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注目新刊:『西田幾多郎全集 別巻 倫理学講義ノート 宗教学講義ノート』岩波書店、ほか

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『西田幾多郎全集 別巻 倫理学講義ノート 宗教学講義ノート』石川県西田幾多郎記念哲学館編、岩波書店、2020年9月、本体12,000円、A5判上製函入450頁、ISBN978-4-00-092545-7
『第二帝政の国家構造とビスマルクの遺産――大衆社会とデモクラシー』C・シュミット/F・ハルトゥング/E・カウフマン著、初宿正典編訳、栗原良子/柴田尭史/瀧井一博/宮村教平訳、風行社、2020年8月、本体5,500円、A5判上製226頁、ISBN978-4-86258-130-3
『神を待ちのぞむ(須賀敦子の本棚8)』シモーヌ・ヴェイユ著、今村純子訳、河出書房新社、2020年8月、本体2,900円、46変形判上製512頁、ISBN978-4-309-61998-9

★『倫理学講義ノート 宗教学講義ノート』は『西田幾多郎全集』完結後に発見された直筆ノートを「精確に翻刻、注解、解題を付して全集の別巻として刊行する」(版元紹介文より)もの。京大に着任した1910年の「倫理学講義ノート」、1913年の「宗教学講義ノート」を収録。全集第14巻、第15巻に続く「講義ノートⅢ」に位置づけられています。巻頭口絵では直筆ノート2葉をカラーで収載。解題と後記は浅見洋さんによるもの。欧語で記されている箇所が多いこともあってか、全篇横組です。巻末に人名索引あり。月報は付属していません。

★『第二帝政の国家構造とビスマルクの遺産』は、プロイセン・ドイツ帝国の政治家ビスマルク(Otto von Bismarck, 1815-1898)が「ドイツの第二帝政の構造、その崩壊、北ドイツ連邦憲法(1867年)やドイツ帝国憲法(1871年)」(編訳者解題より)に与えた影響などを検証するための、独自のアンソロジーです。収録された4本は以下の通り。

★カール・シュミットの論考2本「第二帝政の国家構造と崩壊──軍人に対する市民の勝利」(原著1934年;栗原良子訳)、「19世紀の歴史におけるローレンツ・フォン・シュタインの地位」(原著1940年;瀧井一博訳)と、前者に対するフリッツ・ハルトゥングによる書評「第二帝政の国家構造と崩壊」(原著1935年;柴田尭史訳)、そしてユダヤ人法学者エーリヒ・カウフマン(Erich Kaufmann, 1880-1972)によるビスマルク論「帝国憲法におけるビスマルクの遺産」(原著1917年;宮村教平訳)。

★シュミット「19世紀の~」は『ユリスプルデンティア : 国際比較法制研究』第3号(ミネルヴァ書房、1993年)収録のものの再録ですが、「編訳者がごく一部に修正を施した箇所がある」と編訳者解題に特記されています。

★『神を待ちのぞむ』は、作家の須賀敦子さんの没後20周年記念出版であるシリーズ「須賀敦子の本棚」の完結篇となる第8巻。シモーヌ・ヴェイユの主著のひとつ『Attende de Dieu』1950年の、半世紀ぶりとなる新訳。既訳には田辺保/杉山毅訳(勁草書房、1967年10月)や渡辺秀訳(春秋社、1967年11月)があり、それぞれ再刊実績があります。後者は今年8月に新装版が出たばかりです。ペラン神父による序文と結び、および各テクストへのまえがき、そしてヴェイユによる手紙と論考から成ります。ペラン神父のパートは初版本を底本とし、手紙パートは1966年のファイヤール版、論考パートは2008年のガリマール版全集第4巻第1分冊を底本としているとのことです。シリーズ完結記念特別栞として、監修者の池澤夏樹さんによる「本棚の前の会話」が挟み込まれています。

★続いてまもなく発売となるちくま学芸文庫の10月新刊5点を列記します。

『中東全史――イスラーム世界の二千年』バーナード・ルイス著、白須英子訳、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体2,000円、文庫判768頁、ISBN978-4-480-51001-3
『十五年戦争小史』江口圭一著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,300円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51006-8
『バロック音楽――豊かなる生のドラマ』礒山雅著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,200円、文庫判304頁、本体1,200円、ISBN978-4-480-51007-5
『武家文化と同朋衆――生活文化史論』村井康彦著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51008-2
『内村鑑三交流事典』鈴木範久著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,300円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51009-9

★『中東全史』は英国の歴史家ルイス(Bernard Lewis, 1916-2018)によるイスラーム通史『The Middle East: 2000 Years of History from the Rise of Christianity to the Present Day』(1995年)の訳書『イスラーム世界の二千年――文明の十字路中東全史』(草思社、2001年)を改題し文庫化したもの。新たに「文庫版のための訳者あとがき あれから二十年のイスラーム世界」が付されています。訳文改訂の有無については特記がありませんが、校閲への謝辞がありますから、調整があったものと見るべきかと思われます。

★『十五年戦争小史』は歴史学者江口圭一(えぐち・けいいち:1932-2003)さんによる、満州事変から日本敗戦までの通史。親本は青木書店より1986年に刊行され、91年に新版が出た単行本です。文庫化にあたり、加藤陽子さんが解説「日本と中国の過去と未来を考えるための通史」を寄せておられます。「必ず入手して座右に置いて貰いたい本として参考文献のトップに載せ続けた思い出深い本」とのこと。

★『バロック音楽』は「バッハ研究の第一人者」である礒山雅(いそやま・ただし:1946-2018)さんが「荘厳な教会音楽や華麗なオペラ誕生の背景、伊独仏英各国の事情、作曲家たちの思考錯誤などに注目し、その歴史的意義」(版元紹介文より)を論述したもの。親本は1989年、NHKブックスの1冊として刊行されています。文庫版解説として、寺西肇さんが「バロック音楽の〈光と影〉」と題した一文を寄せておられます。

★『武家文化と同朋衆』は「室町時代、足利将軍に仕え、将軍家のサロンにおいて、茶や華、香、室内装飾などを担当した〔…〕アートディレクター的集団」(版元紹介文より)である同朋衆の実像に迫り、「同朋衆を通して武家文化の構造と特質を繰り返し考察した」(文庫版あとがきより)研究書(三一書房、1991年)を増補して文庫化したもの。2016年に発表された「室町文化と同朋衆」が補論として加わっているほか、旧版の手直しが何か所かあるとのことです。巻末に橋本雄さんによる解説「「場」と芸能の室町文化論」が付されています。

★『内村鑑三交流事典』は文庫オリジナル。序章「内村鑑三略伝」と、内村と交流のあった252名を取り上げた本章「内村山脈の人々」から成る、読む辞典です。内村鑑三年譜、巻末に人名索引あり。内村鑑三没後90年となる2020年を飾るにふさわしい労作です。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『漢字の体系』白川静著、平凡社、2020年9月、特価本体8,000円(2021年3月31日まで)/定価本体8,800円、4-6判上製函入1136頁、ISBN978-4-582-12817-8
『中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌 第3巻 かわる――生命誌からみた人間社会』中村桂子著、鷲田清一解説、藤原書店、2020年9月、本体2,800円、四六変判上製312頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-280-6
『現代思想2020年10月号 特集=コロナ時代の大学――リモート授業・9月入学制議論・授業料問題』青土社、2020年9月、本体1,500円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1404-9

★『漢字の体系』は、白川静(しらかわ・しずか、1910-2006)さんによる「文字学の締めくくり」(帯文より)となる、全編書き下ろしの「最後の字書」(同)。第一部は65の主題別に約700字、第二部は277の声符ごとに分類し約1800字を収めています。手始めに自身の名前に使われている漢字の由来や意味などを調べてみると、新しい発見があるはずです。今年いっぱいの応募締切による購入特典として、2021年の白川静カレンダーがプレゼントされるとのこと。2021年3月31日まで特価で販売。

★『かわる――生命誌からみた人間社会』は、「中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌」全8巻の第6回配本となる第3巻。「生命を基本に置く社会へ」「ライフステージ社会の提唱――生命誌の視点から」「農の力」「東日本大震災から考える」「科学と感性」の5部構成で20篇を収め、「はじめに」「あとがき」が加えられています。解説は鷲田清一さん、月報6は稲本正「理科系と文科系の垣根を越えて」、大原謙一郎「ゲノムのミネルバ」、鶴岡真弓「生命の「森羅」と「渦巻文様」、土井善晴「生命誌と家庭料理」を収録。

★『現代思想2020年10月号 特集=コロナ時代の大学』は、版元紹介文に曰く「コロナ下で引き起こされた大変動を契機に、大学の今とこれからを考える」特集号。佐藤郁哉さんと吉見俊哉さんの討議「知が越境し、交流し続けるために――大学から始める学び方改革・遊び方改革・働き方改革」をはじめ、17篇の論考を収録。『現代思想』誌は今月には11月臨時増刊号「総特集=鈴木大拙」と、11月通常号「特集=ワクチンを考える」を発売予定です。


ブックツリー「哲学読書室」に大橋完太郎さんの選書リストが追加されました

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ジャック・デリダ『スクリッブル 付:パトリック・トール「形象変化」』、リー・マッキンタイア『ポストトゥルース』(人文書院、2020年9月)の訳者、大橋完太郎さんによるコメント付き選書リスト「「真理(真実)」と「生」の関わりを考える」が、オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」にて公開開始となりました。

◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」
50)筧菜奈子(かけい・ななこ:1986-)さん選書「抽象絵画を理解するにうってつけの5冊」

51)西山雄二(にしやま・ゆうじ:1971-)さん選書「フランスにおける動物論の展開」
52)山下壮起(やました・そうき:1981-)さん選書「アフリカ的霊性からヒップホップを考える」

53)綿野恵太(わたの・けいた:1988-)さん選書「「ポリティカル・コレクトネス」を再考するための5冊」
54)久保明教(くぼ・あきのり:1978-)さん選書「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために」
55)築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さん選書「信仰について考える。ベルクソンとドゥルーズと共に」
56)浅野俊哉(あさの・としや:1962-)さん選書「〈触発〉の意味の広がりに触れる5冊」
57)岩野卓司(いわの・たくじ:1959-)さん/赤羽健(あかはね・けん:1991-)さん選書「贈与論を通してどう資本主義を突き抜けていくか」
58)秋元康隆(あきもと・やすたか:1978-)さん選書「「利他」とは何かを学ぶために」
59)宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ:1974-)さん選書「「死後の生」を考える、永遠の生を希求することなく」
60)後藤護(ごとう・まもる:1988-)さん選書「「ゴシック・カルチャー破門」からのマニエリスム入門」
61)大谷崇(おおたに・たかし:1987-)さん選書「人間はずっと人生を嫌ってきた――古今東西のペシミズム」
62)飯盛元章(いいもり・もとあき:1981-)さん選書「思考を解き放て!」
63)長濱一眞(ながはま・かずま:1983-)さん選書「「日本」と「近代」を考えるのにガッツリ読みたい5冊」
64)入江哲朗(いりえてつろう:1988–)さん選書「アメリカ思想史を日本語で学ぶための5冊」
65)福島勲(ふくしま・いさお:1970-)さん選書「眠る記憶をざわめかせる、ざわめく記憶を眠らせる」
66)山本圭(やまもと・けい:1981-)さん選書「アンタゴニズム(敵対性)と政治について考えるブックリスト」
67)横田祐美子(よこた・ゆみこ:1987-)さん選書「「思考すること」をたえず思考しつづけるために」
68)伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう:1989-)さん選書「世界の終わりにおいて人間には何ができるのか?」
69)井岡詩子(いおか・うたこ:1987‐)さん選書「おとなの内に残存する子ども/わたしと再び出会う」
70)松田智裕(まつだ・ともひろ:1986-)さん選書「読み、抵抗し、問う」

71)篠森ゆりこ(しのもり・ゆりこ:1967-)さん選書「紙幣の肖像に選ばれたハリエット・タブマンて誰?」
72)三浦隆宏(みうら・たかひろ:1975-)さん選書「哲学カフェには考えるに値する論点があるか?」
73)中井亜佐子(なかい・あさこ:1966-)さん選書「女たちの英文学――個と、集合性と」
74)澤田哲生(さわだ・てつお:1979-)さん選書「P4CからC4Pへ」75)大橋完太郎(おおはし・かんたろう:1973-)さん選書「「真理(真実)」と「生」の関わりを考える」

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月曜社2020年11月新刊:アルフォンス・ド・ヴァーレンス『マルティン・ハイデガーの哲学』

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マルティン・ハイデガーの哲学

アルフォンス·ド·ヴァーレンス[著] 峰尾公也[訳]
月曜社 2020年11月 A5判上製432頁 ISBN978-4-86503-103-4


※アマゾン・ジャパンにて予約受付中


『存在と時間』の仏訳者による高名なハイデガー研究(1942年)の待望の初訳。同書全体の詳細な註解に加え、『形而上学とは何か』『根拠の本質』『ヘルダーリンと詩作の本質』『芸術作品の根源』の解説を収録するほか、フッサール、ヤスパース、ディルタイ、キルケゴール、ニーチェとの比較考察なども充実。フランスにおけるハイデガー受容初期の金字塔にして、今なお最良の入門書のひとつ。シリーズ・古典転生、第23回配本、本巻第22巻。



「われわれは『存在と時間』のうちに、こうした実存論的哲学とは対照的に、或る実存的哲学も一緒に見出す。この実存的哲学は、引き受けられた有限性の経験でありたいと望み、またそれを記述したいと望む。最後に、また『存在と時間』以降の時期に、ハイデガーはニーチェ的な傾向をもつ哲学をわれわれに提示する。そしてこの哲学は、大地への下降的超越のうちに、それでもやはり耐えがたい有限性のための救済策を探している」(本文より)。


目次:
序文
第Ⅰ部 導入
 第1章 問題と方法
第Ⅱ部 実存論的分析論
 第2章 最初の素描
 第3章 世界内存在
 第4章 現存在の複数性と世人
 第5章 現の構造
 第6章 実存の非本来的様相
 第7章 現存在の究極的で無差別的な構造についての最初の展望 .
  第1節 問題の措定
  第2節 不安、現存在の無差別的構造への接近方法
  第3節 気遣い、現存在の無差別的構造
 第8章 全体性としての人間存在の問題――死の存在論的解釈
 第9章 良心、本来的実存の証し
 第10章 本来的実存の存在
 第11章 時間性の問題
  第1節 概論
  第2節 現存在の無差別的構造の時間性
   (A) 情態性とその諸派生態との時間性
   (B) 了解の時間性
   (C) 語りの時間性
   (D) 現存在の全体的な無差別的構造の時間性
  第3節 非本来的実存の時間性
  第4節 本来的実存の時間性
  第5節 世俗的で世界内部的な時間性
  第6節 通俗的な時間観の起源
 第12章 現存在の歴史性
第Ⅲ部 ハイデガーの著作における哲学的な主要問題
 第13章 超越の問題
 第14章 超越と無
 第15章 自由
 第16章 最終的展望
 第17章 美学
第Ⅳ部 考察と結論
 第18章 実存的哲学と実存論的哲学――ヤスパースとハイデガー
 第19章 ハイデガーと形而上学
 第20章 ハイデガー哲学の実存的主題とその起源
  第1節 記述的方法
  第2節 ディルタイ
  第3節 キルケゴール
  第4節 ニーチェ
 第21章 結論
補遺
訳者あとがき
主要関連文献
略年表


