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注目新刊:『未完の資本主義』PHP新書、ほか

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『未完の資本主義――テクノロジーが変える経済の形と未来』ポール・クルーグマン/トーマス・フリードマン/トーマス・セドラチェク/タイラー・コーエン/ルトガー・ブレグマン/ヴィクター・マイヤー=ショーンベルガー著、大野和基編、PHP新書、2019年9月、本体900円、新書判並製208頁、ISBN978-4-569-84372-8
『アイデア No.387 2019年10月号』誠文堂新光社、2019年9月、本体2,829円、A4変型判並製200頁、ISSN0019-1299
『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ著、冨永星訳、NHK出版、2019年8月、本体2,000円、四六判上製240頁、ISBN978-4-14-081790-2



★『未完の資本主義』は『知の最先端』(PHP新書、2013年)や『未来を読む――AIと格差は世界を滅ぼすか』(PHP新書、2018年)など、著名知識人への数々のインタビューで知られる大野和基さんによる最新対話集。ソデ紹介文に曰く「本書は、「テクノロジーは資本主義をどう変えるか」「我々は資本主義をどう『修正』するべきか」について、国際ジャーナリスト・大野和基氏が、世界の「知の巨人」7人に訊ねた論考集である。経済学、歴史学、人類学……多彩な視座から未来を見通し、「未完」のその先の姿を考える、知的興奮に満ちた1冊」。大野さんによる「プロローグ」には本書の問題意識についてこう述べておられます。「「資本主義の終焉」といわれるが、資本主義は未完であるがゆえに、より善い姿に「進化」することもできるのではないか」。


★特に注目しておきたいのは、グレーバーの言う「BS職(Bullshit jobs:どうでもいい仕事)の5分類」と、ブレグマンの言う「ベーシック・インカム+1日3時間労働」です。前者の5分類は、太鼓持ち、用心棒、落穂拾い、社内官僚、仕事製造人、です(87~90頁)。ネタバレは控えるとして、グレーバーはこう意見を述べています。「我々は、仕事に大切なものは何なのか、考え直すべきなのかもしれません。仕事は苦しいものだ、苦しみは真の大人の勲章だ、責任感のある人間になろう――。現代の労働観は、あまりにもねじれてしまっています。〔…〕あまりにもねじれた人生観であり、そんな考えを続けていたら、自分の体、ひいては社会も壊れてしまいます」(95頁)。グレーバーの『Bullshit Jobs: A Theory』(Simon & Schuster, 2018)は岩波書店から刊行予定と聞いています。



★ブレグマンはこう言います。「私が提案しているのは、我々は働く時間を短くすべきだということです。ベーシックインカムは、人々に豊かな選択肢を与えるという意味で、不可欠なのです。〔…〕そもそも、ベーシックインカムという呼び名自体が最適ではないかもしれません。社会配当金という呼称もあります。これは、ベーシックインカムが手助けではなく人権なんだということを示しています。〔…〕私たちは基本的に、祖先がつくりだした遺産の恩恵を受けて生活しており、ベーシックインカムや社会配当は、それを認めているだけです」(164~165頁)。「多くの人は、ベーシックインカムを導入する財源はないと懸念しています。しかし私はむしろ、ベーシックインカムを導入しなければ先進国は経済的に立ち行かなくなると考えています。/私たちは現在、貧困が存在するゆえの費用を莫大に負担しています。高い医療費や学校の中途退学率、犯罪の増加などがその例です。人間の潜在能力のとんでもない無駄遣いだと思います」(165~166頁)。詳しくは本書と、ブレグマンの著書『隷属なき道――AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(野中香方子訳、文藝春秋、2017年)をご参照ください。


★斎藤幸平さんによるインタビュー集『未来への大分岐』(集英社新書、2019年8月)や、吉成真由美さんによるインタビュー集『知の逆転』(NHK出版新書、2012年)、『知の英断』(NHK出版新書、2014年)、『人類の未来』(NHK出版新書、2017年)など、近年、大野さんのインタビューのほかにも様々な知識人へのインタビュー集が手頃な新書で刊行されているのは周知の通りです。これらはぜひ併売されてほしい書目です。


★『アイデア No.387 2019年10月号』の特集は「現代日本のブックデザイン史1996-2010」。巻頭言から引きます。「1996年を境に縮小を続ける日本の出版産業は、昨年時点ですでに最盛期の2分の1を割り込む経済規模にまで到達した。〔…〕もはやシーン全体を俯瞰して捉えることは困難であるものの、本特集ではその断片を見せるべく、〔…〕1996年から現在に至るブックデザインをスタイル別に並置してみることにした」。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。本号の企画編集担当のお一人、長田年伸さんは「出版の本義へ」(110頁)でこう述べています。「歴史は事後的に振り返ることでしかその成否を判断できない。いまを生きるわれわれにできるのは個々の細い糸を撚り合わせ後世につなぐことしかないのだから、と本書を編んだ」。また長田さんは川名潤さんや水戸部功さん、加藤賢策さんとの座談会「ブックデザインはブックデザインでしかない」でこう述べておられます。「ここで記述した歴史は「the history」ではなくて「a history」です」(108頁)。


★長田さんはさらに序文で「管見の限りでは、現代日本のブックデザインを総覧した書籍や図録の類は1995年までで記述が止まっている」(8頁)とも書いておられます。実はこの歴史記述の不在は、デザインの現場だけに留まりません。出版業界の各種団体の公式文書はここ10年以上の途絶しています。出版社の団体がまとめたものでは『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』が2007年11月発行。書店では『日書連五十五年史』は2001年7月発行。取次では『日本出版取次協会五十年史』は2001年9月発行。拙論「再販制再論」(『ユリイカ2019年6月臨時増刊号 総特集=書店の未来』2019年5月)の準備で様々な資料に目を通しましたが、各種団体ともに「予算が計上されておらず、最新版刊行の予定はない」との回答でした。



★歴史記述の衰退と改竄と抹消はポストトゥルース時代における負の特性であり、社会工学としての悪辣な編集技術の台頭と並行関係にあります。編集は人心や感官に働きかけるサイキックなテクノロジーとして、すでに自覚され運用され始めています。情報戦や諜報戦、広報戦の危険な領域へマスコミや出版界が長い間入り込んでいることが、改めて注目されているわけです。1996年以後のブックデザインを考える際にもう一度考慮しなければならないものがあるとしたら、それはプロパガンダ(ナショナリズムであれ、排外主義であれ、ポピュリズムであれ、流行であれ、娯楽であれ)なのだろうと思います。


★『時間は存在しない』は『L'ordine del tempo』(Adelphi, 2017)の全訳。原題は「時間の順序」ですが、邦題をあえて「時間は存在しない」としたところに本書の成功の鍵があるように思われます。ロヴェッリ(Carlo Rovelli, 1956-)はイタリアの理論物理学者で現在はフランスで活躍しています。既訳書には『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(関口英子訳、河出書房新社、2015年;Sette brevi lezioni di fisica, Adelphi, 2014)と、『すごい物理学講義』(栗原俊秀訳、河出書房新社、2017年;La realtà non è come ci appare - La struttura elementare delle cose, Raffaello Cortina Editore, 2014)があります。


★「この本は長短三つのパートからなっている。第一部〔「時間の崩壊」〕では現代物理学が時間について知り得たことを手短かに紹介する。〔…〕わたしたちの知識が増えたことにより、時間の概念は徐々に崩壊していった。わたしたちが「時間」と読んでいるものは、さまざまな層や構造の複雑な集合体なのだ。そのうえさらに深く調べていくと、それらの層も一枚また一枚と剥がれ落ち、かけらも次々に消えていった。この本の第一部では、このような時間という概念の崩壊について述べる」(11~12頁)。「第二部〔「時間のない世界」〕では、その結果残されたものについて述べていく。〔…〕本質だけが残された世界は美しくも不毛で、曇りなくも薄気味悪く輝いている。わたしが取り組んでいる量子重力理論と呼ばれる物理学は、この極端で美しい風景、時間のない世界を理解し、筋の通った意味を与えようとする試みなのだ」(12頁)。


★「第三部〔「時間の源へ」〕はもっとも難しく、それでいていちばん生き生きしており、わたしたち自身と深く関わっている。〔…〕これは、第一部でこの世界の基本的な原理を追い求めるうちに失われた「時間」へと立ち戻る帰還の旅である。〔…〕結局のところ時間の謎は、宇宙に関する問題ではなく、私自身についての問題なのだ」(12~13頁)。日本語版解説をお書きになった吉田伸夫さんは第三部中盤での議論についてこう紹介されています。「ロヴェッリは、アウグスティヌスやフッサールの主張を引用しながら、時間が経過するという内的な感覚が、未来によらず過去だけに関わる記憶の時間的非対称性に由来することを指摘する。その上で、記憶とは、中枢神経系におけるシナプス結合の形成と消滅という物質的なプロセスが生み出したものであり、過去の記憶だけが存在するのは、このプロセスがエントロピー増大の法則にしたがうことの直接的な帰結であると論じる」(214頁)。


★本書はおそらく理工学書売場で展開されるものかと思いますが(ちなみに分類コード上では「外国文学、その他」で、版元さんとしては海外エッセイという位置づけなのかもしれません。推薦文は作家の円城塔さんが書かれています)、吉田さんの解説にもある通り、時間論は哲学思想でも扱いますから、人文書でもおそらく本書は売れるのではないかと思います。「ガーディアン」紙では「スティーヴン・ホーキングの『ホーキング、宇宙を語る』以来、これほどみごとに物理学と哲学とを融合した著作はない」と評されています。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『身体を引き受ける――トランスジェンダーと物質性のレトリック』ゲイル・サラモン著、藤高和輝訳、以文社、2019年9月、本体3,600円、四六判上製365頁、ISBN978-4-7531-0355-3
『菅原道真――学者政治家の栄光と没落』滝川幸司著、中公文庫、2019年9月、本体860円、新書判280頁、ISBN978-4-12-102559-3
『暦川』公文健太郎写真、平凡社、2019年9月、本体5,800円、A4変型判上製160頁、ISBN978-4-582-27831-6
『浮きよばなれ――島国の彼岸へと漕ぎ出す日本文学芸術論』栗原明志著、作品社、2019年9月、本体2400円、46判並製376頁、ISBN978-4-86182-775-4



★『身体を引き受ける』は、『Assuming a Body: Transgender and Rhetorics of Materiality』(Columbia University Press, 2010)の全訳。サラモン(Gayle Salamon)はプリンストン大学教授。本書は彼女の博士論文を元にした第一作で、日本語に翻訳されるのは今回が初めてです。謝辞の筆頭にはジュディス・バトラーが挙がっています。帯にはそのバトラーによる論評が載っています。曰く「サラモンの著書は、文化理論にはめったにみられない非凡な洞察力と哲学的なエレガンスを備えており、身体そのものの物質性に関してトランスジェンダーが含意しているものに鋭敏な哲学的省察を加えている」。目次詳細は版元ドットコムの単品ページで掲出されています。



★「本書『身体を引き受ける』は、現象学(主としてメルロ=ポンティの研究)と精神分析(フロイトとポール・シルダーの研究)、そしてクィア理論を通して、身体性(embodiment)の問いを探究する試みであり、これら各々の分野において身体がどのように理解されているのかを考察することを通してこの問いに取り組むものである」(序論、3頁)。「本書で、私は身体の存在についての記述における「物質的なもの」と「幻想的なもの」とのあいだの関係を考察する。そして、この関係が両立不可能な関係である必要はないこと、むしろ、身体の物質性が意識に現れる仕方、そして同様に重要なことに、それが意識から消える仕方を説明することを可能にする生産的な緊張によってその関係が特徴づけられることを示したい。メルロ=ポンティ、ジグムント・フロイト、ポール・シルダー、ジュディス・バトラーらによって提示された身体性の理論を読むのは、これらの理論に含まれる幻想的なものと物質的なものとの関係がトランスの身体に関するより良い理解にいかに資するのかを考えるためである」(4頁)。「私が望んでいること、それは、トランスジェンダリズムやトランスセクシュアリティに関する諸議論が「本当らしさ」にいたずらに訴えなくても済むようになることである」(6頁)。


★訳者解説ではこう紹介されています。「本書『身体を引き受ける』はきわめて学問領域横断的なスタイルで書かれたものである。精神分析、現象学、フェミニズム、クィア理論、トランスジェンダー・スタディーズなどの様々な学問分野を横断しながら、本書は執筆されている。とりわけ注目に値するのは、、精神分析と現象学をトランスジェンダー理論として読み直している点だろう。〔…〕彼女が主張しているのは、身体とは単なる「物質的なもの」ではなく、むしろ、物質的な身体とは「身体イメージ」の媒介によってはじめて生きられるのであり、そして、このような「感じられた身体」と「物質的な身体」とのあいだのズレや不一致は決して病理学的なものではないということである。/本書はまた大変バランスのとれた著作であり、理論的なだけでなく、きわめて実践的な著作でもある」(341~342頁)。


★『菅原道真』は、京都女子大学文学部教授で平安文学がご専門の滝川幸司(たきがわ・こうじ:1969-)さんが、道真の人生を四期に分けて紹介するもの。「第一期は、誕生から、大学寮紀伝道入学、対策(官僚登用のための国家試験)に合格して官僚としての道を歩み、文章博士として紀伝統の頂点に立った時期である。/第二期は、文章博士を離任し、讃岐守として統治に赴任した時期である。〔…〕/第三期は、都へ戻り、宇多天皇に抜擢され、蔵人頭として天皇の側近となり、以後右大臣に至る時期である。〔…〕/第四期は大宰権帥として都から左遷され、九州の地で過ごす時期である」(「はじめに」iii頁)。「それぞれの時期の心情がこれほどまでに残り、自分の手で編纂した史料が現存している官僚は、平安時代には他にいない」(iv頁)。道真は藤原氏の策謀により失脚したと言います。「道真の生涯の、いわば骨格を記したのが本書である。今後、血肉を加える作業を続けたい」と著者はあとがきで記しています。滝川さんには『菅原道真論』(塙書房、2014年)という研究書もあります。



★『暦川』は、写真家の公文健太郎(くもん・けんたろう:1981-)さんによる、2016年刊の『耕す人』に続く平凡社では2作目となる写真集。帯文に曰く「東北を代表する大河・北上川。源流から河口まで250kmの四季折々の営みを気鋭の写真家が活写」。ノスタルジーを誘う美しい川辺の風景に魅了されます。個人的にはっとしたのは48番の写真。川岸を進む蛇と目が合って、蛇(青大将でしょうか)もフレームのこちら側の写真家をじっと見つめています。思いがけない交感。今年刊行された公文さんの写真集は冬青社から2月に刊行された『地が紡ぐ』に続いて2冊目です。



