわたる過剰に誘導的な聴き取りと恣意的な分析があった、というとても怖い話。カウンセラーは再調査の折に逮捕されず、マスコミに対しても自己弁護を繰り返しているとのことで、後世が教訓とすべき貴重な歴史ドキュメントとなっています。
★作品社さんの今月新刊から3点。『統一教会と改憲・自民党』は発売済。『創』『社会新報』『社会民主』『フォーラム21』など各媒体に2021年から2022年にかけて発表してきた時評をまとめ、書き下ろしをいくつか加えたもの。小説2作、『曙食堂』『あの日々』は先週金曜日18日に取次搬入済。書店店頭に並ぶのは今週からになるかと思われます。『曙食堂』は水墨画家・作家が描く「昭和への鎮魂」(帯文より)。『あの日々』は「ベテラン弁護士が活写する迫真の法廷小説」(帯文より)。