著者:アルフォンス・ド・ヴァーレンス(Alphonse de Waelhens, 1911–1981)ベルギー、アントウェルペン出身の哲学者。ルーヴァン・カトリック大学で法学と哲学の博士号を取得後、1946年に同大学の教授となり、ブリュッセル・サン= ルイ大学などで教鞭をとる。フッサールとハイデガーをはじめとする現象学・実存哲学の研究から出発し、フランスにおけるドイツ哲学の受容に貢献した。後年には、フロイトとラカンの精神分析に関する研究にも従事する。主要著書に、本書『マルティン・ハイデガーの哲学』(1942年)、『両義性の哲学』(1951年)、『現象学と真理』(1953年)、『精神病』(1971年;アルフォンス・ドゥ・ヴァーレン『精神病』塚本嘉壽・橋本由美子訳、みすず書房、1994年)など。


訳者:峰尾公也(みねお・きみなり, 1986-)東京都生まれ。2018年、早稲田大学大学院文学研究科哲学コース博士後期課程単位取得退学。現在、早稲田大学非常勤講師、博士(文学)。専門はハイデガーと現代フランス哲学。著書に『ハイデガーと時間性の哲学』(溪水社、2019年)。主要論文に「実存的哲学と実存論的哲学」(『交域する哲学』所収、岡田聡・野内聡編、月曜社、2018年)など。


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月曜社2020年11月下旬発売予定:『多様体3:詩作/思索』

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月曜社新刊案内【2020年11月:人文書1点:哲学/思想誌】
2020年11月17日取次搬入予定



多様体 第3号 特集:詩作/思索
月曜社 2020年11月 本体3,000円 A5判並製368頁 ISBN978-4-86503-104-1


アマゾン・ジャパンで予約受付中


内容:〈哲学:考えること〉と〈詩:語ること〉のあわいをぬって、西欧深層の500年を旅する特集号。ルネサンス期の詩人ポリツィアーノによる農人礼讃や、ドイツ・ロマン派の詩人ノヴァーリスによるフィヒテ研究。詩人マラルメと映画人ロメールとの架空対話、ナチス収容所を体験した二人、哲学者ヴァールの詩と、作家デルボーの散文詩。いずれも初訳。特別掲載として、火刑に処された哲学者ブルーノの中期重要作の抄訳と、米国南部料理の研究家ルイスをめぐる論考を収める。詩人や哲学者だけでなく書店人・取次人が筆を揮う連載も充実。今号も新たな造本設計で贈る。デザイナーは新鋭・北田雄一郎。


目次:
【特集 詩作/思索】
刑務所と収容所での詩/形而上学の旅|ジャン・ヴァール|水野浩二 訳
詩人ジャン・ヴァール|水野浩二
生きている者たちへの祈り――『アウシュヴィッツとその後(2)無益な知識』より|シャルロット・デルボー|亀井佑佳 訳
ステファヌ・マラルメとの対話|エリック・ロメール|柏倉康夫 訳
『フィヒテ研究』抜粋――[第一草稿群、1795年秋~初冬][第二草稿群、1796年2月まで]より|ノヴァーリス|宮田眞治 訳
農人|アンジェロ・ポリツィアーノ|沓掛良彦 訳
【特別掲載】
しるしのしるし 第一部 第三五~五〇節|ジョルダーノ・ブルーノ|岡本源太 訳
ジェマイマ・コードを超えて――エドナ・ルイス『田舎料理の味』の場合|田中有美
【投稿】
無始原のもたらす可能性――レヴィナスを読むアバンスール|松葉類
【連載】
シラー新訳詩集 第二回 エレウシースの祭典 ほか二篇|フリードリヒ・フォン・シラー|青木敦子訳
アクロアシス 第二回 世界の調和学についての教え 第Ⅴ~Ⅶ章|ハンス・カイザー|竹峰義和訳
中野幹隆とその時代 第二回 吉本隆明の八〇年代|檜垣立哉
哲学ノート 第二回 コギトとはひとつの愚かさなのだろうか?|三浦亮太
書店空間の定点観測 第二回 ゼロ年代の話|鎌垣英人
思想と時空 第一回 本|佐野衛
【リプリント】
編集後記五篇|中野幹隆



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注目新刊:コメニウス『パンソフィア――普遍的知恵を求めて』東信堂、ほか

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『パンソフィア――普遍的知恵を求めて』J・A・コメニウス著、太田光一訳、東信堂、2020年9月、本体6,400円、A5判上製640頁、ISBN978-4-7989-1650-7
『原典完訳 アヴェスタ――ゾロアスター教の聖典』野田恵剛訳、国書刊行会、2020年9月、本体8,800円、菊判函入648頁、ISBN978-4-336-06382-3



★『パンソフィア』はシリーズ「コメニウス セレクション」の第4回配本で、コメニウスの遺稿『人間に関わる事柄の改善についての総合的熟議』全7部の中でもっとも分量が多く中核的な論考となっている第3部を抄訳したもの。凡例および訳者はしがきによれば原著は長大であるため「所々省略して訳した箇所があ」り、「全体の40%ほど」を訳出したとのこと。それでも本文だけで560ページ以上あります。帯文に曰く「やまぬ戦乱から平和を求め、そのための人類共有の普遍的知恵=学問・知識の体系化を目指した」著作と。パンソフィアは従来では汎知学とも訳されましたが、本訳書ではそのままカタカナで表記されています。その意味は「普遍的知恵」であり、可能界、原型界、天使界、物質界、技術界、道徳界、霊魂界、永遠界、の8段階に分けて解説されています。


★「世界の対立を有効に除去するための何らかの治療薬が必要です。文字の時代以来、麻痺するほどに多種多様な憶測で対立しており、そのためにとうとう私たちは、何も読まない、何も信じないと恐れるほどに混乱させられています。憶測(思いつき、論争、反論など)がはびこるのに対して閂がかけられ、憶測が衝突する混乱や至る所で出会う誤りの多岐道から解放されて、けっして荒野に引き込まれることのない単一の開かれた、真理の王道へと進みださればなりません」(30~31頁)。「一冊ですべてを含んでいるような総合的な書物を作成する」(34頁)ことを目指したコメニウスによる知の体系的探究と情熱は、今こそ現代人が触れるべきものではないかと感じます。


★『人間に関わる事柄の改善についての総合的熟議』全7部のうち、序文、第1部「パンエゲルシア(普遍的覚醒)」、第2部「パンアウギア(普遍的光)」は、『覚醒から光へ――学問、宗教、政治の改善』として2016年に、第4部「パンパイデイア(普遍的教育)」は『パンパイデアイア――生涯にわたる教育の改善』は2015年に、それぞれ訳書が刊行されています。次回作として、世界会議の提案を謳う第6部「パンオルトシア〔普遍的改革〕」の訳書が出版予定とのことです。


★『原典完訳 アヴェスタ』は帯文に曰く「ゾロアスター教の聖典をアヴェスタ語原文から全訳」したもの。2段組で600頁を超える大冊です。既訳では、全訳だけれど重訳(木村鷹太郎訳『アヹスタ経』上下巻、世界聖典全集刊行会、1920~21年;改造社、1930年)だったり、原典からの訳だが抄訳(伊藤義教訳「アヴェスター」、『世界古典文学全集3』所収、筑摩書房、1967年;『アヴェスター』ちくま学芸文庫、2012年)だったりしたので、全訳は実に意義深い偉業です。白を基調とした化粧函に、レインボー箔が美しい書籍本体で、さすが国書刊行会さんらしい、愛書家への贈物だと感銘を覚えました。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『99%のためのフェミニズム宣言』シンジア・アルッザ/ティティ・バタチャーリャ/ナンシー・フレイザー著、惠愛由訳、菊地夏野解説、人文書院、2020年10月、本体2,400円、4-6判上製170頁、ISBN978-4-409-24135-6
『その場に居合わせる思考――言語と道徳をめぐるアドルノ』守博紀著、法政大学出版局、2020年10月、本体5,400円、A5判上製416頁、ISBN978-4-588-15110-1

『絵画の力学』沢山遼著、書肆侃侃房、2020年10月、本体2,700円、A5判上製408頁、ISBN978-4-86385-422-2

『石元泰博 生誕100年』東京都歴史文化財団ほか編、平凡社、2020年10月、本体3,300円、B5判上製304頁、ISBN978-4-582-20720-0



★『99%のためのフェミニズム宣言』はまもなく発売。『Feminism for the 99%: A Manifesto』(Verso, 2019)の訳書。すでに25か国で翻訳されているとのこと。全人口の1%にすぎない富裕層や支配階級に進出することによって男女平等を目指す「企業フェミニズム(corporate feminism)」ではなく、その他大勢である99%の人々のためのフェミニズムを説く、宣言の書です。フレイザー(Nancy Fraser, 1947-)はすでに日本でも訳書が複数ある政治哲学者として知られていますが、共著者のアルッザ(Cinzia Arruzza, 1976-)はイタリア出身でフレイザーと同じくニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチで教鞭を執る哲学者で、バタチャーリャ(Tithi Bhattacharya, 1971-)はパーデュー大学で教える、南アジア史を専門とするマルクス主義系フェミニストです。


★「私たちはリベラル・フェミニズムと金融資本の癒着を断ち切ることを決意し、別のフェミニズムを提唱した。それが、99%のためのフェミニズムである。/このプロジェクトに着手したのは、2017年のアメリカ合衆国の女性たちが起こしたストライキ運動においてともに協力しあったあとのことだった。それより前から、私たちはそれぞれが資本主義とジェンダー的な抑圧の関係について書き続けていた」(115頁)。「99%のためのフェミニズムは反資本主義をうたう不断のフェミニズムである――平等を勝ち取らないかぎり同等では満足せず、公正を勝ち取らないかぎり空虚な法的権利には満足せず、個人の自由がすべての人々の自由と共にあることが確証されない限り、私たちは決して既存の民主主義には満足しない」(152頁)。


★『その場に居合わせる思考』は、2019年に一橋大学大学院言語社会研究科に提出された博士論文「アドルノにおける言語・自由・道徳――哲学的著作と音楽論の横断的読解を通して」を改訂・改題したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「本書の目的は、アドルノの言語哲学および実践哲学にかかわるアイディアを再構成することである。言語哲学と実践哲学という両領域は単に並列的に考察される。その核心を要約すれば、《ある対象が存在する特定の場所に居合わせその対象の来歴を語ること》の重要性を強調する、ということである」(3頁)。著者の守博紀(もり・ひろのり)さんは現在、高崎経済大学非常勤講師、一橋大学大学院言語社会研究科博士研究員。本書が初めての単独著です。


★『絵画の力学』は、2009年から2020年にかけて各媒体で発表されてきた14本の論考に書き下ろし1本(第12章「火星から見られる彫刻」)と序とあとがきを加え、1冊としたもの。「作品とは、絡み合う力の束であり、力の分布である〔…〕。芸術を経験することは、振動する差異と諸力のただなかに巻き込まれることだ。芸術の思考=批評はそこから開始される。本書は、そのような、絡み合いせめぎ合う諸力の束としての芸術作品の分析を試みる。/俎上に載せられるのは、絵画、彫刻、批評など、いずれも近現代の芸術動向と深く関わる対象群だ」(4~5頁)。著者の沢山遼(さわやま・りょう:1982-)さんは美術批評家。本書が初めての単独著です。


★岡﨑乾二郎さんは本書に「これが批評の本来あるべき姿だ。この真摯な純度を見よ!」と賛辞を送られています。なお、本書の刊行を記念して、恵比寿のNADiff a/p/a/r/tにて沢山さんによる選書フェアが行なわれています。2020年11月23日(月)まで。


★『石元泰博 生誕100年』は、東京都写真美術館、東京オペラシティアートギャラリーで開催中の、写真家・石元泰博(いしもと・やすひろ:1921-)さんの大規模回顧展の公式図録。「広範囲にわたる石元泰博の作品を15のセクションにカテゴライズし、セクションごとに年代順を基本に掲載しました。また。プレートパートで大型図版を一枚一枚じっくりご覧いただいた後、サムネイルパートでより多くの作品を比較しながらご覧いただく構成としています」(「はじめに」より)。論考編では、磯崎新さんの講演録「伊勢神宮はなぜモノクロで撮影されたのか?――石元泰博の建築写真」をはじめ、天野圭悟、朝倉芽生、藤村里美、福士理の各氏が寄稿(巻頭には森山明子さんの石元論も掲出されています)。資料編は、略年譜、主な展覧会歴、主なコレクション・受賞歴、主要文献目録、作品リスト。回顧展は来年1月16日からは高知県立美術館でも開催されます。





 

注目新刊:ボヤン・マンチェフ『世界の他化』法政大学出版局、ほか

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★幻戯書房さん、作品社さん、法政大学出版局さん、平凡社さん、藤原書店さんの10月新刊より抜粋して列記します。

『山の花環 小宇宙の光』ペタル二世ペトロビッチ゠ニェゴシュ著、田中一生/山崎洋訳、幻戯書房、2020年10月、本体6,500円、四六変形判ソフト上製604頁、ISBN978-4-86488-208-8
『イェレナ、いない女 他十三篇』イボ・アンドリッチ著、田中一生/山崎洋/山崎佳代子訳、幻戯書房、2020年10月、本体4,500円、四六変形判ソフト上製456頁、ISBN978-4-86488-209-5

★幻戯書房さんの「ルリユール叢書」の10月新刊2点は、セルビアの二人の作家の作品の翻訳。ペタル二世ペトロビッチ゠ニェゴシュ(Petar II Petrović-Njegoš, 1813–51)は「セルビア〔モンテネグロ〕文学史上、最大の詩人」(巻末略歴より)。今般の『山の花環 小宇宙の光』では彼の二大叙事詩「山の花環」(1847年刊)、「小宇宙の光」(1854年刊)を収録。「山の花環」はセルビアにおいて「第二の聖書」(帯文より)と目されているのだそうです。両作品ともかつて旧訳が、ベオグラードのニェゴシュ財団より刊行されています(2003年「山の花環」、2007年「小宇宙の光」)。いわば合本改訂版である今回の書籍の刊行にあたっては、「日本で一般的なキリスト教用語を正教会の用語に改めた」(訳者解題より)とのことです。

★イボ・アンドリッチ(Ivo Andrić, 1892–1975)はユーゴスラビアのノーベル文学賞作家。『イェレナ、いない女 他十三篇』は表題作を含む短編小説8篇と、散文詩2篇、エッセイ4篇(巻頭の未分類の「橋」〔1933年〕を含めた場合)の合計14篇を収めています。このアンソロジーは、恒文社より1997年に刊行された『サラエボの鐘』(11篇を収録)の増補改訂改訳版と言ってよいようです。旧版収録のエッセイ「作家としてのニェゴシュ」が新版では外れ、新たに小説3篇「三人の少年」「アスカと狼」「イェレナ、いない女」と、エッセイ「コソボ史観の悲劇の主人公ニェゴシュ」が加わっています。旧版では「サラエボの鐘」と題されていた小説は新版では「一九二〇年の手紙」と改められている様子です。

