『エクリチュールと差異〈改訳版〉』ジャック・デリダ著、谷口博史訳、法政大学出版局、2022年月、本体5,400円、四六判上製654頁、ISBN978-4-588-01143-6
『普遍法』ジャンバッティスタ・ヴィーコ著、上村忠男編訳・註解、ぷねうま舎、2022年5月、本体3,600円、四六判上製384頁、ISBN978-4-910154-33-6
★『エクリチュールと差異〈改訳版〉』は、フランスの哲学者デリダ(Jacques Derrida, 1930-2004)の初期代表作である『L'ecriture et la différence』(Seuil, 1967)の三度目の新訳。初訳は上下二巻本で若桑毅ほか訳、上巻1977年刊、下巻1983年刊。 新訳版と銘打った二度目の翻訳は、合田正人・谷口博史訳、2013年刊。そして今回の改訳版は谷口さんの単独訳です。訳者あとがきによれば、新訳版から改訳版までの間隔が短いのは、新訳版が原著版元との契約上の出版期限の都合で短期間に仕上げられたために、刊行後さらに改良の余地が出てきたことを背景としているようです。今回も合田さんとの改訳が当初は企図されていたようですが、合田さんの多忙により谷口さんの単独改訳となったとのことです。
★谷口さんはこう綴っておられます。「この第三ヴァージョンは語順と文章間の接続とに特別に留意して訳文を作成することを(いっそう)心掛けた。〔…〕できるかぎり(あるいはもっとつつましく、なるべくと言うべきだろうか)フランス語で読んだ際の語順、つまり目に入ってくる情報の順序を尊重して訳文を作成したことをここでお断りしておきたい」(638頁)。
★「デリダは起源というものにとりつかれている、そう言ってもたぶん過言ではない。まちがいなく「起源」という問いを投入し設置することがデリダの思考の主要な駆動力なのだ。もちろんこれはまだ見ぬ起源を探し求めようとする素朴な書物ではなく、起源を(起源的に)問題化する書物である。起源が不在であること、期限が書かれていること、あるいは起源そのものが必然的に二次的であることを唱え続ける書物である。当時としては未聞の試みであり、なかなか飲み込みにくいこのテーゼを多くの人に納得させるためにデリダは何度も繰り返しこの点を強調して論じている。「初期」デリダの主要な論点のひとつである」(640頁)。
★『普遍法』は、イタリアの哲学者ヴィーコ(Giambattista Vico, 1668-1744)の主著『新しい学』(原著:Principi di scienza nuova, 1725年; 上村忠男訳、中公文庫、全2巻、2018年)の元型、事実上の第一稿である『Dritto universale』の抄訳。同作の原書は第一巻『普遍法の単一の原理と単一の目的』(1720年)、第二巻『法律家の一貫性』(1721年)、そしてその註解書『両巻への註解』(1722年)から成ります。あとがきによれば、今回の訳書では「第一巻の後半は大部分が第二巻でより詳細かつ具体的に再論されているので省略させてもらった。さらに註解書については、最低限必要不可欠と思われたものだけを訳者註のなかで紹介するにとどめた」とのことです。上村さんはまた、「これをもって1968年以来半世紀にわたって続けてきたヴィーコの思想との取り組みはひとまず終了とさせてもらうことにする」とも書かれています。
★ヴィーコはこう書きます。「彼ら〔マキャヴェッリやホッブズ等〕は、人間社会は恐怖によって維持されてきたのであり、法律は権力者が無知な群衆を支配するための方策である、という結論を導き出す〔…〕わたしたちはまずもって、永遠にして真実なるものの法、ひいてはすべての民のあいだでつねにいたるところでおこなれわれている法が存在するということを確立することからはじめなければならない」(62頁)。
★このほかに下記の新刊との出会いがありました。時間の都合により、書誌情報のみ掲出いたします。
『ベルクソンの哲学――生成する実在の肯定』檜垣立哉著、杉山直樹解説、講談社学術文庫、2022年5月、本体1,180円、A6判320頁、ISBN978-4-06-528156-7
『マルジナリアでつかまえて(2)世界でひとつの本になるの巻』山本貴光著、ほんの雑誌社、2022年5月、本体2,000円、四六判並製320頁、ISBN978-4-86011-468-8
『リャマサーレス短篇集』フリオ・リャマサーレス著、木村榮一訳、河出書房新社、2022年5月、本体2,900円、46判上製270頁、ISBN978-4-309-20853-4
『さらば、ベイルート――ジョスリーンは何と闘ったのか』四方田犬彦著、河出書房新社、2022年5月、本体2,720円、46変型判240頁、ISBN978-4-309-03039-5
『李氏朝鮮最後の王李垠(3)大日本帝国[大正期]1912-1920』李建志著、作品社、2022年3月、本体3,600円、46判上製594頁、ISBN978-4-86182-889-8
『ヴェネチア・ビエンナーレと日本』国際交流基金企画監修、三上豊ほか編、平凡社、2022年5月、本体2,700円、B5判上製288頁、ISBN978-4-582-20650-0
『現代思想2022年6月号 特集=肉食主義を考える――ヴィーガニズム・培養肉・動物の権利…人間-動物関係を再考する』青土社、2022年5月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1431-5
『戦争とフォーディズム――戦間期日本の政治・経済・社会・文化』竹村民郎著、藤原書店、2022年5月、本体4,800円、四六判上製512頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-347-6
『旅館おかみの誕生』後藤知美著、藤原書店、2022年5月、本体3,800円、四六判上製416頁、ISBN978-4-86578-340-7
『人薬(ひとぐすり)――精神科医と映画監督の対話』山本昌知・想田和弘著、藤原書店、2022年5月、本体2,000円、B6変型判上製280頁、ISBN978-4-86578-345-2
『パリ日記――特派員が見た現代史記録1990-2021(Ⅳ)サルコジの時代 2007.5-2011.9』山口昌子著、藤原書店、2022年5月、本体4,800円、A5判並製480頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-346-9