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ブックツリー「哲学読書室」に岡嶋隆佑さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、ハーマン『四方対象』(人文書院、2017年9月)の監訳者・岡嶋隆佑さんによる選書リスト「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」

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メモ(28)

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「文化通信」2017年10月9日付1面トップ記事は「取次へのバックオーダー終了で直取引開始は少数」という非常に興味深い内容だったのですが、なぜか同通信ウェブサイトのトップページの総合欄では見出しが載っていません。12日付「アマゾンジャパン、Kindle最上位機種発表」は無料で全文を読める記事になっていますが、出版業界にとってより重要なのはKindleよりも直取引問題ではないかと思われ、未掲載の理由がよく分かりません。8月17日付有料記事「版元ドットコム アマゾン「バックオーダー終了」で調査 直取引が41%余に増加」との関係から言っても、今回の10月9日付記事は重要です。


「取次へのバックオーダー終了で直取引開始は少数」は1面と8面に掲載されており、アマゾンジャパンにおける年間売上上位100社に対して文化通信社が行なったアンケートの結果(36社から回答あり)が集計されています。同記事は「出版社の規模が大きくなると直接取引を行う割合が低くなっているようだ」と分析しており、先般の版元ドットコムさんのアンケート結果も含めて、おおよそ予想通りの内容とはなっています。つまり、売上上位100社の本は当然ながら一般のリアル書店でも売れており、アマゾンだけを特別に優遇する理由はないのですが、小零細版元の場合、リアル書店での扱いが少ないですから、相対的にアマゾンの売上比率が高くなり、否応なく直取引に乗り出さざるをえないわけです。


興味深いのは8面にある、直取引しない理由の数々でした。いずれも首肯できる内容で、アマゾンさんは版元からこう見られているんだということをもっと細やかに分析して対応を考えるべきなのではないかと思う理由ばかりです。こうした記事こそ文化通信さんには無料記事で公開していただきたいなあと切実に感じます。そうすればもっと公的に議論する材料が増えます。いま業界に必要なのは、腹蔵なく「リアルな話」を交わすことであり、できることとできないことをしっかりと腑分けして、できることの可能性を伸ばしつつ、できないことをどう乗り越えるか、ということだと思います。


「日本経済新聞」2017年10月6日付有料記事「大廃業時代の足音 中小「後継未定」127万社」に書かれてある状況は、出版界でも変わりません。曰く「中小企業の廃業が増えている。後継者難から会社をたたむケースが多く、廃業する会社のおよそ5割が経常黒字という異様な状況だ。2025年に6割以上の経営者が70歳を超えるが、経済産業省の分析では現状で中小127万社で後継者不在の状態にある。優良技術の伝承へ事業承継を急がないと、日本の産業基盤は劣化する。「大廃業時代」を防ぐ手立てはあるか」と(以下、無料登録で全文読めます)。


私の住む街の地元商店街では今年2店舗の新刊書店が廃業しましたが、いずれも原因は高齢による事業継続の困難さでした。あまり明るみになってはいませんが、高齢化の波は出版社にも押し寄せていて、後継者がおらず遠からず廃業せざるをえないだろう版元もそこかしこに存在しています。継続的に出版活動している約2000社のうち、7割が従業員10名以下の小規模会社だとも聞きます。我が身を振り返っても見て言えるのは、つまり、おおよそ半数以上の版元が10~20年以内に激減する危険があると予想してもけっして大げさではない、ということです。こうした緩慢な死滅を逃れるためには、出版界を挙げて議論し対応していくのが理想ではありますが、この業界はその多様性ゆえに、利害が一致するのはせいぜい債権者集会の出席率くらいで、誰もが納得しうる条件下での団結は非常に困難であるように思えます。文化の一端を担う社会的な役割があるにもかかわらず、営利を目的とした私企業の雑多な集団であるために、情報公開して公的に議論することすら難しいのです。


それでも全体として必要なのは、若い世代が出版社や書店を開業したり事業承継しうる余地を常に作り続けることではなかろうかと感じます。取次さんが書店さんを傘下に収めるのにも限界があり、出版社がリストラを続けるのにも限界があります。出版社が廃業する場合、つらいことの一つに、出版物を引き受けてくれる他社がいない限り、全点全冊を破棄しなければならないというものがあります。例えばすでに2020年に解散することを公表しておられ創文社さんの商品はどうなるのでしょうか。ハイデッガー全集(刊行中)や、神学大全(完結)はどうなるのでしょう。同社の2016年9月付の挨拶文「読者の皆様へ」によれば、「新刊書籍は2017年3月まで刊行し、それ以降、2020年までは書籍の販売のみを継続いたします」とあります。すでに新刊刊行停止から半年経過しているのです。このように廃業まで数年かけることを約束しうるのはむしろ誠実な少数派であり、こうはならずいつの間にか倒れる会社が大半であることは周知の通りです。


先日のゲンロン・カフェ(10月4日)の質疑応答において「やめたい人とやりたい人の事業承継のマッチングができないものか」とお話しし、質問者の方が興味を示して下さったのは幸いでした。こうした困難さに立ち向かうことが大事であると思われてなりません。


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注目新刊:ベンソン『世界《宇宙誌》大図鑑』東洋書林、ほか

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世界《宇宙誌》大図鑑
マイケル・ベンソン著 野下祥子訳
東洋書林 2017年10月 B5判上製320頁 ISBN978-4-88721-824-6


帯文より:コペルニクスは考えた――もし美が真実だというのなら、真実は美しいはずだ。「創造」「地球」「月」などのテーマ別10章のもと、前2000年から現代に至る世界認識の諸相を概観する“宇宙誌/宇宙図”集成。謎めいた古代の遺物から現代美術さながらのデジタル解析図へと飛躍する美麗図版300点が誘う、視覚知のミクロコスモス!


オーウェン・ギンガリッチ「序文」より:この“宇宙図集”は、天文学の驚異や発見、理解についての色鮮やかな記録であり、中世の緻密なミニアチュールから現代のコンピュータを駆使したデザインにいたるまでの描法に関する歴史書でもある。手短かに言うと“美を愛でる者にとっての賛歌”なのだ。


目次:
序文(オーウェン・ギンガリッチ)
はじめに
第1章 創造
第2章 地球
第3章 月
第4章 太陽
第5章 宇宙の構造
第6章 惑星と衛星
第7章 星座・獣帯・天の川銀河
第8章 食と太陽面通過
第9章 彗星と隕石
第10章オーロラと大気現象
解(松井孝典)
図版出典
索引


★まもなく発売。『ビヨンド――惑星探査機が見た太陽系』(新潮社、2005年)、『ファー・アウト――銀河系から130億光年のかなたへ』(新潮社、2010年)、『プラネットフォール――惑星着陸』新潮社、2013年)と、日本でもその美しい天体写真集の数々によって知られている映像作家/写真家のベンソン(Michael Benson, 1962-)の近作『Cosmigraphics: Picturing Space through Time』(Abrams, 2014)の日本語版です。今までの既刊写真集が科学技術の賜物であったのに対し、今回は天体と人間をめぐる数千年の歴史をひもとく驚異的な一書となっています。約4000年前の天文盤(ネブラディスク)や、前50年頃のデンデラ神殿の天井レリーフなどにはじまり、ランベール『花々の書(Liber Floridus)』1121年、アピアヌス『皇帝の天文学(Astronomicum Caesareum)』1540年、『アウクスブルクの奇跡の書(Augsburger Wunderzeichenbuch)』1547~1552年、『彗星の書(Kometenbuch)』1587年、セラリウス『大宇宙の調和(Harmonia Macrocosmica)』1660年、など傑作の数々を経て、さらに、17世紀ではフラッドやキルヒャー、19世紀ではトルーヴェロ、フラマリオン、リエ『天界』など、カラーのものはすべてフルカラーで掲載されています。幻視されたものから科学的な描写まで、めくるめく美の世界に陶酔するばかりです。新潮社版の写真集に比べると生産部数が限られていると聞きますので、気になる方はどうかお早目に購入されてみて下さい。


★ちなみに『アウクスブルクの奇跡の書』は『The Book of Miracle』としてTaschenから今夏に廉価版が出ています(2017年10月15日現在、ありがたいことにアマゾン・ジャパンでも在庫しています; BuzzFeed Japanの記事「400年の時を超えて。幻の奇書『奇跡の書』が色鮮やかで、怖い」でもサンプルをご覧になれます)。また、『世界《宇宙誌》大図鑑』で言及され引用されているコペルニクスの『天球回転論』はいよいよ今週後半に完訳版がみすず書房さんより刊行されます。本体16,000円とお高いですが、何とか購読したいものです。