★『浮きよばなれ』は作家・演出家・プロデューサーの栗原明志(くりはら・あかし:1971-)さんが20代後半から40代後半のこんにちまで、20年間にわたり書き溜めたエッセイ24篇をまとめたもの。第一作である特異な小説『書』(現代思潮新社、2007年)以来の新刊です。「「とりあえず」現在を先送りにする運動のただ中で、人は金銭に埋没する。「とりあえず」は錬金術の合言葉に他ならない。「とりあえず」の対極に文学と芸術が存在し、ますます迫害され、黙殺され、表面から撤去され、倉庫で眠らされ、見下され、勝ち誇ったせせら笑いに晒されながら、幾重にも迂回された奇妙な方法で人々が背を向けた現在を拾っている、「ポスト真実」の時代は、「ポストイメージ」の時代でもあり得るのだ」(「二〇一七年の京都」367頁)。


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ブックツリー「哲学読書室」に久保明教さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ブルーノ・ラトゥールの取説』(月曜社、2019年8月)の著者、久保明教さんによるコメント付き選書リスト「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために」が掲載されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」
50)筧菜奈子(かけい・ななこ:1986-)さん選書「抽象絵画を理解するにうってつけの5冊」

51)西山雄二(にしやま・ゆうじ:1971-)さん選書「フランスにおける動物論の展開」
52)山下壮起(やました・そうき:1981-)さん選書「アフリカ的霊性からヒップホップを考える」

53)綿野恵太(わたの・けいた:1988-)さん選書「「ポリティカル・コレクトネス」を再考するための5冊」
54)久保明教(くぼ・あきのり:1978-)さん選書「文系的思考をその根っこから科学技術へと開くために」


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注目新刊:チャペック『独裁者のブーツ』共和国、ほか

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『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[9]後期哲学』G・W・ライプニッツ著、西谷裕作/米山 優/佐々木能章訳、工作舎、2019年9月、本体9,500円、A5判上製456頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-512-2
『マクティーグ――サンフランシスコの物語』フランク・ノリス著、高野泰志訳、幻戯書房、2019年9月、本体4,000円、四六変上製502頁、ISBN978-4-86488-178-4
『独裁者のブーツ――イラストは抵抗する』ヨゼフ・チャペック著、増田幸弘/増田集編訳、共和国、2019年9月、本体2,500円、菊変型判上製180頁、ISBN978-4-907986-63-6
『靖国を問う――遺児集団参拝と強制合祀』松岡勲著、航思社、2019年9月、本体2,200円、四六判上製232頁、ISBN978-4-906738-40-3
『時宗年表』髙野修/長澤昌幸編、平凡社、2019年9月、本体4,600円、A5判上製240頁、ISBN978-4-582-70360-3
『現代思想2019年10月号 特集=コンプライアンス社会』青土社、2019年9月、本体1,400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1387-5
『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』ジョン・コルベット著、工藤遥訳、カンパニー社、2019年9月、本体1,600円、小B6判並製168頁、ISBN978-4-910065-00-7
『ヴァルター・ベンヤミン――闇を歩く批評』柿木伸之著、岩波新書、2019年9月、本体860円、新書判並製240頁、ISBN978-4-00-431797-5
『読書実録』保坂和志著、河出書房新社、2019年9月、本体1,800円、46変形判上製216頁、ISBN978-4-309-02829-3
『書くこと 生きること』ダニー・ラフェリエール著、小倉和子訳、藤原書店、2019年9月、本体2,800円、四六判上製400頁、ISBN978-4-86578-234-9
『メアリ・ビーアドと女性史――日本女性の真力を発掘した米歴史家』上村千賀子著、藤原書店、2019年9月、本体3,600円、四六上製416頁/口絵8頁、ISBN978-4-86578-241-7
『いのちの森づくり――宮脇昭 自伝』宮脇昭著、藤原書店、2019年9月、本体2,600円、四六変判上製424頁、ISBN978-4-86578-230-1
『兜太 TOTA vol.3〈特集〉キーンと兜太――俳句の国際性(Sept. 2019)』藤原書店、2019年9月、本体1,800円、A5並製200頁/カラー口絵8頁、ISBN978-4-86578-240-0


★『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[9]後期哲学』は第7回配本。「モナドロジー」(1714年、西谷裕作訳)を含む8篇(うち書簡集が3篇)が収められています。解説によれば「モナドロジー」は「ほぼ同時に書かれた「理性に基づく自然と恩寵の原理」〔同じく第9巻所収〕とともに、彼〔ライプニッツ〕の最晩年の思想を全般的かつ簡潔に示したものであり、彼の「哲学的遺著」といわれている」。「ライプニッツは、必要あるときは「予定調和論者」という筆名を使い、自分の学説を「モナドロジー」と読んだことは一度もなく、本書の草稿類も標題をもっていない。この名の由来は、1720年ケーラーがみずから作ったと思われる写本をもとにして、本書のドイツ語訳を『モナドロギーについての教説』という標題のもとに発表したことによる」(242頁)。新装版第Ⅰ期は、あと第1巻『論理学』の配本の残すのみとなりました。


★『マクティーグ』は「ルリユール叢書」の第2回配本。著者のフランク・ノリス(Frank Norris, 1870-1902)はアメリカの小説家で、訳書は何点かありますがいずれも古い書目で品切。『マクティーグ』の原書『McTeague: A Story of San Francisco』は1899年刊で、既訳に『死の谷――マクティーグ』(上下巻、石田英二/井上宗次訳、岩波文庫、1957年) があります。帯文に曰く「ゾラをも凌ぐアメリカ自然主義の最高の宿命小説。怪物シュトロハイムに映画「グリード」〔1922年〕を作らせた、ノアール文学の先駆的作品」。同時代の作家シオドア・ドライサーは本作を「偉大な小説」と讃えています。


★『独裁者のブーツ』は「チャペック(1887-1945)による、反戦/反ナチ/反ファシズムをテーマとしたイラストや諷刺画・戯画を集めた、日本語版オリジナル編集」(凡例より)。表題作の「独裁者のブーツ」(1937年)への序において、詩人であり評論家のヨゼフ・ホラはこう述べています。「いくつかの国では、知性の光があることで安心しきった国民が自分の考えをもつことに臆病になり、なにも考えずにしたがわされてきた。高い台座にある一側の独裁者のブーツを絶えず仰ぎ見てしたがっていれば、国民はなにも考えずにすむ。〔…〕当然だ。無秩序な状況では、どんな世界でも秩序について語る。国民には秩序が必要で、権力に憑依された独裁者の靴が何百万という民衆の靴に催眠術をかけ、壮大な行進を指揮する」(11頁)。「独裁者のブーツは、国民を支配下に置くがために彼らに愛国心と純血主義が欠けていると責めたて、簡単な仕事だとだまして英雄的に活躍したいという本能を食いものにしてきた」(12頁)。「時代を代表するイラストレーターは、独裁者の靴の身振りをとらえるたびに悪夢にさいなまれていたようだ。しかし、そうではない! それはチャペックの悪夢ではなく、私たちすべてに横たわる悪夢なの」だ(同頁)。


★『靖国を問う』は、高槻市の小中学校や京都・大阪の大学で教職を長らく務め、靖国合祀取消訴訟や、安倍首相参拝違憲訴訟の原告団に加わってきた松岡勲(まつおか・いさお:1944-)さんの初めての単独著。「戦争遺児の靖国集団参拝」と「靖国強制合祀と戦争体験の継承」の2部構成。「反天皇制市民1700」誌での連載が元になっているとのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「今回明らかにできたのは、戦前・戦後の遺族援護機構の継続関係、地方組織での連続性(連隊区司令部から民生部世話課への移行)だった。今後はさらに地方の遺族会結成時での戦前の人脈との関係(軍人援護会、軍隊等)について調べたい」とあとがきにあります。


★『時宗年表』は北条時宗(ときむね)の年表ではなく、踊念仏で有名な鎌倉仏教の一派、時宗(じしゅう)についての年表。開祖は一遍(いっぺん:1239-1289)。巻頭の「はしがき」によれば本書は、望月崋山編『時衆年表』(角川書店、1970年)以後の研究成果を反映させた成果とのこと。特徴として以下の3点が帯(表4)に掲出されています。「この半世紀の日本史研究、時宗研究の進展を十全に反映」、「1200年代諸島から2019年4月まで、800年にわたる時宗教団関係記事を収載」、「西暦・和暦・干支・天皇・将軍を記し、浄土教関係に力点を置きつつ災害や世相など日本史関係記事も併載」。


★『現代思想2019年10月号』の特集は「コンプライアンス社会」。石戸諭さんと武田砂鉄さんによる討議「オピニオン/ファクトとどう向き合うのか――メディアとコンプライアンスの過去・現在・未来」をはじめ、20篇の論考を収録。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。デヴィッド・グレーバー「ブルシット・ジョブ現象について」(芳賀達彦/酒井隆史訳、45~52頁)はグレーバーの単著へと続くその端緒となった論考です。樫村愛子さんは「「あいちトリエンナーレ2019」におけるコンプライアンス」という論考を寄稿されています(70~75頁)。 


★『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』は、アメリカの音楽批評家であり、ミュージシャン、プロデューサー、キュレーターでもあるジョン・コルベット(John Corbett, 1963-)による『A Listener's Guide to Free Improvisation』(University of Chicago Press, 2016)の訳書。附録として、音楽批評家の細田成嗣(ほそだ・なるし:1989-)さんの選書・選盤による「飽き足らない即興音楽の探索者たちのために」が付されています。訳者の工藤遥(くどう・はるか:1986-さんが運営するカンパニー社さんの書籍第一弾で、扱い書店は書名のリンク先に記載されています。リンク先では、本書に対する大友良英さん、佐々木敦さん、毛利嘉孝さんの推薦文も読むことができます。



★『ヴァルター・ベンヤミン』は広島市立大学教授の柿木伸之(かきぎ・のぶゆき:1970-)さんの初めての新書。ベンヤミン論としては『ベンヤミンの言語哲学――翻訳としての言語、想起からの歴史』(平凡社、2014年)に続くものです。「時代と斬り結ぶベンヤミンの批評的な思考は、言語、芸術、そして歴史への根底的な問いに収斂するにちがいない。これらの事柄への問いを掘り下げることは、二十一世紀の今ここにある危機を見通しながら、歴史のなかで言葉に生きる可能性を模索することであり、かつ芸術の美が生きること自体を見つめ直させる力を発揮する回路を、現代における芸術とのかかわりのうちに探ることでもある。ベンヤミンが残した書を読むことによってこそ喚起されうるこうした思考へ読者を誘うのが、本書の狙いとするところである」(20頁)。


★『読書実録』は「すばる」誌に2017年8月号から2019年3月号にかけて計4回掲載されたテクストを単行本化したもの。「筆写のはじまり」「スラム篇」「夢と芸術と現実」「バートルビーと人類の未来」の4部構成。「バートルビーと人類の未来」では弊社刊、ジョルジョ・アガンベン『バートルビー』に掲載した、アガンベンの論考、「バートルビー」の新訳、訳者の高桑和巳さんの解説、さらには私が考案した帯文まで引いていただいており、入念に考察を加えておられます。「スラム篇」でも弊社刊、ジャン・ジュネ『公然たる敵』を取り上げていただいています。写経にも似た書物の筆写は、作家の保坂さん自身の思考と分かちがたく繋がっています。「小説家にとって小説を書くことは、テーマとか思想を書くことでなく何より、日々書くことだ、お坊さんがお経を毎朝読経するのと同じことだ。〔…〕私は「読書実録」を書いたわけだが、中身は私に書き写しをさせた文が次の文を呼び寄せた。/書き写しをしているとかつて読んだ文が活性化するのだ、ただ目と頭だけで読むのより書き写しをする方が文が文を呼び起こす、記憶のどこかに仕舞い込まれていた文が新しい力を得て、出たくてうずうずする。/するとそれは、人間の肯定になった」(208頁)。


★『書くこと 生きること』はハイチに生まれカナダで活躍する作家ダニー・ラフェリエール(Dany Laferrière, 1953-)の自伝的インタヴュー『J'écris comme je vis. Entretien avec Bernard Magnier』(La passe du vent, 2000)の全訳。ジャーナリストのベルナール・マニエとの対談。原題は直訳すると「僕は生きるように書く」。「生いたち」「読書という体験」「書くこと」「「ぼく」って?」といったパートに分かれ、「ラファリエールの著作の全容を的確に把握したうえで、彼の生い立ちに始まり、身内のこと、ハイチ社会について、移民の境遇、豊富な読書体験、作家生活、そして執筆にまつわる逸話にいたるまで、じつに多岐にわたる内容」が語られている、と訳者の小倉さんは評価しておられます。


★『メアリ・ビーアドと女性史』は、アメリカの歴史家であり、「アメリカ女性史研究のパイオニア」(まえがきより)である、メアリ・ビーアド(Mary Ritter Beard, 1876-1958)をめぐる「決定版評伝」(帯文より)。「メアリ・ビーアドの形成」「歴史を書く――女性史研究の先駆者として」「戦後日本とメアリ・ビーアド」の3部構成。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。リンク先では訂正表のPDFも公開中。著者の上村千賀子(うえむら・ちかこ:1942-)さんは群馬大学名誉教授で、『女性解放をめぐる占領政策』(勁草書房、2007年)などの著書があります。


★『いのちの森づくり』は副題にある通り、宮脇昭(みやわき・あきら:1928-)さんの自伝。2013年12月から2014年2月にかけて「神奈川新聞」に全63回にわたり連載された「わが人生」に大幅加筆修正を施して第Ⅰ部として収録し、第Ⅱ部には一志治夫さんによる「詳伝年譜(1980年~)」を配し、第Ⅲ部には2008年9月にパレスホテルで行われた講演の要旨をもとに加筆修正した「日本の森を蘇らせるため、今私たちにできること」が収録されています。「日本全国の植生調査に基づく浩瀚の書『日本植生誌』全10巻〔至文堂〕に至る歩みと、“鎮守の森”の発見、熱帯雨林はじめ世界各国での、土地に根ざした森づくりを成功させた“宮脇方式での森づくり”の軌跡」(帯文より)。


★『兜太 TOTA vol.3』の特集は「キーンと兜太――俳句の国際性」。同誌の編集顧問を務められていたドナルド・キーンさんが、今年2月に他界されたことを受け、キーンさんと金子兜太さんの交流を辿り直しつつ、「俳句を世界に開いていくための手がかりを考え」ようという試み(巻頭言より)。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。


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取次搬入日決定:水野浩二『倫理と歴史』、アガンベン『書斎の自画像』

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シリーズ〈哲学への扉〉の第4回配本と第5回配本は同日発売です。水野浩二『倫理と歴史―― 一九六〇年代のサルトルの倫理学』、ジョルジョ・アガンベン『書斎の自画像』の取次搬入日は、日販、大阪屋栗田、トーハン、ともに10月3日(木)です。書店さんの店頭に並び始めるのは来週以降になるかと思われます。どの書店さんで扱いがあるかについては、地域をご指定いただければお知らせいたします。
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注目新刊:淵田仁『ルソーと方法』法政大学出版局、ほか

