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注目新刊:ユク・ホイ『中国における技術への問い』ゲンロン、ほか

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『中国における技術への問い――宇宙技芸試論』ユク・ホイ著、伊勢康平訳、ゲンロン、2022年8月、本体3,000円、四六判並製480頁、ISBN978-4-907188-46-7
『再帰性と偶然性』ユク・ホイ著、原島大輔訳、青土社、2022年2月、本体4,600円、四六判上製438+26頁、ISBN978-4-7917-7446-3
『官能の庭――バロックの宇宙』​マリオ・プラーツ​著、伊藤博明/若桑みどり/上村清雄/新保淳乃訳、伊藤博明監修、ありな書房、2022年8月、本体2,400円、A5判並製192頁、ISBN978-4-7566-2281-5
『ピクタ・ポエシス――ペトラルカからエンブレムへ』マリオ・プラーツ著、伊藤博明/若桑みどり/新保淳乃訳、伊藤博明監修、ありな書房、2022年5月、本体3,000円、A5判並製296頁、ISBN978-4-7566-2280-8
『ベルニーニの天啓―― 一七世紀の芸術』マリオ・プラーツ著、伊藤博明/若桑みどり/上村清雄/新保淳乃訳、伊藤博明監修、ありな書房、2022年3月、本体2,800円、A5判並製272頁、ISBN978-4-7566-2279-2

★『中国における技術への問い』は、香港出身の哲学者ユク・ホイ(許煜, Yuk Hui)の著書『The Question Concerning Technology in China: An Essay in Cosmotechnics』(Urbanomic, 2017)の全訳。凡例によれば底本は2018年の第2版で、2022年の第3版での修正も反映しているとのことです。さらに「日本語版へのまえがき」が加えられています。本書の序論は「ゲンロン」誌第7号から第9号に、第6節まで仲山ひふみさんの翻訳で掲載されましたが、単行本化にあたり伊勢康平さんによって全面改訳されているとのことです。帯文に曰く「諸子百家と人新世を結ぶ、まったく新たな技術哲学の誕生」と。巻末解説「「宇宙技芸」の再発明」は中国哲学がご専門の哲学者、中島隆博さんがお寄せになっています。

★「私は、この試論のなかで以下のふたつのことを示したい。ひとつは、哲学や人類学、技術史におけるテクノロジーの解釈のされ方には議論の余地があること。もうひとつは、テクノロジーに対する異なる理解を手に入れ、そこから見える別の未来について深く考えることが私たちにとって喫緊の課題であるということだ。これこそ、私は10年以上前に着手し、2016年に本書によって具体化させた「宇宙技芸」というプロジェクトにほかならない」(日本語版へのまえがき、13頁)。「宇宙技芸が示すのは、人類史上のさまざまな地理的領域における技術の多様性だけではない。異なる思考のかたちや、人間と環境の複雑な一連の関係もそうである。〔…〕テクノロジーの問いを開きなおし、ソーシャルネットワークであれ人工知能であれ、近代的なテクノロジーに潜む存在論的、認識論的な仮定を疑っていくことが必要だ」(同、19頁)。

★なお同書の刊行を記念し、動画サイト「シラス」ではゲンロン主催イベントとして2022年9月22日(木)19時から、石田英敬×原島大輔×伊勢康平の3氏による鼎談「宇宙技芸の世紀にむけて」が配信される予定とのことです。

★本書に先立ち2月に刊行されたユク・ホイさんの初訳本が『再帰性と偶然性』です。『Recursivity and Contingency』(Rowman and Littlefield, 2019)の全訳。訳者あとがきによれば、「原書における明らかな誤記については著者に確認の上で特に注記することなく修正を施した。また索引についても著者の協力の下でより簡潔なものに改めた」とのことです。巻頭に「日本語版へのまえがき」が付されています。

★「哲学は解決策を提示することではなく問うことが仕事である。問うことなしに決して答えはない。わたしが確信しているのは、技術多様性と精神多様性すなわち哲学的な思考の多様性とは相関しているということである。生物多様性と技術多様性もそうである。これはもしかすると東洋思想を今日読解する新たな視座を与えてくれるかもしれない」(日本語版へのまえがき、6頁)。『中国における技術への問い』の日本語版へのまえがきではこう書かれていました。「思考の再構成について考えられるようになるためには、まず前近代-近代-ポストモダン-アポカリプスと規定されていく直線的な歴史の時間から私たちを解放する断片化が必要であるということだ(こちらは2019年の『再帰性と偶然性』のひとつの主題である」(18~19頁)。

★『中国における技術への問い』は、『再帰性と偶然性』や未訳の『芸術と宇宙技芸』(Art and Cosmotechnics, University of Minnesota Press, 2021)との併読によって、その問題圏をより深く理解できるようになるのではないかと思います。