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★このほか最近では以下の新刊に注目しています。


『ベル・フックスの「フェミニズム理論」――周辺から中心へ』ベル・フックス著、野﨑佐和/毛塚翠訳、あけび書房、2017年10月、本体2,400円、A5判並製240頁、ISBN978-4-87154-154-1
『道徳を基礎づける――孟子vs. カント、ルソー、ニーチェ』フランソワ・ジュリアン著、中島隆博/志野好伸訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体1,150円、360頁、
ISBN978-4-06-292474-0
『言語起源論』ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー著、宮谷尚実訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体840円、232頁、ISBN978-4-06-292457-3
『水滸伝(二)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体1,830円、692頁、ISBN978-4-06-292452-8
『ロシア革命とは何か――トロツキー革命論集』トロツキー著、森田成也訳、光文社古典新訳文庫、2017年10月、本体1,100円、414頁、ISBN978-4-334-75364-1
『初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方』左近司祥子著、だいわ文庫、2017年10月、本体780円、296頁、ISBN978-4-479-30673-3



★『ベル・フックスの「フェミニズム理論」』は、『Feminist Theory: From Margin to Center』(1984, South End Press; 2nd edition, 2000, South End Press; 3rd edition, Routledge, 2015)の新訳です。既訳には、清水久美訳『ブラック・フェミニストの主張――周縁から中心へ』(勁草書房、1997年、絶版)があります。全12章構成なのは今回の新訳の底本である新版(第三版)でも変わりませんし、章題も変わっていません。目次詳細は版元さんのウェブサイトでご確認いただけます。「序文(新版)」と訳されているのは原著では「新版への序文:光を見る――ヴィジョンのあるフェミニズム」で、この序文は原著第二版より付されている序文と変わりありません。この序文でフックスは次のように述べています。


★「フェミニストたちはしばしば、一般大衆を基盤にしたフェミニズム運動をつくりあげる必要性について話し合ったが、そうした運動を立ちあげるためのしっかりした基盤などどこにもなかった。ウーマンリブ運動は、狭い土台の上に形づくられてきたというだけではなく、何よりもまず特権階級(そのほとんどが白人)の女性に関係する問題にしか注意を呼び起こさなかった。/わたしたちは、一般大衆を基盤にした運動のための考えや戦略を示してくれる理論を必要としていた。そうした理論が、ジェンダー、人種、そして階級の理解に根ざしたフェミニズム的な視点からわたしたちの文化を検証してくれるに違いなかったからである。そうした必要性に答えて、わたしは本書『フェミニズム理論 周辺から中心へ』を執筆したのである」(12頁)。


★帯文には「男性女性ともに読んでほしい一冊です」とあります。野﨑さんは巻頭の訳者まえがきこうお書きになっています。「何だか生きづらさを感じている人、自分のパートナーや家族との関係がうまくいかないという人、女性であっても男性であっても構いません、そういう人にこそ本書を手に取ってほしいのです。/些細な問題だと思っていたことが実は深刻なフェミニズムの問題だったということもあるからです」(2頁)。ベル・フックス(bell hooks, 1952-)の著書は90年代からこんにちに至るまで6点ほど訳されてきましたが、初訳がほからなぬ本書の旧訳本でした。7冊目となる今回の新訳がフックス再読の契機となることを期待したいです。


★講談社学術文庫の今月新刊からはいくつか。ジュリアン『道徳を基礎づける』は2002年に講談社現代新書として刊行されたものの文庫化。原書は『Fonder la morale』(Grasset, 1996)です。巻末に付された中島さんによる「講談社学術文庫のための解題」によれば、共訳者の志野さんが「細かい訳文の修正」を行われたとのことです。新書版は古書価が高騰していたので文庫化は妥当だと思います。帯文には東浩紀さんの推薦文が掲載されています。曰く「カントと孟子が互いを照らし合う。西欧近代と東洋思想がぶつかる場所にいる、ぼくたちこそが読むべき新たな哲学」と。なお中島さんによるジュリアンの訳書はもう一冊あります。『勢――効力の歴史:中国文化横断』(知泉書館、2004年)です。書店店頭ではあまり見かけませんが、版元さんのサイトでは「在庫あり」となっています。



★ヘルダー『言語起源論』は文庫オリジナルの新訳。既訳には木村直司訳(大修館書店、1972年2月)や、大阪大学ドイツ近代文学研究会訳(法政大学出版局、1972年3月)があります。ともに72年刊でほぼ同時期に出版されたものです。今回の新訳の底本は訳者解説によれば「最終版の手書き原稿」とのことで、ゲーテも見たであろう手稿と地道に向き合ったり、既訳から学んだりする謙虚な姿勢が解説やあとがきから垣間見えます。一方、『水滸伝(二)』は第23回から第42回を収録。帯文には「『金瓶梅』の原話「〈行者〉武松の物語」あります!」と特記されています。本巻に収められた第23~32回に武松の生きざまが描かれています。いつの日か、井波さん訳の『金瓶梅』を読む日も訪れるでしょうか。


★光文社古典新訳文庫の今月新刊では『ロシア革命とは何か』に注目。1906年から1939年までに公刊された重要論文6本を収録。同文庫でのトロツキー新訳本は、『レーニン』(森田成也訳、2007年)、『永続革命論』(森田成也訳、2008年)、『ニーチェからスターリンへ――トロツキー人物論集【1900?1939】』(森田成也/志田昇訳、2010年)に続く4点目です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。1932年の高名な「コペンハーゲン演説」を、英訳や独訳からの重訳ではなくロシア語から新訳したのが目玉のひとつ。同書は「ロシア革命100周年企画」の第1弾だそうです。同文庫では来月、ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』(伊藤真訳)の発売が予定されていますが、こちらが第2弾となるのでしょうか。月刊誌『現代思想』2017年10月号で「ロシア革命100年」の特集が組まれ、『ゲンロン』誌では二号連続で「ロシア現代思想」が特集されます。ロシア思想のコーナーを作る絶好のチャンスかと思われます。幾度となく推していますが、水声社版「叢書・二十世紀ロシア文化史再考」もお薦めします。


★だいわ文庫の新刊では、文庫版オリジナルの書き下ろしである『初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方』に注目。同書は著者の左近司祥子(さこんじ・さちこ:1938-)先生にとって、『哲学するネコ――文学部哲学科教授と25匹のネコの物語』(小学館文庫、1998年)、『本当に生きるための哲学』(岩波現代文庫、2004年)に続く、久しぶりの文庫新刊です。ソクラテス、プラトン、アリストテレスのほか、少しばかりですが、タレスら初期の哲学者たちや、ソフィスト、エピクロス派、ストア派、ネオプラトニズムも言及されています。文庫で読めるギリシア哲学入門は数少なく、現在入手可能な本も少ないなか、とりわけ取っつきやすい内容となっていると感じます。目次詳細は版元サイトにはありませんが、アマゾンや7ネット、紀伊國屋書店などには掲載されているので、ご参照なさってください。


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注目新刊:今福隆太『ハーフ・ブリード』河出書房新社、ほか

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★今福龍太さん(著書:『ブラジルのホモ・ルーデンス』)
集英社さんの月刊誌「すばる」で2014年12月から2017年6月号まで隔月連載されていたものが単行本化され、先週より発売開始となっています。印象的な造本は佐藤篤司さんによるもの。


ハーフ・ブリード
今福龍太著
河出書房新社 2017年10月 本体3,800円 46判上製368頁 ISBN978-4-309-24830-1


星野智幸氏推薦文:自らが純血ではなくハーフ・ブリードだと気づくことが、これほどの解放をもたらすとは! メキシコ性を極限まで探究したこの驚くべき詩的散文は渡したいtの未来を映す鏡だ。


辻原登氏推薦文:目に見えぬ「Soul-line」が、“風という靴底を持つ男”今福隆太によって、メキシコの地から、精緻かつ果敢に、地球上に引かれた!