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◆淵田仁さん(ウェブ連載:ルソー『化学教程』)
先月初の単独著『ルソーと方法』を刊行されました。本書を中心とした淵田さんご自身によるコメント付き選書リスト「どう考え、どう語るのか」を哲学するための5冊」がhontoのブックツリーで公開されています。


ルソーと方法
淵田仁著
法政大学出版局 2019年9月 本体4,800円 A5判上製372頁 ISBN978-4-588-15104-0

帯文より:〈山師〉とは誰か? 自らのエクリチュールを山師のやり口と称し、啓蒙の知を知たらしめる規範的方法を斥けた、孤高のフィロゾーフ、ルソー。そのきわめて特異で、真に哲学的な問題意識に迫る。


主要目次:
はじめに
序論 方法をめぐる問い
第一部 認識の方法
 第一章 コンディヤックの分析的方法
 第二章 ルソーの能力論
 第三章 分析への抵抗と批判
第二部 歴史の方法
 第四章 「歴史家」の問題
 第五章 『人間不平等起源論』における歴史記述
 第六章 自己の歴史の語り
結論 山師とは誰か
あとがき
文献表
事項/人名索引

◆清水知子さん(著書:『文化と暴力』、共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
◆毛利嘉孝さん(著書:『文化=政治』、共訳:ギルロイ『ブラック・アトランティック』、クリフォード『ルーツ』)
先月刊行されたアンソロジー『コミュニケーション資本主義と〈コモン〉の探求』に論考を寄稿されています。清水さんは第Ⅱ部「コミュニケーション資本主義と生権力」の第7章「生(バイオ)資本主義時代の生と芸術──クトゥルー新世・人工生命・生哲学」を担当され、毛利さんは第Ⅲ部「コミュニケーション資本主義における抗争」の第9章「資本主義リアリズムからアシッド共産主義へ」を担当されています。


コミュニケーション資本主義と〈コモン〉の探求――ポスト・ヒューマン時代のメディア論
伊藤守編
東京大学出版会 2019年9月 本体5,000円 A5判上製296頁 ISBN978-4-13-050198-9

帯文より:コミュニケーション資本主義とは、米国の政治学者ジョディ・ディーンが提唱した概念であり、制御と資本の論理に分かちがたく結びついた、膨大な量の情報とメタデータが算出され循環する社会のことである。/コミュニケーション資本主義の4つの特徴。1.主体の発話や文字言語による投稿メッセージが「経済的なロジック」によって数として計測されること。2.「経済的ロジック」主導の情報空間の内部に極度のヒエラルヒーが構築されること。3.公開性の拡大が、「秘密」の領域を拡張するとともに、公共圏の市場化も強化していること。4.電子的ネットワーク、ソーシャルメディアが情動的ネットワークとして機能していること。

◆中井亜佐子さん(寄稿:「革命と日常」、翻訳:ジェームズ「勝利」、ともに『多様体1』所収)
◆溝口昭子さん(寄稿:「「国民未満」から対自的民衆へ」、翻訳:ドローモ「民衆と芸術家」「アフリカ人のヨーロッパ人に対する考え」、ともに『多様体1』所収)
今月刊行されたアンソロジー『イギリス文学と映画』に論考を寄稿されています。中井さんは第1部第11章「複製技術時代の〈作者の声〉」の「ジョウゼフ・コンラッドの『闇の奥』からフランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』へ」を担当され、溝口さんは第1部第14章「擦れ違いの力学」のコラム9「南アフリカ英語文学は「南アフリカ英語映画」になる?」を担当されています。


イギリス文学と映画
松本朗編集責任 岩田美喜/木下誠/秦邦生編
三修社 2019年10月 本体3,200円 A5判並製408頁 ISBN978-4-384-05930-4

帯文より:〈文学〉と〈映画〉との長く複雑な関係性――二者の交錯と葛藤が生み出した、クリエイティヴな〈翻案〉の歴史を読み解く。『ハムレット』、『高慢と偏見』、『嵐が丘』などの古典から、近年の『わたしを離さないで』や『SHERLOCK』まで。


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注目新刊:國分功一郎『原子力時代における哲学』晶文社、ほか

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『原子力時代における哲学』國分功一郎著、晶文社、2019年9月、本体1,800円、四六判並製320頁、ISBN978-4-7949-7039-8
『ホモ・デジタリスの時代――AIと戦うための(革命の)哲学』ダニエル・コーエン著、林昌宏訳、2019年9月、本体2,200円、4-6判並製240頁、ISBN978-4-560-09721-2
『AI時代の労働の哲学』稲葉振一郎著、講談社選書メチエ、2019年9月、本体1,600円、四六判並製224頁、ISBN978-4-06-517180-6
『蛸――想像の世界を支配する論理をさぐる』ロジェ・カイヨワ著、塚崎幹夫訳、青土社、2019年9月、本体3,000円、四六判並製328頁、ISBN978-4-7917-7182-0
『ムー認定 神秘の古代遺産』並木伸一郎著、ムー編集部編、学研プラス、2019年9月、本体2,400円、B5判並製256頁、ISBN978-4-05-406737-0
『ムー認定 驚異の超常現象』並木伸一郎著、ムー編集部編、学研プラス、2019年9月、本体2,400円、B5判並製256頁、ISBN978-4-05-406738-7



★『原子力時代における哲学』は巻頭の特記によれば、2013年7月から8月にかけて4日間にわたって行われた連続講演の記録で、書籍化にあたり口述筆記に大幅な加筆修正を施した、とのこと。「一九五〇年代の思想」「ハイデッガーの技術論」「『放下』を読む」「原子力信仰とナルシシズム」の全四講で、付録の論考「 ハイデッガーのいくつかの対話篇について──意志、放下、中動態」は、2018年9月15日に行われた「ハイデガー・フォーラム」第13回大会において口頭発表されたもの。講義の中心となるのは、ハイデガーの1955年の講演「放下」と、それに先立つこと10年前に執筆された対話篇「放下の所在究明に向かって」の読解です。「放下」の最初に掲げられていた問いはこうです。「原子時代の人間に果してなほ何等かの土着性が授けられるであらうか」(辻村公一訳「放下」5頁、『ハイデッガー選集15』所収、理想社、1963年)。


★國分さんは『放下』を次のように評価します。「1950年代、原子力時代の最中、原子力という問題に直面して、その技術としての問題点にだれよりも早く気付き、危機感を抱いた哲学者は、哲学がこの問題に立ち向かうためには、ここまで〔そもそも「考える」とは何か、思惟の本質とは何か、を巡る会話まで〕やらなければならないと考え、それを実行したわけです。これは原子力時代における哲学の一つの達成です」(249頁)。対話篇「放下の所在究明に向かって」はどこか秘教的に響く詩的に美しい内容であるだけに、そこに深遠な意味をつい読み込んでしまいがちかもしれませんが、國分さんの読解はとてもシンプルで明快であり、ハイデガーの問題意識を真芯で捉えたものではないかと感じます。


★國分さんは原子力信仰に、人間の心の奥にある「全能感へのナルシシズム的な憧れ」(279頁)を見ます。そして、人間はそれを乗り越えなければならないと訴えます。「知性の声は弱々しい。しかし執拗である」(286頁)との言葉に力強さを感じます。なお、本書と同じく9月には、青土社さんから内山田康さん『原子力の人類学――フクシマ、ラ・アーグ、セラフィールド』が発売されています。また、國分さんの本や稲葉振一郎さんの『AI時代の労働の哲学』には必然的とも言うべきか、贈与の問題系が絡んでくるのですが、これまた青土社さんから同じく先月に、岩野卓司さんによる『贈与論――資本主義を突き抜けるための哲学』という新刊が出ています。併読しておくべきかと思われます。


★青土社さんでは6月にも石井美保さんの『めぐりながれるものの人類学』や、藤原辰史さんの『分解の哲学――腐敗と発酵をめぐる思考』といった話題書を刊行されており、このところの青土社さんの単行本新刊からは目が離せません。


★『ホモ・デジタリスの時代』は『Il faut dire que les temps ont changé... Chronique (fiévreuse) d’une mutation qui inquiète』(Albin Michel, 2018)の全訳。原題は直訳すると『「時代は変わったと言うべき……」――懸念される変化の(うなされるような)編年史』で、訳者あとがきによればこれはフランス語の流行歌の一節を引用しているそうです(著者自身による自著紹介の動画と一緒に、当該曲と思しい歌の動画を下段に掲出しておきます)。





★フランスの経済学者コーエン(Daniel Cohen, 1953-)は本書のイントロダクションでこう書いています。「彼ら〔ホモ・デジタリス〕は、オンラインに接続された外在性そのものであり、農民よりも狩猟採集民に近い。彼らのアルゴリズムに基づく暮らしによって文明の行方が決まる。われわれは、ホモ・デジタリスが誕生した経緯である怒りや不満を理解し、そこにないまぜになった感情――この時代を生きる人々の無頓着さや幸福感について把握しなければならない。それは、人類の遺産でもある人文知について心を向けることである。この責務を怠ることはもう許されないのだ。/ホモ・デジタリス誕生の歴史は今から50年前に始まった。つまり、「68年5月」が出発点なのだ」(12頁)。


★「暗中模索した後、脱工業化社会は一つの筋道を見出したようだ。この道筋にはデジタル社会という名前がつけられた。デジタル社会は、「収益」を確保するために全員に対し、サイバネティックスな巨大な身体に座薬のように参入することを要求する。それは、一つの情報を別の情報として扱えるようにするためだ。ソフトウェアや人工知能は、無数の顧客に対し、介護士、アドバイスを与え、娯楽を提供するようになる。そのための条件は、顧客があらかじめデジタル化されていることだ。たとえば、近未来を描く映画『her/世界でひとつの彼女』には、「恋愛」ソフトウェアが登場する。ソフトウェアから流れる魅力的な声の持ち主は女優スカーレット・ヨハンソンである。このソフトウェアは、一度に何と数百万人と恋愛するのだ。これこそがホモ・デジタリスの掲げる約束であり、人体の限界を超えた世界で交わされる約束である」(16頁)。


★『AI時代の労働の哲学』は「人工知能技術の発展が社会に、とりわけ労働に及ぼすインパクトについて考える際に」、現代人がいかなる「知的道具立て」を持っているのかどうかを「点検」するもの(「はじめに」3頁)。「議論全体の基調としては「『AI』だの『人工知能』だのといった目新しい言葉をいったん脇に置いて、資本主義経済の下での機械化が人間労働に与えるインパクトの歴史を振り返っておく必要がある」というものです」(3~4頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書のエピローグ「AIと資本主義」ではそもそも資本主義とは何か、が問われていますが、あとがきによれば、稲葉さんはいずれ『資本主義の哲学』を上梓する予定だそうです。なお本書とほぼ同時期に、ちくまプリマー新書より稲葉さんのもう一つの新刊『銀河帝国は必要か?――ロボットと人類の未来』が発売されています。



★『蛸』は、中央公論社より1975年に刊行された単行本の復刊(原著は1973年刊『La Pieuvre : essai sur la logique de l'imaginaire』)。再刊に際し、巻末に訳者による2頁にわたる「『蛸』――新版のための解説」が付されています。今回は四六判並製となりましたが、親本は一回り大きく左右が長めのものでした。そのため今回の新版はいささか窮屈な感じがしないでもないですが、長らく絶版だった訳書が再刊されたことはやはり嬉しいです。日本版への序から文言を借りると本書は「蛸の多様な変身を研究したもの」(2頁)。「長い年月のあいだに、民族や文明とともに、ときには文学の流儀や作家の空想に影響されながら、蛸のイメージはさまざまに変化してきた。この場合、つねに想像が現実にとってかわった。私にはそう思われた」(同頁)。本書の後半は親本にあった通りに、訳者によるかなり長篇のカイヨワ紹介(著書の紹介など)を再録していて、読み応えがあります。NHKの「100分de名著」に『戦争論』が取り上げられたことによりカイヨワ再評価のとっかかりが生まれたことを喜びたいです。


★『ムー認定 神秘の古代遺産』および『ムー認定 驚異の超常現象』は月刊誌『ムー』創刊40周年記念のいわば総集編(誌面の復刻版ではありません)。月刊誌『ムー』と同じB5判サイズで黒いカバーに金箔とレインボー箔、金と銀の帯がついて書店さんの店頭での存在感は抜群です。全編オールカラー。大きなカラー図版が惜しげもなくたくさん掲載されています。これで本体価格が2千円台前半とは、学研プラスさんでなければなしえないでしょう。大人になってすっかり超常現象や世界の不思議に懐疑的になった大人でも、在りし日のワクワク感がよみがえります。『神秘の古代遺産』は、水晶ドクロ、オーパーツ、古代都市、ピラミッド、日本の古代文明、超文明の残滓、聖書遺産、古代神と異人類、ナスカ、の9部構成。『驚異の超常現象』は、ロズウェル事件、UFO事件、異星人事件、宇宙のUFO、UFOコンタクティ、奇現象、怪奇事件、虚舟、の8部構成。


★まもなく発売となるちくま学芸文庫の10月新刊は以下の4点5冊です。


『事物のしるし――方法について』ジョルジョ・アガンベン著、岡田温司/岡本源太訳、ちくま学芸文庫、2019年10月、本体1,100円、文庫判224頁、ISBN978-4-480-09949-5
『ローマ教皇史』鈴木宣明著、ちくま学芸文庫、2019年10月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN 978-4-480-09950-1
『村上春樹の短編を英語で読む 1979~2011』上下巻、加藤典洋著、ちくま学芸文庫、2019年10月、本体1,300円/1,200円、文庫判432頁/320頁、ISBN978-4-480-09945-7/978-4-480-09946-4
『戦略の形成――支配者、国家、戦争(下)』ウィリアムソン・マーレー/マクレガー・ノックス/アルヴィン・バーンスタイン編著、石津朋之/永末聡監訳、歴史と戦争研究会訳、ちくま学芸文庫、2019年10月、本体1,800円、文庫判688頁、ISBN978-4-480-09942-6


★『事物のしるし』は2011年に筑摩書房より刊行された単行本の文庫化。原著は『Signatura rerum: Sul Metodo』(Bollati Boringhieri, 2008)。はしがき、第一章「パラダイムとはなにか」、第二章「しるしの理論」、第三章「哲学的考古学」、の3章構成。岡田温司さんによる「新たなる方法序説――訳者あとがきにかえて」は単行本から引き継いだもの。共訳者の岡本源太さんが新たに、「パラダイムの倫理としるしの法――文庫版解題として」を寄せておられます。


★『ローマ教皇史』は1980年に教育社から刊行された単行本の文庫化。「初代教会時代」「ローマ末期の教会時代」「西欧中世初期」「西欧中世盛期」「西欧中世末期とルネサンス時代」「禁断世界の教皇職」「現代の教皇たち」の7章構成。巻頭の「はじめに」によれば、ゲオルク・シュヴァイガー『教皇史』(原著1964年)を参照しているとのことです。文庫解説として藤崎衛さんによる「二十一世紀の宗教を見とおすためのよすが」が新たに付されています。巻末にペトルスからフランシスコに至る「教皇表」あり。


