『コスモポリタニズム――「違いを越えた交流と対話」の倫理』クワメ・アンソニー・アッピア著、三谷尚澄訳、みすず書房、2022年9月、本体3,600円、四六判上製312頁、ISBN978-4-622-09533-0
『ホラーの哲学――フィクションと感情をめぐるパラドックス』ノエル・キャロル著、高田敦史訳、フィルムアート社、2022年9月、本体3,200円、四六判並製500頁、ISBN978-4-8459-1920-8
★『コスモポリタニズム』は、英国生まれで米国で教鞭を執る文化理論家クワメ・アンソニー・アッピア(Kwame Anthony Appiah, 1954-)の著書『Cosmopolitanism』(Allen Lane, 2006)の訳書。カルチュラル・スタディーズを学んでいる者にとってはつとに著名な研究者ですが、本書が初の訳書となります。カバー裏紹介文に曰く「本書は、ともすれば安易な理想主義に陥りかねないコスモポリタニズムの思想を、さまざまな文化や習慣に触れてきた著者の経験を交えつつ、現代に通用する形で鍛え直すことをねらいとしている。「過去の遺物」ではない、「新しい可能性」をもった倫理として」。待望の翻訳です。
★「世の中に存在する諸価値の間にランク付けを導入し、優先順位をつけようとしても、最終的な合意が得られる望みはないだろうと思う。それゆえ、価値の問題をめぐる私の論述は、「共に暮らし/言葉を交わす」というモデルへと――とりわけ、生活様式の異なる人々の間での対話と交流というモデルへと立ち戻ることになるだろう。私たちは、これから、これまで以上に混み合った世界の中で生きていくことになる。半世紀後には、狩猟採集に日々過ごしていた人類という種族の総数は90億に迫っていることだろう。国境を越えた対話や交流は、状況に応じて、楽しいものにもなれば、ただ煩わしいだけのものになることもあるだろう。しかし、「私たちはそれらを避けることができない」という点に、対話や交流の中心的性質は見いだされるのである」(はじめに、xvi頁)。
★「自分とは違った土地に暮らす人々の声に耳を傾けてみること。つまり、異国の小説を読み、異国の映画を鑑賞し、異国の芸術作品と向き合ってみること。その営みを通じて、私たちは異質な他者たちと付き合うとはどのようなことであるかを、想像上の世界において経験することができる。そして、国家であれ、宗教であれ、何か他のものであれ、何らかの要素に裏打ちされたアイデンティティの境界を超えて、その向こう側の世界に暮らす他者たちと会話し、交流することの第一歩は、この種の想像上の他者との付き合いから始まる。要するに、「対話/交流」(conversation)という言葉を用いることで、実際に言葉を用いて話をすることだけでなく、自分とは異なる考え方を詩、自分とは異なる仕方で世界を経験している他者たちと関わってみることのメタファーをも意味させてみたい。それが私の考えなのでる。また、このことは、私が想像力の役割を強調していることの理由にもなっている。想像上の出会いは何であれ、適切な仕方で他者に出会ってみるということ。そういった経験ができれば、その経験はそれ自体において価値をもつだろうからだ。交流がなされたからといって、何がしかの問題に関して――とりわけ、価値をめぐることがらに関して――人々の意見が一致するに至る、などということはないだろう。でも、それでよいのではないか。お互い、そこにいるのが当たり前。「交わってみること」を通じて、そのような感覚を得る助けとすることができるのなら、それで十分なのである」(124頁)。
★『ホラーの哲学』は、米国の哲学者・美学者ノエル・キャロル(Noël Carroll, 1947-)の著書『The Philosophy of Horror, or Paradoxes of the Heart』(Routledge, 1990)の全訳。帯文に曰く「分析美学の第一人者である著者が、フィクションの哲学、感情の哲学、ポピュラーカルチャー批評を駆使して、その不思議と魅力の解明に挑む」と。キャロルの訳書は、『批評について――芸術批評の哲学』(原著2009年;森功次訳、勁草書房、2017年)に続く2冊目。
★「ホラー小説と啓蒙思想の間には、経験的な考察ではなく概念的な考察に基づく関係があるかもしれない。わたしはこれまでの議論を通じて、アートホラーの感情には、モンスター ――アートホラーの感情が集中する対象――が侵害する自然という概念が含まれていることを強調してきた。モンスターは超自然的であるか、SF的な空想から生み出されたものであったとしても、少なくともわたしたちが知っているような自然に公然と反抗する。ホラーのモンスターは、つまり自然の侵犯という概念を具体化したものだ。しかし、自然を侵犯するには、自然についての捉え方が必要だ。この捉え方によって、問題の対象が自然に反する領域に追いやられる。この点で、啓蒙思想はもらー小説が正しい種類のモンスターを生み出すために必要となる自然の規範を与えたと提案したくなるかもしれない」(120頁)。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。作業時間が足りず、書名のみ掲出いたします。
『ストロング・ポイズン』ドロシー・L・セイヤーズ著、大西寿明訳、幻戯書房、本体3,600円、四六判上製384頁、ISBN978-4-86488-255-2
『しかし語らねばならない――女・底辺・社会運動』郡山吉江著、共和国、2022年9月、本体2,600円、四六変型判328頁、ISBN978-4-907986-90-2
『レヴィナス読本』レヴィナス協会編、法政大学出版局、2022年9月、本体3,100円、A5判並製352頁、ISBN978-4-588-15128-6
『現代思想2022年10月号 特集=大学は誰のものか――国際卓越研究大学・教職員労働問題・就活のリアル…』青土社、2022年9月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1436-0
『日本を旅する大旅行地図帳 歴史編』平凡社編、平凡社、2022年9月、本体2,400円、A4判並製192頁、ISBN978-4-582-41815-6
★作品社さんの9月新刊より3点。
『ドゥルーズ=ガタリ『アンチ・オイディプス』を読む』森田裕之著、作品社、2022年9月、本体2,400円、46判並製224頁、ISBN978-4-86182-932-1
『神と霊魂――本居宣長・平田篤胤の〈神〉論アンソロジー』子安宣邦著、作品社、2022年9月、本体2,400円、46判上製208頁、ISBN978-4-86182-928-4
『小説集 徳川家康』鷲尾雨工/岡本綺堂/近松秋江/坂口安吾著、三田誠広解説、作品社、2022年9月、本体1,800円、46判上製336頁、ISBN978-4-86182-931-4
★藤原書店さんの9月新刊より4点。
『経済学の認識論――理論は歴史の娘である』ロベール・ボワイエ著、山田鋭夫訳、藤原書店、2022年9月、本体2,800円、四六判上製208頁、ISBN978-4-86578-359-9
『1937年の世界史――別冊『環』27』倉山満/宮脇淳子編、藤原書店、2022年9月、本体2,800円、菊変判並製208頁、ISBN978-4-86578-349-0
『加賀百万石の侯爵――陸軍大将・前田利為 1885-1942』村上紀史郎著、藤原書店、2022年9月、本体4,800円、四六判上製528頁、ISBN978-4-86578-356-8
『東アジア国境紛争の歴史と論理』石井明/朱建栄編、藤原書店、2022年9月、本体4,800円、A5判上製408頁、ISBN978-4-86578-360-5