坂口恭平氏「『ハーフ・ブリード』に寄せて」:覚えていたのが時間のことだったのか 空間のことだったのか わからなくなると鏡を見る 大木が映りこんでいた 知らない木だった そこに寄り添っている自分がいて それを黙って見ていた 音は何も聞こえずに 水がながれていることはわかった どこも行ったことがないのに記憶だけは次から次へと蘇ってくる 誰の記憶なのか 体は、まあ待てと肩を叩いてきた しばらくお茶を飲んで過ごした 風が吹いた 何かを焼く匂いがした 目の前にいる男が昔の海について話をしている 「お前は船に乗ってた。櫂も持たずに」 男は言った 上を見たら、昼間なのに星が見えた 「お前は森のことを知っていた」 誰のことなのだろうか 「ずっと昔のことだ」 男はそう言うと、煙草の火を消していなくなった 消えるようにしていなくなった 耳が思い出したように音をかき集めはじめた 水の音が少しずつ大きくなってきた いつのまにか音は水しぶきをあげて 洪水となって茂みの奥から溢れ出てきた 飲み込まれ 息もできなくなった 元の自分に戻った 息もせず 目も見えず あるのは記憶だけだった 記憶の中に隠れ家があった ところが、右に言えば、体は底に落ち 這い上がろうとすると忘れてしまった 一瞬のうちにカーテンや廊下が水滴になった 「知らないことなんかひとつもなかっただろう」 男はまだ煙草を吸っていた ずっと昔のことだった 本を読みながら、今そのことをふと思い出した


目次:
Prologue
Ⅰ 赤と黒の十字路
Ⅱ 蛇と黒曜石の物語
Ⅲ 雑種或いはKの交差点
Ⅳ アルトゥーロ、砂漠の吐息
Ⅴ 流れよ川、歌えよギタレーロ
Ⅵ 風と炎のある風景
Ⅶ 反転-人類学の呪術師
Ⅷ マヤの漂泊者
Ⅸ 国境の詩篇〔カントス〕
Ⅹ 砂漠と監獄
Ⅺ 峡谷〔カニャーダ〕へ
Ⅻ 水で書かれた父と母の歌
Epilogue
引用出典一覧
あとがき
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知り合いの版元さんから色々な冊子をいただいたのでご紹介します。


1)「大学出版」2017年秋号「特集=一冊入魂!――編集の愉楽」
大学出版部協会さんが発行するPR誌「大学出版」が最新号で協会員ではない版元の編集者の方々から、自らの仕事をめぐるエッセイを寄せてもらっていて、とても興味深いです。業界人必読かと。PDFを協会のウェブサイトでダウンロードできます。



左右社・小柳学さん「こんどはもっと遅かった『〆切本2』の編集」
亜紀書房・内藤寛さん「いま、小説を作るということ」
共和国・下平尾直さん「ページの奴隷、編集者!」
堀之内出版・小林えみさん「『nyx』は百年後の光となるか」


ちなみに堀之内出版さんは、今月末に開催予定の、本好きのためのブックフェア「BOOK MARKET 2017」や、後段でご紹介するブックフェア「版元やおよろず」に出展されるとのことです。後者には共和国さんも参加されています。


◎ブックフェア「BOOK MARKET 2017」


期間:2017年 10月28日(土)、29日(日)
時間:28日 11:00 〜 19:00
   29日 11:00 〜 18:00
場所:アートコンプレックス・センター 
    〒160-0015 東京都新宿区大京町12-9 TEL03-3341-3253
主催:アノニマ・スタジオ


内容:BOOK MARKETは、今年で9回目を迎える「本当におもしろい本」だけを集めた本好きのためのブックフェアです。 出展社もさらにパワーアップ。 1年でいちばん本を読みたくなる晩秋の開催です。 「本のお祭り」BOOK MARKET 2017で、読者のみなさまとお会いできることを楽しみにしております!


出展社:フィルムアート社、誠文堂新光社、地球丸、夏葉社、エクスナレッジ、偕成社、京阪神エルマガジン社、作品社、G.B.、自然食通信社、青幻舎、西日本出版社、而立書房、ニジノ絵本屋、パイ インターナショナル、HaoChi Books、ビーナイス、堀之内出版、本の雑誌社、ミシマ社、港の人、雷鳥社、リトルモア、グラフィック社、リットーミュージック、アタシ社、カンゼン、木楽舎、アノニマ・スタジオ、かもめブックス、メリーゴーランド京都、藤原印刷。


2)「版元やおよろず2017 ハンドブック」


23の出版社が参加する、双子のライオン堂で今月開催されているブックフェア「版元やおよろず2017」で100円で販売されている冊子です。出店版元が「代表する書籍」「出版社自己紹介」「なぜ出版社を立ち上げたのか、なぜ出版社で働いているのかなど」「他社のお薦め本」の4つの質問に答えたものをまとめています。様々な出版社の横顔が分かって楽しい一冊です。


◎ブックフェア「版元やおよろず」



期間:10/11(水)~10/20(金)
時間:15:00~21:00
※10/16、17はお休み。10/15(日)は13:00~18:00。


内容:「まっすぐに本を売る」出版社たちのブックフェア。一人ひとりの読者の顔を思い浮かべながら、直接手渡しをするかのように丁寧に本を作り売る出版社が集まりました。小さな版元さんが魂込めて作られた本たちをドドンと!展開いたします。


出展社:アタシ社、えにし書房、キーステージ21、共和国、ころから、猿江商會、三輪舎、センジュ出版、太郎次郎社エディタス、TANG DENG、トランスビュー、バナナブックス、羽鳥書店、H.A.B.、ビーナイス、ブックエンド、ブリコルール・パブリッシング、ポット出版、堀之内出版、本の種出版、マドレーヌブックス、まむかいブックスギャラリー、ユウブックス。
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注目新刊:『〈ポスト68年〉と私たち――「現代思想と政治」の現在』平凡社

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★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』
★廣瀬純さん((著書:『絶望論』、共著:コレクティボ・シトゥアシオネス『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
まもなく発売となる『〈ポスト68年〉と私たち――「現代思想と政治」の現在』に佐藤さんと廣瀬さんの論考や、廣瀬さんや立木さんが王寺さんや信友建志さんとともにお訳しになったバリバールの論考が収録されています。この論集は、2011年3月から2016年3月まで京都大学人文科学研究所において行われた共同研究「ヨーロッパ現代思想と政治」の2冊目となる成果報告書です。1冊目は『現代思想と政治――資本主義・精神分析・哲学』(市田良彦/王寺賢太編、平凡社、2016年、品切)でした。



〈ポスト68年〉と私たち――「現代思想と政治」の現在
市田良彦/王寺賢太編
平凡社 2017年10月 本体5,200円 A5判上製412頁 ISBN978-4-582-70355-9


帯文より:反乱の〈68年〉、それ以後の現在、〈私たち〉とはだれか? 〈68年〉のあとのフーコーとアルチュセールの思考について、〈68年〉、現代思想、政治、主体について、それらを考え抜いてきたバリバールらとともに、根底的に討究。


目次:
〈ポスト68年〉と私たち(市田良彦)
第Ⅰ部(1)国際シンポジウム「《Pourvu que ça dure ...》:政治・主体・〈現代思想〉[2015年1月12日]
(ポスト)構造主義のヒーロー、政治の政治(市田良彦)
政治と主体性をめぐる20のテーゼ(ブリュノ・ボステイルス)
大革命の後、いくつもの革命の前(エティエンヌ・バリバール)
第Ⅰ部(2)国際ワークショップ「〈われわれ〉がエティエンヌ・バリバールの読解に負うもの――ルソーからブランショまでの個体性と共同性」[2015年1月17日]
孤独のアノマリー――事例オタネスとルソー政治思想(佐藤淳二)
ルソーにおける所有権と共同体(ガブリエル・ラディカ)
「市民-主体」の理念とそのパラドックス――バリバール、ルソー、政治的主体性(佐藤嘉幸)
バリバールとともにブランショの不服従を考える――侵犯と抵抗の方法としての非応答の権利(上田和彦)
第Ⅱ部(1)国際ワークショップ「〈権力-知〉か〈国家装置〉か――〈68年5月〉後のフーコーとアルチュセール」[2016年3月19日]
「権力-知」か「国家装置」か――〈68年5月〉後のフーコーとアルチュセール(市田良彦)
68年5月の翌朝は、抑圧の二日酔い――アルチュセールとフーコーを過ぎゆく批判のステージ(バーナード・E・ハーコート)
真理と帰結――フーコーとアルチュセールにおける政治的判断と歴史的知(ノックス・ピーデン)
〈68年〉後に、政治経済学においてマルクス主義者であること――あるいは「マルクス経済学にとって唯一の心理とは、じつは何であったか(長原豊)
フーコーの精神分析批判――『性の歴史Ⅰ』に即して(小泉義之)
第Ⅱ部(2)書き下ろし補論
真理戦――後期フーコーの戦争から統治への転回をめぐって(箱田徹)
規律権力論の射程――権力、知、イデオロギー(廣瀬純)
《non-lieu》一歩前――1960年~70年代日本のアルチュセール受容(王寺賢太)
勝敗の彼岸――戦後イギリス「新左翼」の位置断片を小さな鏡として(布施哲)
あとがき(王寺賢太)