★『村上春樹の短編を英語で読む 1979~2011』は2011年に講談社より刊行された単行本を上下巻分冊で文庫化。初出は2009年から2011年にわたり「群像」誌に掲載された連載です。第一部「初期 物語と無謀な姿勢」、第二部「前期 喪失とマクシムの崩壊」、第三部「中期 孤立と危機」、第四部「後期 回復と広がり」の4部構成。上巻と下巻に2部ずつ収録されています。下巻の巻末には小説家の松家仁之さんによる解説「戦後が生んだふたり」が収められています。


★『戦略の形成』下巻は、先月刊行の上巻に続く完結編。親本は2007年に中央公論新社より刊行。下巻では、ヴィルヘルム・ダイストによる第十二章「イデオロギー戦争への道――ドイツ(1918~1945年)」からマクレガー・ノックスによる第十九章「おわりに――戦略形成における連続性と革命」を収録。監訳者の石津さんによる解題「戦略の多義性と曖昧性について」は親本から引き継いだもの。同じく石津さんによる文庫版監訳者あとがきは新たに加わったものです。


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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。


『ゲンロン10』ゲンロン、2019年9月、本体2,400円、A5判並製328頁、ISBN978-4-907188-32-0
『文藝 2019年冬季号』河出書房新社、2019年10月、本体1,350円、A5判並製560頁、ISBN978-4-309-97985-4
『演劇とその分身』アントナン・アルトー著、鈴木創士訳、河出文庫、2019年10月、本体900円、文庫判並製256頁、ISBN978-4-309-46700-9
『ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ』三宅陽一郎著、技術評論社、2019年9月、本体2,780円、A5判並製384頁、ISBN978-4-297-10828-1
『良い占領?――第二次大戦後の日独で米兵は何をしたか』スーザン・L・カラザース著、小滝陽訳、人文書院、2019年9月、本体4,000円、4-6反上製496頁、ISBN978-4-409-51081-0
『〈災後〉の記憶史――メディアにみる関東大震災・伊勢湾台風』水出幸輝著、人文書院、2019年10月、本体4,500円、4-6判上製390頁、ISBN978-4-409-24126-4



★『ゲンロン10』は第2期の第1弾。造本設計は加藤賢索さんから川名潤さんに代わっています。お値段は本体2,400円で据え置き。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。予告通り、東浩紀さんは巻頭言ではなく長篇論考を寄せておられます。「悪の愚かさについて、あるいは収容所と団地の問題」です(27~69頁)。「加害そのものの愚かさを記憶し続けること」(66頁)へと向けられた重要な内容。小特集は2本、「平成から令和へ」と「AIと人文知」です。前者は東さんの論考と併読されるべき2本の対談から成ります。後者では特に山本貴光さんと吉川浩満さんによるブックガイド「人工知能と人文知を結ぶ15の必読書」に注目したいです。ライプニッツの「普遍的記号法」から始まるのがお二人らしいところ。昨今急激に増えている人文系のAI関連書の淵源を知る上で参考になると思います。





★『文藝 2019年冬季号』の特集は「詩(うた)・ラップ・ことば」。いとうせいこうさんと町田康さんの対談「うた、ラップ、小説  日本語の自由のために」や、尾崎世界観さんの小説「バズの中にはおよそシェア100万個分の栄養素が含まれている」のほか、韻踏み夫さんの論考「ライミング・ポリティクス試論――日本語ラップの〈誕生〉」などが掲載されています。そのほか、北野武さんの創作「足立区島根町」、第56回文藝賞の受賞作2作なども収録。「ゲンロン」最新号でもご活躍の山本さんは連載季評「文態度百般」を、吉川浩満さんは島田正彦さんの『君が異端だった頃』への書評を寄せておられます。川名潤さんは連載「この装幀がすごい!」第3回で共和国さんの既刊書2点『いやな感じ』『遊郭のストライキ』を取り上げておられます。


★『演劇とその分身』はまもなく発売。『Le Théâtre et son double』(Gallimard, 1938)の新訳です。既訳には、安堂信也訳(『演劇とその形而上学』白水社、1965年;全面新訳版『アントナン・アルトー著作集(Ⅰ)演劇とその分身』白水社、1996年;新装復刊版、2015年)があります。河出文庫でのアルトー本は『神の裁きと訣別するため』『タラウマラ』『ヘリオガバルス』に続き、今回で4点目です。「人間と人間の力能のいつもの限界化を拒絶するように仕向け、そして現実と呼ばれるものの境界を無限に広げるように仕向ける〔こと〕。〔…〕この時代にまだ地獄のような真に呪われた何かがあるとすれば、火刑台の薪の上で燃やされ、合図を送る死刑に処せられる人々のようでいる代わりに、ぐずぐずと芸術的に諸々の形式にかかずらうことである」(序「演劇と文化」18頁)。


★『ゲームAI技術入門』はプログラミング技術情報誌『WEB+DB PRESS』の第68号(2012年4月)の特集3「はじめてのゲームAI――意思を持つかのように行動するしくみ」をもとに、大幅加筆修正を行って書籍化したもの。「はじめに」によれば本書の目的は「デジタルゲームAIの現時点における全容を示すこと」。目次詳細は書名のリンク先でご確認下さい。なお三宅さんは先にご紹介した『ゲンロン10』の「AIと人文知」特集で、長谷敏司さんや大森望さんらとの座談会「AI研究の現在とSFの想像力」に参加されています。また、本書の関連書として三宅さんは『人工知能の作り方――「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』(技術評論社、2016年12月)や『人工知能のための哲学塾』(BNN新社、2016年8月)、『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(BNN新社、2018年4月)を上梓されています。


★『良い占領?』は『The Good Occupation: American Soldiers and the Hazards of Peace』(Harvard University Press, 2016)の全訳。「本書の目的は、占領を成功させる手順を示すことではなく、第二次世界大戦の生きた経験という卑金属を、黄金の国家伝説にかえた錬金術を解明することである。言い換えるなら、占領は、その最中と事後において、どのように良いものにされていったのかを問う、ということである」(20頁)。「本研究は、アメリカ各地に所蔵された、未刊行の手紙・日記・回想録など、数百店のコレクションに依拠して、男女の兵士を考察の中心に据える。占領を実行した人々は、その危険と、そこから得られる見返りをどんな風に語っただろうか? 私的な日誌や故郷への手紙に戦後の経験を記す際、どんな自己理解を作り上げただろうか?」(21頁)。カラザース(Susan L. Carruthers, 1967-)はアメリカの歴史学者でウォーリック大学教授。訳書の刊行は今回が初めてです。



★『〈災後〉の記憶史』はまもなく発売(15日取次搬入予定)。著者の水出幸輝(みずいで・こうき:1990-)さんが2018年4月に関西大学大学院社会学研究科に提出した博士論文「「防災の日」のメディア史――日本社会における災害認識の変遷」に加筆修正を施したもの。「本書は、災害の来し方行く末をテーマとして、長い〈災後〉を辿るものである。/新聞報道を中心に、災害間、地域間、時代ごとの比較を通じ、日本社会が災害の記憶をいかに語ってきたかを追跡してきた。時間的にも空間的にも発災(時・場所)に限定されず、災害とメディアの長期的な関係を紐解く試みである」(376頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


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続報:ブックフェア「『ブルーノ・ラトゥールの取説』をより深く読むために」

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ブックファースト新宿店地下1階Bゾーン人文書売場にて好評開催中のブックフェア「『ブルーノ・ラトゥールの取説』をより深く読むために」に、久保明教さん選書による10点が加わっています。フェアは10月15日(月)まで開催予定です。

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月曜社11月新刊:ラシード・ブージェドラ『ジブラルタルの征服』

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2018年11月1日取次搬入予定 *文芸/外国文学・マグレブ文学


ジブラルタルの征服
ラシード・ブージェドラ[著] 下境真由美[訳]
月曜社 2019年11月 本体:3,000円 46判並製292頁 ISBN: 978-4-86503-086-0


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


黄色、それから黄色っぽい色、そしてまた黄色……アルジェリアを舞台に過去と現在、歴史と虚構が交錯し、再説されるたびに差異を孕み、ズレが生じていく。真偽をめぐる境界の曖昧さのアレゴリーと、フィクションによる史実の征服。精密かつ流麗な仕掛けが動き出す。小説とはつまり挑発であり挑戦なのだ。冒険は読者とともに始まるだろう。複数の言語が入り乱れるマグレブ文学の快作。【叢書・エクリチュールの冒険、第14回配本】


冒頭部分より:
黄色、それから黄色っぽい色、そしてまた黄色。クレーン、というよりむしろもっと具体的には、まるで空と―― 一般に――呼ばれているものからおおよそなりたっている青い物質の中を突進する矢のように往来をやめない、等距離間を駆けめぐるのをやめないアームが空中に飛び出す。空をかき回し、掃き出し、まるで――クレーンのアームは――押しのけられた翼のように――いずれにせよ――台座の先で動き回っているのだが、その台座をなしているもう一方の翼からは、完全に独立して勝手に動いている。台座は地面に固定されているというか、それよりも――むしろ――つながれているかのようだ。そのせいでクレーンの腕は、もつれた紺碧の一種の天の布地の中にもろに浸っているかのように見える。そして、いわば正方形、長方形、菱形、円形等々にこの布地を分断し、ゆったりと、機械的で、反復的で、同一の大きな動きを見せている。そして何といっても黄色。それから黄色っぽい色。そしてまた黄色! 太陽の前を通るたびに、影の中を通るたびに。絶え間なく繰り返される往来は、金槌の一撃でへこまされたかのように、多少いびつだったり多少平板だったりする楕円形をした一種の円形に沿っている。この楕円は変形し、平らにされ、幾分押しつぶされたように、少々膨張している。その一方で、クレーンの固定された部分は足かせをはめられたかのように、永久に不動でいることを強制されているかのように、縛りつけられ、ロープでくくりつけられ、紐で結わえつけられ、ケーブル、平衡錘、留め具によって重くなり、地面に奥深く埋め込まれた根のように見える。・・・



原著:La prise de Gibraltar, Denoël, 1987 (MAARAKAT AZZOUKAK, ENAL, 1986).


ラシード・ブージェドラ(Rachid Boudjedra)1941年、アルジェリア東部のアイン・バイダに生まれる。1969 年、小説第一作『離縁』がフランスで「恐るべき子供たち賞」を獲得し、一躍注目を集めるが、アルジェリアで発禁となり、パリに亡命。1972年から1975年までをモロッコのラバトで過ごしたのち、アルジェリアに帰国。小説の他、詩、戯曲、エッセーと幅広い活動を繰り広げ、現在アルジェリアを代表する作家の1 人である。訳書に『離縁』(福田育弘訳、国書刊行会、1999年)がある。


下境真由美(しもさかい・まゆみ)セルジー・ポントワーズ大学にて博士号取得(比較文学)。現在、オルレアン大学准教授。フランス語圏マグレブ文学、ポスト・コロニアル文学、比較文学専攻。訳書にラシード・ミムニ『部族の誇り』(水声社、2018年)がある。


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注目新刊:安藤礼二『列島祝祭論』作品社、ほか

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★まず最初にここ最近で出会った新刊を列記します。


『列島祝祭論』安藤礼二著、作品社、2019年10月、本体2,600円、46判上製364頁、ISBN978-4-86182-773-0
『ともがら(朋輩)』中原文夫著、作品社、2019年10月、本体1,100円 46判上製104頁、ISBN978-4-86182-780-8
『東洋/西洋を越境する――金森修科学論翻訳集』金森修著、小松美彦/坂野徹/隠岐さや香編、読書人、2019年10月、本体3,800円、四六判上製272頁、ISBN978-4-924671-41-6
『贈与論――資本主義を突き抜けるための哲学』岩野卓司著、青土社、2019年9月、本体2,800円、四六判並製340頁、ISBN978-4-7917-7213-1



★『列島祝祭論』は、文芸評論家で多摩美術大学准教授の安藤礼二(あんどう・れいじ:1967-)さんが集英社の月刊文芸誌「すばる」に連載した「列島祝祭論」(全25回、2016年7月号~2018年9月号)が元になっており、それに加筆修正を加えて一冊としたものです。主要目次は以下の通り。


翁の変容
翁の発生
国栖
小角
修験
空海
天台
一遍
後醍醐
後記 後醍醐から現在へ
古典作品からの引用および謝辞
人名索引


★「現在を知り、現在を根本から変革していくためには政治の革命、現実の革命のみならず宗教の革命、解釈の革命こそが必要なのである。その系譜を知り、理論においても実践においても、引き継ぐことが必要なのである。そのために列島の祝祭の起源、その原型にさかのぼる必要がある。近代的な天皇の起源である中世的な天皇にさかのぼり、さらには天皇という概念そのものをいったん解体してしまう必要がある。再構築は、あるいは脱構築は、そうした徹底的な解体、解釈の――批評の――徹底からしか生まれないであろう」(348頁)。


★『ともがら』は、小説家・中原文夫(なかはら・ふみお:1949-)さんによる書き下ろし小説。「熟年で緊迫する生の葛藤、迷走する二人の奇妙な交感」と帯文にはあります。二人というのは、主人公の男性「水野」と、その学生時代の友人で、病院で偶然主人公と再会したもう一人の男性のことです。人生の黄昏時の風景が淡々と描かれています。「周りから侮られているような気がして、しばらく体を強張らせていた水野は、ここは開き直る時だと思い立ち、背に浴びる視線を弾いてにらみ返すつもりで勢い込んで後ろに振り向いた。だが、彼の独り相撲をあざ笑うかのように、すでに誰の視野にも水野は入っておらず、何事もなかったような談笑の渦が目の前にあった。拍子抜けした水野は前に向き直って目をつむり、腕を組んでうなだれた」(90頁)。


★『東洋/西洋を越境する』は、科学思想史家の金森修(かなもり・おさむ:1954-2016)さんが1995年から2013年にかけてフランス語で公刊してきた8つの論考を、隠岐さや香、近藤和敬、山口裕之、東慎一郎、田中祐理子、香川知晶、田口卓臣、の各氏が日本語訳して1冊としたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭には東京大学名誉教授・芳賀徹さんによる「推薦の辞――越境のスリル、そして輝き」と、編者代表の小松美彦さんによる「まえがき」が配され、巻末に全業績一覧と略年譜が掲出されています。科学史の偉大な先達である伊東俊太郎さんは「若くしてフランスに留学し、かの地の科学思想を研究し、それを我が国に本格的に紹介し発展させた夭折の英才は、また日本の思想にも鋭い考察の眼を向けていた。東西にまたがる注目すべき学究の力技の成果を、広く世に推したい」と帯に推薦文を寄せておられます。