★「世界のあらゆる場所で、私の思いの向かうところ、留まるところではどこでも、忠実で寡黙な橋に出会うのである。それらはまるで、心や目や足の前に現れるものすべてを結びつけ、和解させ、繋ぎ合わせて、分割や敵対や別離がないようにするという永遠の、飽くことなき人間の願望のようなものだ。〔…〕つまるところ、われわれの人生が示すあらゆるもの――思考、努力、視線、微笑、言葉、溜息――、それらすべては彼岸を求め、目的地として彼岸を目指し、彼岸にあってようやく真の意味を獲得する。すべてはなにかを、無秩序、死、あるいは無意味といったものを、克服して乗り越えなくてはならない。なぜなら、すべては渡し場であり、両端が無限の彼方にかすむ橋でって、これに比べれば地上の橋は〔…〕曖昧な象徴でしかない」(アンドリッチ「橋」10~11頁)。

『〈敵〉と呼ばれても』ジョージ・タケイ/ジャスティン・アイジンガー/スティーヴン・スコット著、ハーモニー・ベッカー画、青柳伸子訳、作品社、2020年10月、本体2,000円、B5判並製208頁、ISBN978-4-86182-826-3
『ラスト・タイクーン』F・スコット・フィッツジェラルド著、上岡伸雄編訳、作品社、2020年10月、本体2,800円、46判上製412頁、ISBN978-4-86182-827-0

★作品社さんの10月新刊より2点。『〈敵〉と呼ばれても』は、米国の日系俳優ジョージ・タケイさんが体験した「第二次世界大戦中に3年間を過ごした日系人強制収容所での日々」(帯文より)とその後の半生を簡潔に描いたグラフィック・ノヴェル。原書は『They Called Us Enemy』(IDW Publiching, 2019)です。日系人の困難な歩みは読んでいてつらいですが、タケイさんが「日本版のためのあとがき」に書いた言葉を忘れずにいたいと思います。「1940年代に私たちが耐え忍んだのと同様の偏見やヒステリー状態が、世界のいたるところで、これまで発言を抑えられてきた人々の自由や生活の手段を脅かしつづけているのです」(207頁)。タケイさん自身による関連動画を下段に貼り付けておきます。



★『ラスト・タイクーン』は、フィッツジェラルドの遺作である表題作を、未完成原稿に忠実なブルッコリ版(ケンブリッジ大学出版、1993年)を底本にウィルソン版(1941年)を参照しつつ訳出し、短編作4篇と書簡24通を併録したもの。「最晩年のフィッツジェラルドを知る最良の一冊、日本オリジナル編集」(帯文より)。短編集のうち「監督のお気に入り」「最後のキス」「体温」は初訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

『世界の他化――ラディカルな美学のために』ボヤン・マンチェフ著、横田祐美子/井岡詩子訳、法政大学出版局、2020年10月、本体3,700円、四六判上製316頁、ISBN978-4-588-01115-3
『サン=ジョン・ペルスと中国――〈アジアからの手紙〉と『遠征』』恒川邦夫著、法政大学出版局、2020年10月、本体4,600円、四六判上製496頁、ISBN978-4-588-49038-5

★法政大学出版局さんの10月新刊より2点。『世界の他化』は、ブルガリアの哲学者マンチェフ(Boyan Manchev, 1970-)さんの著書『L'Altération du monde : Pour une esthétique radicale』(Lignes, 2009)の全訳に、著者による書き下ろしの序文「世界の他化──力動的存在論のために」(1~16頁)を訳出して加えたもの。「本書の使命は変形そのものとしての世界という考えを――世界が悪化=変質してしまった時代に、とりわけ世界の変形という考えが衰退した時代に――肯定すること、つまりは世界の悪化=変質に抗して、他化としての世界と言う考え方を肯定することにあった」(2頁)。「世界の解放された物質の変容だけが、世界の他化を、言い換えれば存在論的革命を保証する。ラディカルな、様態の、変形する唯物論、これこそが私たちの使命なのだ。以上が『世界の他化』のプロレゴーメナ的賭け金である」(16頁)。

★『サン=ジョン・ペルスと中国』は、フランスの外交官で「近代カリブ海文学の父と見なされた」(帯文より)ノーベル賞詩人のサン=ジョン・ペルス(Saint-John Perse, 1887-1975;本名アレクシ・レジェ〔Alexis Leger〕)の「とくに中国時代の手紙や初期詩篇を紹介」(同)した研究書です。第二章「〈アジアからの手紙〉──中国時代のアレクシ・レジェ」は晩年の創作であるという一連の手紙の翻訳であり、第三章は代表作『遠征』(1924年)の新訳です。附録には初期詩篇『讃』と、中期詩篇『王達の栄光』が訳載されています。サン=ジョン・ペルス作品集としても貴重な一冊ではないでしょうか。

『ケブラ・ナガスト――聖櫃の将来とエチオピアの栄光』蔀勇造訳注、東洋文庫、2020年10月、本体3,800円、B6変判函入上製512頁、ISBN978-4-582-80904-6
『過激派の時代』北井一夫著、平凡社、2020年10月、本体3,200円、A5判並製224頁、ISBN978-4-582-27833-0
『〈戦後文学〉の現在形』紅野謙介/内藤千珠子/成田龍一編、平凡社、2020年10月、4-6判上製472頁、ISBN978-4-582-83850-3

★平凡社さんの10月新刊より3点。『ケブラ・ナガスト』は東洋文庫の第904巻。帯文に曰く「聖書のソロモンとシェバの女王のくだりの変奏に発する物語。聖櫃の自国への迎え入れを語り、新たなイスラエルとしてのエチオピアの栄光を誇る。第一人者による適訳、綿密な注釈で読む。ラスタファリ運動の聖典」。表題のケブラ・ナガストとは「王達の栄光」の意。「古代のアクスム王国で使用された古典エチオピア語」(凡例より)であるゲエズ語原典の、カール・ベツォルトによる校訂本(1905年)より全訳したという労作です。東洋文庫次回配本は2021年2月予定、『集蓼編』とのこと。

★『過激派の時代』は「札幌宮の森美術館」(改築中、2021年8月再開館予定)の記念事業として編まれた写真集。巻頭に置かれた同館評議員の静間順二さんによる挨拶文「札幌宮の森美術館の北井一夫作品」によれば「1964年から1968年にかけて、若き日の北井一夫氏が日本の学生たちの反戦運動、三里塚闘争、日大闘争を撮り続けた作品群を網羅しているのが、この『過激派の時代』です」と。東大全共闘の元代表で科学史家の山本義隆(やまもと・よしたか、1941-)さんは「『過激派の時代』に寄せて」と題した5頁にわたるテクストを寄稿されており、「貴重なフォト・ドキュメント〔…〕日本の民衆の歴史の失われてはならない記憶であり記録として残されなければならない」と記しておられます。遠い日の記憶という以上に、どの頁からも熱気が立ち昇り、血しぶきが噴き出してくるような、今なお生々しい、活きいきとした息吹の写真群です。

★『〈戦後文学〉の現在形』は「「戦後文学」というフレームを解体しながら、文学の現在形を創出することを目指して編まれた一冊」(5頁)であり、「「戦後」をめぐる歴史的想像力を媒介に、現在を起点として戦後文学の系譜を創造する」(同)試み。戦後をⅠ期(1945~1970年:戦後文学の時代)、Ⅱ期(1971~1989年:ポスト戦後の時代)、Ⅲ期(1990~2020年:記憶をめぐる闘争の時代)に分け、坂口安吾『戦争と一人の女』から多和田葉子『地球にちりばめられて』まで全60作品を37名の研究者が読み解きます。60作はそれぞれ書誌情報、作者紹介、内容紹介の基本データも掲出しており、巻末には関連年表もあるので、書店さんで現代日本文学の棚を歴史に沿って再構築されたい場合は、参考文献として役に立つのではないでしょうか。

『ウイルスとは何か――コロナを機に新しい社会を切り拓く』中村桂子/村上陽一郎/西垣通著、藤原書店、2020年10月、本体2,000円、B6変判上製232頁、ISBN978-4-86578-285-1
『新型コロナ「正しく恐れる」』西村秀一著、井上亮編、藤原書店、2020年10月、本体1,800円、A5判並製224頁、ISBN978-4-86578-284-4
『海から見た歴史〈増補新版〉――ブローデル『地中海』を読む』川勝平太編、網野善彦/石井米雄/I・ウォーラーステイン/川勝平太/鈴木董/二宮宏之/浜下武志/家島彦一/山内昌之著、藤原書店、2020年10月、本体3,300円、四六判上製368頁、ISBN978-4-86578-289-9

★藤原書店さんの10月新刊は3点。『ウイルスとは何か』は帯文に曰く「生命誌、科学史、情報学の各分野の第一線による緊急徹底討論」。2部構成で、第Ⅰ部「ウイルスと人間」では、中村桂子、村上陽一郎、西垣通の各氏による問題提起と質疑応答が行われます。第Ⅱ部「どういう社会を目指すのか」は3氏によるディスカッションです。巻頭の特記によれば「本書は、2020年7月22日、藤原書店催合庵で行われた座談会の記録である。司会・藤原良雄編集長」とのことです。

★『新型コロナ「正しく恐れる」』は、国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長の西村秀一(にしむら・ひでかず、1955-)さんのインタヴューをまとめたもの。編者の井上亮さんは「まえがき」で西村さんをこう紹介しておられます。「同氏は35年のキャリアを持つウイルス学者だが、いま一般に励行されている「正義」に疑義を呈しているめずらしい専門家である。疫学的な「正義」一辺倒の専門家が多いなか、それによって社会が被る損失(とくに社会的弱者への影響)を問題視する数少ない医学者でもある」(3頁)。約10時間に及んだというインタヴューが実施されたのは今年7月下旬から8月上旬にかけて。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『海から見た歴史〈増補新版〉』は、ブローデル『地中海』をめぐる日本の歴史家によるシンポジウムの記録として1996年に刊行されたものの増補新版。編者の川勝平太さんによる「新版への序――歴史観革命」と「『地中海』とは何か」、「続・エピローグ――海洋アジアと近代世界システム」が新たに追加されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお藤原書店さんは今年2020年に創立30周年を迎えられており、本書はその記念企画のひとつであるとのことです。

「図書新聞」に弊社6月刊、中井亜佐子『〈わたしたち〉の到来』の書評

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「図書新聞」2020年10月31日付第3469号4面に、弊社6月刊、中井亜佐子『〈わたしたち〉の到来ーー英語圏モダニズムにおける歴史叙述とマニフェスト』の書評が掲載されました。大阪大学教授・山田雄三さんによる「だれも排除しない理想の「わたしたち」ーー沈黙を余儀なくされてきた女性たちが慎重に、しかし凛として語りはじめる」です。「労働者のあいだで生きられている文化と教育機関が教える価値を帯びた文化〔・・・〕ふたつの文化を架橋する「偉大な男たち」の遺産はたいせつだ。ただ、21世紀的な大衆の出現を待望するのであれば、その遺産だけでは足りないのだ。著者の仕事はその欠損を白日のもとに晒してくれている」と評していただきました。

本日取次搬入:『スティーヴ・レイシーとの対話』月曜社

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弊社新刊、ジェイソン・ワイス編『スティーヴ・レイシーとの対話』が本日10月29日に取次搬入となりました。書店さんの店頭に並び始めるのは11月2日以降順次となるかと思われます。編者のジェイソン・ワイス(Jason Weiss, 1955-)の既訳書には『危険を冒して書く――異色作家たちへのパリ・インタヴュー』(浅野敏夫訳、法政大学出版局、1993年)があります。こちらはワイスが聞き手となって、パリ在住の作家9名にインタヴューをしたもの(原著は1991年)。9名というのは、E・M・シオラン、フリオ・コルタサル、ブライアン・ガイシン、ウージェーヌ・イヨネスコ、カルロス・フエンテス、ジャン=クロード・カリエール、ミラン・クンデラ、ナタリー・サロート、エドモン・ジャベス。カリエールを除いては異国出身です。『スティーヴ・レイシーとの対話』は原著が2006年刊行で、ワイスによるものを含めて34篇のインタヴューが収録され、さらに13篇の自筆メモと3曲の楽譜を併録しています。


フランク・メディオニによる1995年のインタヴュー「余計な音はいらない、もう十分だ」(242~244頁)より:


メディオニ――あなたの音楽のなかには、構築と脱構築を統合したものがあると言ってもいいのでしょうか。


レイシー――もちろんです。私は曲を構築し、かつ脱構築しながらそれに取り組んでいます。最初のフレーズにあったものは、最終的には何も残りません。しかし構造の構築はずっとやり続けています。モンクはよく「掘り下げろ〔Dig it〕」と言っていました。一つの音楽的アイデアを理解するためには、掘り出し、評価し、とことんその作業をやり抜くことが必要です。


メディオニ――あなたは、フレーズをあまり吹きませんが・・・。


レイシー――時々、それでもまだ多すぎることがあります。自分が自由に使える手段には、疑い深くあるべきです。上達すればするほど、演奏が悪くなるんです。そこは、わけが分かりません。


メディオニーー普通に起こることとは正反対になると・・・。


レイシー――そうです。しかし実際にはそういうものなんです。


+++


メディオニ――あなたはマンデリシュターム、老子、サンドラール。ベケット、ウィリアム・バロウズ、ブライオン・ガイシン・・・といった人たちのテキストを援用することで、広範囲にわたって文学作品と取り組んできました。


レイシー――革新的なことをやる必要がありますからね。音楽の中に人の声が存在すると、ある種のしなやかさが生まれ、もっと人間的なものになります。それは出発点からして別のもので、それゆえに到達点も異なります。我々は文学を音楽として表現しているんです。そういうことをやっているのは我々だけではありません。フランスでは、アンドレ・オデールが既にやっています。


メディオニ――あなたはまた、振付師、画家、彫刻家とも一緒に仕事をしていますね。あなたの目的な、あらゆる芸術を結合すること、統一することなのでしょうか?


レイシー――あらゆる芸術は、本質的には同じものから生まれてきます。そこにあるのは空間であり、時間であり、それから音、色彩、物体、肉体です。あらゆる芸術の間には、統一できる何かがあるんです。ですから、それらをミックスするのは、理にかなったことだと私には思えます。これはたぶん、歌、ダンス、演劇と、あらゆる領域で数多くの仕事をしたデューク・エリントンからの影響でしょうね。それを統一したのがジャズという音楽であり、至るところにあって、その中に何もかもが染み込んでいました。加えて、作曲家になる前、エリントンは画家でした。ジャズを、様々な状況の関数として徐々に変化する音楽だとするなら、私は状況主義者です。それがダンスであれ、演劇であれ、絵画であれ、ジャズのあり方を決めるのは状況です。それに私は唯物論者〔マテリアリスト〕でもあるので、私が興味を引かれるのは曲であり、サウンドであり、素材〔マテリアル〕です。


メディオニ――あなたにとってジャズの定義とはどういうものですか?