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『ele-king』WEB版にギルロイ『ユニオンジャックに黒はない』書評

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弊社8月発売既刊書、ポール・ギルロイ『ユニオンジャックに黒はない』の書評が、『ele-king』WEB版の2017年10月4日付「Book Reviews」欄に掲載されました。評者は野田努さんです。「黒い英国における音楽と社会運動史の考察、『ユニオンジャックに黒はない』は、その後『ブラック・アトランティック』で有名になるギルロイのデビュー作で、初版は1987年だが、有名なのは2002年の増補版で、それにしても15年目にしての本邦初翻訳だ。が、これはいま読んでも充分にパワフルで、震える本であり、ここに書かれている過去の闘争が現在と交差する瞬間、その持続する瞬間においてこれからも多くの人が訪ねて来るであろう本だと言える」。また「『ユニオンジャックに黒はない』は、資本主義批判/社会運動の本であるが、面白いほど、音楽についての本である。ソウル、ファンク、ブルービート(スカ)とレゲエ、そしてヒップホップ……こうした音楽が趣味にとどまることを許さずに、黒い英国においてどのように社会と“関わり合っていた”のかを綴り、パンク・ロックを起爆剤に生まれた「ロック・アゲインスト・レイシズム」という運動についてもじつに詳しく描写している。思想書において、この本ほど音楽誌からの引用が多い本もそうないだろう」と評していただきました。野田さん、ありがとうございました。




11月下旬刊行予定:ジャン・ウリ『コレクティフーーサン・タンヌ病院におけるセミネール』

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2017年11月21日取次搬入予定 *人文/医療



コレクティフーーサン・タンヌ病院におけるセミネール
ジャン・ウリ著 多賀茂/上尾真道/川村文重/武田宙也 訳

月曜社 2017年11月 本体3,800円 46判(縦190mm×横130mm×束26mm)ハードカバー装上製424頁 ISBN:978-4-86503-053-2


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


内容:人びとが集団を形作りながら個々の特異性を尊重するための、「ほんのちょっとしたこと」とは何か。それは、私たちに何をもたらすのか。「コレクティフ=人々が集まること、動くこと」をめぐる思索と対話。ラカンらの理論から紡ぎ出される思考を土台とする精神病治療の日常的実践について考察したこのセミネール(1984年9月~1985年6月)の記録は、社会の様々な場面に存在する「疎外」に抵抗するための、何らかのヒントを私たちに与えてくれるだろう。「病院の病気」を治す「制度を使う精神療法」の理論と実践の書。ピエール・ドゥリオン「序文」、ミシェル・バラ「新版のための前置き」。


目次:
はじめに(多賀茂)
序文
一九八四年九月十九日
一九八四年十月十七日
一九八四年十一月二十一日
一九八四年十二月十九日
一九八五年一月十六日
一九八五年二月二十日
一九八五年三月二十日
一九八五年四月十七日
一九八五年五月十五日
一九八五年六月十九日
補遺
 序文(ピエール・ドゥリオン)
 新版のための前置き(ミシェル・バラ)
後書き(多賀茂)
索引


原書:『LE COLLECTIF : Le Séminaire de Sainte-Anne, Préambule à la nouvelle édition de Michel BALAT, Préface de Pierre DELION』(Champ Social Éditions, 2005)


ジャン・ウリ(Jean Oury, 1924–2014):フランスの精神科医・思想家。20世紀後半のフランス精神医療に大きな貢献を残した。1953年以来自身が院長を務めるラ・ボルド病院において、患者やスタッフとともに「制度を使う精神療法」の実践に取り組んできた。その後、フェリックス・ガタリというたぐいまれな想像力と活動力を備えた人物も病院のスタッフに加わり、ウリとともに様々な試みに取り組んだ。また、ラカンの最も重要な理解者のひとりでもあった。著書の訳書に『精神医学と制度精神療法』(三脇康生監訳、廣瀬浩司/原和之訳、春秋社、2016年)がある。


訳者:多賀茂(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)/上尾真道(滋賀県立大学など非常勤講師)/川村文重(慶應義塾大学商学部専任講師)/武田宙也(京都大学大学院人間・環境学研究科准教授)

注目新刊:スタノヴィッチ『現代世界における意思決定と合理性』太田出版、ほか

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『現代世界における意思決定と合理性』キース・E・スタノヴィッチ著、木島泰三訳、太田出版、2017年11月、本体3,800円、A5判並製324頁、ISBN978-4-7783-1597-9
『政治の本質』マックス・ヴェーバー/カール・シュミット著、清水幾太郎訳、中公文庫、2017年10月、本体900円、文庫判288頁、ISBN978-4-12-206470-6



★『現代世界における意思決定と合理性』はまもなく発売(25日取次搬入)。『Decision Making and Rationality in the Modern World』(Oxford University Press, 2010)の全訳です。カナダの認知心理学者スタノヴィッチ(Keith E. Stanovich, 1950-)の訳書は『心は遺伝子の論理で決まるのか――二重過程モデルでみるヒトの合理性』(椋田直子 訳、みすず書房、2008年、品切)、『心理学をまじめに考える方法――真実を見抜く批判的思考』(金坂弥起監訳、誠信書房、2016年7月)に続き本書が3冊目。「スタノヴィッチが自身の学問的・思想的営みの核心に据えている「合理性」の概念を、心理学の学生向け教科書として簡潔かつ平易に解説した書物である」と訳者はあとがきに記しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。各章末には「さらなる読書案内」と題したブックリストがあり、巻末にも充実した「参考文献」があるので、書店さんにとっても書棚編集の大きな参考になるはずです。合理性は分野横断的なキーワードですから、ブックフェアにも向いていると思います。


★『政治の本質』は発売済。三笠書房より1939年に刊行された同名単行本の文庫化です。ヴェーバーの「職業としての政治」(1919年)とシュミットの「政治的なるものの概念」(1933年第3版からの翻訳)のカップリングであり、文庫化にあたり、清水幾太郎さんの関連論考2篇「職業としての政治」「名著発掘 カール・シュミット著『政治的なるものの概念』」を収め、苅部直さんによる解説「幻の政治学古典」が付されています。シュミットの「政治的なるものの概念」が文庫化されるのは初めてのことです。原書は版によって異同がありますからいずれ文庫で各版の異同が分かる新訳が出ることを祈りたいです。なお、中公文庫さんの「古典作品の歴史的な翻訳に光を当てる精選シリーズ」である《古典名訳再発見》では本書の前には、トーマス・マン/渡辺一夫『五つの証言』が刊行されましたが、続刊にはヴァレリー『精神の政治学』吉田健一訳、が予定されているそうで、楽しみです。



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★10月20日(金)に代官山蔦屋書店1号館2Fイベントスペースで行われた、記念すべき第1回となる「代官山人文カフェ」にお邪魔してきました。ローリー・アン・ポール『今夜ヴァンパイアになる前にーー分析的実存哲学入門』(名古屋大学出版会、2017年5月)の刊行を記念し、「人生を変える選択にベストアンサーはあるか?」と題して、訳者の奥田太郎さん(南山大学社会倫理研究所教授)と、訳者あとがきに「助力を得た」と謝辞のある宮野真生子さん(福岡大学人文学部准教授)、さらに進行役として『哲学カフェのつくりかた』(大阪大学出版会、2014年)などの共著書がある三浦隆宏さん(椙山女学園大学人間関係学部准教授)がお越しになり、車座になった会場で、参加者との様々なトークのキャッチボールが尽きることなく交わされました。


★書店さんのトークイベントというとどうしても新刊を出した著者のお話を来場者が拝聴するというのがメインとなるわけですが、「代官山人文カフェ」では哲学カフェ形式で、参加者を交えた多様なトークをじっくりと堪能できるのが特徴です。オチのないユルい展開もまた自然なもので、参加者のほとんどは「哲学カフェ」形式は初体験とのことでしたが、結果的には三先生の気さくな人柄とざっくばらんな進行、参加者の肩ひじ張らない発言の数々で、ゆったりと楽しめるひとときでした。ちなみにイベント前には三先生と一緒に参加者が売場を散策する「オーサー・ビジット」も行われており、カフェ形式との相乗効果を生んでいました。「オーサー・ビジット」で三先生が言及された本が買われていく光景は、書き手と読み手の垣根を越えた、読書好き同士ならではのものかと思います。