★『贈与論』は、『ジョルジュ・バタイユ――神秘経験をめぐる思想の限界と新たな可能性』(水声社、2010年)、『贈与の哲学――ジャン=リュック・マリオンの思想』(明治大学出版会、2014年)に続く、明治大学教授・岩野卓司(いわの・たくじ:1959-)さんの3冊目の単独著。白水社の月刊誌「ふらんす」での連載「新・呪われた部分――贈与に憑かれた思想家たち」(全12回、2015年4月号~2016年3月号)を全面的に加筆改稿し、書き下ろしを加えたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「商取引としての交換、互酬的な贈与交換、返礼なき贈与は、これからの世の中で、ひとつに還元されることなく、お互いに関係をもちながら、それぞれの役割を果たしていくことになる。これらの多様な交換と贈与の現象を、僕らは交換、贈与と返礼、貸し借りといった解釈の次元にとどまらず、もっと根本から考えていくべきである。そしてその根本は、動物や人間の動物性とも深くかかわっており、人間と動物の関係の問い直しにもつながってくるのだ」(273頁)。「来るべき世紀は贈与の思想から始まることになるだろう」(276頁)。中沢新一さんは本書への推薦文のなかで「贈与は一貫してフランス思想の通奏低音であった。〔…〕現代フランス思想を読み解く鍵は実に贈与の中にある」と記されています。


★続いて、しばらく言及できていなかったここ数か月の注目既刊書から何点か列記します。


『ジョン・ケージ 作曲家の告白』ジョン・ケージ著、大西穣訳、アルテスパブリッシング、2019年7月、本体1,600円、小B6判上製128頁、ISBN978-4-86559-206-1 
『シュタイナーの瞑想法 秘教講義3』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2019年6月、本体2,400円、四六判上製216頁、ISBN978-4-393-32549-0
『シュタイナーの瞑想・修行論 秘教講義4』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2019年7月、本体4,800円、四六判上製576頁、ISBN978-4-393-32550-6
『インテグラル理論』ケン・ウィルバー著、加藤洋平監訳、門林奨訳、日本能率協会マネジメントセンター、2019年6月、本体2,800円、A5判変型並製408頁、ISBN978-4-8207-2734-7



★『ジョン・ケージ 作曲家の告白』は、ナショナル・インターカレジエイト・アーツ・カンファレンスでの講演「作曲家の告白」(1948年)と、京都賞受賞講演「自叙伝」(1989年)の2本を収めた日本版オリジナルの自伝的講演集。前者から印象的な言葉を引きます。


★「パーソナリティには二つの主要な部分があります。私たちのほとんどは、無数の方法と方向性によって意識と無意識が分け隔てられています。音楽の機能は、他のあらゆる健康的な時間の使用と同様に、分離されたそれらを、もう一度繋げ合わせようよすることにあります。時空間への意識が喪失するとき、個人を作る複数の要素が統合され、音楽が人を一つにする瞬間を提供するのです。これは、音楽があり、怠惰で注意散漫にならないように気をつけてさえいれば、生じることです。/今日、多くの人々の時間の使用は、健康的でないどころか、実践することで病気になってしまうような代物です。なぜならそれは、個人の一部分を発展はさせますが、他の部分には害を与えるからです。もたらされた不調は、当初は心理的なものであり、人は仕事から離れ、休暇をとることによってそれを除去しようとします。しかし結局は上手くいかず、しまいに病気は全体の組織を攻撃するようになるのです」(48頁)。


★「神経症は、作曲を制止させ、阻止する振る舞いをします。作曲が可能であるということ、それはこの障害が克服されたことを意味します。/東洋世界で言われているように、無私に、つまり金や名誉を気にかけることなく、単純に作ること自体を愛することから作曲を始めるならば、それは統合的な活動であり、人はその一生の瞬間に、完璧で満たされていると感じるでしょう。ときに作曲することによって、ときに楽器を演奏することによって、ときに単純に聴くことによって、これが生じるのです」(49頁)。


★『シュタイナーの瞑想法 秘教講義3』は帯文に曰く「1903年から09年までの、神智学協会での秘教講義と、個人的な瞑想指導の記録」。「朝と夜の主要練習」より、「朝」のパートを引きます。「目が覚めたら、できるだけすぐに、一切の外から来る感覚印象と一切の日常生活の記憶とから注意を引き離す。この空になった魂の中をまず「しずけさ」(Ruhe)という思いで充たす。この「しずけさ」の思いがからだ中に浸透するようでなければならない。/しかし、これはごくわずかな間(二秒から五秒まで)に生じる。次に、ほぼ五分間、魂を次の七行のマントラで充たす。/光を放射するすがたかたち/霊の輝く波立つ海/魂はあなたたちから離れた/魂は神性の下にいた/魂の本性がそこにやすらいでいた/生存の外皮の領界へ/私の「自我」は意識して歩み入る」(73~74頁)。さらにこの先にも重要なインストラクションがありますが、それは本書の現物をご確認下さい。


★『シュタイナーの瞑想・修行論 秘教講義4』は帯文に曰く「4つの重要な著作と講演を収録」。『人間の自己認識へのひとつの道――八つの瞑想』(1912年刊)、『オカルト上の進歩の意味 全十講』(1913年連続講義)、『霊界の境域――格言風の考察』(1913年刊)、『人智学 21年後の総括――同時に世界の前でそれを代表するときのための指針 全九講』(1924年連続講義)。シュタイナーは人智学を「現代の人間賛歌」なのだと説きます(「人智学 21年後の総括」第一講、376頁)。「人智学協会は人びとの心のもっとも深い憧れを人びとに語らしめる道を見出さなければなりません。そのときこそ、人びとの心は、この上なく深い憧れと共に答えを求め続けることでしょう」(同頁)。付録として訳者の高橋巖さんの講演「人智学とは」(2018年12月23日、京都)が収められています。『秘教講義』第3巻と第4巻の巻末解説はそもに飯塚立人さんがお書きになっています。


★『インテグラル理論』は『A Theory of Everything: An Integral Vision for Business, Politics, Science and Spirituality』(Shambhala Publications, 2000)の訳書で、『万物の理論――ビジネス・政治・科学からスピリチュアリティまで』(トランスビュー、2002年)の全面的改訳版です。発売2か月となる8月末時点で3刷を数えています。数多くあるウィルバー(Kenneth Earl "Ken" Wilber Junior, 1949-)の著書の中でも代表的な主著と言っていいと思います。帯文に曰く「「ティール組織」のベースにもなった未来型パラダイムの入門書」と。かのフレデリック・ラルーによるベストセラー『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)に、ウィルバーによる「本書に寄せて」という一文が収録されているのは、周知の通りです。


★今回の改訳版の第5章「インテグラル理論を活用する」から引きます。「私の見解では、人々が苦しむ原因として、リベラル派は外面的な要因を重視しがちであり、保守派は内面的な要因を重視しがちなのだ。言い換えれば、誰かが苦しんでいるとき、典型的なリベラル派は外面的な社会制度を非難する傾向にあり(「あなたが貧乏な生活を送っているのは、社会によって不公平な扱いを受けているからだ」)、それに対して、典型的な保守派は、内面的な要因を非難する傾向にある(「あなたが貧乏な生活を送っているのは、あなたが怠け者だからだ」)」(208頁)。「大事な点はこうだ。統合的な政治、リベラル派の最良の部分と保守派の最良をひとつに結びつける政治を実現するための第一歩は、内面象限の原因と外面象限の原因の両方が、等しく現実のものであり、等しく重要であるということを認識することなのである。〔…〕要するに、真に統合的な政治は、内面領域の発達と外面領域の発達の両方を重視するものになるはずなのである」(209頁)。


★これは『エデンから――超意識への道』(松尾弌之訳、講談社、1986年、絶版;原著『Up from Eden: A Transpersonal View of Human Evolution』初版1981年、新版1996年)の最終章でも論及されていたことですが、残念ながら訳書はとうの昔に絶版になっており、古書価が高止まりしているように見受けます。ちなみにウィルバーの訳書は一度も文庫化されていません。分断と断片化の時代においてウィルバーの思索と探求は忘却すべきではないもののひとつです。


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「図書新聞」にラミング『私の肌の砦の中で』の書評

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弊社5月刊、ジョージ・ラミング『私の肌の砦の中で』(吉田裕訳)の書評「作家が育った二十世紀前半のバルバドスの社会状況が反映――今年はカリブ海の翻訳小説の当たり年だ」が「図書新聞」2019年10月19日号1面に掲載されました。評者は大辻都さんです。「本書はポストコロニアル批評で知られるジョージ・ラミングの小説第一作である。自伝的要素も多く、作品には作家が育った二十世紀前半のバルバドスの社会状況が反映しているようだ。今年は本書のほか、ジョゼフ・ベル『黒人小屋通り』、マーロン・ジェイムズの『七つの殺人に関する簡素な記憶』、そしてエドゥアール・グリッサンの『第四世紀』など新旧取り混ぜ、久しぶりにカリブ海の翻訳小説の当たり年だと言える。未体験の読者はこの機会に手にとり、カリブ世界を体感してみてはどうだろうか」とご紹介いただきました。

注目新刊:ユング『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』みすず書房、ほか

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『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』カール・グスタフ・ユング著、ソヌ・シャムダサーニ/ウィリアム・マガイアー編、横山博監訳、大塚紳一郎/河合麻衣子/小林泰斗訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判296頁、ISBN978-4-622-08843-1
『人種と歴史/人種と文化』クロード・レヴィ=ストロース著、ミシェル・イザール序文、渡辺公三/三保元/福田素子訳、みすず書房、2019年10月、本体3,600円、四六判上製152頁、ISBN 978-4-622-08850-9
『AI以後――変貌するテクノロジーの危機と希望』丸山俊一/NHK取材班編著、NHK出版新書、2019年10月、本体800円、新書判208頁、ISBN978-4-14-088603-8
『キリスト教の合理性』ジョン・ロック著、加藤節訳、岩波文庫、2019年10月、本体1,010円、文庫判400頁、ISBN978-4-00-340079-1
『柄谷行人浅田彰全対話』柄谷行人/浅田彰著、講談社文芸文庫、2019年10月、本体1,800円、A6判256頁、ISBN978-4-06-517527-9



★『分析心理学セミナー ――1925年、チューリッヒ』は『分析心理学セミナー1925――ユング心理学のはじまり』(河合俊雄監訳、猪股剛/小木曽由佳/宮澤淳滋/鹿野友章訳、創元社、2019年6月)と同じ原書(1989/2012年)の新訳。訳者あとがきによれば諸事情があったようで、非独占の形態で版権を取得され、創元社版との共存が果たされました。読者にとってみれば二書を読み比べる中で得るものがあるはずですし、歓迎したいと思います。個人的にはむしろこの二書を併せてご購読いただくことをお薦めしたいです。ここでは出版社の視点から、帯文を比べてみます。目次はそれぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。



創元社版:『赤の書』はこうして分析心理学になった! 心理学は、「人生を豊かにする」学問である――ユングが生き生きと語りだしたみずからの心理学の生成過程とは? 世界が待ち望んだユング心理学の新しい入門書。


みすず書房版:無意識との対決から超越機能へ。ユング自らが生き生きと語ったフロイト、『赤の書』、タイプ論。最良の手引きと呼ぶべき、ユング心理学誕生のドキュメンタリ。


★『赤の書』が創元社より、『ユング自伝』や『タイプ論』がみすず書房より、それぞれ刊行されており、二社にとって意義深い出版となっているのが分かります。ユングにはまだ未訳の著作が残っているので、「ユング・コレクション」の人文書院さんを含め、ぜひ各社さんのさらなるご尽力を期待したいと思います。


★『人種と歴史/人種と文化』は『Race et Histoire, Race et Culture』(Albin Michel / UNESCO, 2001)の全訳。『人種と歴史』は、原書がもともと「1952年、ユネスコの依頼で書かれた、人種差別の偏見とたたかう小冊子シリーズの一冊であり、キャンペーンの背景にはナチス・ドイツの人種理論の根絶という戦後の切迫した問題意識があった」(カバー表4紹介文より)と。既訳書としては、荒川幾男訳がみすず書房より1970年に刊行されています(2008年新装版を最後に品切)。今回の新訳は渡辺公三さんの遺稿であり、西成彦さんが校閲されたとのことです。『人種と文化』は既刊書『はるかなる視線(I)』(みすず書房、1986年)の第一章「人種と文化」を、訳者である三保さんの許諾のもとに再録したもの。編集部による巻末特記によれば「表記等を若干改めた箇所がある」そうです。荒川訳『人種と歴史』では巻末に、フランスの民族学者であり哲学者のジャン・プイヨン(Jean Pouillon, 1916-2002)による「クロード・レヴィ=ストロースの業績」が収められていましたが、今回の新訳では巻頭にフランスの人類学者であるミシェル・イザール(Michel Izard, 1931-2012)による「序文」が配されています。



★『AI以後』は帯文に曰く「世界の異能の知性が語る、人類とAIをめぐる最先端のビジョン」。今夏全5回でNHKEテレにて放送された「超AI入門特別編 世界の知性が語るパラダイム転換」の書籍化です。宇宙物理学者マックス・テグマーク、倫理学者ウェンデル・ウォラック、哲学者ダニエル・デネット、「WIRED」元編集長ケヴィン・ケリーへのインタヴューに、NHKのプロデューサー丸山俊一さんによる「終章」と「あとがきにかえて」を加えたもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。興味深い知見に満ちた一冊ですが、中でも印象的だったもののひとつがデネットの次の言葉でした。


★「AIが自律性を持てば、私たちに隠しごとをするようになるでしょう。自立したエージェントは他のエージェントに自分の考えていることを悟られないようにするからです。ですから意識を持った、独自の意識をもって会話することのできるAIをつくろうとするならば、「神が人間に言葉を与えたのは、互いの考えていることを隠すためである」という、かのタレーランの名言を思い出すべきです。この皮肉な言葉には深い示唆があります。意識を持ったAIが非常に率直で、誠実で、全く裏表のないものになることは期待できません。真の意識とは相反する性質だからです。そのため非常に気をつけなければなりません。/私たちは、同じ人間同士でさえ協力や善意を受けるのにずいぶんと苦労しています。そこに自律型エージェントというカテゴリーが加わったら、ますます面倒なことになります。人間より素早く考えることができ、人間との共通点もあまりないからです。それが、人間と同等、またはより賢い知的エージェントをつくることに非常に慎重であるべきだと私が考える主な理由です」(103~104頁)。


★『キリスト教の合理性』は『The Reasonableness of Christianity, as Delivered in the Scriptures』(原題:聖書に述べられたキリスト教の合理性)の新訳。既訳には『キリスト教の合理性・奇跡論』(服部知文訳、岬書房、1970年;改訂版、国文社、1980年)があります。「ロック晩年の重要作。〔…〕理神論への道を開いた、ヨーロッパの宗教思想史を語るうえで不可欠の書」と帯文に謳われています。巻末の訳者解説では「敬虔なキリスト教徒であったロックが、なぜ、晩年になって、キリスト教とは何かを問わなければならなかったか」に焦点があてられ、晩年のロックの思想が整理されています。岩波文庫での加藤さんによるロックの訳書は、2010年の『完訳 統治二論』と2018年の『寛容についての手紙』に続いて3点目となります。


