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市田良彦訳、アルチュセールの新刊2点同時刊行、ほか

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★市田良彦さんによるアルチュセールの訳書2冊が以下の通り同時刊行されました。市田さんによるアルチュセール再評価の数々のお仕事は、論考にせよ(『アルチュセール ある連結の哲学』白水社、2010年)にせよ、数々の翻訳にせよ、注目に値するものばかりです。

『哲学においてマルクス主義者であること』ルイ・アルチュセール著、市田良彦訳、航思社、2016年7月、本体3,000円、四六判上製320頁、ISBN978-4-906738-18-2
『終わりなき不安夢――夢話1941-1967』ルイ・アルチュセール著、市田良彦訳、2016年7月、本体3,600円、四六判上製320頁、ISBN978-4-906917-56-3

★『哲学においてマルクス主義者であること』はシリーズ「革命のアルケオロジー」の第6弾。原書は、Étre marxiste en philosophie (PUF, 2015)です。帯文はこうです。「理論における政治/階級闘争」から「政治/階級闘争における理論」へ! 革命の前衛であるはずの共産党が「革命」(プロレタリア独裁)を放棄する――1976年のこの「危機」に対抗すべく執筆されたまま生前未刊行だった革命的唯物論の〈哲学史〉、偶然性唯物論の萌芽とともに綴られる幻の〈哲学入門書〉が、今ここに明かされる。哲学者は哲学者としていかに政治に現実的に関わりうるのか」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★同書は市田さんによる巻末の「危機をまえにした哲学――あとがきにかえて」によれば、アルチュセールの生前未刊行であった「非哲学者向けに掛かれた哲学入門書」には2つの草稿群があり、ひとつが「マルクス主義の教本」プロジェクトで、もうひとつが本書『哲学においてマルクス主義者であること』とその全面改稿版『非哲学者のための哲学入門』(PUF, 2014;未訳)であるとのことです。『終わりなき不安夢』への繋がっていく視点を、市田さんは次のように記しておられます。「「闘争」が空転した果てに「真理」を明らかにするかのような出来事が、本書から数年後の1980年、確かに起きたのである(妻エレーヌ殺害事件)」(314頁)。

★『終わりなき不安夢――夢話1941-1967』の原書は、IMECより昨年(2015年)刊行された、Des rêves d'angoisse sans fin : Récits de rêves (1941-1967) suivi de Un meurtre à deux (1985)です。版元紹介文にはこうあります。「20年以上にわたるアルチュセール遺稿編集出版の最後において、妻殺害事件の核心がついに明かされる。夢の記録と夢をめぐる手紙や考察、そして1985年に書かれた主治医作を騙るアルチュセールの手記「二人で行われた一つの殺人」を集成。市田良彦による解説「エレーヌとそのライバルたち」「アルチュセールにおける精神分析の理論と実践」長編論考「夢を読む」を加えた日本語版オリジナル編集。年表および死後出版著作リストを併録」。

★同書の目次詳細は書名のリンク先にてPDFで公開されています。読者にとってアルチュセールの心の中を覗くことになる貴重なテクスト群です。ごく私的な内容であるため、随所に市田さんによる訳注や解説が配されており、原書以上に親切な一冊となったのではないかと思われます。悪夢すら(すべてではないせよ)記録し続けたアルチュセールのこだわりを感じるとともに、彼自身の数々の理論書とは異なる人物像が浮かび上がるものとなっています。

★『哲学においてマルクス主義者であること』の思想的背景を知る関連文献としては、アルチュセール『共産党のなかでこれ以上続いてはならないこと』(加藤晴久訳、新評論、1979年)や、バリバール『プロレタリア独裁とはなにか』(加藤晴久訳、新評論、1978年)』などを挙げておくのが良いかもしれませんが、いずれも絶版書です。また、『終わりなき不安夢』の関連書としては『エレーヌへの手紙:1947-1980』(IMEC, 2011)がありますが、未訳です。アルチュセールの翻訳は今後もしばらく続くのではないかと思われます。再刊や文庫化、新訳にも期待したいところです。

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★このほか、以下の思想誌新刊に注目しています。近年、新しい思想誌が増えつつあるのと並行して、従来の雑誌も編集体制の若返りが見られ、大きな刺激を受けています。

『ゲンロン3:脱戦後日本美術』東浩紀編、ゲンロン、2016年7月、本体2,400円、A5判並製++頁、ISBN978-4-907188-17-7
『年報カルチュラル・スタディーズ vol.4 特集〈資本〉』カルチュラル・スタディーズ学会編、航思社、2016年6月、本体3,000円、A5判並製324頁、ISBN978-4-906738-19-9
『現代思想2016年8月臨時増刊号 総特集=プリンス 1958-2016』青土社、2016年7月、本体1,500円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1325-7
『現代思想2016年8月号 特集=〈広島〉の思想――いくつもの戦後』青土社、2016年7月、本体1,300円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1326-4