★新刊を出していないとイベントができない、ですとか、著者が来ないとイベントができない、という発想から自由になれば、書店でのイベントでできることの枠組は大きく広がるだろうな、と感じました。哲学カフェや読書会の楽しさを書店イベントに導入するという代官山蔦屋書店さんの挑戦に、率直な驚きと可能性をかいまみた次第でした。蔦屋さんはお客様の体験を重視した「滞在型書店」を目指しておられるわけなので、「哲学カフェ+オーサー・ビジット」のようなイベントの進化は必然的なのかもしれないなと思います。また、こうした試みにいち早く目を付けて参加された読者の方々に、一出版人として強い感銘を覚えました。


★なお、同店では「代官山人文カフェ」を記念したフェア「人生を変える選択にベストアンサーはあるか?を考えるための50冊」が展開されています。ポールの本や、彼女の師匠であるデイヴィッド・ルイスの『世界の複数性について』(名古屋大学出版会、2016年)をはじめ、興味深いラインナップです。選書コメントの入ったパンフレットも店頭で無料配布されています。


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ブックツリー「哲学読書室」に吉田奈緒子さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、ボイル『無銭経済宣言』(紀伊國屋書店、2017年8月)の訳者・吉田奈緒子さんによる選書リスト「お金に人生を明け渡したくない人へ」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
吉田奈緒子(よしだ・なおこ)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」


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注目新刊:コペルニクス『完訳 天球回転論』みすず書房、ほか

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『完訳 天球回転論――コペルニクス天文学集成』高橋憲一訳/解説、みすず書房、2017年10月、本体16,000円、A5判上製728頁、ISBN978-4-622-08631-4
『麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』アレイスター・クロウリー著、植松靖夫訳、国書刊行会、2017年10月、本体2,300円、四六変型判並製320頁、ISBN978-4-336-06215-4
『書物の宮殿』ロジェ・グルニエ著、宮下志朗訳、岩波書店、2017年10月、本体2,700円、四六判上製208頁、ISBN978-4-00-061223-4
『語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか』J・L・ボルヘス著、木村榮一訳、岩波文庫、2017年10月、本体580円、192頁、ISBN978-4-00-327929-8
『国語学史』時枝誠記著、岩波文庫、2017年10月、本体900円、320頁、ISBN978-4-00-381504-5
『呻吟語(ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体960円、320頁、ISBN978-4-04-400291-6 
『幸福論』B・ラッセル著、堀秀彦訳、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体800円、384頁、ISBN978-4-04-400339-5



★コペルニクス『完訳 天球回転論』は、高橋憲一さんによる『コペルニクス・天球回転論』(みすず書房、1993年)に続く、待望の完訳版です。既訳は大まかに言うと、『天球回転論』第一巻の抄訳(全14章のうち第11章まで)と関連する未刊論考「コメンタリオルス〔小論〕」と訳者解説の三本立てでしたが、今回の完訳版では『天球回転論』全6巻の全訳と「コメンタリオルス」、そして訳者解説の三本立てです。同書第1巻の既訳には矢島祐利訳『天体の回転について』(岩波文庫、1953年)があります。言うまでもありませんが、『天球回転論』はコペルニクスの没年に刊行された主著で、地動説を闡明した歴史的転換点を為す古典です。高額本ではありますけれども、品切になる前に購入しておきたい書目です。みすず書房さんの近刊書にはスピノザ『知性改善論・短論文』の佐藤一郎さんによる新訳が12月刊行と予告されていて、こちらも鶴首して待ちたい本です。


★クロウリー『麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』は国書刊行会版『アレイスター・クロウリー著作集』第3巻(1987年;原著『The Diary of a Drug Fiend』1922年)の改訳新装版を3分冊で刊行するものの第1回配本。個人的にはギーガーの絵をあしらった旧版の函入本が好きなのですが、今回の新装版は判型もハンディかつスタイリッシュに変更されて、これはこれで美しい一冊です。クロウリー没後70年を記念しての刊行で、第Ⅱ巻「地獄篇」は来月(2017年11月)発売予定、第Ⅲ巻「煉獄篇」は12月とのことです。全巻購読者は特典として特製収納BOXがもらえるとのことで、これは揃えるしかないでしょう。国書刊行会さんでは今月、グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜――マイリンク幻想小説集』(垂野創一郎訳、国書刊行会、2017年10月、本体4,600円、A5判上製450頁、ISBN 978-4-336-06207-9)も刊行されており、こちらも要チェックです。



★次に岩波書店の今月新刊から3点。グルニエ『書物の宮殿』は『Le palais des livres』(Gallimard, 2011)の全訳。書名からすると書物論なのかと連想しますが、実際は少し違います。訳者あとがきで宮下さんは次のように紹介しておられます。「作家人生も終わりに近づいたグルニエが、テーマに応じて、これまで自分が読んできた文学テクストを引いたり、ジャーナリスト・作家としての経験を織り交ぜたりしながら、文学について、書くことについて思いをめぐらせたエッセイだといえる」。目次詳細と立ち読みは書名のリンク先でご利用になれます。特に本書末尾のテクスト「愛されるために」は印象的で、「書くこと〔エクリチュール〕は、ひとつの生きる理由なのだろうか?」という一文から始まります。この一文は帯にも大書されている文言です。


★ブエノスアイレスでの1978年の連続講演集である『語るボルヘス』は特記がないものの、『ボルヘス、オラル』(書肆風の薔薇、1987年;第二版〔新装版〕、水声社、1991年)の改訳版と見ていいかと思います。単行本版と文庫版の違いを列記しておくと、単行本版は原著『Borges, oral』1979年初版を底本とし、ボルヘスの「序言」と5つの講演「書物」「不死性」「エマヌエル・スウェデンボルグ」「探偵小説」「時間」を収めたほか、巻頭にはアベリーノ・ホセ・ポルト(ベルグラーノ大学学長)による「ベルグラーノ大学におけるボルヘス」、巻末にマルティン・ミュラーによる「講演者ボルヘス」、さらに「ボルヘスのプロフィール」と題した無記名の紹介文が訳出され、最後に「訳者あとがき」が置かれています。一方、文庫版は序文と5つの講演(「スウェデンボルグ」が「スヴェーデンボリ」と表記変更されています)を収録したほかは、新たに書き直された訳者による「解説」が巻末に配され、単行本版にあるポルトやミュラーのテクストはありません。底本は原著初版本ではなく、1996年刊の全集第4巻です。


★時枝誠記『国語学史』は、1940年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。凡例によれば底本は改版第14刷(1966年)です。「序説」と「研究史」の二部構成で、第二部は「第一期 元禄期以前」「第二期 元禄期より明和安永期へ」「第三期 明和安永期より江戸末期へ」「第四期 江戸末期」「第五期 明治初年より現代に至る」と立て分けられています。藤井貞和さんが解説「『国語学史』と『国語学原論』」を寄せておられます。巻末に索引あり。時枝誠記(ときえだ・もとき:1900-1967)の文庫で読める著書は、『国語学原論』(上下巻、岩波文庫、2007年、品切重版中)と『国語学原論 続篇』(岩波文庫、2008年、在庫僅少)以来のもの。


★角川ソフィア文庫の今月新刊では2点取り上げます。「『菜根譚』と並ぶ混沌の時代の処世訓」との端的な惹句が帯文に書かれた呂坤『呻吟語』は抄訳です。現代語訳、書き下し、原文、解説で構成されています。文庫で読める『呻吟語』抄訳には講談社学術文庫版(荒木見悟訳著)がありましたが、現在品切。「『呻吟語』は、決して過去の遺物ではありません。むしろ今こそ読まれるべき古典です」と今回の編訳本の巻頭に置かれた「はじめに」で湯浅さんは強調しておられます。まったく同感です。現代人の心に深く突き刺さる教えに満ちた素晴らしい本です。



★ラッセル『幸福論』は1952年に刊行され、1970年に改版が出た角川文庫の、久しぶりの新版です。目次や試し読みは書名のリンク先へどうぞ。巻末にはNHK「100分de名著」で『幸福論』を取り上げた小川仁志さんが「復刊に際しての解説」を寄せておられます。「幸福論」という訳題のついた古典的名著にはアランやヒルティ、ヘッセのそれがありますが、類似する書名ではショーペンハウアーの『幸福について』などもあり、ラッセルの本書と比べ読みするのも面白いと思います。


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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『タラバ、悪を滅ぼす者』ロバート・サウジー著、道家英穂訳、作品社、2017年10月、本体2,400円、四六判上製272頁、ISBN978-4-86182-655-9
『『死者の書』の謎』鈴木貞美著、作品社、2017年10月、本体1300円、46判上製280頁、ISBN978-4-86182-658-0
『詩集工都――松本圭二セレクション第2巻(詩2)』松本圭二著、航思社、2017年10月、本体3,200円、四六判上製396頁、ISBN978-4-906738-26-7



