『産業の新世界』シャルル・フーリエ著、福島知己訳、作品社、2022年5月、本体7,800円、A5判上製704頁、ISBN978-4-86182-897-3
★『愛の新世界』(原著1816年執筆;福島知己訳、初版2006年;増補新版2013年)に続いて、福島さんによる『産業の新世界』(『Le Nouveau monde industriel et sociétaire ou invention du procédé d'industrie attrayante et naturelle, distribuée en séries passionnées』1829年刊)の完訳がついに上梓されました。帯文に曰く「初期資本主義の病巣を分析し、理想社会ファランジュの構築プランを描き出したフーリエの古典的名著。初版完訳版、ついに刊行」。フランスの社会思想家シャルル・フーリエ(Francois Marie Charles Fourier, 1772-1837)の著書のなかでも日本では注目されてきた方で、抄訳としては、西出不二夫訳「調和社会の教育」(『世界教育学選集(52)』所収、明治図書出版、1970年)や、田中正人訳「産業的協働社会的新世界」(『世界の名著(続8)』所収、中央公論社、1975年)があります。
★本書序文の書き出しはこうです。「産業収入を突如四倍化し、話し合いにもとづく黒人と奴隷の解放をどんな奴隷主にも決断させ、あらゆる野蛮人と未開人(哲学はこれまで一度も彼らのことを考えてこなかった)を即刻開化し、言語、度量衡、通貨、活字組版等のあらゆる統一を自然発生的に樹立する手立て。「山師の言い草だ」、と皮肉屋ならいうだろう」(14頁)。また、後段ではこうも書いています。「人類のまるごと全体が解放され、救出されていく。ひとつの小郡でおこなわれた試験を通じて、そこからどれほどの驚異的な富、快楽、徳が取り集められるかを知るとすぐに人類は、いたるところで誘引的産業に連繋するようになるだろう。/そのとき党派精神による妄想と癇癪が終わることになる。人間の真の運命、情念の力学をみれば、だれもが文明世界流の不条理にたいへん忸怩たる思いをするので、それをできるだけ早く忘れることに賛同するようになる」(20~21頁)。
★まもなく発売となる近刊から3点を列記します。
『分断された天――スラヴォイ・ジジェク社会評論集』スラヴォイ・ジジェク著、岡崎龍監修解説、中林敦子訳、ele-king books(Pヴァイン)、2022年6月、本体2,500円、四六判並製296頁、ISBN978-4-910511-20-7
『レイシズム運動を理解する――理論、方法、調査』キャスリーン・M・ブリー著、鈴木彩加訳、人文書院、2022年6月、本体4,500円、4-6判上製380頁、ISBN97-8-440-924146-2
『フェミニスト・キルジョイ』サラ・アーメッド著、飯田麻結訳、人文書院、2022年6月、本体4,500円、4-6判並製466頁、ISBN978-4-409-24147-9
★『分断された天』はスロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek, 1949-)が2020年から2021年にかけての世界情勢について分析した論考をまとめた『Heaven in Disorder』(OR Books, 2021)の全訳。一昨年、昨年と続いた訳書『パンデミック』『パンデミック2』の姉妹編と言えそうです。帯文に掲げられたキーワードを引いてみると、トランプ、バイデン、サンダース、プーチン、アサンジ、グレタ・トゥーンベリ、ブレグジット、黄色いベスト運動、雨傘運動、中東紛争とパレスチナ闘争、コロナ禍、といった多岐にわたる論説を読むことができます。ジジェクは巻頭でこう述べています、「レーニンが求めた「具体的な状況の具体的な分析」。これが、かつてないほど今、現実味を帯びている。答えを導き出すシンプルな普遍的公式などはない」(9頁)。
★人文書院さんの近刊書2点、いずれも27日取次搬入とのことです。『レイシズム運動を理解する』は、米国右翼運動研究の第一人者でピッツバーグ大学社会学特別栄誉教授のキャスリーン・M・ブリー(Kathleen M. Blee, 1953-)の最新著『Understanding Racist Activism: Theory, Methods, and Research』(Routledge, 2018)の全訳。序章に曰く「本書は、1920年代から近時までの白人至上主義を対象に実施してきた研究から、論点やアプローチ、倫理、知見、そして教訓を探究するものである。本書には、人種差別運動の分析的研究と、暴力的な人種差別運動を間近で研究することの感情的な浮き沈みに関する個人的内省を収録している」(16頁)。ブリーの訳書は本書が初めてとなります。
★『フェミニスト・キルジョイ』は、ロンドン大学ゴールドスミス校の元教授でフェミニズム理論などを専門とする独立研究者で活動家であるサラ・アーメッド(Sara Ahmed, 1969-)の著書『Living a Feminist Life』(Duke University Press, 2017)を訳したもの。フェミニストとして生きることの困難と挑戦と課題が率直に綴られた本書の書き出しはこうです。「「フェミニズム」という言葉を聞いたとき、あなたには何が聞こえるだろうか? その言葉はわたしを希望とエネルギーで満たしてくれる」(7頁)。本書の結論を成す「キルジョイ・サバイバル・キット」「キルジョイ宣言」の熱量は特筆すべきかと思います。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『本屋という仕事』三砂慶明編、世界思想社、2022年6月、本体1,700円、 4-6判並製216頁、ISBN978-4-7907-1770-6