★『柄谷行人浅田彰全対話』は、柄谷さんの『ダイアローグⅢ』(第三文明社、1987年)や『ダイアローグⅣ』(第三文明社、1991年)、浅田彰さんの『「歴史の終わり」を超えて』(小学館、1994年;中公文庫、1999年)に収録されたもののほか、単行本未収録の雑誌対談を加え、全6本を1冊にまとめたもの。お二人の他に鼎談者がいるような座談会は収録していません。巻末に、柄谷さんによる「浅田彰と私」という一文が添えられています。末尾に次のような印象的な言葉が刻まれています。「彼は私にとって最高のパートナーであった。漫才でいえば、私はボケで、彼はツッコミである。あらゆる面で助けられた。私が思いついた、いい加減な、あやふやでしかない考えが、彼の整理によって、見違えるようになったことも何度もある。また、アメリカでもフランスでも、彼の言語能力と当意即妙の判断力にどれだけ助けられたことだろう。/「批評空間」をやめて以後、私はまた、対談や座談会が苦手になった。その意味では、元の自分に戻ったといえるかもしれない」(243頁)。


★講談社文芸文庫での柄谷さんの「全対話」には、2011年の『柄谷行人中上健次全対話』、2013年の『柄谷行人蓮實重彦全対話』があり、講談社さんの単行本では2018年の『大江健三郎 柄谷行人 全対話――世界と日本と日本人』があります。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『現代思想からの動物論――戦争・主権・生政治』ディネシュ・J・ワディウェル著、井上太一訳、人文書院、2019年10月、本体3,500円、4-6判並製410頁、ISBN978-4-409-03105-6
『多田尋子小説集 体温』多田尋子著、書誌汽水域、2019年10月、本体1,800円、四六判上製224頁、ISBN978-4-9908899-2-0



★『現代思想からの動物論』は、オランダの出版社Brillのシリーズ「Critical Animal Studies」で2015年に刊行された『The War against Animals』の全訳。ワディウェル(Dinesh Joseph Wadiwel)はオーストラリアの人権・社会法学者で、今回の訳書が日本初訳となります。帯文に曰く「あらゆる権力支配の基盤に、人間による動物支配をみる力作。人文学の動物論的転回」。「生政治」「征服」「私的支配」「主権」の4部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「本書の中で筆者は、人間と人外の力関係を規定する合理性を組織的次元で捉え、この関係を形づくる支配の様態と率直に向き合うことを試みる。人間と動物の政治関係を筆者は慎重に見取り図の形で示すが、この記述は私たち人間がみずからをどう見たがるかを離れ、私たちが自身らの支配する動物たちからどう見られているかを想像しようと努める。畢竟、暴力はそれを行使する者の視点からではなく、その威力を被る者の主体性を通してのみ理解しうる。〔…本書の原題〕『動物たちとの戦争』は最低でも、人間動物関係を親切、自然、ないし互恵的とみる主流言説の中和剤となる」(「日本語版まえがき」、2頁)。「世界規模でみれば、私たちの主要な動物利用の形態は、根深い敵意、暴力、支配の様態を映し出している」(同、3頁)。



★「本書の狙いは、理論的角度から人間動物関係をめぐる私たちの理解を揺さぶり問うた上で、この関係を彩る暴力の認識と克服へ向けた枠組みを示すことにあった。筆者が試みたのは以下のこととなる。/一、人間動物関係を戦争という観点から捉える。〔…〕二、動物たちとの戦争を目立って生政治的色彩の濃いものと理解する。〔…〕三、対動物戦争が継続的な日々の征服行為を伴うと認識する。〔…〕四、動物に対する人間の主権を概念化し、動物の主権に向けて考察を始める」(終章「停戦」、357~359頁)。「多くの人々は人間が動物たちに振るう暴力の広がりを直視または論評せず、大勢が楽しむ伴侶動物らとの関係は、愛と互恵と無支配に彩られているとみえる。が、本書は違う見方を示す」(「日本語版まえがき」、2頁)。日本においても本書の議論は様々な反響を呼ぶのではないかと予想できます。


★『多田尋子小説集 体温』は、書誌汽水域さんによる書籍第3弾。作家の多田尋子(ただ・ひろこ:1932-)さんの小説3編を収めた「ままならない大人の恋を描いた恋愛小説集」(カバー紹介文より)。「体温」(「群像」1991年6月号)、「秘密」(「群像」1992年10月号)、「単身者たち」(「海燕」1988年11月号)を収録(ちなみに講談社より1992年に刊行された作品集『体温』では「やさしい男」「焚火」「オンドルのある家」「体温」が収録されています)。新たに付された「あとがき」には自著の久しぶりの復刊に驚きを隠せない著者の心情が綴られています。投げ込みで「あなたの温もり、あなたとの距離」という11頁の冊子があり、大塚真祐子さん(三省堂書店成城店)、八木寧子さん(湘南蔦屋書店)と、発行者で書店員の北田博充さんのお三方による、本書をめぐるエッセイ3編が掲載されています。また、同名のチラシ(二子玉川・蔦屋家電にて無料配布中)では、多田作品との併読をお薦めする恋愛小説8作品を北田さんが紹介されています。多田さんは54歳から63歳までの活動期間中、芥川賞に歴代最多となる6度ノミネートされています。それから約4半世紀、書店員さんの努力によって名編が甦ったことは特筆に値すると思います。


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月曜社2019年11月新刊:カール・ヤスパース『ニーチェ』佐藤真理人訳

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2019年11月15日取次搬入予定*人文/ドイツ近現代哲学


ニーチェーー彼の〈哲学すること〉の理解への導き
カール・ヤルパース[著] 佐藤真理人[訳]
月曜社 2019年11月 本体:8,400円 A5判上製840頁 ISBN: 978-4-86503-081-5 C1010


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


内容:後世における数々の誤解に抗し、うわべの姿を払拭してその哲学の内実を浮かび上がらせる、大著の半世紀ぶりの新訳。限界と根源とへと突き進んだ人間存在そのものの一つの運命がここにひもとかれる。ニーチェの引用をグロイター社の新ニーチェ全集と照合させた労作。(既訳:『ニーチェ』上下巻、草薙正夫訳、理想社版『ヤスパース選集』第18~19巻、1966~1967年)【シリーズ・古典転生、第20回配本、本巻19】


主要目次:第一版の序文|第二版と第三版の序文|序論|第一部 ニーチェの生|第二部 ニーチェの根本思想|第三部 実存の全体におけるニーチェの思惟様式|年譜|著作遺稿年表|書誌|訳者あとがき|索引(人名・事項)


原著:Nietzsche: Einführung in das Verständnis seines Philosophierens, De Gruyter, 3te Aufl., 1950 (1936).


カール・ヤスパース(Karl Jaspers, 1883-1969)ドイツの哲学者。精神病理学者として出発し、大きな業績を残す。心理学を経て哲学に転じ、広く深い哲学史的知識を下地として、キルケゴールとニーチェの強い影響の下に、『哲学』(全3巻、1932年)によって実存哲学を大成した。現在、スイス・シュヴァーベ社からヤスパース全集が刊行中である。


佐藤真理人(さとう・まりと、1948-)哲学研究者。早稲田大学名誉教授。主な研究分野は独仏実存哲学。近年の著訳書にミケル・デュフレンヌ/ポール・リクール『カール・ヤスパースと実存哲学』(月曜社、2013年)、『交域する哲学』(共著、月曜社、2018年)がある。


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注目新刊:ヴィリリオ/ロトランジェ『黄昏の夜明け』新評論、ほか

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『黄昏の夜明け――光速度社会の両義的現実と人類史の「今」』ポール・ヴィリリオ/シルヴェール・ロトランジェ著、土屋進訳、新評論、2019年10月、本体2,700円、四六判上製272頁、ISBN978-4-7948-1126-4
『道徳について――人間本性論3』ヒューム著、神野慧一郎/林誓雄訳、京都大学学術出版会、2019年10月、本体3,500円、四六上製320頁、ISBN978-4-8140-0244-3
『なぜ歴史を学ぶのか』リン・ハント著、長谷川貴彦訳、岩波書店、2019年10月、本体1,600円、B6判並製144頁、ISBN978-4-00-024179-3



★『黄昏の夜明け』は『Crepuscular Dawn』(Semiotext(e), 2002)の全訳。ロトランジェとの対話本の訳書は『純粋戦争』(細川周平訳、UPU、1987年;Pure War, Semiotext(e), 1983)以来のものですが、今回も息の合ったスリリングなやりとりで現代文明の病理を透視し、暗い予感へと読者をいざないます(字が似ていますが、「黄金の夜明け団」とは無関係)。ヴィリリオの警告してきた未来から私たちは今なお脱出できていません。『純粋戦争』の原書はその後、新版が98年と2008年に刊行され、もはや歴史の1頁になっていますが、個人的には『純粋戦争』は最新版を元に増補版が出るべきだと思っています。


★『道徳について』はシリーズ「近代社会思想コレクション」の第27弾で、ヒュームの主著『人間本性論』第3巻の新訳。底本は2007年刊のノートン版。セルビー・ビッグバンの頁数が本文下段の余白に記されています。訳者あとがきによれば、新訳の続刊は別の訳者によって進められているようです。なお今月は、法政大学出版局さんから既訳第3巻の普及版が発売されたばかりです。



★『なぜ歴史を学ぶのか』はアメリカの歴史家リン・ハント(Lynn Hunt, 1945-)による『History: Why It Matters』(Polity Press, 2018)の訳書。訳者あとがきによれば、ポリティの新シリーズ「Why It Matters」の第1回配本だそうで、ハーヴァード大のジル・レポー教授(Jill Lepore, 1966-;レポアとも)は本書を「E・H・カーの『歴史とは何か』の21世紀版である」と評しているとのこと。周知の通り『歴史とは何か』は1962年の訳書刊行以来、岩波新書のロングセラーとなっています。



★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『新しい思考』フランツ・ローゼンツヴァイク著、村岡晋一/田中直美編訳、法政大学出版局、2019年10月、本体4,800円、四六判上製520頁、ISBN978-4-588-01104-7
『現代思想2019年11月号 特集=反出生主義を考える――「生まれてこないほうが良かった」という思想』青土社、2019年10月、本体1,400円、ISBN978-4-7917-1388-2
『情動はこうしてつくられる――脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』リサ・フェルドマン・バレット著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2019年10月、本体3,200円、四六判上製620頁、ISBN978-4-314-01169-3
『聖者のレッスン――東京大学映画講義』四方田犬彦著、河出書房新社、2019年10月、本体4,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-25643-6
『北斎 視覚のマジック――小布施・北斎館名品集』北斎館編、平凡社、2019年10月、本体2,800円、A4判並製176頁、ISBN978-4-582-66218-4
『生き延びるためのアディクション――嵐の後を生きる「彼女たち」へのソーシャルワーク』大嶋栄子著、金剛出版、2019年10月、本体3,600円、A5判並製288頁、ISBN978-4-7724-1727-3
『治療共同体実践ガイド――トラウマティックな共同体から回復の共同体へ』藤岡淳子編著、金剛出版、2019年10月、本体3,400円、A5判並製264頁、ISBN978-4-7724-1722-8
『この社会で働くのはなぜ苦しいのか――現代の労働をめぐる社会学/精神分析』樫村愛子著、作品社、2019年10月、本体2,400円、四六判並製260頁、ISBN978-4-86182-776-1
『オランダの文豪が見た大正の日本』ルイ・クペールス著、國森由美子訳、作品社、2019年10月、本体2,600円、46判上製360頁、ISBN978-4-86182-769-3
『経済的理性の狂気――グローバル経済の行方を〈資本論〉で読み解く』デヴィッド・ハーヴェイ著、大屋定晴監訳、作品社、2019年9月、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86182-760-0
『全著作〈森繁久彌コレクション〉 第1巻 道――自伝』森繁久彌著、鹿島茂解説、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六判上製640頁、ISBN978-4-86578-244-8
『中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌(Ⅳ)はぐくむ――生命誌と子どもたち』中村桂子著、高村薫解説、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六変判上製296頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-245-5
『“フランスかぶれ”ニッポン』橘木俊詔著、藤原書店、2019年10月、本体2,800円、四六判上製336頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-246-2



★『新しい思考』は日本版独自編集の論文集。帯文に曰く「主著『救済の星』刊行後に執筆した主要なテキストを中心に収録」とのこと。共訳者の村岡晋一さんはこれまでも『救済の星』(共訳、みすず書房、2009年)をはじめ、『健康な悟性と病的な悟性』(作品社、2011年)、『ヘーゲルと国家』(共訳、作品社、2015年)など、ローゼンツヴァイクの訳書を手掛けてきた第一人者です。今回の論文集では、「『救済の星』について」「自由ユダヤ学舎と教育について」「翻訳について」「人について」の4部構成で、計20本のテクストが収録されています。


★『現代思想2019年11月号』は反出生主義をめぐる特集号。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。巻頭の森岡正博さんと戸谷洋志さんによる討議「生きることの意味を問う哲学」の最後の方で森岡さんは次のように発言されています。「ベネターはショーペンハウアーの子どもであり、ショーペンハウアーは古代インド、ウパニシャッドとブッダの子どもであるわけです」(19頁)。『生まれてこない方が良かった』(すずさわ書店、2017年)の著者であるベネター(David Benatar, 1966-)の論考「考え得るすべての害悪――反出生主義への更なる擁護」も小島和男さんによって訳出されています(40~83頁)。


★『情動はこうしてつくられる』は、英語圏でベストセラーとなった『How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain』(Houghton Mifflin Harcourt, 2017)の全訳。著者のバレット(Lisa Feldman Barrett, 1963-)はノースイースタン大学心理学部教授。彼女独自の構成主義的情動理論(theory of constructed emotion)が説明されている本書は「身体疾患や精神疾患の治療、人間関係、子育て、そして究極的には人間の本性についての社会的通念の大幅な見直しを求める」(15頁)もの。訳者あとがきによれば、彼女の研究成果はFBIでも活用されているとのことです。





★『聖者のレッスン』は、東京大学文学部宗教学科において2016年度後期に全13回にわたり行われた講義「聖者の表象」をもとに全体を「濃縮」(後書き、343頁)した一冊。カトリックの聖人や東アジアの宗教的指導者、絶滅収容所などの映画的表象を取り上げ、自由で不安な戒律なき時代を生きるヒントを探っておられます。これが「最終講義」だと四方田さんは後書きで述懐されています。