レイシー――集団で行なう、友好的で、友愛的な探索行為であり、しかし同時にまた戦いでもあります。本性からも、起源からも、本来の使命からも、反体制的な音楽です。「そういうふうに演奏したい、他人のことは一切気にしない、自分たちのやり方で演奏したい」という音楽です。ジャズはパルチザン的な音楽なんです。だから我々はジャズのパルチザンです。



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注目新刊:ラトゥール『諸世界の戦争』以文社、ほか

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『諸世界の戦争――平和はいかが?』ブリュノ・ラトゥール著、工藤晋訳、近藤和敬解題、以文社、2020年10月、本体2,200円、四六判上製136頁、ISBN978-4-7531-0359-1
『ザ・ブルーハーツ――ドブネズミの伝説』陣野俊史著、河出書房新社、2020年10月、本体2,000円、46判並製250頁、ISBN978-4-309-29094-2

『TOPICA PICTUS とぴか ぴくたす』岡﨑乾二郎著、ぱくきょんみ/中村麗寄稿、urizen発行、ナナロク社発売、2020年10月、本体4,000円、A4判上製124頁、ISBN978-4-904292-96-9

『記憶のデザイン』山本貴光著、筑摩選書、2020年10月、本体1,500円、四六判並製224頁、ISBN978-4-480-01717-8

『活動写真弁史――映画に魂を吹き込む人びと』片岡一郎著、共和国、2020年10月、本体6,600円、菊変型判上製576頁、ISBN978-4-907986-64-3

『和室学――世界で日本にしかない空間』松村秀一/服部岑生編、平凡社、2020年10月、本体3,400円、A5判並製366頁、ISBN978-4-582-54468-8

『ソ連軍〈作戦術〉――縦深会戦の追求』デイヴィッド・M・グランツ著、梅田宗法訳、作品社、2020年10月、本体3,800円、A5判上製384頁、ISBN978-4-86182-825-6



★『諸世界の戦争』は『War of the Worlds: What about Peace?』(Prickly Paradigm Press, 2002)の全訳。2008年8月にスリジー・ラ・サルで開催されたシンポジウム「諸文化の戦争と平和」で発表された仏語原稿を増補改訂して英語版が出版されたといいます。日本語版では、仏語版に付された注が原注として採用されています。ラトゥールは米国同時多発テロ事件を受けて「戦争のただなかにいることを自覚するとき、私たちは、多くの人々がよりいっそう平和な未来を想い描きあらゆる国民があいまいな近代主義的理想に収れんする、という自己満足から引きずり出されるのかもしれない。いや結局のところ、西洋人は全地球を近代化することなどできないのかもしれない」(7頁)ときっぱり書きます。


★続けてラトゥールはこう言います。「それは、西洋人が自分たちの文明という狭い領域に永遠に幽閉され、万人の万人に対する闘争のなかであらゆる他者に脅かされるという意味ではない。彼らは全世界を統一し、容認されたひとつの共通世界をつくるための確実な原理を所持していると性急に思い込んでいたということを意味するのだ。すでに存在している平和な同盟が粉々に破壊されたというわけではない。私たちはただ、同盟はつくられなければならないということを想起させられているのだ。それは単純に遵守されるものではない。統一とは自明であるどころか、戦って勝ち取られる未来の可能性以上のものではない。それは外交努力の最終結果であって、議論の余地のない出発点ではありえない」(7~8頁)。


★「あたかも戦争などまるで存在せず、ただ西洋的な自然な〈理性〉を平和的に拡張するために警察力を使ってあまたあの〈悪の帝国〉と戦い、それらを封じ込め、転向させようとしているだけであるかのように振る舞うとしたら、それは最悪の方向である。自分たちが近代的だといまだに信じている人々は往々にしてそうした過ちを犯す。〔…〕必要とされるのは、私たちがずっと戦ってきたあの古くからの戦争についての新しい認識なのである――新しい交渉と新しい平和のために」(9頁)。


★工藤さんは訳者あとがきでこう解説されています。「現代の状況に直面して、西洋近代推進主義者はいかなる行動をとるべきか。ラトゥールの提案は「やりなおし」である。すなわち、自らが行なってきた近代化、植民地化という暴力の始原まで時間を遡り、その地点から他者との交渉をやり直すこと。その再交渉の過程をラトゥールは「戦争」と呼ぶ」(91頁)。本書を読む読者は、従来の戦争観と平和観を根本的に転回させる機会を得ることになるはずです。


★もう一度ラトゥール自身の言葉を引きます。「いまこそ彼ら〔近代主義者〕に救いの手を差しのべ、如才なく彼らを交渉テーブルにつかせるときである。実際、諸世界の戦争が存在することを彼らに認識させ、彼らがそれに命を賭ける価値があると考えたもの――普遍性――と彼らが本当に気遣うべきもの――普遍性の構成――とを注意深く区別するように彼らに促すことが重要なのである。争う両者は相変わらず自分たちが何のために戦っているのかを知らない。外交官の仕事は、争う者たちに発見を手助けをすることである」(82頁)。


★『ザ・ブルーハーツ』は書き下ろし。はじめにとあとがきを除き、全8章で構成。「ブルーハーツができてから解散するまでの時間の流れに沿ってゆく。そのとき、時代背景の説明も最低限、入れてみよう。そして、この本の最大のポイントは歌詞の分析にある。立ち止まって考えたい。歌詞については当該の作品全篇を引用することにする」(13頁)。第1章「「1985」に始まる」で陣野さんはこう書きます。「ブルーハーツとは、出発点からしてすでに、戦争のこと、原爆のことを歌うバンドだった。「社会派」でも「反原発」でもなく、そういうバンドだったのだ。いいも悪いもない。流行も廃りもない」(27頁)。著者のありったけの熱量を注いだように感じるこの本は、行を目で追うだけで熱いですが、引用される曲を聴きながら読むともっと素晴らしいです。


★『TOPICA PICTUS とぴか ぴくたす』は、岡﨑乾二郎さんによる色彩鮮やかな最新作138点を収録した画集。岡﨑さんは2020年3月から6月にかけてアトリエで150点強の作品を制作されたそうです。それらの一部が、先月より豊田市美術館で、今月から東京国立近代美術館などで順次公開されています。この画集では、岡﨑さんによるイントロダクション、キュレーターの中村麗さんと詩人のぱくきょんみさんによるエッセイが各1篇ずつ収められています。岡﨑さんはこう書いておられます。「2020年の2月の終わりから、アトリエに籠り、いままでになく集中し作品を仕上げることができた。どこにも行くことができないという条件は、かえって絵を通してどこにでも行けるという確信を強めてくれた。正確にいえば、絵はそのつど異なる、固有の場所を引き寄せ、そこを探索しつくすことを可能にもする」(7頁)。


★『記憶のデザイン』は書き下ろし。「この本で考えてみたいのは、膨大な情報を扱えるようになった現在の情報環境と、それを使う人間の、とりわけ記憶とのあいだに、よりよい関係を結ぶような仕組みをつくれないか、という課題である」(19頁)。80年代前半からコンピュータを使ってきたという山本さんは「コンピュータとインターネットによって実現され、日々更新されつつある情報環境は、どうも人間の身の丈に合っていないのではないか」(18頁)という疑問を抱いてきたといいます。なるほどそうした思いは私たち一般人も直感的に抱いているものではないでしょうか。山本さんが構想する壮大かつ身近な「知識OS」開発への序曲として本書に注目したいです。


★『活動写真弁史』は、自らも活動写真弁士として国際的に活躍する片岡一郎(かたおか・いちろう、1977-)さんによる書き下ろしの大作。全十章で、巻末には38名の弁士の「小伝」が添えられています。解説は映画監督の周防正行さん。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「世界のあちこちで映画に音声を付けようと試行錯誤は当初から行われていた。幾多の音を巡る試みのなかで日本は独自の方法を発達させた。それこそ物言わぬ映像を、生身の演者が音声化する技芸、「活動写真弁士」だ。〔…〕活動写真時代の映画館は、弁士が語り、楽士が音楽を奏で、観客が拍手や声援を送る、無声映画であるがゆえに音声に満ちたライブ感あふれる場であった」(16頁)。


★『和室学』は日本建築学会の11名のベテラン研究者による和室論。本論集の定義によれば和室とは「日本の中で独自に成立し展開した部屋で、椅子等ではなく床に座る〈床座〉に対応し、畳の敷き詰められた部屋」のこと。近年、日本の住宅から姿を消しつつある和室をめぐる、文化と思想、歴史と変遷、現在と未来を考えるための貴重な論集となっています。畳が日本独自のもので「その寸法と敷き詰めというあり方が、日本の建築のつくり方の独自性に繋がっている」(8頁)ことが指摘されています。


★『ソ連軍〈作戦術〉』は『Soviet Military Operational Art: In Pursuit of Deep Battle』(Frank Cass Publishers, 1991)の完訳書。訳者後書きの文言を借りると「まだ日本ではなじみの薄い作戦術(Operational Art)を中心に、戦略と戦術を含めたソ連軍の部隊運用思想について、その発生からソ連崩壊の直前まで網羅的に取り扱った、浩瀚な研究書」。著者のグランツ(David M. Glantz, 1942-)は、ベトナム戦争への従軍経験がある、米国の軍事史家。本書が初訳です。



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「週刊読書人」2020年11月6日号に、弊社8月刊、デリダ『スクリッブル 付:トール「形象変化」』の書評記事「グラマトロジーの広がりを考えるための必読書――エクリチュールの何が問題だったのか」が掲載されました。評者は立命館大学文学部初任研究員の松田智裕さんです。「本書に収録されたデリダの論考は1960年代のエクリチュール論の延長線上にあると言えよう。また、要所要所で付された訳注と、ウォーバートンのヒエログリフ論の背景やデリダとトールの論考についてわかりやすく解説した「訳者あとがき」は読書の助けとなるだろう」と評していただきました。

【本日取次搬入】アルフォンス・ド・ヴァーレンス『マルティン・ハイデガーの哲学』

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弊社新刊、アルフォンス・ド・ヴァーレンス『マルティン・ハイデガーの哲学』(峰尾公也訳、A5判上製432頁、本体4,500円、シリーズ「古典転生」第23回配本本巻第22巻)を本日2020年11月6日、取次搬入いたしました。20世紀フランスにおけるハイデガーの初期受容における最重要古典のひとつ(1942年)であり、「実存主義の奥深い究極の射程へ」(393頁)と向かう読解の書。書店さんでの店頭発売開始は来週中頃より順次となります。どの書店さんで扱いがあるかについては、弊社営業部までお気軽にお尋ねください。

注目新刊:『HAPAX 13 パンデミック』夜光社、ほか

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『HAPAX 13 パンデミック』夜光社、2020年11月、本体1,500円、四六判変形並製208頁、ISBN978-4-906944-21-7
『緊急提言 パンデミック――寄稿とインタビュー』ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社、2020年10月、本体1,300円、46判上製128頁、ISBN978-4-309-22810-5
『命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる』ジャック・アタリ著、林昌宏/坪子理美訳、プレジデント社、2020年10月、本体2,700円、四六判上製324頁、ISBN978-4-8334-2387-8
『欲望の資本主義4――スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦:コロナ危機の本質』丸山俊一/NHK「欲望の資本主義」制作班著、東洋経済新報社、2020年10月、本体1,600円、四六判並製212頁、ISBN978-4-492-37128-2

★『HAPAX 13』は特集「パンデミック」。フランコ・ベラルディ(ビフォ)、ラウル・ヴァネーゲム、村澤真保呂、高祖岩三郎、李珍景、の各氏らによるテクストをはじめ、15篇を収録。平素の当誌らしく、状況にコミットする海外の無記名テクストも4篇収められています。なかでももっとも紙幅が咲かれているのは、江川隆男さんへのインタヴュー「哲学とは何か――パンデミックと来るべき民衆に向けて」(30~71頁)。十代から現在までの半生を音楽や読書や著書とともに振り返るもので、前口上にはこう書かれています。

★「これら〔江川氏の著書の数々〕がこの世界ではほぼ黙殺されていることは江川哲学の栄光である。今回、パンデミックを主題化するにあたり、いちはやく気象哲学の重要性を提唱してきた江川にその軌跡と核心、そして気候変動/コロナについて聞いた」(30頁)。『HAPAX』の特異性は、たとえ書き手のシグネチャーが明示されていようといまいと、つねにコレクティヴ、集団的な協働性へと開かれた場を目指そうとする試みに存するように思われます。有形無形の社会解放の運動が生成する現場へと向かう眼差し。

★『緊急提言 パンデミック』は、日本オリジナル版の一冊。「人類は新型コロナウィルスといかに闘うべきか」(タイム、2020年3月15日)、「コロナ後の世界」(フィナンシャル・タイムズ、3月20日)、「死に対する私たちの態度は変わるか?」(ザ・ガーディアン、4月20日)の3篇のエッセイに、NHK-Eテレで2020年4月25日に放送された道傳愛子氏による緊急インタヴュー「パンデミックが変える世界」を併せ、書き下ろしの序文を付したもの。「私たちが直面している最大の危険はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ」(9頁)。暴力にあふれる貧しく分裂した世界への転落危機を強く警告しています。

★『命の経済』は『L'Économie de la vie』(Fayard, 2020)をもとに、著者が最新データに基づく加筆を行ったものの全訳。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。アタリはコロナ禍以前の世界に戻ることは不可能だと述べ、「悲惨な展開も前向きな展開も等しく加速させる、残酷な促進剤」(25頁)としてパンデミックを捉えています。書名にもなっている「命の経済」とは、「パンデミックとの戦いに勝利するために必要」で「パンデミックによって必要性が明らかになった」(214頁)物事の生産と維持を推進して「命を守る」(286頁)経済政策のこと。「世界のどこであっても誰かが伝染病に感染しないことは、全員の利益なのだ」(192頁)という彼の言葉こそ「ニューノーマル時代」の標語としたいものです。

★『欲望の資本主義4』は、NHK-BS1のスペシャル番組3本「欲望の資本主義2020~日本・不確実性への挑戦~」(2020年1月3日放送)、シリーズ・コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」(4月18日放送)、同シリーズ「回復力の攻防戦」(7月5日放送)における、経済学者ジョセフ・スティグリッツと、歴史学者ニーアル・ファーガソンへのインタヴューをまとめたもの。「未公開部分も多数収録」と帯文に歌われています。ファーガソンは『憎悪の世紀』(上下巻、早川書房、2007年)で20世紀を論じましたが、今回のインタヴューでも「憎悪が再び世界や時代を支配することのないようにしなければなりません」(46頁)と強調しているのが印象的です。