★『タラバ、悪を滅ぼす者』は、イギリスの桂冠詩人ロバート・サウジー(Robert Southey, 1774-1843)による物語詩『Thalaba the Destroyer』(1801年)の全訳。訳者あとがきによれば、サウジーによる自註のうち、「本文と関連するところ、直接の関係は薄くても内容的に興味深いところは訳出」したとのことです。既訳には高山宏さんによる抄訳「破壊者サラバ」(『夜の勝利――英国ゴシック詞華撰Ⅱ』所収、国書刊行会、1984年)があり、今回の新訳本でも言及があります。訳者の道家さんは「アラブ人でイスラム教徒の主人公タラバがドムダニエルの悪の魔術師の一味と戦う」作品である本作を、「突飛と思われるかもしれないが〔・・・〕話の枠組みが驚くほど『ハリー・ポッター』に類似し、かつ対照的」とも指摘されています。


★『『死者の書』の謎』は27日(金)取次搬入済。章立てを列記しておくと、序章「釈迢空と折口信夫のあいだ」、第一章「『死者の書』の同時代」、第二章「『死者の書』の読まれ方」、第三章「「口ぶえ」とその周辺」、第四章「釈迢空の象徴主義」、第五章「『死者の書』の謎を解く」。巻末には、文献一覧と人名・書名索引が配されています。折口の生誕130周年にあたる本年、『死者の書』は中公文庫版や岩波文庫版があるにもかかわらず角川ソフィア文庫でも今夏刊行されており、今世紀に入ってから川本喜八郎さんによる人形アニメ映画化や、近年の近藤ようこさんによる漫画化が果たされていることは周知のとおりですが、丸ごと一冊を費やした謎解き本はさほど多くありません。


★『詩集工都』はまもなく発売(30日取次搬入)。「松本圭二セレクション」の第2回配本、第2巻です。底本は七月堂より2000年に刊行された単行本で、帯文に曰く「幻の」第二詩集。付属の「栞」には「「詩」を映写すること」と題された佐々木敦さんによる寄稿と、松本さんによる著者解題が掲載されています。後者は前橋文学館特別企画展図録『松本圭二 LET'S GET LOST』からの転載とのことですが、第二詩集の刊行までの紆余曲折に満ちた顛末が赤裸々に記されていて、読む者を戦慄させます。松本さんの執念もさることながら、セレクションに賭ける航思社さんの思いにも凄まじいものを感じます。こうした情念の塊にも似た書物に出会うと、読み手が味読するという次元を超えて、手にしたこの物体に刻まれた言葉たちに読者が視線を食らわれているかのような心地さえします。


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注目新刊:ホワイト『実用的な過去』岩波書店、ほか

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
ヘイドン・ホワイトさんの論文集『実用的な過去』(上村忠男監訳、上村忠男/佐藤啓介/松原俊文/那須敬訳、岩波書店、2017年10月)が発売となりました。『The Practical Past』(North western University Press, 2014)の全訳に、ホワイトさんの最新論考「歴史的真実、違和、不信」(翻訳初出は上村さん訳で『思想』2016年11月号)を付録として収めています。目次詳細や立ち読みは書名のリンク先でご利用になれます。上村さんは同書の翻訳に当たられ、さらに監訳者として解説「ホロコーストをどう表象するか――「実用的な過去」の見地から」と監訳者あとがきも担当されておられます。



★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
中沢研さんの作品集『中沢研』(赤々舎、2017年10月)の巻末に、星野さんが執筆された「形態の明滅――中沢研の作品(2012-2016)」が併載されています。「フレーム」「空間」「軽量化」「形態」「形象」「理性/比率」の全6節で、中沢さんの作品を読み解かれておられます。


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一方、弊社刊行物の書評情報です。8月刊、ポール・ギルロイ『ユニオンジャックに黒はない――人種と国民をめぐる文化政治』(田中東子/山本敦久/井上弘貴訳)の書評が出ました。『MUSIC MAGAZINE』2017年11月号の「RANDOM ACCESS」欄に、石田昌隆さんによる書評が掲載されています。また「図書新聞」2017年11月4日号では1~2面に、酒井隆史さんによる長文の書評「不変と変化、この30年――レイシズムとナショナリズムの不可分な力関係」が掲載されています。また、再掲となりますが、同書をめぐるシンポジウムが来月中旬行われます。

◎ポール・ギルロイ著『ユニオンジャックに黒はない――人種と国民をめぐる文化政治』(月曜社)邦訳刊行記念シンポジウム


日時:2017年 11月12日(日曜日)13:30〜17:00(開場13:00)
場所:神戸市・海外移住と文化の交流センター

参加費:無料(要・事前申し込み→こちらから)


登壇者:酒井隆史(大阪府立大学人間社会システム研究科教授)、鈴木慎一郎(関西学院大学社会学部教授)、田中東子(大妻女子大学文学部准教授)、山本敦久(成城大学社会イノベーション学部准教授)、井上弘貴(神戸大学国際文化学研究科准教授)


主催:神戸大学国際文化学研究推進センター2017年度研究プロジェクト「ポストBrexitの文化状況――身体・都市・メディア・資本へのグローバルな影響と意味」(代表者:小笠原博毅)
後援:カルチュラル・ スタディーズ学会


内容:「ユニオンジャックに黒はない」。1970年代イギリスの極右勢力が移民排斥のスローガンとしたこの文言は同時に、「だからなんだってんだ!」というカルチュラル・スタディーズの立ち位置を鮮明に表す合言葉ともなった。原著出版後30年の時を経てついに邦訳なる! ディアスポラの響きに誰よりも寄り添ってきた鈴木慎一郎氏と、近代資本主義を地べたから検証している酒井隆史氏をゲストに迎え、訳者3名と徹底的に討論する。


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メモ(29)

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「新文化」2017年11月1日付記事「丸善ジュンク堂書店、工藤恭孝社長と岡充孝副社長が辞任」に曰く「10月25日に行われた臨時株主総会および取締役会で承認され、11月1日に発表した。両氏は取締役を退任してそれぞれ会長、副会長に、同社取締役だった嶋崎富士雄氏(文教堂グループホールディングス社長)も退任した。中川清貴取締役が社長に、大越久成取締役が常務に昇任、岡山好和氏、五味英隆氏、杉本昌嗣氏が取締役に新任。監査役だった野村育弘氏も取締役に就いた」と。


「文化通信」2017年11月1日付記事「丸善ジュンク堂書店、工藤社長が退任」では「新社長に就任した中川取締役はDNPの常務執行役員。このほか、大越久成取締役が常務取締役に就任、岡山好和営業本部長、野村育弘監査役、五味英隆氏が取締役に新任した。ジュンク堂書店を1976年に創業して以来、トップとしてジュンク堂を率いてきた工藤氏は経営の第1線から退くことになる」と。


「新文化」記事では続けて「11月1日付で東日本営業部と西日本営業部を新設。池袋本店の中村洋司店長と京都本店の西川仁店長が両部の部長を兼務する。/丸善ジュンク堂書店営業本部のもとで店舗運営を担う(株)淳久堂書店においても同日付で、工藤社長と岡副社長が退任した。中川清貴氏が新社長に就任。また、毛利聡、中村洋司、西川仁、船木照道、杉本昌嗣の5氏が取締役に新任した」とあります。


岡さんのコメントは以下の通り。「2014年度から赤字決算を続けていました。決算期は1月で、株主総会は従来4月に行っていますが、こういうことは早い方がよいと思いました」(「新文化」)。「昨期までの厳しい売上、利益状況から脱し、黒字化への道筋に目処がつきつつあります。が、創業期からの現体制は、全国90店舗を数える会社の規模からみても、もはや限界であるのは明らかです。さらなる会社発展のためには、次世代の体制作りが急務であろうと考えました。また好機でもあろうと思います」(「文化通信」)。


2014年は大阪屋が新会社へ以降した年で、その翌年(2015年)には栗田出版販売が民事再生法適用申請、翌々年(2016年)には太洋社が倒産し、大阪屋と栗田が統合しました。今回の退任劇は、DNP傘下書店である丸善、ジュンク堂、文教堂のみが抱える問題ではなく、どの書店でもここ3年間は正念場だったと言えます。潮目とも言うべき象徴的な変化であり、本年末から来年にかけてさらなる変動が現れるものと想像できます。一言で言えば、合理化による負の嵐です。従業員の支えきれる限界を超えた時、いかなる組織でも瓦解が始まります。