★ありな書房さんのシリーズ「官能の庭――マリオ・プラーツ芸術論」は、昨春に『マニエーラ・イタリアーナ――ルネサンス・二人の先駆者・マニエリスム』(伊藤博明/白崎容子/若桑みどり/上村清雄/森田義之訳、伊藤博明監修、ありな書房、2021年5月)が刊行されて以来、消息を見失っていましたが、今年3月に第Ⅲ巻『ベルニーニの天啓』、5月に第Ⅱ巻『ピクタ・ポエシス』、そして今月(8月)、第Ⅳ巻『官能の庭』が刊行されました。旧版『官能の庭――マニエリスム・エンブレム・バロック』(若桑みどりほか訳、ありな書房、1992年)に対する、新版各巻の関係は以下の通り。

第Ⅰ巻『マニエーラ・イタリアーナ』:旧版第一部「二人の先駆者」と第二部「マニエリスム研究」をもとに、一部の論考をさしかえて刊行。既訳分は各訳者自身があらためて検討を加え、故人である若桑さんと上村さんの担当分は伊藤さんが「新たに細部にわたって確認修正した」。

第Ⅱ巻『ピクタ・ポエシス』:旧版第三部「ペトラルカからエンブレムへ」をもとに、ほぼ三分の二の論考をさしかえて刊行。既訳分は各訳者自身が検討を加え、故人である若桑さんの担当分は伊藤さんと新保さんが「慎重に確認し修正した」。

第Ⅲ巻『ベルニーニの天啓』:旧版第四部「17世紀の芸術」をもとにほぼ半分の論考をさしかえ新しい企図にもとづき刊行。既訳分は各訳者自身が検討を加え、故人である若桑さんと上村さんの担当分は伊藤さんと新保さんが「確認修正した」。

第Ⅳ巻『官能の庭』:旧版第五部「バロックの宇宙」から8篇を選び新訳として刊行。故人である若桑さんと上村さんの担当分は伊藤さんと新保さんが「慎重に確認し修正した」。

★各巻の収録論考は書名のリンク先でご確認いただけます。新版「官能の庭」の続巻、第Ⅴ巻は『パリの二つの相貌――建築と美術と文学とⅠ フランス』と予告されています。「建築と美術と文学とⅠ」ということはさらなる続巻「Ⅱ」があるのかどうか、気になるところです。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『三つの物語』スタール夫人著、石井啓子訳、幻戯書房、2022年8月、本体2,400円、四六変型判上製232頁、ISBN978-4-86488-253-8
『哲学の門前』吉川浩満著、紀伊國屋書店、2022年9月、本体1,800円、46判並製272頁、ISBN978-4-314-01193-8
『老犬 その他の詩』松本圭二著、大野南淀英訳、航思社、2022年8月、本体3,400円、四六判変形並製240頁、ISBN978-4-906738-46-5
『現代思想2022年9月号 特集=メタバース――人工知能・仮想通貨・VTuber…進化する仮想空間の未来』青土社、2022年8月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1435-3

★『三つの物語』は、「ルリユール叢書」第25回配本35冊目。フランスの作家スタール夫人(Madame de Staël, 1766–1817)の小説集『断片集』(1795年)のなかから「ミルザ、あるいは、ある旅行者の手紙」「アデライードとテオドール」「ポーリーヌの物語」の3篇を選んで訳出したもの。帯文に曰く「三角貿易の拠点セネガル、アンティル諸島、ル・アーヴルを舞台にした三人のヒロインたちによる「愛と死」の理想を描く中編小説集。本邦初訳」と。

★『哲学の門前』は、文筆家、編集者、ユーチュバーとして幅広く活躍されている吉川浩満(よしかわ・ひろみつ, 1972-)さんが、紀伊國屋書店のPR誌「scripta」に2016年から2021年まで計20回にわたって連載した「哲学の門前」に加筆修正を施したもの。7部構成で、第6部には山本貴光さんによる「吉川浩満くんのこと」が併録されています。吉川さんによる「山本貴光くんのこと」も同部に掲載。自伝的エピソードがふんだんに綴られており、著者の素顔を垣間見る心地がします。

★『老犬 その他の詩』は、詩人でフィルム・アーキヴィストの松本圭二(まつもと・けいじ, 1965-)さんの詩作品23篇を、英訳とともに出版するバイリンガル詩集。まえがき、あとがき、口上の類はなし。目次詳細と、作品からの部分引用を書名のリンク先でご覧いただけます。版元の航思社さんが、2017年から18年にかけて「松本圭二セレクション」全9巻を、2019年に詩集『松本悲歌』を刊行済であることは、周知の通りです。

★『現代思想2022年9月号 特集=メタバース』は、ドミニク・チェンさんと安田登さんの討議「未来の身体論対話」のほか、郡司ペギオ幸夫さんによる「「以前、確かにそのゲームの世界に自分が住んでいた」という記憶はどこから来るのか――メタバース=宙吊りにされた意識モデル」や、木澤佐登志さんによる「一九八四年のメタバース」など17篇の論考を収録。

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