★『北斎 視覚のマジック』は、同名の展覧会(すみだ北斎美術館、2019年11月19日~2020年1月19日)での展示作を中心として編集されたもので、同展図録であり、北斎館の公式図録でもあるとのこと。祭屋台天井絵、肉筆画、摺物、錦絵、版本などの画業を網羅した約150点がオールカラーで収録されています。凡庸な言い方で恐縮ですが、何度見てもやはり圧倒されます。


★金剛出版さんの10月新刊より2点。『生き延びるためのアディクション』は「女性依存症者に共通する四つの嗜癖行動パターンと三つの回復過程モデル」(版元紹介文より)を手がかりにした、「暴力・貧困・スティグマに絡めとられた“彼女たち”の生活を取り戻すための援助論」(帯文より)。著者の大嶋栄子(おおしま・えいこ:1958-)さんはNPO法人リカバリーの代表。『治療共同体実践ガイド』は「長きにわたる治療共同体の歴史・理念を跡づける理論的考察から、〔…〕精神科医療・司法領域・福祉領域の実践レポート、さらに治療共同体をサポートしてきた支援者たちによる回復の物語の記録まで、これまで十分には語られてこなかった治療共同体の方法論と新たな応用可能性を探る」もの(カバーソデ紹介文より)。編著者の藤岡淳子(ふじおか・じゅんこ)さんは大阪大学大学院人間科学研究科教授で一般社団法人もふもふネットの代表です。


★作品社さんの9~10月新刊より3点。『経済的理性の狂気』は『Marx, Capital and the Madness of Economic Reason』(Profile Books, 2017)の全訳。「グローバル資本主義が嘆かわしい状態にあって、理解しづらい軌道をたどっていることを考えると、マルクスが何とかして解明せんとしたものを再検討することは時宜にかなっているように思われる」(11頁)。「マルクスの資本の概念とその運動法則とされるものとを、どのように理解すべきなのか。理解できるとすれば、われわれは現状の窮地をどのように把握できるのか。これらが本書で検討する課題である」(15頁)。『オランダの文豪が見た大正の日本』はオランダの作家クペールス(Louis Couperus, 1863-1923)の紀行文『Nippon』(1925年)の訳書。1922年(大正11年)の春から夏にかけて5か月間、長崎、神戸、京都、箱根、東京、日光を旅行した記録で、ノスタルジックな写真70点も収録されています。箱根では富士屋ホテルに宿泊。『この社会で働くのはなぜ苦しいのか』は2010年から2017年にかけて『現代思想』誌などに寄稿してきた論考に書き落ろしを加えた一冊。単独著としては『臨床社会学ならこう考える――生き延びるための理論と実践』(青土社、2009年)以来の久しぶりのものです。


★藤原書店さんの10月新刊は3点。『道――自伝』は『全著作〈森繁久彌コレクション〉』全5巻の第1回配本となる第1巻。「道」の字はカバー表1の「自伝」の上に大きく空押し加工されています。自伝においては満州でソ連兵と対峙する場面など、読んでいる方も生きた心地がしませんが、歴史の一証言として読む価値があります。付属の「月報1」では、草笛光子、山藤章二、加藤登紀子、西郷輝彦の各氏の談話と寄稿が読めます。草笛さんはこうした著作集がなぜ今までなかったのか、とご立腹のご様子。『はぐくむ』は「中村桂子コレクション」全8巻の第3回配本。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。付属の「月報3」には米本昌平、樺山紘一、玄侑宗久、上田美佐子の各氏が寄稿。『“フランスかぶれ”ニッポン』は京都大学名誉教授で経済学者の橘木俊詔(たちばなき・としあき:1943-)さんによるフランス論であり、フランス文化が近現代日本に与えたインパクトを分析する一書。


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月曜社2019年11月末発売予定:『KIMI SAKAKI twinkle』

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2019年11月29日取次搬入予定:芸術/画集


KIMI SAKAKI twinkle
榊貴美[画]
月曜社 2019年11月 本体価格2,000円

B5判[天地259㎜×左右182㎜ 背幅8㎜]並製96頁(4C=80頁/作品点数58)
ISBN:978-4-86503-089-1 C0071


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


榊貴美、待望の初作品集。私たちの不確かさを映しだす鏡のこどもたち。「榊貴美は、もはや絵画の古いステージに戻ることはできない。彼女は、ファントムの世界から、鏡の中の世界へと移行することに気づいてしまった者なのだから」(後藤繁雄:京都造形芸術大学教授)。テキスト:永方佑樹/立島惠/後藤繁雄。デザイン:中島浩


榊貴美(さかき・たかみ)1983年、和歌山県生まれ。2010年、東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。2012年、東京造形大学大学院造形研究科造形専攻美術研究領域修了。大学在学中より、個展、グループ展を各所で開く。


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月曜社2019年12月新刊:『森山大道写真集成(4)写真よさようなら』

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芸術/写真集:2019年12月5日取次搬入予定


森山大道写真集成④ 【第4回配本】
写真よさようなら
森山大道[写真]

月曜社 2019年12月 本体7,500円
A4判変型[天地302mm×左右222mm 背幅33㎜ 重量1.7㎏]上製角背328頁
ISBN:978-4-86503-087-7 C0072


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


伝説的名作の復活(初版1972年写真評論社、2006年パワーショベル、2012年講談社)。中平卓馬との対談全文掲載。「あのころのぼくは、写真に対する過剰な想念の海で溺れる寸前だった。そして、やっとの思いで泳ぎ着いた彼岸が、この写真集だった。写真というものを、果ての果てまで連れて行って無化したかった」(森山大道)。デザイン:町口覚


シリーズ「森山大道写真集成」の特徴……写真家本人が参加する新たなディレクションのもと、初期の名作を初版当時の画像サイズのまま再現し、高精細印刷で新生させる決定版シリーズ。写真家自身による当時の回想、撮影にまつわるエピソード、撮影場所など、掲載全作品についての貴重なコメントを付して、資料的な側面も充実。既刊:①にっぽん劇場写真帖、②狩人、③光と影。続刊:⑤未刊行作品集(1964~1976年撮影、2020年夏配本予定)。


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重版情報:3刷出来、森山大道『犬と網タイツ』月曜社

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森山大道写真集『犬と網タイツ』(月曜社、2015年10月)の3刷が10月10日にできあがりました。
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本日取次搬入:ブージェドラ『ジブラルタルの征服』

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「叢書・エクリチュールの冒険」の第14回配本となる、アルジェリアの作家ラシード・ブージェドラ(Rachid Boudjedra, 1941-)による実験的小説『ジブラルタルの征服』下境真由美訳、を本日より取次搬入開始いたしました。見た目のシンプルさを追求し、帯はつけていません。フランス語やアラビア語、ベルベル語、スペイン語、英語、ラテン語、そして数式なども出てくるため、横組にしています。日本語はそもそも横組にむいている文字ではありませんから、いかに美しく組むか、試行錯誤にかなり時間を要しました。書店さんの店頭にてご確認いただけたら幸いです。どの書店さんでご覧いただけるかについては、地域をご指定いただければ、扱い店舗をお知らせいたします。


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注目新刊:ちくま学芸文庫2019年11月新刊5点、ほか

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★まもなく発売(11月7日)となるちくま学芸文庫の11月新刊5点を列記します。


『法の原理――自然法と政治的な法の原理』トマス・ホッブズ著、高野清弘訳、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09952-5
『ドゥルーズ――解けない問いを生きる【増補新版】』檜垣立哉著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09958-7
『釈尊の生涯』高楠順次郎著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09955-6
『日本の神話』筑紫申真著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-09957-0
『河童の日本史』中村禎理著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09959-4


★『法の原理』は、2016年に行路社より刊行された単行本の文庫化。1889年のテニエス版からの翻訳。訳者の高野清弘(たかの・きよひろ:1947-2017)さんは一昨年逝去されており、文庫化にあたって巻末解説は成蹊大学名誉教授の加藤節さんが「高野清弘氏のホッブズ研究に寄せて」と題した一文を寄せておられます。加藤さんが数々のジョン・ロックの訳書を上梓されてきたことは周知の通り。解説では戦後日本におけるホッブズ研究の変遷に触れておられます。ちくま学芸文庫でホッブズの訳書が刊行されるのは今回が初めて。


★親本が刊行された同じ年に岩波文庫より田中浩/重森臣広/新井明訳『法の原理――人間の本性と政治体』も出版されているものの、現在品切。アマゾンのマケプレなどで新本が高値になっていますが、どうしても急ぎで岩波文庫版が欲しいという方はhontoでの同書の店舗検索結果をご覧ください。複数の文教堂に在庫がまだあることになっています。岩波文庫や岩波現代文庫は実際、文教堂に在庫が残っていることがままあり、穴場です。



★『ドゥルーズ【増補新版】』は、日本放送出版協会(現:NHK出版)のシリーズ「哲学のエッセンス」を第一部とし、文庫化にあたって第二部を新たに書き下ろしたもの。親本は今も電子書籍が購入できるので、追加された第二部の方の主要目次を以下に列記しておきます。Ⅰ「マイノリティとテクノロジー」、Ⅱ「自然について――『千のプラトー』」、Ⅲ「マイナーサイエンス/マイナーテクノロジー」、Ⅳ「金属と治金術師」、Ⅴ「徒党集団――マイノリティの存在様態」、Ⅵ「マイノリティと政治」、結論「生命の政治倫理学へ」。巻末の文庫版あとがきにはこう書かれています。「やはり私には、ドゥルーズのポジティヴィストとしてのありようを強調し、そこで生命の新しさを希求するひととして描きだすことこそが重要におもえたのである。この主題がテクノロジーやマイノリティに連関することはいうまでもない。あくまでもポジティヴであることは、新しさを生み出す仕組みとしてのテクノロジーと、それ自身としての新しさの萌芽であるともいえるマイノリティにおいて、一層輝きを放つものでもあるからだ」(263頁)。檜垣立哉(ひがき・たつや:1964-)さんによる本書以外のドゥルーズ論には『ドゥルーズ入門』(ちくま新書、2009年)や、『瞬間と永遠――ジル・ドゥルーズの時間論』(岩波書店、2010年)があります。


★『釈尊の生涯』は大雄閣より1936年に刊行された単行本の文庫化。かつては教育新潮社版『高楠順次郎全集』第5巻(1979年)に収録されたこともあります。文庫化にあたり、巻末には武蔵野大学教授で仏教学がご専門の石上和敬さんによる文庫版解説「高楠順次郎の生涯及び本書の企図」が加えられています。石上さんは本書の特徴を2点挙げておられます。「人間釈尊の姿を描き出すことに注力し」「神々の登場や神通力のような超人的能力の描写を極力そぎ落としていること」、そして「一般読者への教化という側面を重視し」「重要エピソードごとに、インドの仏教彫刻の写真や当時の仏教画家たちの挿画をふんだんに掲載し」たり、「釈尊の教説の要諦などを列挙している」と。高楠順次郎(たかくす・じゅんじろう:1866-1945)さんは仏教学者。近年では『仏教の根本思想』(1931年)と『仏教の真髄(抄録)』(1940年)を一冊にまとめた『インド思想から仏教へ――仏教の根本思想とその真髄』が書肆心水から2017年に刊行されています。


★『日本の神話』は河出書房新社より1964年に刊行された単行本の文庫化。文庫版解説「海から来る神に日本神話の原像を見る試み」は、北海道大学教授で日本古典文化論を講じておられる金沢英之さんがお書きになっています。「本書は内容的にも前著『アマテラスの誕生』で示された方法と結論を受けつぎ、展開したものとなっている」と解説されています。筑紫申真(つくし・のぶざね:1920-1973)さんは、在野の民俗学者。主著の『アマテラスの誕生』(角川新書、1962年;秀英出版、1971年;講談社学術文庫、2002年)はロングセラーとして知られています。


★『河童の日本史』は、1996年に日本エディタースクール出版部より刊行された単行本の文庫化。巻末に小松和彦さんによる「文庫解説」が付されています。曰く「本書は、近世の関連文献を広く渉猟し、今日の河童のイメージがいかにして形成されたかを徹底的に考察した労作で、「日本史」と題されているが、正確には「近世における河童イメージの形成・変遷史」というべき内容となっている。20年以上も前の作品でありながら、現在でもまったく新鮮さを失っていない」と。中村禎理(なかむら・ていり:1932-2014)さんは生物史家。ご専門は科学史、民俗生物学で、ちくま学芸文庫では2013年に『生物学の歴史』が刊行されています。


★このほか最近では以下の新刊に注目しています。


『全品現代語訳 大日経・金剛頂経』大角修訳・解説、角川ソフィア文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400481-1
『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン著、藤田真利子訳、草思社文庫、2019年10月、本体1,200円、文庫判408頁、ISBN978-4-7942-2417-0
『とはずがたり』後深草院二条著、佐々木和歌子訳、光文社古典新訳文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判488頁、ISBN978-4-334-75411-2
『龍蜂集』泉鏡花著、澁澤龍彦編、山尾悠子解説、小村雪岱装釘装画、国書刊行会、2019年10月、本体8,800円、菊判上製函入504頁、ISBN978-4-336-06545-2
『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』松本完治訳、山下陽子挿画、エディション・イレーヌ、2019年5月、本体3,250円、A5変形判函入384頁(挿画4点)、ISBN978-4-9909157-5-9



★『全品現代語訳 大日経・金剛頂経』は、2018年3月刊『全品現代語訳 法華経』、2018年10月刊『全文現代語訳 浄土三部経』に続く、大角修(おおかど・おさむ:1949-)さんによる現代語訳仏典第3弾。第一部は善無畏訳「大毘盧遮那成仏神変加持経」を「大正新脩大蔵経テキストデータベース」の漢文より読み下し、現代語訳に改めたもの。第二部は不空訳「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経」を同データベース漢文より読み下して現代語訳。「ただし、意味のとりにくい箇所はチベット版、サンスクリット版により適宜、語句を補足した」と特記されています。語注、図版、コラム多数。巻末には伝法や仏事、印契等を説く「密教の小事典」も付いています。「真言密教の根本経典全品を、一冊で読む・知る・学ぶ」と帯文に謳われています。


★『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』は2004年刊単行本の文庫化。原書は『The Last Alchemist: Count Cagliostro, Master of Magic in the Age of Reason』(Harper, 2003)です。主要目次は以下の通り。プロローグ「バルサモの家」、1「フリーメイソン」、2「降霊術師」、3「シャーマン」、4「コプト」、5「預言者」、6「回春剤」、7「異端」、エピローグ「不死」。新たに「文庫版あとがき」が追加されています。著者のマカルマン(Iain McCalman, 1947-)はオーストラリアの歴史家で、シドニー大学歴史学特任教授。カリオストロ伯爵の紹介書では、種村季弘さんのロングセラー『山師カリオストロの大冒険』(中央公論社、1978年;中公文庫、1985年;河出文庫、1998年;岩波現代文庫、2003年)が有名です。