マチナカ書店だけでなくチェーン書店も減少し、書店への大量配本に売上を頼っているタイプの版元や、そうした取引先を抱える取次は、配本先を確保できずに経営が脆弱になるでしょう。そのあおりを食らって、印刷製本会社は減少するでしょうし、製造と流通のインフラがやせ細れば、中小版元はいよいよ不安定な状況に陥る可能性が増します。ひるがえってパターン配本への依存度が高いタイプの書店は、取次や版元の弱体化の影響を受けて方向性を失うでしょう。出版業界での雇用はますます流動的になり、労働環境は今以上にブラック化するものと思われます。うまく逃げ切って勤め上げた世代とそうでない世代の格差はいよいよ深刻になり、業界の現状にそぐわない政治力学的な議論がいたずらに交わされて、言論そのものも空転するでしょう。


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【11月2日追記】コメント欄だけでなくメールでもご感想やご意見を頂戴しています。御礼申し上げます。あえて書かずにいたことを図らずも補足しなければならなくなる機会を得ることは、幸運とも不運とも言えるでしょうか。


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注目新刊:ドゥルーズ/ガタリ『カフカ』新訳版刊行、ほか

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『カフカ――マイナー文学のために〈新訳〉』ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリ著、宇野邦一訳、法政大学出版局、2017年10月、本体2,700円、四六判上製218頁、ISBN978-4-588-01068-2
『哲学のプラグマティズム的転回』リチャード・J・バーンスタイン著、廣瀬覚/佐藤駿訳、岩波書店、2017年10月、本体3,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-00-024057-4
『科学の本質と多様性』ジル=ガストン・グランジェ著、松田克進/三宅岳史/中村大介訳、文庫クセジュ:白水社、2017年10月、本体1,200円、新書判並製176頁、ISBN978-4-560-51016-2



★新訳『カフカ』は、1978年に叢書ウニベルシタスの第85番として刊行された旧訳(宇波彰/岩田行一訳)以来の、待望の新訳。原著は『Kafka: Pour une littérature mineure』(Minuit, 1975)です。新訳と旧訳の章題節題の比較を列記します。



新訳|旧訳
第1章 内容と表現|内容と表現
 うなだれた頭、もたげた頭|うなだれた頭、挙げられた頭
 写真、音|写真・音
第2章 太りすぎのオイディプス|ふとりすぎのオイディプス
 二重の乗り越え――社会的三角形、動物になること|二重の超越――社会的三角形、動物への変身
第3章 マイナー文学|マイナー文学とは何か
 言葉|言語
 政治|政治
 集団|集団的なもの
第4章 表現の構成要素|表現の構成要素
 愛の手紙と悪魔の契約|愛の手紙と悪魔の契約
 短編小説と動物になること|物語と動物への変化
 長編小説と機械状アレンジメント|長篇小説と機械状鎖列
第5章 内在性と欲望|内在と欲求
 法、罪悪性等々に抗して|法に対する違反、罪など
 過程──隣接的なもの、連続的なもの、無制限なもの|プロセス、隣接・連続・無限定
第6章 系列の増殖|セリーの増殖
 権力の問題|権力の問題
 欲望、切片、線|欲求・分節・線
第7章 連結器|連結器
 女性と芸術家|女たちと芸術家
 芸術の反美学主義|芸術の反=美的主義
第8章 ブロック、系列、強度|ブロック・セリー・強度
 カフカによる建築の二つの状態|カフカによる構築物の二つの状態
 もろもろのブロック、それらの異なる形式と長編小説の構成|ブロック、そのさまざまなかたちと長篇小説の構成
 マニエリズム|マニエリスム
第9章 アレンジメントとは何か|鎖列とは何か
 言表と欲望、表現と内容|言表と欲求、表現と内容


★旧訳では巻末に訳者あとがきと、宇波さんによる論考「カフカの表現機械」が付録として納められていました。新訳では長めの訳者あとがきのみです。宇野さんの訳者あとがきの節題も列記しておくと、1「読みの転換」、2「アンチ・オイディプスとしてのカフカ」、3「リゾーム、強度、マイノリティ」、4「アレンジメントのほうへ」、5「ガタリのプロジェクト」、6「ベンヤミンとカネッティ」の全6節です。「『アンチ・オイディプス』と『千のプラトー』のあいだに刊行された『カフカ』は他の二冊とともに確かに三部作を構成するといえる。〔・・・〕このカフカ論のめざましい発見と、すさまじい思考の生気〔・・・〕カフカ自身の書いたテクストを〈名作〉の囲いから引きずりだし、生々しく蠕動する現在の〈過程〉そのものとして読み直すことを、いまもこの本はうながしているはずだ」と宇野さんは評しておられます。『カフカ』はその独特な言葉遣いと自在な論理展開によって難解とも見える論考ですが、著者二人の思考の中核的主題が次々に現れる非常に濃密なテクストであるだけに、新訳によって新たな読解の鍵が示されたことは読者にとって幸運だと言えるのではないでしょうか。


★『哲学のプラグマティズム的転回』は、アメリカの哲学者バーンスタイン(Richard J. Bernstein, 1932-)による『The pragmatic turn』(Polity, 2010)の全訳です。ローティ夫妻への献辞がある本書では、「プラグマティストたちとともに50余年を生きてきた者として、彼らから学んだことを読者と分かち合うのが狙い」(まえがきより)とされており、以下通り全9章立てとなっています。第一章「パースのデカルト主義批判」、第二章「ジェイムズのプラグマティックな多元主義と倫理的帰結」、第三章「デューイの根源的民主主義のヴィジョン」、第四章「ヘーゲルとプラグマティズム」、第五章「プラグマティズム・客観性・真理」、第六章「経験が意味するもの――言語論的転回のあとで」、第七章「ヒラリー・パットナム――事実と価値の絡み合い」、第八章「ユルゲン・ハーバマスのカント的プラグマティズム」、第九章「リチャード・ローティのディープ・ヒューマニズム」。


★訳者あとがきにはこう書かれています。「いわば新旧のプラグマティストとの対話という体裁で編まれた本書は、著者自身がプラグマティズムの歴史を綴ったものではないと断りながらも、“プラグマティズムの衰亡と分析哲学の台頭”という従来の「物語」を刷新し、米国の哲学について「より精妙で入り組んだ」物語を語る流れに掉さすものとなっている」。なお、バーンスタインの訳書は本書で4点目。既刊書には以下の3点4冊があります。『科学・解釈学・実践――客観主義と相対主義を超えて』(全2巻、丸山高司/木岡伸夫/品川哲彦/水谷雅彦訳、岩波書店、1990年、品切;Beyond Objectivism and Relativism: Science, Hermeneutics, and Praxis, University of Pennsylvania Press, 1983)、『手すりなき思考――現代思想の倫理-政治的地平』(谷徹/谷優訳、産業図書、1997年;The New Constellation: The Ethical-Political Horizons of Modernity/Postmodernity, Polity, 1991)、『根源悪の系譜――カントからアーレントまで』(阿部ふく子/後藤正英/齋藤直樹/菅原潤/田口茂訳、法政大学出版局、2013年;Radical Evil: A Philosophical Interrogation, Polity, 2002)。


★『科学の本質と多様性』は『La science et les sciences』(初版1993年;第二版1995年)の全訳。『理性』(山村直資訳、文庫クセジュ、1956年)、『哲学的認識のために』 (植木哲也訳、法政大学出版局、1996年)に続く、フランスの科学哲学者グランジェ(Gilles-Gaston Granger, 1920-2016)の久しぶりの訳書です。訳者あとがきに曰く「本書は、「科学とは何か」というきわめて大きな問題を巡るほぼ半世紀にわたる著者の議論のエッセンスを、数式等のテクニカルな論述を用いずに分かりやすく記述したものである」と。「「科学の時代」の諸問題」「科学的知識と技術知の相違」「方法の多様性と目標の統一性」「形式科学と経験科学」「自然科学と人間科学」「科学的真理の進歩」の全6章立て。よく詳しくは書名のリンク先をご覧ください。


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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『心理学と錬金術 Ⅰ 新装版』C・G・ユング著、池田紘一/鎌田道生訳、人文書院、2017年11月、本体4,200円、A5判上製326頁、ISBN978-4-409-33055-5
『心理学と錬金術 Ⅱ 新装版』C・G・ユング著、池田紘一/鎌田道生訳、人文書院、2017年11月、本体4,700円、A5判上製404頁、ISBN978-4-409-33056-2
『フトゥーワ――イスラームの騎士道精神』アブー・アブドゥッラフマーン・スラミー著、中田考監訳、山本直輝訳、作品社、2017年11月、本体2,200円、46判上製192頁、ISBN 978-4-86182-649-8