★続いてまもなく発売となる新刊6点を列記します。

『柄谷行人発言集 対話篇』読書人、2020年11月、本体7,800円、A5判上製函入940頁、ISBN978-4-924671-45-4
『生き方について哲学は何が言えるか』バーナド・ウィリアムズ著、森際康友/下川潔訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09791-0
『国家と市場――国際政治経済学入門』スーザン・ストレンジ著、西川潤/佐藤元彦訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,700円、文庫判560頁、ISBN978-4-480-51014-3
『古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル』フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,350円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51015-0
『解放されたゴーレム――科学技術の不確実性について』ハリー・コリンズ/トレヴァー・ピンチ著、村上陽一郎/平川秀幸訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51022-8
『オイラー博士の素敵な数式』ポール・J・ナーイン著、小山信也訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体2,000円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51020-4

★『柄谷行人発言集 対話篇』はまもなく発売。1971年から2018年に至る単行本未収録対談55篇を収録。総勢47名の対談者の名前は書名のリンク先をご覧ください。複数回登場するのは、福田和也さんが最多の3回(99年2回、2004年1回)で、そのほか6氏は2回ずつ。秋山駿さん(72年、77年)、岩井克人さん(84年、91年)、島田雅彦さん(94年、99年)、大西巨人さん(96年、2000年)、渡辺直己さん(99年、2017年)、佐藤優さん(2007年、2017年)です。柄谷さんは「あとがき」で次のように述べておられます。

★「私はこれまでに対談集を15冊も出している。しかし、今ふりかえってみると、対談は難しいものだと思う。それはインタビューではないし、褒め合いであってもいけない。かといって、アカデミックな討論のようなものでもない。無造作に見えるとしても、対談には、ある種の役割分担、筋書きのようなものがある。それは日本独特の文化なのかもしれない。たとえば漫才のように。〔…〕漫才とは、旧来の儀礼的な「萬歳」にマルクス的な弁証法が加えられたものだ。そのことが、今や〔…〕まったく忘れられている」(892~893頁)。編集担当のAさんによる力作索引(事項、文献、人名)も素晴らしい、圧倒的な大冊です。

★ちくま学芸文庫の11月新刊は5点。『生き方について哲学は何が言えるか』は、産業図書から1993年に刊行された単行本の文庫化。『Ethics and the Limits of Philosophy』(Fontana Press, 1985)の全訳で、文庫化にあたって2006年にRoutledgeから刊行された最新版を参照したとのことです。文庫版訳者あとがきによれば最新版では「本文に一部省略と最小限の訂正があり、原注には多少の補遺があった」と。これらの反映も含め、修正が多数あったとのことです。バーナド・ウィリアムズ(Sir Bernard Williams, 1929-2003)はイギリスの哲学者。訳書に『道徳的な運――哲学論集一九七三~一九八〇』(勁草書房、2019年)があります。

★『国家と市場』は、1994年に東洋経済新報社より刊行された『国際政治経済学入門――国家と市場』を文庫化したもの。書名の正副が逆になっています。原書はPinter Publishresより1988年に初版が、そして第2版が94年に出版された『States and Markets』です。底本は第2版。訳者まえがきには追加の文言はありませんが、巻末に新たに東京大学教授の鈴木一人さんによる解説「グローバル化時代の国際政治経済権力構造とは何か」が加えられています。スーザン・ストレンジ(Susan Strange, 1923-1998)は、イギリスの国際政治経済学者。文庫化された訳書に『カジノ資本主義』(岩波現代文庫、2007年)、『マッド・マネー』(岩波現代文庫、2009年)があります。

★『古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル』は、文庫オリジナルの初訳。イギリスのノンフィクション作家のフィリップ・マティザック(Philip Matyszak, 1958-)による『古代ローマ旅行ガイド』『古代アテネ旅行ガイド』に続く第3弾の文庫です。原書は『Legionary: The Roman Soldier's (Unofficial) Manual』(Thames & Hudson, 2009)。「ローマ帝国軍兵士になるためのマニュアルとして執筆された、架空のガイドブック」(カバー裏紹介文より)です。設定としてはトラヤヌス帝時代が舞台とのことで、カラーページを含む多数の写真やイラスト、豆知識などとともに、古代ローマ史を学ぶことができます。巻末には用語集、参考文献、索引があります。

★『解放されたゴーレム』は、化学同人より2001年に刊行された『迷路の中のテクノロジー』の改題文庫化。『The Golem at Large: What You Should Know about Technology』(Cambridge University Press, 1998)の全訳です。文庫化にあたり、「科学論の歴史展開とポスト・トゥルースの時代」と題された文庫版訳者あとがきが付されています。帯文に曰く「チェルノブイリ原発事故、スペースシャトル爆発、エイズ・・・7つの事例で示す科学技術の本質」。「「確実で価値中立的な知識」という素朴な科学観を退ける」(カバー裏紹介文より)科学社会学の成果です。『七つの科学事件ファイル――科学論争の顛末』(化学同人、1997年)の続編。

★『オイラー博士の素敵な数式』は「Math&Science」シリーズの新刊。2008年に日本評論社より刊行された単行本の文庫化です。原書は『Dr. Euler's Fabulous Formula: Cures Many Mathematical Ills』(Princeton University Press, 2006)。『虚数の話』(青土社、2000年)の姉妹編で、「人類が複素数の発見に至った長く苦しい道のり」(10頁)を歴史的に解説した前著で省略せざるをえなかったという数学的解説を展開したもの。文庫化にあたって訳者による「文庫版の刊行によせて」という一文が加わっており、親本での誤記誤植が改められていることが窺えます。「数学、物理学、電気工学の研究のヒント」として活用できるだろう、と訳者は本書を評価しています。

月曜社2020年12月発売予定新刊:桑原甲子雄『物語昭和写真史』

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月曜社新刊案内【2020年12月:1点】
芸術書1点:写真史/エッセイ

2020年11月29日受注締切
2020年12月09日取次搬入予定(書店店頭配本分)

物語昭和写真史
桑原甲子雄[著]
月曜社 2020年12月 本体2,400円 46判(縦188mm×横130mm)上製仮フランス装384頁 ISBN978-4-86503-106-5 C0072

写真誌の編集者として、写真家として、下町生活者として、昭和写真の現場を支え、見つめてきた著者による、1930年代から80年代までの写真界と世相の回想記。収録作:「わが実感的戦後写真史」「カメラ雑誌とともに20年」「物語昭和写真史」(以上単行本未収録の雑誌連載)、「リアルタイム1930~1990」(未発表草稿)、「私の写真史」(晶文社、1976年)。写真40点も併録。森山大道推薦!「桑原さんの存在は、昭和の日本写真にとってかけがえのない示唆を与えてくれた。そのさりげなくしなやかなスタンスは、後につづくぼくたちへ向けて多くのメッセージを伝えてくれた」。

桑原甲子雄(くわばら・きねお)1913年台東区東上野生まれ。2007年逝去。隣家の友人濱谷浩の影響で、1930年代より上野、浅草など東京下町の写真を撮りはじめる。戦後、写真雑誌の編集に携わり、『カメラ』『サンケイカメラ』『カメラ芸術』『季刊写真映像』『写真批評』の編集長を歴任。写真集に『東京昭和十一年』(1974年)、『満州昭和十五年』(1974年)、『夢の町』(1977年、以上すべて晶文社)、『東京長日』(朝日ソノラマ、1978年)『東京1934-1993』(新潮社、1995年)ほか。著書に『私の写真史』(晶文社、1976年)。

書店様へ
●パターン配本いたしません。ご発注いただいた書店様にのみ配本いたします。
●店頭分のお申し込みは、営業部電話:03-3935-0515もしくはFAX:042-481-2561までお願いいたします。月曜社ウェブサイト最下段で公開しているEメールアドレスもご利用いただけます。

お客様へ
●全国の新刊書店様から事前予約可能です(ご予約された場合、キャンセルできませんのでご注意下さい)。
●通販サイトではアマゾン・ジャパンなどにて予約受付中です。

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本日取次搬入:『多様体3:詩作/思索』

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弊社新刊、『多様体3:詩作/思索』(A5判並製368頁、本体3,000円)を本日2020年11月12日、取次搬入いたしました。書店さんでの店頭発売開始は来週中頃より順次となります。どの書店さんで扱いがあるかについては、弊社営業部までお気軽にお尋ねください。

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注目新刊:ラトゥーシュ『脱成長』文庫クセジュ、ほか

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『脱成長』セルジュ・ラトゥーシュ著、中野佳裕訳、文庫クセジュ、2020年11月、本体1,200円、新書判157頁、ISBN978-4-560-51040-7
『賢者ナータン』レッシング著、丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫、2020年11月、本体960円、文庫判308頁、ISBN978-4-334-75434-1

『存在と時間8』ハイデガー著、中山元訳、光文社古典新訳文庫、2020年11月、本体1,240円、文庫判402頁、ISBN978-4-334-75435-8



★『脱成長』は『La décroissance』(coll. « Que sais-je ? », 2019)の全訳。訳者あとがきの文言を借りると、「21世紀に入りフランスから世界へと普及した脱成長運動について、この言葉の提唱者である著者が、その歴史的背景、理論的射程、課題を細心の議論を踏まえながら解説」した一書です。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★「脱成長〔デクロワサンス〕は、別の形の経済成長を企図するものでも、(持続可能な開発、社会開発、連帯的な開発など)別の形の開発を企図するものでもない。それは、これまでとは異なる社会――節度ある豊かな社会、(ドイツの経済学者ニコ・ペーチの言葉では)「ポスト成長」社会、もしくは(英国の経済学者ティム・ジャクソンの言葉では「経済成長なき繁栄」――を構築する企てである。言い換えると、脱成長は経済学的な企てでも別の経済を構築する企てでもなく、現実としての経済および帝国主義的言説としての経済から抜け出すことを意味する社会的企てである。「脱成長」という言葉は、複合的なオルタナティブ社会を構築する企てを意図している。そしてこの企ては明確な分析的・政治的射程を有している」(12頁)。


★第四章「脱成長社会への移行を成功させる」の第4節「脱成長の先駆者たち」では19世紀や20世紀の思想家たちの名前が列挙されており、20世紀の「脱成長の開拓者たち」として次の人々が挙げられています。イヴァン・イリイチ、コルネリウス・カストリアディス、アンドレ・ゴルツ、ジャック・エリュール、ベルナール・シャルボノー、フランソワ・パルタン、ニコラス・ジョージェスク=レーゲン、ランザ・デル・ヴァスト。さらに、マレイ・ブクチン、バリー・コモナー、オルダス・ハクスリー、アレクサンドル・チャヤーノフ、ルイス・マンフォード、セオドア・ローザク。書棚構成上で有益な括りかと思われます。


★印象的な言葉をいくつか引きます。「脱成長という論争的なスローガンの裏には、経済成長社会、すなわち資本主義的で生産力至上主義的な経済との断絶というメッセージが込められているが、それはまた、世界の西洋化との断絶も意味している。結論として、脱成長は歴史を文化の多様性へと再び開いていくのである」(140頁)。


★「脱成長社会の実現は、世界の「再魔術化」という問題を提起する。この言葉によって、脱成長という宗教を発明しなければならないのだと誤解してはならない。そうではなく、聖なるものの意味を再発見し、人間の精神的次元――このスピリチュアリティは完全に世俗的なものでもありうる――に再び正当性を与え、さらには〔世界の美しさに〕驚嘆する能力を回復することが重視されるべきだ。詩人、画家、あらゆるタイプのアーティスト――端的に言えば、有用性のないもの、無償のもの、夢の世界のもの、我々自身の犠牲にされた部分を扱うすべての専門家――は居場所を見つけ、「内在的超越」と逆説的に呼ばれうるものへの道を拓いていかねばならない」(141頁)。


★光文社古典新訳文庫の11月新刊は2点。レッシング『賢者ナータン』(1779年)は、ドイツ啓蒙主義の名作戯曲で、文庫としては、 岩波文庫の2点(『賢者ナータン』大庭米治郎訳、1927年;『賢人ナータン』篠田英雄訳、1958年)に続く久しぶりの新訳です。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教のうち「どれが本物か」という問いに対し、3つの指輪の寓話を通じて「寛容と人類愛を説いた思想劇」(カバー裏紹介文より)。付録として関連文献2点、ボッカッチョ『デカメロン』より「指輪の寓話」(カール・ヴィッテによる1859年のドイツ語訳からの重訳)、そして牧師ゲツェに宛てたレッシングの1778年の文書『ひとつの寓話』より「寓話」が訳出されています。


★『存在と時間8』は全8巻の完結篇。2015年9月の第1巻から5年の歳月が流れました。どの巻も訳文に匹敵する長さの解説が付され、近年の新訳文庫である熊野純彦訳全4巻(岩波文庫、2013年)に比べ倍の巻数になっています。第一部第二篇第五章「時間性と歴史性」から第六章第83節までを収録。周知の通り、『存在と時間』は問いかけで終わります。終わるというか、開かれたままになっています。「ハイデガーがどうして第二部の執筆を放棄したかについては、様々な考察が展開されている。〔…〕ハイデガーはこの反転(ケーレ)を完全に放棄したわけではなく、自分に適していると思われる道筋で、その生涯をかけてこの問いを展開しつづけたと考えることができる」(382~383頁)と中山さんはお書きになっています。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』ユヴァル・ノア・ハラリ原案脚本、ダヴィッド・ヴァンデルムーレン脚本、ダニエル・カザナヴ漫画、安原和見訳、河出書房新社、2020年11月、本体1,900円、A4変形判並製248頁、ISBN978-4-309-29301-1 
『自然と精神/出会いと決断――ある医師の回想』ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカー著、木村敏/丸橋裕監訳、橋爪誠/岸見一郎/伊藤均訳、法政大学出版局、2020年10月、本体7,500円、四六判上製658頁、ISBN978-4-588-01123-8

『領土の政治理論』マーガレット・ムーア著、白川俊介訳、法政大学出版局、2020年10月、本体4,500円、A5判上製388頁、ISBN978-4-588-60361-7

『想像力――「最高に高揚した気分にある理性」の思想史』メアリー・ウォーノック著、髙屋景一訳、法政大学出版局、2020年10月、本体4,000円、四六判上製342頁、

ISBN978-4-588-13031-1


★『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』は、全世界で1600万部を突破したという大ベストセラーのグラフィックノヴェル化第1弾。活字本は上下2巻本でまだ文庫化もされていないので、今回のオールカラー漫画化計画のスタートは興味深い試みです。内容サンプルは版元さんが特設ページを開設しており、そちらで見ることができます。判型が日本のコミックよりかなり大きいのと、シンプルなコマ割り、活字量の多さなど、日本人が実はあまり慣れていないメディアかもしれませんが、異他なる読書経験として楽しめるのではないでしょうか。巻末の謝辞でハラリは、グラフィック・ノヴェルの構想によって「まったく新しい視点から人類史を語り直すことができた〔…〕私ひとりではとうていできなかっただろう」と書いています。次巻は「人類を奴隷化した」という小麦栽培の歴史が語られるようです。


