★6月発売済の注目新書2点を列記します。下記2点でもっとも興味深い対比は、同じフランス人のアタリとトッドの違いです。前者はEU寄りでロシアの民主化を求め、後者は反米でロシアの立場に一定の理解があります。日本に対するアドバイスもこの二者間では異なります。日本は核保有すべきではないと考えるのがアタリ、その逆で日本も核保有すべきだというのがトッドです。日本人はこの二つの視点のあいだでどう考えるか。トッドは母国では支持されることが難しいと自覚している言論を日本独自版である本書で展開しており、この小さな本はトッドの著書のなかでも特異な一書となるのではないかと思います。
『ウクライナ危機後の世界』ユヴァル・ノア・ハラリ/ジャック・アタリ/ポール・クルーグマン/ジョセフ・ナイ/ティモシー・スナイダー/ラリー・ダイアモンド/エリオット・ヒギンズ著、大野和基編、宝島社新書、2022年6月、本体900円、新書判224頁、ISBN978-4-299-03045-0
『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド著、大野舞訳、文春新書、2022年6月、本体780円、ISBN978-4-16-661367-0
★次に、まもなく発売となる注目近刊を2点列記します。『世界は五反田から始まった』は電子版『ゲンロンβ』での連載に加筆修正したもの。帯文に曰く「大宅壮一ノンフィクション賞作家が描く、もうひとつの東京大空襲」と。『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』は帯文に曰く「東大一の大人気ゼミ、ついに書籍化。ボカロ、ジェンダー、哲学・・・“20年代の教養”のすべて」。作曲家で音楽評論家の鮎川さんの初の単著です。
『世界は五反田から始まった』星野博美著、ゲンロン、2022年7月、本体1,800円、四六判並製372頁、ISBN978-4-907188-45-0
『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』鮎川ぱて著、文藝春秋、2022年7月、本体2,200円、四六判並製520頁、ISBN978-4-16-391362-9
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。『出帆』は夢二の自伝的小説を「夢二自身が手掛けた134枚の挿絵も完全収録して半世紀ぶりに復刻」と。三田さんの書き落とし歴史長編小説『天海』は、2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」の関連商品とのことです。『中央公論』8月号では第2特集「ウクライナ戦争に翻弄される世界」で、ゲンロン代表の上田洋子さんの寄稿「ロシア兵は悪の鬼「オーク」なのか」が掲載されています。『文藝』秋号ではメイン特集「私小説」で、千葉雅也さんの論考「「私小説」論、あるいは、私の小説論」が掲載。
『出帆』竹久夢二著、作品社、2022年7月、本体2600円、A5判上製384頁、ISBN978-4-86182-920-8
『天海』三田誠広著、作品社、2022年7月、本体2600円、46判上製288頁、ISBN978-4-86182-898-0
『中央公論 2022年8月号【特集】軋む中国 実力と虚像』中央公論新社、2022年7月、本体864円、A5判並製264頁、雑誌06101-08
『文藝 2022年秋季号』河出書房新社、2022年7月、本体1,350円、A5判並製504頁、ISBN978-4-309-98045-4