★『とはずがたり』佐々木和歌子さん訳は、文庫では次田香澄さんによる全訳注本(上下巻、講談社学術文庫、1987年)や、瀬戸内晴美さんによる現代語訳(新潮文庫、1988年)以来となる新訳かと思います。帯文に曰く「14歳で後宮へ、院の寵愛、貴族との情事、そして出家……。宮廷のアイドルの「死ぬばかりに悲しき」物語」と。「スピード感を損なわないように〔…〕歯切れよく訳したつもり」という今回の現代語訳は、瑞々しい文体で活きいきと物語を蘇らせています。なお、いがらしゆみこさんによる漫画版が中公文庫の「マンガ日本の古典」シリーズの一冊(2000年)として現在も入手可能です。


★『龍蜂集』は国書刊行会さんによる鏡花没後80年記念出版である「澁澤龍彦 泉鏡花セレクション」全4巻の第1回配本(第Ⅰ巻)。版元さんのウェブサイト上で公開されている内容見本PDFによれば、「澁澤龍彦の生前、1970年代前半に企画されながらも、惜しくも実現を見ずに終った幻の選集が、半世紀の歳月を経てついに刊行。/我が国における最高最大の幻想作家・泉鏡花の膨大多彩な作品群から、澁澤龍彦ならではの鑑識眼が選び抜いた、小説・戯曲約50篇を4巻で構成。/各巻の解説は、鏡花作品をこよなく愛し、2018年には泉鏡花文学賞を受賞した山尾悠子が担当。各巻に、解説者が特に選んだ一作品も増補追加する。/各巻の装釘は、名匠・小村雪岱の鏡花本4冊をあたうかぎり再現した。表紙や本扉はもちろんのこと、見返しも雪岱描き下ろしの絵を用いた、美麗な豪華愛蔵版」。菊判上製貼函入本の圧倒的存在感は、出版不況を吹き飛ばすかのような威容です。小村雪岱の装釘と装画を最大限に活かした造本設計は柳川貴代さんによるもの。


★第Ⅰ巻『龍蜂集(りゅうほうしゅう)』では「春昼」「山吹」「酸漿」「蛇くひ」など、全21篇を収録。詳細は書名のリンク先か先述の内容見本をご覧ください。新字体旧仮名遣い総ルビは、これがもし活版印刷だったならとつい妄想してしまいますが、そればかりは高望みが過ぎるでしょうか。付属の月報1には、作家の谷崎由依さんによる「胚胎されるもののかたち」と、日本文学研究者の田中励儀さんによる「澁澤・三島・鏡花・柳田」が掲載されています。続刊予定は2020年1月に第Ⅱ巻『銀燭集(ぎんしょくしゅう)』です。3か月ごとの配本予定で、第Ⅲ巻『新柳集(しんりゅうしゅう)』、第Ⅳ巻『雨談集(うだんしゅう)』と続きます。


★美麗な造本と言えば、今春刊行された既刊書ではありますが、京都の出版社エディション・イレーヌさんの函入本『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』に言及しておきたいです。真っ白い縦長の函に真っ白い帯、書籍本体は表紙が山下陽子さんによる黒を基調としたモノクロ作品をあしらい、銀箔の欧文表記が施されています。白と黒の対比が実に美しい一冊です。『叫び』1953年、『裂け目』1955年、『猛禽』1960年、『白い方形』1965年、の4つの詩集に収められた全323編から半数強となる172篇を精選して訳出したもの。巻末に訳者解説「死と愛とエロスの深淵に――ジョイス・マンスールの人と生涯」を配し、解説の前後には12頁にわたる著者の写真が収められています。


★この本の特装本限定30部が、2019年12月上旬刊行予定だと聞いています。造本設計は普及版と同じく佐野裕哉さんによるもので、訳者画家署名・記番入、予定価格5万円程度とのことです。仕様は、染め布クロス装函(本繻子の布[タンタンピース]使用)+箔押し、版画一葉入(イタリア製[ファブリアーノ・ロサスピーナ]紙使用)フォリオケース入、等と聞いています。詳細は版元名のリンク先(新刊書籍案内での本書紹介の最下段)をご覧ください。


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注目新刊:ストーン『野蛮のハーモニー』、バトラー『分かれ道』

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弊社が平素お世話になっている著訳者の皆様の最新刊をご紹介いたします。


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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
イギリスの歴史学者ダン・ストーン(Dan Stone, 1971-)による論文8本を独自に編んだ日本語版オリジナル論文集の編訳『野蛮のハーモニー』を担当されました。みすず書房さんの今月の新刊です。なおストーンの訳書は『ホロコースト・スタディーズ――最新研究への手引き』(武井彩佳訳、白水社、2012年11月)に続く2点目となります。



野蛮のハーモニー ――ホロコースト史学論集
ダン・ストーン著 上村忠男編訳
みすず書房 2019年11月 本体5,600円 四六判上製296頁 ISBN978-4-622-08855-4
帯文より:「ここではなにもかもが可能である。これは野蛮のハーモニーである」。歴史の核心にある暗くて不透明なものをいかに語るか。方法論と思想史の最前線。


目次:
日本語版への序言  ダン・ストーン
第一章「アウシュヴィッツ・シンドローム」を超えて――冷戦後のホロコースト史学
第二章 ホロコーストと「人間」
第三章 物語理論とホロコースト史学
第四章 ホロコースト史学と文化史
第五章 ダン・ストーン編『ホロコーストと歴史の方法論』序論
第六章 過去を破門する?――ホロコースト史学における物語論と合理的構築主義
第七章 ゾンダーコマンドの撮った写真
第八章 野蛮のハーモニー――「アウシュヴィッツの巻物」をホロコースト史学のなかに位置づける
編訳者あとがき

★ジュディス・バトラーさん(著書:『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
2012年にコロンビア大学出版から上梓された『Parting Ways: Jewishness and the critique of Zionism』の訳書が先月発売となりました。


分かれ道――ユダヤ性とシオニズム批判
ジュディス・バトラー著 大橋洋一/岸まどか訳
青土社 2019年10月 本体3,800円 46判上製488+viii頁 ISBN978-4-7917-7079-3
帯文より:もうひとつの可能性をさぐる。ユダヤ人であることと、シオニズムを批判することは両立しえないのか。ユダヤ性とは何かを徹底的に主題化しつつ、パレスチナ・イスラエル問題の核心にせまる。レヴィナス、ベンヤミン、アーレント、サイードの思想を読みとき、現代を代表する思想家が、いま私たちのとるべき道を模索する。


目次:
はじめに――自己からの離脱、エグザイル、そしてシオニズム批判
第1章 不可能で必要な責務――サイード、レヴィナス、そして倫理的要請
第2章 殺すことができない――レヴィナス対レヴィナス
第3章 ヴァルター・ベンヤミンと暴力批判論
第4章 閃いているもの――ベンヤミンのメシア的政治
第5章 ユダヤ教はシオニズムか――あるいはアーレントと国民国家批判
第6章 複数的なるものの苦境――アーレントにおける共生と主権
第7章 現在のためのプリーモ・レーヴィ
第8章 「エグザイルなくして、私たちはどうしたらよいだろう」――サイードとダルウィーシュが未来に語りかける
原注
略号一覧
謝辞
訳者解説(岸まどか)
訳者あとがき(大橋洋一)
索引


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注目新刊:築地正明『わたしたちがこの世界を信じる理由』河出書房新社、ほか

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『わたしたちがこの世界を信じる理由――『シネマ』からのドゥルーズ入門』築地正明著、河出書房新社、2019年11月、本体2,700円、46判上製256頁、ISBN978-4-309-24936-0
『柳田國男全自序集Ⅰ』柳田國男著、中公クラシックス、2019年11月、本体1,800円、新書判272頁、ISBN978-4-12-160184-1
『柳田國男全自序集Ⅱ』柳田國男著、中公クラシックス、2019年11月、本体1,800円、新書判272頁、ISBN978-4-12-160185-8
『窓展――窓をめぐるアートと建築の旅』東京国立近代美術館編、平凡社、2019年11月、本体2,500円、B5判並製206頁、ISBN978-4-582-20718-7



★『わたしたちがこの世界を信じる理由』はまもなく発売(14日予定)。築地正明(つきじ・まさあき:1981-)さんの初めての単独著です。宇野邦一さんは推薦文で「映画論をはるかに超えて『シネマ』の深さを探索する読みにうたれた」と評価されています。目次は以下の通り。



第一章 仮構作用と生
 一 巨人の製造
 二 ヒトラーと神話
 三 「仮構作用」のマイナーな使用法を発明すること
第二章 映画と二十世紀の戦争
 一 大戦という断絶
 二 断絶の内側で
 三 「記憶」概念の変容
 四 異常な運動
第三章 記憶と忘却、そして偽の力
 一 記憶と仮構
 二 言葉、偽の力と記憶
 三 有機的な体制と結晶的な体制
 四 「偽の力」の理論へ
第四章 真理批判――裁きと決別するために
 一 真正な語りと「判断の体系」
 二 ニーチェ主義――「裁きの体制」との戦い
 三 善悪の判断から、良いと悪いの評価へ
 四 超越的な裁きから内在的な正義へ
第五章 自由間接話法と物語行為
 一 新たな物語の構築へ向けて
 二 現実と虚構の対立を乗り越えるために
 三 現代映画の使命
第六章 民が欠けている
 一 何をもって「マイナー」と呼ぶか
 二 民が欠けているとは
 三 語る行為による抵抗
第七章 言葉とイマージュの考古学
 一 言語と非言語の境
 二 イマージュと言葉
 三 考古学
 四 抵抗――出来事を創造すること
第八章 精神の自動人形のゆくえ
 一 映画の自動運動
 二 精神の自動人形の二つの極み
 三 この世界を信じること
結論 この世界を信じる理由――ユーモアと生成

あとがき


★「序」の冒頭より引きます。「二十世紀後半を代表する哲学者のひとり、ジル・ドゥルーズ(1925-1995)は、もうひとりのフランスの哲学者アンリ・ベルクソンの主著、『物質と記憶』(1896年)に依拠して、『シネマ1』(1983年)と『シネマ2』(1985年)を書いた。タイトルが示すとおり、「映画」についての研究書である。しかしそれらは、極めて多彩な要素から成り立っており、「映画」という一ジャンルに関する考察と呼ぶには、あまりにも広範なテーマと問題群を扱っている。しかも驚くべきことに、『シネマ』において「映画」は、ほとんど「世界」の別名であるかのように、そして「映画」を論じることは、そのままこの「世界」について論じることでもあるかのように、論述が展開されているのである。とはいえ、ドゥルーズは「映画」と「世界」を同一視しようとしているわけでも、両者を単純に関連づけようとしているわけでもない。ドゥルーズはむしろ、両者の変更関係を、互いへの還元不可能性を強調する。そして映画の意義は、「イマージュ」を通じて、この「世界」を信じる理由を生み出すこと、創造することにあると述べることになるだろう。しかしそれには、もはや人々がこの世界を信じていない、という事態が前提となるはずである。すると、なぜそうなってしまったのかが、併せて問われなければならないだろう。この世界を信じるとは、そもそも何を意味し、どのような問題を孕んでいるのか。これらすべての問いは、二十世紀の映画史と世界史が交差しながら進展していく過程と、実は密接に関連している。ドゥルーズは、映画における古典時代を、主に第二次世界大戦よりも前に位置づけ、他方で大戦後の映画のあるものを、「現代映画」として規定している。そして両者のあいだには、深い亀裂が走っていると考えるのである」(7~8頁)。


★「戦争を境に、何かが決定的に変わってしまったのだとドゥルーズは見ていた。後でまた触れるが、ドゥルーズは『シネマ』全編を通じて、具体的な作品の比較考察によって、その〈何か〉を繰り返し描写している。/その一つに、それまで映画の主題として扱われることの非常に少なかった、「マイノリティ」の存在が、戦後になって次第に可視化されていったことが挙げられる」(9頁)。「注意すべきなのは、「マイノリティ」が、新たなファシストへと生成する危険を、常に伴った存在だという点である。〔…〕ドゥルーズによれば、革命家とテロリストとの、解放者とファシストとの見分けがつかなくさせる識別不可能性のグレー・ゾーンというものがあるのだ。おそらく「現代映画」の重要な意義のひとつは、そうしたことを身をもって証明してみせた点にある(ゴダール、ローシャ)。〔…〕ドゥルーズの読者は、彼のテクストを前にする時、この両義性のうちに身を置き、絶えずそのあいだを縫って進まなければならない」(10頁)。


★昨夏、福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さんが上梓したデビュー作『眼がスクリーンになるとき――ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』』(フィルムアート社、2018年7月)がやはり『シネマ』の鋭利な読解で話題を呼んだことは記憶に新しいです。今年もまた『シネマ』を契機にした新鋭のデビュー作が登場したことになります。なお、9月末に発売となった平倉圭(ひらくら・けい:1977-)さんの第2作『かたちは思考する――芸術制作の分析』(東京大学出版会、2019年9月)の第8章「普遍的生成変化の〈大地〉――ジル・ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』」でも『シネマ』が扱われていることは周知の通りです。


★『柳田國男全自序集』全2巻は、明治35年の『最新産業組合通解』から昭和36年の『海上の道』までの序文、附記、解題、などをまとめた、オリジナル編集版。「著作活動60年、著書101冊/全業績を一望する自著解題」と帯文に謳われています。第Ⅰ巻巻頭の解説「柳田國男による柳田國男」は佐藤健二さんによるもの。「解説を書くために、あらためて柳田國男の自序を読んだ。そのいくつもが、ねたましいほどにうまい」(9頁)と佐藤さんは冒頭でお書きになっています。「序の文でありながら、それ自体がひとつの作品となって、主題の曲折を、叙情ゆたかに描き出している。構え組み立ての格調は高く、落ちついた声で低く語られる案外の一節が、世の風潮や無自覚への切れ味のよい論評としてひびく。なかなか、こういう序を書ける学者はいない」(同頁)。


★『窓展』は同名の展覧会(東京国立近代美術館、2019年11月1日~2020年2月2日;丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2020年7月11日~9月27日)の巡回展公式カタログ。同展はその名の通り、「マティスやクレーの絵画から現代美術まで、窓に関わる多様な美術作品を一堂に集め」たもの(主催者の「ご挨拶」より)。「また建築家の貴重なドローイングも展示し、ジャンルを横断して広がる窓の世界をご紹介します。東京国立近代美術館の前庭には建築家、藤本壮介の大型コンセプト・モデル〔「窓に住む家/窓のない家」〕も出現します」(同)。カタログは英文表記。一見、ごく平凡な主題のようにも思えますが、写真、油彩、水彩、版画、ドローイング、シルクスクリーン、ミクストメディア、動画、インスタレーション、等々、多彩な作品群には飽きることがありません。一冊の本として密度と美を備えつつまとまっていることにも魅了されました。巻頭に古代から現代に至るまでの「窓と建築の年表」、巻末には2篇の論考、蔵屋美香さんの「窓からの眺め、リミックス」と、五十嵐太郎さんの「ピクチャー=ウィンドウ論――絵画とは窓である」が掲載されています。



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