★『自然と精神/出会いと決断』は、ドイツの医師で生理学者のヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカー(Viktor von Weizsäcker, 1886-1957)による2冊の自伝的著書『出会いと決断』(Begegnungen und Entscheidungen, 1949年)と『自然と精神――ある医師の回想』(Natur und Geist: Errinnerungen eines Arztes, 1954年)を、ズーアカンプ版著作集第一巻(1986年)を底本として訳出したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。二度の世界大戦という危機の時代のただなかを生きた彼と、同時代の哲学者や神学者、精神分析家との出会いが綴られており、ヴァイツゼカー自身の「医学的人間学」へと向かう思索の深化と拡がりを見ることができるだけでなく、同時代の偉大な知性たちをめぐる鋭い分析と証言を追うこともできます。『ゲシュタルトクライス』や『パトゾフィー』の副読本として随時参照すべき、貴重な記録です。


★『領土の政治理論』は『A Political Theory of Territory』(Oxford University Press, 2015)の全訳です。著者のマーガレット・ムーア(Margaret Moore)はカナダの政治哲学者。本書は彼女の三作目で、2017年にカナダ哲学会の最優秀著作賞受賞作です。同姓同名の小説家がいますが別人で、政治哲学者のムーアの訳書は本書が初めてになります。本書では「領土をめぐる考え方を体系化し、領土論において重要だと考えられるさまざまな要素を解釈する規範理論を打ち出すことを目的とし」(336頁)、「政治的自決の観点から領土や領土権という考えを擁護し」(同頁)ています。尖閣諸島や竹島についても論及あり。「世界は共有物だという考え方」は「個人や集団が有する土地に対する愛着」を真剣に受け止めていないのではないか(同頁)、という意見は興味深いです。


★『想像力』は『Imagination』(University of California Press, 1976)の訳書。「私の主たる目的は、ヒュームとカントの理論を想像力の本性と機能に関するワーズワースとコールリッジの思索とすり合わせることである」と「日本語版への前書き」に著者は書きます。想像力は言葉では尽くしえずとらえきれない何があり、さらに学ぶべきことが常にあることを人間に教えるもので、「教育の主たる目的は想像力を拡げることにある」と著者は言います。「想像力を刺激することは退屈の対極であり、無限の歓びへの入り口なのである」(v頁)。メアリー・ウォーノック(ワーノックとも:Helen Mary Warnock, 1924-2019)は英国の哲学者で、単独著の既訳書には『二十世紀の倫理学』(原著1960年;法律文化社、1979年)と 『生命操作はどこまで許されるか』(原著1985年;協同出版、1992年)があります。


★訳者の髙屋さんは、ウォーノックの後年の未訳講義録『Imagination and Time』(Blackwell, 1994)について、本書『想像力』での議論が平明に語られつつ深化していると紹介しています。「個人としての人間は有限な存在だが、人間は想像力をもって思索したり探究したりすることで、限られた視点による具体的個別的な事象を超えて、普遍的な価値を創造し、過去や未来とつながることができる」(訳者解説、316頁)。まさにこれこそ、出版人が書籍を制作し、広く頒布しようとする理由でもあります。

ブックツリー「哲学読書室」に柿並良佑さんの選書リストが追加されました

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『多様体2 総特集:ジャン=リュック・ナンシー』(月曜社、2020年10月)の寄稿者、柿並良佑さんによるコメント付き選書リスト「愛と哀悼――不可能なものの共同体のために」がオンライン書店「honto」のブックツリー 「哲学読書室」にて公開となりました。


◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」
50)筧菜奈子(かけい・ななこ:1986-)さん選書「抽象絵画を理解するにうってつけの5冊」

51)西山雄二(にしやま・ゆうじ:1971-)さん選書「フランスにおける動物論の展開」
52)山下壮起(やました・そうき:1981-)さん選書「アフリカ的霊性からヒップホップを考える」

53)綿野恵太(わたの・けいた:1988-)さん選書「「ポリティカル・コレクトネス」を再考するための5冊」
54)久保明教(くぼ・あきのり:1978-)さん選書「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために」
55)築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さん選書「信仰について考える。ベルクソンとドゥルーズと共に」
56)浅野俊哉(あさの・としや:1962-)さん選書「〈触発〉の意味の広がりに触れる5冊」
57)岩野卓司(いわの・たくじ:1959-)さん/赤羽健(あかはね・けん:1991-)さん選書「贈与論を通してどう資本主義を突き抜けていくか」
58)秋元康隆(あきもと・やすたか:1978-)さん選書「「利他」とは何かを学ぶために」
59)宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ:1974-)さん選書「「死後の生」を考える、永遠の生を希求することなく」
60)後藤護(ごとう・まもる:1988-)さん選書「「ゴシック・カルチャー破門」からのマニエリスム入門」
61)大谷崇(おおたに・たかし:1987-)さん選書「人間はずっと人生を嫌ってきた――古今東西のペシミズム」
62)飯盛元章(いいもり・もとあき:1981-)さん選書「思考を解き放て!」
63)長濱一眞(ながはま・かずま:1983-)さん選書「「日本」と「近代」を考えるのにガッツリ読みたい5冊」
64)入江哲朗(いりえてつろう:1988–)さん選書「アメリカ思想史を日本語で学ぶための5冊」
65)福島勲(ふくしま・いさお:1970-)さん選書「眠る記憶をざわめかせる、ざわめく記憶を眠らせる」
66)山本圭(やまもと・けい:1981-)さん選書「アンタゴニズム(敵対性)と政治について考えるブックリスト」
67)横田祐美子(よこた・ゆみこ:1987-)さん選書「「思考すること」をたえず思考しつづけるために」
68)伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう:1989-)さん選書「世界の終わりにおいて人間には何ができるのか?」
69)井岡詩子(いおか・うたこ:1987‐)さん選書「おとなの内に残存する子ども/わたしと再び出会う」
70)松田智裕(まつだ・ともひろ:1986-)さん選書「読み、抵抗し、問う」

71)篠森ゆりこ(しのもり・ゆりこ:1967-)さん選書「紙幣の肖像に選ばれたハリエット・タブマンて誰?」
72)三浦隆宏(みうら・たかひろ:1975-)さん選書「哲学カフェには考えるに値する論点があるか?」
73)中井亜佐子(なかい・あさこ:1966-)さん選書「女たちの英文学――個と、集合性と」
74)澤田哲生(さわだ・てつお:1979-)さん選書「P4CからC4Pへ」75)大橋完太郎(おおはし・かんたろう:1973-)さん選書「「真理(真実)」と「生」の関わりを考える」
76)柿並良佑(かきなみ・りょうすけ:1980-)さん選書「愛と哀悼――不可能なものの共同体のために」

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ブックツリー「哲学読書室」に峰尾公也さんの選書リストが追加されました

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アルフォンス・ド・ヴァーレンス『マルティン・ハイデガーの哲学』(月曜社、2020年11月)の訳者、峰尾公也さんによるコメント付き選書リスト「現代フランス哲学のなかに息づくドイツ哲学」がオンライン書店「honto」のブックツリー 「哲学読書室」にて公開となりました。


◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」
50)筧菜奈子(かけい・ななこ:1986-)さん選書「抽象絵画を理解するにうってつけの5冊」

51)西山雄二(にしやま・ゆうじ:1971-)さん選書「フランスにおける動物論の展開」
52)山下壮起(やました・そうき:1981-)さん選書「アフリカ的霊性からヒップホップを考える」

53)綿野恵太(わたの・けいた:1988-)さん選書「「ポリティカル・コレクトネス」を再考するための5冊」
54)久保明教(くぼ・あきのり:1978-)さん選書「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために」
55)築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さん選書「信仰について考える。ベルクソンとドゥルーズと共に」
56)浅野俊哉(あさの・としや:1962-)さん選書「〈触発〉の意味の広がりに触れる5冊」
57)岩野卓司(いわの・たくじ:1959-)さん/赤羽健(あかはね・けん:1991-)さん選書「贈与論を通してどう資本主義を突き抜けていくか」
58)秋元康隆(あきもと・やすたか:1978-)さん選書「「利他」とは何かを学ぶために」
59)宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ:1974-)さん選書「「死後の生」を考える、永遠の生を希求することなく」
60)後藤護(ごとう・まもる:1988-)さん選書「「ゴシック・カルチャー破門」からのマニエリスム入門」
61)大谷崇(おおたに・たかし:1987-)さん選書「人間はずっと人生を嫌ってきた――古今東西のペシミズム」
62)飯盛元章(いいもり・もとあき:1981-)さん選書「思考を解き放て!」
63)長濱一眞(ながはま・かずま:1983-)さん選書「「日本」と「近代」を考えるのにガッツリ読みたい5冊」
64)入江哲朗(いりえてつろう:1988–)さん選書「アメリカ思想史を日本語で学ぶための5冊」
65)福島勲(ふくしま・いさお:1970-)さん選書「眠る記憶をざわめかせる、ざわめく記憶を眠らせる」
66)山本圭(やまもと・けい:1981-)さん選書「アンタゴニズム(敵対性)と政治について考えるブックリスト」
67)横田祐美子(よこた・ゆみこ:1987-)さん選書「「思考すること」をたえず思考しつづけるために」
68)伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう:1989-)さん選書「世界の終わりにおいて人間には何ができるのか?」
69)井岡詩子(いおか・うたこ:1987‐)さん選書「おとなの内に残存する子ども/わたしと再び出会う」
70)松田智裕(まつだ・ともひろ:1986-)さん選書「読み、抵抗し、問う」

71)篠森ゆりこ(しのもり・ゆりこ:1967-)さん選書「紙幣の肖像に選ばれたハリエット・タブマンて誰?」
72)三浦隆宏(みうら・たかひろ:1975-)さん選書「哲学カフェには考えるに値する論点があるか?」
73)中井亜佐子(なかい・あさこ:1966-)さん選書「女たちの英文学――個と、集合性と」
74)澤田哲生(さわだ・てつお:1979-)さん選書「P4CからC4Pへ」75)大橋完太郎(おおはし・かんたろう:1973-)さん選書「「真理(真実)」と「生」の関わりを考える」
76)柿並良佑(かきなみ・りょうすけ:1980-)さん選書「愛と哀悼――不可能なものの共同体のために」
77)峰尾公也(みねお・きみなり:1986-)さん選書「現代フランス哲学のなかに息づくドイツ哲学」

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注目新刊:ウィトゲンシュタイン『哲学探究』鬼界彰夫訳、ほか

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『哲学探究』ルートウィッヒ・ウィトゲンシュタイン著、鬼界彰夫訳、講談社、2020年11月、本体2,800円、四六判上製546頁、ISBN978-4-06-219944-5
『入門フリーメイスン全史――偏見と真実』片桐三郎著、文芸社文庫、2020年10月、本体1,000円、A6判並製300頁、ISBN978-4-286-22116-8



★『哲学探究』は、藤本隆志訳(大修館書店『ウィトゲンシュタイン全集8』、1976年)、黒崎宏訳(産業図書『『哲学探究』読解』、第1部1994年、第2部1995年、合本版1997年)、岡沢静也訳(岩波書店、2013年)に続く4番目の新訳。底本は2009年にブラックウェルから刊行されたP・M・S・ハッカーとヨアヒム・シュルテの編纂による独英対訳の改訂第4版。「この版においてはじめて第一版のテキストに対して様々な実質的変更が加えられ、アンスコムの英訳にもいくつかの修正が施されました」と「訳者解説」にあります。なお直近の丘沢訳の底本は第一部がヨアヒム・シュルテ編纂による2003年刊のズーアカンプ版で、第二部がブラックウェルの第2版3刷(1967年)でした。


★鬼界さんは「訳者まえがき」で今回の翻訳の動機と意図について次のように明かしておられます。「この書物にはすでに三つのすぐれた翻訳があります。にもかかわらず、今回あえて『探究』の新しい訳を出すのは、読者が『探究』という作品の全体像に触れることができるような翻訳を提供したいと思ったからです。読者が個々のテキストを読みながら、常にそれが『探究』全体とどのようにつながり、『探究』というウィトゲンシュタインの思想的宇宙のどこに位置しているのかを意識できるような翻訳を提供したいと考えて、この翻訳を手掛けました」(5頁)。帯文に曰く今回の新訳は「章立て・見出しを付し、その哲学の構造を明らかにした」と。凡例によれば章立てや見出しはすべて訳者によるものです。


★例えば有名な断片309「哲学における君の目的は何か? ――蠅に、蠅取り壺からの出口を示すことだ」(219頁)は、パートⅢ「心とその像をめぐる哲学的諸問題」、第九章「感覚――誤った文法像とパラドックス」、(f)「「感覚」に関する誤った文法像と感覚のパラドックス」、(f3)「感覚語を巡る誤った文法像とパラドックス」に属しています。章の冒頭に置かれた訳者注記によれば「本章の考察の核心は、感覚概念に関して我々の中に深く刻み込まれている誤解の分析と、それに由来する哲学的問題の解消である。その誤解とは、「痛み」に代表される感覚語とは、我々の内的な体験の名である、という感覚語の文法に関する誤解である」(190頁)。


★『入門フリーメイスン全史』はアムアソシエイツより2006年に刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり巻末に橋爪大三郎さんによる解説「正統フリーメイスン論の原点」が加えられています。著者の片桐三郎(かたぎり・さぶろう:1925-2018)さんは、米国海軍で事務方として奉職後、横浜のファー・イースト・ロッジにて入会。日本コカ・コーラで取締役として働いたり海外の会社社長を務めたのち、日本グランド・ロッジのグランド・マスターに2004年に就任されました。本書は就任後に刊行したものです。「日本では一般に公開されていない情報にも言及」(カバー表4紹介文より)があり、歴史的資料として重要です。


★「本書の執筆にあたっては、わが国の国内で出版されているフリーメイスン関係の資料にはほとんど信頼できるものが見当たらないので、主として海外で学問的に正当性が認められ信頼できる資料を中心とし、これに加えてフリーメイスンには直接の関連はないが、日本の先人の手になる信頼できる記録や資料に従って、今日入手できるかぎり最も真実に近いと考えられる情報に基づいて、読者の知的興味に訴えたつもりです」(5頁)。ちなみに本書でも明かされていますが、日本人のメイスン第一号はかの西周(にし・あまね:1829-1897)です。文芸社文庫は時としてこうした特異な書目を出して、たちまち品切になったりするので、急いで買っておくのが吉です。


★このほか以下の注目新刊がありました。


『クリスタル☆ドラゴン 第30巻』あしべゆうほ著、ボニータコミックス:秋田書店、2020年11月、本体454円、新書判並製178頁、ISBN978-4-253-26005-3
『恐怖と奇想 現代マンガ選集』川勝徳重編、ちくま文庫、2020年11月、本体800円、文庫判354頁、ISBN978-4-480-43677-1

『ツイッター哲学――別のしかたで』千葉雅也著、河出文庫、2020年11月、本体780円、文庫判216頁、ISBN978-4-309-41778-3

『はじめてのスピノザ――自由へのエチカ』國分功一郎著、講談社現代新書、2020年11月、本体860円、新書判184頁、ISBN978-4-06-521584-5



★『クリスタル☆ドラゴン 第30巻』は1年9か月ぶりの続巻。アリアンロッドとバラーとの最終決戦前夜に射す様々な彩りが、異様にゆったりとした流れのなかであちこちに浮かび上がってきます。すべての道具立ては揃っているように見えますが、終幕の困難を感じさせるものがあるようにも感じます。