★『ゲンロン』第3号は発売済。特集は「脱戦後日本美術」。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。編集後記によれば「紙を変えて厚みを抑え、50ページ増の内容をなんとか1冊に凝縮した」とのこと。第2号の束幅が約22mm、同じ斤量の本文用紙であれば50頁分は約3mmなので第3号は約25mmとなるところを17mmと約8mm減です。定価は変わらないのでヴォリュームアップは悪くはないような気がするものの、紙が薄くなった分、頁の開き具合は向上していていい感じです。3折も増えれば当然印刷製本費は上がるわけですが、定価を維持する方針かと推察できます。

★奥付頁の近刊紹介によれば、東浩紀さんによる『ゲンロン0:観光客の哲学』は鋭意執筆中とのこと。「ベストセラー『弱いつながり』を更新する東思想の新展開」と。『弱いつながり』は来月5日に幻冬舎文庫で再刊予定。『ゲンロン3.5』は友の会の会員特典非売品で8月上旬発送。友の会メールによれば「非売品の『ゲンロン3.5』が読めるのは、第6期から第7期へ更新いただく方のみ。『ゲンロン観光通信』『ゲンロンβ』から厳選収録した豪華執筆陣による原稿に、東浩紀の書き下ろし巻頭言を加えた、100頁超の『ゲンロン』別冊特別版です」とのこと。第6期の入会は先月末で締め切られているので、第7期から新規入会してももらえない冊子ということかと思います。『ゲンロン4:現代日本の批評III(仮)』は2016年11月刊行予定。現代批評史シリーズの完結篇で、浅田彰さんのお名前が見えます。

★『年報カルチュラル・スタディーズ』第4号は発売済。特集は「資本」。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。編集後記によればカルチュラル・スタディーズ学会は日本学術会議の協力学術研究団体に登録され、正式に学会となったとのことです。第4号では新たな試みとして展覧会評が加えられていますが、今後は「創作や詩などの「クリエイティヴ・ライティング」、活動や運動などの現場ルポ、討論会の記録、写真や絵画などのアート作品をフィーチャーしたページの拡充など、これからやってみたい企画がたくさんあります」とのこと。たいへん楽しみです。

★『現代思想』8月臨時増刊号「プリンス」と8月号「〈広島〉の思想」は発売済。それぞれの目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。リニューアルされた青土社さんのウェブサイトはたいへん見やすくなっており、好印象です。「プリンス」の書容設計は羽良多平吉さんによるもの。「現代思想」の今後の発売予定は以下の通り。8月12日発売予定:2016年9月臨時増刊号「総特集=安丸良夫」、8月27日発売予定:2016年9月号「特集=精神医療の新風景(仮)」、9月7日発売予定:2016年10月臨時増刊号「総特集=未解決問題集(仮)」。「未解決問題集」は数学がテーマ。リーマン予想、ラングランズ予想、ABC予想、P≠NP予想、ポアンカレ予想などを扱うようです。

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★さらに最近では以下の新刊との出会いがありました。

『「百学連環」を読む』山本貴光著、三省堂、2016年8月、本体3,200円、A5判並製528頁、978-4-385-36522-0
『分身入門』鈴木創士著、作品社、2016年8月、本体2,800円、46判上製318頁、ISBN978-4-86182-591-0
『宇宙と芸術』森美術館編、平凡社、2016年8月、本体2,778円、A4変判並製320頁、ISBN978-4-582-20685-2

★山本貴光さんの『「百学連環」を読む』はまもなく発売、明日8月1日取次搬入。あとがきによれば本書は「2011年から2013年にかけて、三省堂が運営するウェブサイト「ワードワイズ・ウェブ」で全133回にわたって連載した「「百学連環」を読む」を単行本にしたもの」で「まとめるにあたり、全篇を見直し加筆・修正を加えてい」るとのことです。目次は以下の通り。

はじめに
第1章 どんな文書か
第2章 「百学連環」とはなにか
第3章 「学」とはなにか
第4章 「術」とはなにか
第5章 学と術
第6章 観察と実践
第7章 知行
第8章 学術
第9章 文学
第10章 学術の道具と手法
第11章 論理と真理
第12章 真理を知る道
第13章 知をめぐる罠
第14章 体系と方法
第15章 学術の分類と連環
あとがき
附録
 『西周全集』(宗高書房)目次一覧
 百学連環総目次
 百学連環総論原文および現代語訳
 参考文献
 索引