『生命機械が未来を変える――次に来るテクノロジー革命「コンバージェンス2.0」の衝撃』スーザン・ホックフィールド著、久保尚子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2022年6月、本体2,300円、46判上製264頁、ISBN978-4-7726-9576-3
『なぜ新型ウィルスが、次々と世界を襲うのか?――パンデミックの生態学』マリー=モニク・ロバン著、杉村昌昭訳、作品社、2022年5月、本体2,700円、四六判上製360頁、ISBN978-4-86182-921-5
『ガリツィアのユダヤ人――ポーランド人とウクライナ人のはざまで[新装版]』野村真理著、人文書院、2022年6月、本体3,000円、4-6判並製272頁、ISBN978-4-409-51093-3
★『本屋という仕事』は梅田蔦屋書店人文コンシェルジュの三砂慶明(みさご・よしあき, 1982-)さんを編者とし、三砂さんを含む18名の書店員さん(現役書店員16名、元書店員2名)が自らの仕事についてのエッセイを寄せたり、鼎談を行ったりしたもの。三砂さんのほかの参加者は以下の通り。モリテツヤ(汽水空港)、宇田智子(市場の古本屋ウララ)、田尻久子(橙書店・オレンジ)、奈良敏行(定有堂書店)、辻山良雄(Title)、堀部篤史(誠光社)、黒田義隆(ON READING)、北村知之(梅田蔦屋書店)、岡村正純(大阪高裁内ブックセンター)、徳永圭子(丸善博多店)、東二町順也(紀伊國屋書店新宿本店)、北田博充(書肆汽水域・梅田蔦屋書店)、磯上竜也(toi books)、長江貴士(元さわや書店フェザン店)、鎌田裕樹(元恵文社一乗寺店)、狩野俊(コクテイル書房)、田口幹人(合同会社未来読書研究所・北上書房)。光栄にも私の名前が出てくる箇所があります。なお同書の刊行を記念して、八重洲ブックセンター本店、Readin' Writtin' 、コクテイル書房、ブックスキューブリック箱崎店、六本松蔦屋書店、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店などでトークイベントが続々と行われるとのことです。
★『生命機械が未来を変える』は、マサチューセッツ工科大学名誉学長で神経科学者のスーザン・ホックフィールド(Susan Hockfield, 1951-)の著書『The Age of Living Machines: How Biology Will Build the Next Technology Revolution』(Norton, 2019)を訳したもの。著者曰く「私が本書の各章で紹介するテクノロジーは、それぞれに形は異なるものの、いずれも生物学と工学の革新的なコンバージェンス(集約)から生まれた産物だ。私たちは今、その変革の最中を生きている。工学と生物学のマリアージュから生まれた新しいテクノロジーについての私の説明が成功していれば、読者は本書を読むことで、両分野の進展を使用して生み出された「バッテリーをつくるウイルス」や「水を浄化するタンパク質」、そして本書に登場する他のすべてのテクノロジーについて、多くを知るようになる」(29頁)と。本書の目次・はじめに・解説は書名のリンク先で立ち読みできます。
★『なぜ新型ウィルスが、次々と世界を襲うのか?』は、フランスの調査ジャーナリストでドキュメンタリー映画作家のマリー=モニク・ロバン(Marie-Monique Robin, 1960-)によるインタヴュー集『La fabrique des pandémies : Préserver la biodiversité, un impératif pour la santé planétaire』(La Découverte, 2021, Editions Pocket, 2022)の全訳。2022年新版の補章「ますます深まる新型コロナの謎――自然起源化流出か?」も訳出されています。原題を直訳すると「パンデミック製造所――生物多様性を守ることが地球の健康によって必要不可欠」となる本書は、医学、感染症学、ウイルス学、進化生物学、保全生物学、生態学など、五大陸の専門家62名に取材し、新型感染症の実態と発生メカニズムに迫った力作。帯文に曰く「パンデミックの起源は、森林と生物多様性の破壊だった」と。同名のドキュメンタリー映画が公開予定と聞いています。リンク先で予告編をご覧になれます。なお、作品社さんではロバンの先行作『モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』(村澤真保呂/上尾真道訳、戸田清監修)を2015年に刊行しています。
★『ガリツィアのユダヤ人』は2008年初版刊の新装版。巻頭の「新装版 序」に曰く「本書は、ユダヤ人に視点を据えつつ、この地域〔東ガリツィア、現ウクライナ〕がポーランド・リトアニア国領からオーストリア帝国領へ、第一次世界大戦後はオーストリア帝国領から両大戦期間のポーランド共和国領へ、さらに第二次世界大戦後はポーランド共和国領から旧ソ連の構成国であったウクライナ共和国領へと移動するにともない、ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の民族間関係もまた劇的に変化していった様相を追ったものである」。改訂版ではないものの「誤記は書き改めた」とのことです。著者の野村真理(のむら・まり, 1953-)さんは金沢大学名誉教授。人文書院さんでの既刊書に『隣人が敵国人になる日――第一次世界大戦と東中欧の諸民族』(2013年)があります。