★『恐怖と奇想』はシリーズ「現代マンガ選集」全8巻の最新刊。どの作品も印象的ですが、小松崎茂さんの「関東大震災」(1975年9月)は著者の体験に基づいており、未来への警告が胸に鋭く刺さります。シリーズは残すところあと1巻、来月発売の、恩田陸編『少女たちの覚醒』のみとなりました。


★『ツイッター哲学』は2014年の単行本の改題文庫化で、巻頭の「はじめに」によれば「2019年までのツイートを加え、全体的に配列を再検討し、テーマを立てて章を分けました。また読みやすさを考え、元ツイートの語句を若干修正したところもあります」とのことです。書名の正副題が文庫では逆順になっています。今春文庫化された『勉強の哲学 増補版』(文春文庫、2020年3月)への多彩な補助線として読むこともできると思います。巻末解説は小泉義之さんによる「〈あいだ〉の秘密、〈あいだ〉の苦闘」です。


★『はじめてのスピノザ』はNHK特番「100分de名著」のテキスト『スピノザ『エチカ』――「自由」に生きるとは何か』(NHK出版、2018年)に書き下ろしの新章やあとがきを加えて、全体を再構成したもの。第五章「神の存在証明と精錬の道」が新章です。「哲学が研究の場に閉じ込められるようなことは断じてあってはなりません。哲学を専門家が独占するようなことも断じてあってはなりません。哲学は万人のためのものです」(あとがき、180頁)という明確な断言が印象的です。


★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『〈責任〉の生成――中動態と当事者研究』國分功一郎/熊谷晋一郎著、新曜社、020年11月、本体2,000円、4-6変判並製432頁、ISBN978-4-7885-1690-8
『同意』ヴァネッサ・スプリンゴラ著、内山奈緒美訳、中央公論新社、2020年11月、本体1,800円、四六判上製240頁、ISBN978-4-12-005353-5

『世界のどんぐり図鑑』徳永桂子著、原正利解説、2020年11月、本体6,800円、A4変判上製192頁、ISBN978-4-582-54263-9

『われらが〈無意識〉なる韓国』四方田犬彦著、作品社、2020年11月、本体2,700円、四六判上製320頁、ISBN978-4-86182-829-4

『つげ義春――「ガロ」時代』正津勉著、作品社、2020年11月、本体2,200円、四六判上製224頁、ISBN978-4-86182-828-7



★『〈責任〉の生成』は巻末特記によれば「2017年7月から2018年4月まで4回にわたり、「中動態の世界をめぐって」および「中動態の世界から考える」と題して行われた対談(於・朝日カルチャーセンター新宿)と、2018年11月に行われた講義(於・東京工業大学、本書序章)をもとに大幅に加筆修正を施し、再構成したもの」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第一章「「意志」と「責任」の発生」から印象的な一節を引きます(154~155頁)。


國分 〔…〕スピノザにおいては、真理は自分で体験しなければならない。真理は体験の対象として捉えられているのですね。
熊谷 まさに当事者研究で言うところの「ディスカバリー」ですね。
國分 なるほど。またそれは本来、日常的に僕らが経験していてなんとなくわかっていることでもあると思うんです。でも、今の僕たちの言語がそれに向いていないということがある。僕たちの言語ではスピノザの言っていることがうまく理解できないと言ってもいい。その意味ではスピノザ哲学は当事者研究によって再発見されつつあると言ってもいいかもしれませんね。
熊谷 それはすごい!(笑)
國分 このシンクロは本当にすごいんです。(笑)


★『同意』は、フランスの名門出版社ジュリヤールの編集者で作家のヴァネッサ・スプリンゴラ(Vanessa Springora, 1972-)の自伝『Le consentement』(Grasset, 2020)の訳書。今年1月に刊行されてから20万部を超えるベストセラーとなり、ジャン=ジャック・ルソー賞(自伝部門)を受賞したといいます。訳者あとがきに曰く「本書はスプリンゴラが14歳から1年余りにわたって、当時50歳であった作家Gと性的関係にあった体験を、30年の時を経て告白したものである」。Gとはフランスの作家ガブリエル・マツネフのこと。マツネフとの関係が耐え難くなったヴァネッサがマツネフの友人であったエミール・シオランを訪問し相談した際のエピソードはただただ痛ましいです。70年代末に実際にあった、とある事件に関する公開状や嘆願書に署名した作家や思想家たちの豪華な行列への言及についても、忘れるべきではないと感じます。


★『世界のどんぐり図鑑』は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカの代表的な132種のどんぐりを約1000点の細密なイラストで紹介するもの。オール・カラーのイラストの数々は写真よりも親しみやすく、温かみを感じます。「どんぐりの仲間はブナ科に属し、世界に8~10属ありますが、日本のあるのは5属」(まえがきより)とのことで、徳永さんの前著『日本どんぐり大図鑑』(偕成社、2004年)とともに、植物図鑑が好きな方にお薦めしたい一冊です。


★最後に作品社さんの11月新刊より2点。『われらが〈無意識〉なる韓国』は、後記によれば「2000年から2020年までに韓国について書いた文章から約半数のものを選んで、本書を編んだ」とのこと。目次を数え上げると、書き下ろしを含め30篇が収録されています。本書の書名は、四方田さんの最初の韓国論集『われらが〈他者〉なる韓国』(PARCO出版、1987年;平凡社ライブラリー、2000年)と対になるものとのことです。四方田さんの実体験をもとにしたエッセイの数々は媚びでも嫌悪でもなく、味読に値するものばかりです。


★『つげ義春』は「いっとき湯治巡りをともにするなど、かなり親密にしてきた」(12頁)というベテラン批評家による、つげ義春論。「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」をはじめとする「ガロ」誌での代表作16篇が俎上に載せられています。もともとはウェブマガジン「neoneo」で連載されていたものを大幅に改稿したものとのこと。第四章で「峠の犬」を論じる際に、柳田國男「峠に関する二、三の考察」や、真壁仁の詩篇「峠」が、つげさんの年譜や回想と渾然一体となって引かれて、そのフォークロア的世界観が説明されるくだりには強い感銘を覚えました。

注目新刊:ブルデュー『ディスタンクシオン』全2巻普及版が登場、ほか

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『ユングの『アイオーン』を読む』エドワード・エディンジャー著、岸本寛史/山愛美訳、青土社、2020年11月、本体2,600円、385+xiii頁、ISBN978-4-7917-7328-2
『地球が燃えている――気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』ナオミ・クライン著、中野真紀子/関房江訳、大月書店、2020年11月、本体2,600円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-272-33099-7

★『ユングの『アイオーン』を読む』は『The Aion Lectures: Exploring the Self in C.G. Jung's Aion』(Inner City Books, 1996)の全訳。書名の通り、ユング晩年の名著『アイオーン』(人文書院、1990年)をパラグラフごとに丁寧に読み解くもので、エディンジャー自身の連続講義が元になっています。巻頭の凡例によれば、野田倬訳『アイオーン』を参照しつつ、適宜改変を加えたとのことです。巻末にはユングにおける占星術の重要性について論及した、鏡リュウジさんによる「本書に寄せて」が加えられています。

★巻頭の著者覚書がこの読解書の端的な紹介文となっているので、引用します。「ユングの『アイオーン』は、人間の知について、全く新しい部門、元型的な心の歴史学とでも呼べるような学問分野の基礎を築いたと言えるでしょう。それは深層心理学の洞察を文化史のデータに応用したものです。歴史的プロセスは、今や、集合的無意識の元型が、人類の行動や空想を通して、時間と空間の中で出現し発展していく、自己顕現の過程とみなすことができます。/『アイオーン』の中で、ユングは神イメージ(自己)の元型を主題として取り上げ、それがキリスト教時代の中でどのように進展しながらその姿を現してきたのかを示しています。『アイオーン』は読者に多大な負担をかける凄まじい著作です。本書はこの困難さを軽減し、『アイオーン』をもっと近づけるものにしようとする試みです」(9頁)。

★著者のエドワード・エディンジャー(Edward Edinger, 1922-1998)はユング派の分析家で、ニューヨークのユング研究所の創立メンバーであり、「ユング派の理論かとして、米国において指導的な存在であった」(訳者あとがきより)と。既訳書には『心の解剖学――錬金術的セラピー原論』(著者名表記は「エディンガー」、岸本寛史/山愛美訳、新曜社、2004年)があります。

★『地球が燃えている』は『On Fire: The (Burning) Case for the Green New Deal』(Simon & Schuster、2019)の全訳。オーストラリアの森林火災の写真が印象的な帯には次の文言が印刷されています。「残された時間はあと10年――『ショック・ドクトリン』を著した世界的ジャーナリストが描く、人類存亡の危機とその突破口」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ここ10年間に各種媒体で発表されてきたテクストがまとめられており、環境破壊からグリーン・ニューディールへの政治的経済的大転換が訴えられています。なお同書刊行を記念して、2020年12月1日(火)13:00~14:10に著者によるオンライン講演会が開催されるとのことです。定員1000名。



★上記のほか、以下の新刊にも注目しています。

『改革か革命か』T・セドラチェク/D・グレーバー著、ロマン・フルパティ聞き手、三崎和志/新井田智幸訳、以文社、2020年11月、本体2,200円、四六判上製216頁、ISBN978-4-7531-0360-7
『三つの庵――ソロー、パティニール、芭蕉』クリスチャン・ドゥメ著、小川美登里/鳥山定嗣/鈴木和彦訳、幻戯書房、2020年11月、本体2,900円、四六判並製232頁、ISBN978-4-86488-211-8

★『改革か革命か』は『(R)Evolutionary Economics of Systems and Men』の翻訳。これまでに2013年にチェコ語訳版、2016年にドイツ語訳版が刊行されていますが、オリジナルの未刊英語版から訳出されています。『善と悪の経済学』(正続、東洋経済新報社、2015年、2018年)で著名なチェコの経済学者セドラチェク(Tomas Sedlacek, 1977-)と、『ブルシット・ジョブ』(岩波書店、2020年)が話題の人類学者グレーバー(David Graeber, 1961-2020)が、2013年にドイツのミュンヘンで行なった対話で、ジャーナリストのフルパティが進行役を務めています。

★「対話の大きな構図は、現在のシステムのあり方に対する批判的視点については、セドラチェクとグレーバーは大枠において意見を同じくしつつも、その出口として、セドラチェクはあくまでも〈改革〉を主張し、グレーバーはより根本的な〈革命〉が必要だと考えている、とまとめられる」(訳者解説より)。修正資本主義を標榜するセドラチェクと、オルタナティヴの創出を目指すグレーバーとのあいだの、共通点と相違点は読者へと開かれており、自分ならどう応えるか、刺激を受けます。

★『三つの庵』は『Trois huttes』(Fata Morgana, 2010)の全訳。帯文に曰く「H・D・ソロー、パティニール、芭蕉――孤高なるユートピアンの芸術家たちがこしらえた「庵」の神秘をめぐる随想の書。世界中のすべての隠遁者におくる《仮住まいの哲学》、孤独な散歩者のための《風景》のレッスン」。カヴァーを飾るのはフランドルの画家パティニール(Joachim Patinir, 1480-1524)による色鮮やかな「荒野のヒエロニムス」です。著者のクリスチャン・ドゥメ(Christian Doumet, 1953-)はフランスの作家でソルボンヌ大学教授。既訳書に『日本のうしろ姿』(鈴木和彦訳、水声社、2013年)があります。

★「あらゆる庵/小屋は、現実のものであれ夢見られたものであれ、作家や画家といった世界の作り手たちが自分たちの必要とするささやかなものを彼ら自身の生き方として表現したものである。世の中から離れ、孤立し、身をひそめること。孤独な苦行を伴うそうした身ぶりはすべて、最終的にはこの世の生をいっそう深く味わうためになされるのである。〔…〕思考は、おのれの住まいを離れるときにこそ、そこに逢着する好機に恵まれる」(序、9頁)。

★なお、幻戯書房さんでは来月(2020年12月)より、ミシェル・ビュトールの評論集『レペルトワール』(全5巻、1960~1982年)の全訳が刊行開始となるとのことです。版元さんのチラシに曰く「フランス文学を基軸に、文芸批評、創作技法のみならず芸術、読書や地理など、広汎な諸領域を境界侵犯しながら展開される、「レペルトワール」=「レパートリー」=目録。各巻21篇、全5巻」と。すごいですね。

★さらにこのほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『アルマ』J・M・G・ル・クレジオ著、中地義和訳、作品社、2020年11月、本体2,800円、46判上製333頁、ISBN978-4-86182-834-8
『うつせみ』鈴木創士著、作品社、2020年11月、本体2,200円、46判上製255頁、ISBN978-4-86182-833-1
『ディスタンクシオン――社会的判断力批判〈普及版〉1』ピエール・ブルデュー著、石井洋二郎訳、藤原書店、2020年11月、本体3,600円、A5判並製528頁、ISBN978-4-86578-287-5
『ディスタンクシオン――社会的判断力批判〈普及版〉2』ピエール・ブルデュー著、石井洋二郎訳、藤原書店、2020年11月、本体3,600円、A5判並製520頁、ISBN978-4-86578-288-2
『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』石井洋二郎著、藤原書店、2020年11月、本体2,500円、四六判並製304頁、ISBN978-4-86578-290-5
『感情の歴史 2――啓蒙の時代から19世紀末まで』A・コルバン/J-J・クルティーヌ/G・ヴィガレロ監修、アラン・コルバン編、小倉孝誠監訳、藤原書店、2020年11月、本体8,800円、A5判上製680頁、ISBN978-4-86578-293-6
『ベートーヴェン 一曲一生』新保祐司著、藤原書店、2020年11月、本体2,500円、四六判上製264頁、ISBN978-4-86578-291-2

★作品社さんの11月新刊より2点。ル・クレジオ『アルマ』は帯文に曰く「父祖の地モーリシャス島を舞台とする、ライフワークの最新作」。『黄金探索者』(1985年;新潮社、1993年)、『隔離の島』(1995年;ちくま文庫、2020年)、『回帰』(2003年;『はじまりの時』上下巻、村野美優訳、原書房、2005年)に続く第4作で、原書は『Alma』(Gallimard, 2017)です。『はじまりの時』以外はすべて中地義和さんによる翻訳。

★鈴木創士『うつせみ』は書き下ろし長篇小説。第一章「日誌」、第二章「廃址」、の二章立てですが、日誌が本作の大半で、第二章は日誌の作者「僕」の従兄が書き手となっています。廃屋となった従弟の家で彼は日誌のノートを見つけます。宿泊先へ持ち帰り、日誌を読む従兄の「私」。「私」は記憶を辿ろうと彷徨うものの、森は消失しています。オキシコドンの錠剤、廃屋前に佇む女性、遠ざかるヒグラシの声。夏の終わりはまるで世界の終わりのようです。