★山本さんは第15章の最終節「新たなる百学連環へ向けて」でこう書かれています。「ある学術の位置や価値を知るには、学術全体の様子、他の諸学術との違いを確認してみるに越したことはない〔・・・〕。これは考えてみれば当たり前のことのようです。しかし、実際にどうかといえば、とても自明視できる状況ではないとも思うのです。そもそも私たちは、小中高あるいは大学や専門学校などでなにかを学ぶ際、学術が複数の科目に分かれていることについて、「なぜそうなっているのか」と、考える機会は存外少ないのではないでしょうか」(441頁)。「細分化が進めば進むほど、知識が増えれば増えるほど、その全体を見渡すための地図が必要なのではないだろうか。一つにはそんな関心から、「百学連環」をじっくり読んでみるということに取り組み始めました。そこには、新たな地図をつくるための手がかりがあるのではないかと思ってのことです」(442頁)。全体図の不在は教育問題にとどまらず、書店や図書館の絶えざる課題でもあります。百学連環の思想と、実際の書籍の分類を対照させてみることは非常に興味深いテーマです。『「百学連環」を読む』には未来の書店像や図書館像への示唆が必然的に含まれています。なお西周(にし・あまね:1829-1897)の『百学連環』は、宗高書房版『西周全集』第4巻(1981年)や、日本評論社版『西周全集』第1巻(1945年)に収録されています。山本さんが指摘されている通り、入手困難な一冊。文庫版が出ていてもおかしくない古典です。

★また、『「百学連環」を読む』の刊行記念を記念し、対談&サイン会が以下の通り行われるとのことです。「著者である山本貴光さんと、武蔵野人文資源研究所所長で明治賢人研究会を主宰する竹中朗さんをお迎えして、なぜ「百学連環」に着目するのか、現在の私たちにどう関わるのか、語り合っていただきます」と。

◎150年前の知のマップを眺望してみよう

日時:2016年8月8日(月) 午後7時〜(開場:午後6時45分)
会場:ブックファースト新宿店 地下2階 Fゾーン イベントスペース
定員:先着 50名
参加費:500円(税込)
イベント整理券販売場所:ブックファースト新宿店 地下1階 Aゾーン レジカウンター
お問い合わせ:ブックファースト新宿店 電話 03-5339-7611

★鈴木創士さんの『分身入門』は発売済(7月28日取次搬入済)。帯文に曰く「記憶のなかの自分、存在のイマージュ、時間と反時間、表層の破れとしての身体、光と闇、思考の無能性、書かれたもののクォーク、そして生と死……。「分身」をキー・ワードに、文学・美術・舞踏・映画・音楽etc...を縦横に論じる、未曾有の評論集!」と。「言葉、分身」「イマージュ、分身」の2部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。2012年から2016年にかけて各媒体で発表されたテクストに一部加筆し、未発表「分身残酷劇「カリガリ博士」趣意書」や、書き下ろし「分身とは何か 序にかえて」「分身がいっぱい 結びにかえて」を加えたもの。

★鈴木さんは「序にかえて」で、アルトーから分身の着想を得たと書かれています。「私の眼前を最初によぎった分身の概念は、アルトーの言う「分身 Le double(二重のもの、写し)」から直接もたらされたはずである。それは一種の形而上学のように見えて、〔・・・〕アルトーが生涯格闘し続けた身体=物体の裏面のようでもあり、二重のものでありながら、生身の身体から出てきたのに、身体と同じ資格をもつその反対物のようでもあった」(9頁)。「本書におさめたエッセー群は分身のとりあえずの実検である。書かれたもの、描かれたもの、撮られたもの……とうとうは、そもそも分身による実践である」(16頁)。

★『宇宙と芸術』はまもなく発売(8月3日頃)。昨日(7月30日)から来年1月9日まで、六本木ヒルズ森タワー53Fの森美術館で開催されている「宇宙と芸術展――かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」の図録を兼ねた一冊です。デザインはマツダオフィスによるもの。曼荼羅から天文図・天球図、鉱物・化石から現代アート、紙上建築から宇宙工学まで、多様な表象がイマジネーションの層を成しており、非常に喚起的です。牛若丸の書籍で図像学の新たな試みを実践されてきた松田行正さんならではの造本設計を堪能しました。個人的にツボだったのは、江戸時代の奇譚、かの「虚舟」に、フランス人アーティストのローラン・グラッソ(Laurent Grasso, 1972-)による立体造形作品があるということでした。

★なお、現在開催中の展覧会では、JR東京駅丸の内北口改札前の東京ステーション・ギャラリーで9月4日(日)まで開催されている「12 Rooms 12 Artists――UBSアート・コレクションより」をお薦めします。いずれも印象的な作品ばかりですが、特に台湾の芸術家、陳界仁(チェン・ジエレン:1960-)による30分50秒の映像作品「Factory」(2003年)や、イタリアの画家ミンモ・パラディーノ(Mimmo Paladino, 1948-)の作品「三つの流れ星」などに惹かれました。「Factory」は無音の作品なのですが、会場の都合上、何分かおきに列車がホームに入ってくる音が潮騒のように響いてきます。幸運にもこの作品にとってはそれがほどよい効果音になっていました。同展の図録は同ギャラリーのショップにて販売されています。お金に余裕のある方は同ショップで「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」(2015年)の図録もお求めになることを強くお勧めします。この画家の図録や画集は何冊持っていても良いものです。


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