★藤原書店さんの11月新刊は5点。ブルデュー『ディスタンクシオン』は、1990年刊の全2巻本(本体各5,900円)の普及版。サイズはA5判のまま、全2巻なのも変わりはありませんが、本体各3,600円と大幅に安くなっています。これはかのNHKのテレビ番組「100分de名著」で来月、岸政彦さんが『ディスタンクシオン』を取り上げるタイミングでの刊行で、すでにテキスト『ブルデュー『ディスタンクシオン』――「私」の根拠を開示する』は発売となっています。岸さんは普及版第一巻の帯に次のような推薦文を寄せています。

★「私がどこから来て、どこへ行くのかを、すべて説明されたような気がした。これほど夢中で読んだ社会学は他にない。ブルデューの社会学は、孤独だ。そこで描かれるのは、構造に埋め込まれ、縛られて、それでもなお懸命に生きる個人たちの姿である。それは、あなたであり、私だ。地方の貧しい家に生まれたひとりの青年が、独自の理論で完全武装し、フランス社会学界に君臨する。本書は、社会学の孤独な王が書き尽くした、自らの出自と階級社会に対する「落とし前」である」。普及版第二巻の帯には北田暁大さんの推薦文が載っていて、それは書名のリンク先にも掲出されています。

★普及版第二巻巻末の「訳者解説」の末尾には「普及版への追記」が加わっており、編集部によって「細部にわたる修正・調整」が施されたことが記されています。これは普及版第一巻巻頭に掲出された訳者による「普及版の刊行にあたって」ではさらに具体的にこう書かれています。「普及版での変更は、誤植の訂正、微細な用語や記号の修正、訳注の補足、時間的経過にともなう情報の追加等にとどめることとし、訳文自体には原則として手を加えていない」(2頁)とのことです。

★なお、訳者の石井洋二郎さんは普及版の刊行と同時に『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』を上梓されています。この本の巻末には、ブルデュー初来日時の講演「社会空間と象徴空間――日本で『ディスタンクシオン』を読む」(1989年10月4日、於・日仏会館、初出:加藤晴久編『ピエール・ブルデュー 超領域の人間学』藤原書店、1990年)が、「差別化の構造」と改題されて補講として収録されています。石井さんによる『ディスタンクシオン』読解本は、『差異と欲望――ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む』(藤原書店、1993年)に続くものです。

★『感情の歴史 2』は全3巻の内の第2巻で、「1730年から革命後まで」と「革命後から1880年代まで」の2部構成に16篇の論考とコルバンの序論を収めています。第1巻は本年4月に刊行済み。第3巻「19世紀末から現代まで」はジャン=ジャック・クルティーヌ編で続刊予定です。第3巻の目次詳細は版元サイトでの第2巻の書誌情報に続けて掲出されています。

★『ベートーヴェン 一曲一生』は、ベートーヴェン生誕250年記念出版。文芸批評家の新保祐司(しんぽ・ゆうじ:1953-)さんがコロナ禍の100日間にベートヴェン作品を1日1曲、「ほぼ全て聴き尽くして辿りついた、〔…〕「天才」の本質に迫る力作批評」(帯文より)と。新保さんはこれまでに藤原書店から『明治の光 内村鑑三』など5点ほど著書を刊行されています。

注目新刊:『機関精神史 第三号 特集*アフロ・マニエリスムの驚異』、ほか

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★遅ればせながら、まずは注目既刊書をいくつか列記します。


『機関精神史 第三号 特集*アフロ・マニエリスムの驚異』後藤護編集、高山えい子発行、2020年11月、税込2,000円、A5判並製192頁、ISBNなし
『生と死――生命という宇宙』シャルル・ボネ/マリー・フランソワ・グザヴィエ・ビシャ/ほか著、飯野和夫/沢﨑壮宏/小松美彦/金子章予/川島慶子訳、国書刊行会、2020年9月、本体12,000円、A5判函入522頁、ISBN978-4-336-03917-0

『肥満男子の身体表象――アウグスティヌスからベーブ・ルースまで』サンダー・L・ギルマン著、小川公代/小澤央訳、法政大学出版局、2020年9月、本体3,800円、四六判上製366頁、ISBN978-4-588-01122-1



★『機関精神史 第三号』は、第31回「文学フリマ東京」(2020年11月22日日曜日、東京流通センター第一展示場)の会場限定で販売された最新号。通販は行っておらず、残部僅少とのことです。第三号の特集は「アフロ・マニエリスムの驚異」。内容詳細を以下に転記しておきます。


序 アフロ・マニエリスムの黒い閃光|後藤護
[interviews]
アフロ・マニエリスム談義――「ダーク・マター」から「ブラック・ライヴズ・マター」へ|巽孝之;聞き手・構成=後藤護
Further Reading for Afro-Mannerism|巽孝之
機関精神史3号へのお便り:巽孝之先生のロングインタビューに寄せて|高梨治
[ideas]
髑髏柳|ランシブル
シグニファイング・イエローモンキー――木島始の道化的知|山田宗史
フリージャズ経済論(序の巻)――ビル・ディクソンのおたまじゃくしはカエルの夢を見るか?|工藤遥
鏡〔スクリーン〕に映る黒人の/への恐怖――ジョーダン・ピールと反逆する映画たち|西山智則
[translations]
ブードゥーから舞踏へ――キャサリン・ダナム、土方巽、トラジャル・ハレルによる「黒さ」の文化横断的再成型〔リ・ファッショニング〕|有光道生;訳=松井一馬
【連載翻訳】空間的歴史――歴史に関する三つのテクスト|ミハイル・ヤンポリスキイ;訳=澤直哉+八木君人
[books]
書物漫遊記――書物のブ(ラ)ック・ホールへ
 ブルース:フロム・ザ・墓〔グレーヴ〕・トゥー・ザ・溝〔グルーヴ〕|ランシブル 
 ビバップ:ジャズマンのストーリーと音楽進化の古典|エマーゾン北村
 太陽楽団:シカゴ・サウスサイドの土星人|工藤遥
 ソウル:魂〔ソウル〕のゆくえ|ランシブル
 猿:“猿”戯する精神|山田宗史
 人種:聖ファノン――廃滅を拒む黒鉄のテクスト|神谷光信
 食:ソウル・フードの撞着語法〔オクシモロン〕|山田宗史
 記憶:記憶は愛である|高山えい子
 秘密結社:黒い幾何学|後藤護

執筆者プロフィール
編集後記|高山えい子


★編集人の後藤護さんは序文でこう書いておられます。「山田宗史の名訳語を借りれば「猿戯〔シグニファイング〕」の悪戯心こそが文化創造に必要な反文化なのである。機関精神史もまた商業誌に対する「モドキ」でありたい、むしろ憤怒させるくらいでなければ存在する意味もないだろう。〔…〕というわけで、機関精神史でしかやれない実に「モドキ」な特集だったと自負する。しかし機関精神史ではやれないことが逆説的に見えてしまった特集だったのも確かで、そのあたりはグループではなくソロ活動、すなわち俺の第二著作『黒人音楽史(仮)』(中央公論新社、2012年)で引き継ぐ所存だ」(10~11頁)。高山さんによる編集後記によればすでに第4号の準備も進んでいるのだとか。


★『生と死』はシリーズ「十八世紀叢書」全10巻の第6回配本となる第Ⅶ巻。シャルル・ボネ『心理学試論』(原著1754年;全訳、沢﨑壮宏/飯野和夫訳)、マリー・フランソワ・グザヴィエ・ビシャ『生と死の生理学研究』(原著1800年;第一部「生に関する生理学研究」の全訳、小松美彦/金子章矛訳)、『百科全書』全17巻(原著1751~1765年)よりルイ・ド・ジョクール「死」(第10巻所収)、同じくジョクール「生」、著者未詳「生・寿命」(どちらも第17巻所収)の計3篇の全訳(いずれも川島慶子訳)、とそれぞれの訳者解説を収録。いずれも初訳という理解で良いかと思います。


★川島さんによる解説から印象的な部分を二カ所引きます。「ジョクールの作品は、今では解説なしにはピンとこない。しかし逆に言うならば、この手の作品はたとえばルソーのような「個性派」のものよりも、『百科全書』の時代をよりよく理解するためには理想のテキストだ。なぜならジョクールは、「時代を超える個性」よりも「時代と溶けこむ才能」を持っていたからだ。その時代が終わってしまえば、「ピンとこなくなる」ものほど、じつはその時代の特徴をより有しているということを忘れてはならない」(511頁)。


★「平均寿命が30歳前後だった18世紀の人々の日常は、死に支配されていた。21世紀の日本人が悩んでいる「長い老後の生活設計」など、彼らにとっては、意味をなさない言葉であろう。〔…〕そもそも庶民には「人生設計」など存在しなかった。こんな状態では、死後の世界や死の訪れについて考えることは、社会における成功や富よりはるかに重大なことだった。〔…〕だからこそ宗教は、いや、もっと平たく言えば、死後の救いを語ってくれる教会と聖職者の影響力は大きかったのだ。〔…〕ところが、『百科全書』は祈らなかった。読者はお気づきだろうか。ここに訳出した部分のどこにも「祈り」による救いを求める記述のないことを。〔…〕これこそが『百科全書』の革命的意義であり、教会が執拗にこの企てを阻止しようとしていた理由でもある」(512~513頁)。


★『肥満男子の身体表象』は、アメリカの医学文化史家サンダー・ギルマン(Sander L. Gilman, 1944-)による『Fat boys: A Slim Book』(University of Nebraska Press, 2004)の全訳。90年代後半にさかんに翻訳されていたギルマンですが、今回の新刊は『「頭の良いユダヤ人」はいかにつくられたか』(三交社、2000年)以来のなんと20年ぶり8冊目の訳書です。本書において男性の肥満を「身体一般の限界と可能性を規定するため、ジェンダー・パフォーマンスの一部である」(270頁)とギルマンは見なします。彼は「はしがき」で次のように書いています。


★「本書の構成は、西洋における普通のそして肥満の男のイメージの構築を反映している。序論は、文化、医学、法の領域において中核となる問題に目を向けており、第一章は、西洋における肥満の男の身体をめぐる歴史の初期、古代ギリシアから啓蒙運動までを追っている。第二章は、序論で提示した典型的モデルに基づき、ルネサンス期から19世紀末までの肥満の男の体の自伝的および虚構の表象を分析している。そして第三章は、兵士かつ廷臣のフォルスタッフの奇妙な歴史を17世紀から現在まで辿っている。決して網羅的ではないが、本章は史上最も重要な肥満男子と彼の後継者たちの変遷を部分的に検討するものだ。第四章ならびに第五章は、肥満男子のケース・スタディをさらに二つ扱っている。肥満探偵と肥満の野球選手である。〔…〕結論は、外科治療の対象として、西洋文化における肥満男子の未来を想像しようとしている」(ix頁)。


★このほか、まもなく発売となる注目新刊を列記します。


『クルスクの戦い 1943――第二次世界大戦最大の会戦』ローマン・テッペル著、大木毅訳、中央公論新社、2020年12月、本体3,600円、四六判上製412頁、ISBN978-4-12-005361-0
『儀礼の過程』ヴィクター・W・ターナー著、冨倉光雄訳、ちくま学芸文庫、2020年12月、本体1,300円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-51013-6

『大航海時代――旅と発見の二世紀』ボイス・ペンローズ著、荒尾克己訳、ちくま学芸文庫、2020年12月、本体2,000円、文庫判800頁、ISBN978-4-480-51019-8
『眼の神殿――「美術」受容史ノート』北澤憲昭著、ちくま学芸文庫、2020年12月、本体1,500円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51023-5
『インド文化入門』辛島昇著、ちくま学芸文庫、2020年12月、本体1,100円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51025-9
『常微分方程式』竹之内脩著、ちくま学芸文庫、2020年12月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51026-6


★『クルスクの戦い 1943』は、ドイツの軍事史家ローマン・テッペル(Roman Töppel, 1976-)による『Kursk 1943: Die größte Schlacht des Zweiten Weltkriegs』(Verlag Ferdinand Schöningh, 2017)の訳書。ソ連と西ドイツの強いイデオロギー的影響下にあった従来の「クルスク戦」の虚像をくつがえす労作とのこと。訳者の大木さんは周知の通り、ベストセラー『独ソ戦』(岩波新書、2019年)の著者です。


★ちくま学芸文庫の12月新刊は5点。『儀礼の過程』は英国の文化人類学者ターナー(Victor Witter Turner, 1920-1983)による連続講演をまとめた高名な親本(原著『The Ritual Process: Structure and Anti-Structure』1969年刊;思索社、1976年;新装版、1996年、新思索社)の文庫化。訳者は2003年に逝去しているため、訳文は改訂されていませんが、巻末解説として東大の福島真人さんによる「「象徴の森」の内と外――テクノサイエンス時代の『儀礼の過程』」が付されています。ターナーの文庫化は今回が初めて。


★『大航海時代』は米国の旅行史家ペンローズ(Boies Penrose, 1902-1976)による大著『Travel and Discovery in the Renaissance, 1420-1620』(Harvard University Press, 1952)の訳書(筑摩書房、1985年)の文庫化。巻末にはジャーナリストの伊高浩昭さんによる文庫版解説「「欧米を世界支配に導いた時代」の明暗を考える」が加えられています。帯文に曰く「決定版通史!〈全世界像〉の誕生」と。大著ながら、伊高さんは「一挙に読了するのを迫られるほど面白い」と絶賛されています。


★『眼の神殿』は美術史家の北澤憲昭(きたざわ・のりあき、1951-)さんによるデビュー作でサントリー学芸賞受賞作単行本(美術出版社、1989年;定本版、ブリュッケ、2010年)の文庫化。文庫版あとがきと、東京藝術大学の佐藤道信さんによる文庫版解説が加わっています。「文庫化にあたって、初版刊行後の研究成果を本文に盛り込むことはせず、単純な錯誤や措辞の乱れを糺し、文字づかいを修正するにとどめた。これは定本刊行にさいして取った方針でもある。ただし、このたびは「美術」という翻訳語の初出について、宮内庁所蔵の史料と欧文公文書を踏まえた再検討を補論のかたちで第二章〔「「美術」の起源」〕に加筆した」とのことです。


★『インド文化入門』は南アジア史家の辛島昇(からしま・のぼる、1933-2015)さんによる放送大学テキスト『南アジアの文化を学ぶ』(2000年)の改題文庫化。巻末には立教大学の竹中千春さんによる解説「平和で豊かな世界を築いていくために」が加わっています。本書の第10講は「カレー文化論――南アジアの統一性」と題されていますが、著者はカレー博士としても有名でカレーをめぐる複数の著書があるだけでなく、かの『美味しんぼ』にも登場しています。


★『常微分方程式』は数学史家の竹之内脩(たけのうち・おさむ、1925-2020)さんによる「教養課程の微分積分学を習得した段階における常微分方程式のテキスト」である親本(秀潤社、1977年)の文庫化。「Math&Science」シリーズでの再刊に際し、新たに加わった文章はありません。カバー裏紹介文によれば本書は定評ある学習書として名高く、「計算困難な関数形を、多数の図版で視覚化。演習問題も多数収録」とのことです。
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