★ユング『心理学と錬金術』2巻本は、新装復刊。初版は1976年のロングセラーで、ユングの代表作である1944年の大著『Psychologie und Alchemie』の全訳です。底本は1951年の第2版。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。原著は全1巻ですが訳本では2分冊です。第Ⅰ巻は第一部「錬金術に見られる宗教心理学的問題」と第二部「個体化過程の夢象徴」を収め、第Ⅱ巻では第三部「錬金術における救済表象」が収められています。図版は全部で270葉。「キリスト教文明と意識・自我万能の西洋合理主義の蔭に、地下水として古代以来連綿と命脈を保ち続け、現代という危機の時代において無意識の諸問題として前面に現れ出てきたところの隠された心の歴史」(訳者あとがきより)をめぐる本書は、脳や心の科学的研究が進展してもなお割り切れないものを残す不可解な〈深み〉を見つめようとする時、何度でも読み直されるのではないかと思われます。


★『フトゥーワ』は帯文に曰く「イスラーム版『武士道』、初翻訳」と。著者のアブー・アブドゥッラフマーン・スラミー(937-1021)はイランのハディース学者。訳者によれば「フトゥーワ」とはアラビア語でもともと「若々しさ」や「漢気(おとこぎ)」を意味するとのことで「弱いものを助け、気前よく振る舞い、名誉を重んずることを良しとする生き方を意味」しているとのことです。イスラーム教における礼節と自己鍛錬、精神修養を端的に教えるもので、たいていは短いアフォリズムのような形式をとり、フトゥーワの何たるかが様々な表現で簡潔に示されたあと、聖典やスーフィーの先師たちの言葉などによる例証が続きます。非常に興味深い一冊です。以下に目次を列記しておきます。


はじめに:『フトゥーワ』邦訳に寄せて(レジェブ・シェンチュルク:イブン・ハルドゥーン大学学長)
フトゥーワ
 第一章「家族、同胞と共に生きること」
 第二章「己を鍛えること」
 第三章「全てをゆだねること」
 第四章「尽くすこと」
 第五章「恩寵のもとに」
解説:『フトゥーワ』とは何か?(山本直輝)
解説:西洋の騎士道と「フトゥーワ」について(中田考)


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「共同通信」配信記事に『ユニオンジャック~』の書評

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「共同通信」より弊社8月刊『ユニオンジャックに黒はない』の書評が配信されています。「河北新報」では10月1日付読書欄の「新刊抄」に掲載されました。「英国の文化研究の対価が現代の人種問題の構造を分析した1980年代の古典的著作の初訳英国の人種暴動を素材に、差別への多様な抵抗を新たな社会運動と位置付け、国民意識との対抗構造を徹底分析する。/その考察が、英国での刊行から30年を経た今も古びていないことは驚きだ」と評していただいています。




過去記事整理:1年前の月曜社刊行書籍

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◎2016年11月11日発売:森山大道×鈴木一誌『絶対平面都市』 本体2,750円
紹介記事1⇒「東奥日報」2016年12月16日付など
短評⇒「週刊読書人」2016年12月16日号「2016年の収穫 41人へのアンケート」神藏美子氏
紹介記事2⇒『アイデア』No.360(2017.1)「book」欄
書評1⇒上野昂志氏書評「急かされ。考えさせられる」(『キネマ旬報』2017年2月上旬号「映画・書評」欄)
書評2⇒大竹昭子氏書評(『朝日新聞』2017年1月22日付「読書」欄)
書評3⇒小原真史氏書評「奇妙なダイアローグ 優れた森山大道論であり写真論」(「週刊読書人」2017年2月10日号)
書評4⇒土肥寿郎氏書評「写真の本質 対話重ね迫る」(『北海道新聞』2017年2月12日付「本の森」欄)

◎2016年9月2日発売:森山大道『Osaka』本体3,500円


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トップに掲げた固定エントリー内の「出版=書店業界情報:リンクまとめ」にある以下の文章を削除しました。事情は大して変わっていませんが、昔よりかはコメントするようになったためです。


日々この業界ではたくさんの出来事が起こっていて、それぞれにコメントしたい気もするし、実際言うべきこともままあるのですが、出来事に振り回されるのは嫌だし、こみいった背景をうまく説明できなかったり、しがらみのせいではっきり言えなかったりするのが現実なので、出来事情報は下記のリンクを随時ご参照下さいませ。


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「読売新聞」11月7日付朝刊に『最後の場所』紹介記事

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「読売新聞」2017年11月7日付朝刊に、今月の弊社新刊、南嶌宏美術評論集『最後の場所』の紹介記事「南嶌宏さんの美術評論集刊行」が掲載されています。「南嶌さんが伝えたかったのは、個々の作品の良しあしや解釈よりも、美術の存在意義といった根本的なことであることがうかがえる」と評していただいています。




中沢研×星野太トークイベント@青山BC本店

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★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
2017年12月8日 (金) に、表参道の青山ブックセンター本店にて行われる、『Ken NAKAZAWA』(赤々舎) 刊行記念のトークイベントにご出演されます。


◎中沢研 × 星野太 トークイベント


日程:2017年12月8日 (金) 19:15~20:45 (開場18:45~)
料金:1,350円(税込)
定員:50名様
会場:青山ブックセンター本店内 小教室
お問合せ先:青山ブックセンター本店 電話03-5485-5511(受付時間10:00~22:00)


内容:初の作品集『Ken NAKAZAWA』が赤々舎から出版された、美術家の中沢研さん。針金やテグスなど視覚的ヴォリュームが希薄な素材を用い、展示空間に呼応したインスタレーションを制作する作家として、国内外で高い評価を得ています。今回は『Ken NAKAZAWA』刊行を記念して、本書にテキストを寄稿した哲学者・星野太さんとのトークイベントを開催します。星野さんは今年2月に初の単著『崇高の修辞学』を刊行。美学・哲学・芸術学にわたる崇高論を展開し、今注目される気鋭の哲学者として活躍しています。お二人には一冊の作品集を通し、中沢作品を存分に語り合っていただきます。対話から見えてくる中沢研の世界にどうぞご期待ください。


中沢研(なかざわ・けん)1970年、東京都生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了。主な展覧会に「中沢研展」(アンドーギャラリー、東京/2008〜2017)、「MOTアニュアル1999 ひそやかなラディカリズム」(東京都現代美術館)、「横浜トリエンナーレ2001」(パシフィコ横浜)、「on paper」(ギャラリー・アイゲン+アート ラボ、ドイツ/2013)などがある。

星野太(ほしの・ふとし)1983年生まれ。美学、表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、金沢美術工芸大学講師。著書に『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)、共著に『コンテンポラリー・アート・セオリー』(イオスアートブックス、2013年)、訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で』(共訳、人文書院、2016年)などがある。


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注目新刊:『文化・階級・卓越化』青弓社、ほか

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『文化・階級・卓越化』トニー・ベネット/マイク・サヴィジ/エリザベス・シルヴァ/アラン・ワード/モデスト・ガヨ=カル/デイヴィッド・ライト著、磯直樹/香川めい/森田次朗/知念渉/相澤真一訳、青弓社、2017年10月、本体6,000円、A5判上製560頁、ISBN978-4-7872-3425-4
『世界を揺るがした10日間』ジョン・リード著、伊藤真訳、光文社古典新訳文庫、2017年11月、本体1,540円、748頁、ISBN978-4-334-75365-8
『社会分業論』エミール・デュルケーム著、田原音和訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,800円、800頁、ISBN978-4-480-09831-3
『鏡の背面――人間的認識の自然誌的考察』コンラート・ローレンツ著、谷口茂訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,600円、512頁、ISBN978-4-480-09832-0
『定本 葉隠〔全訳注〕中』山本常朝/田代陣基著、佐藤正英校訂、吉田真樹監訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,500円、528頁、ISBN978-4-480-09822-1



★『文化・階級・卓越化』は「ソシオロジー選書」の第4弾。『Culture, Class, Distinction』(Routledge, 2009)の全訳です。フランスの社会学者ブルデューの主著『ディスタンクシオン』の「問題設定・理論・方法を批判的に継承し、質問紙調査とインタビューを組み合わせた社会調査によって、2000年代以降のイギリス社会の分析に応用した」(版元紹介文より)論集です。第1部「分析の位置づけ」、第2部「嗜好・実践・個人のマッピング」、第3部「文化界と文化資本の構成」、第4部「卓越化の社会的次元」の全4部13章を序論と結論で挟み、「方法論的補遺」として4篇の付録が付されています。巻末にはインタヴューを受けた人々の簡単な紹介(「登場人物」)と「参考文献」「訳者解説」、そして人名と事項の二種の「索引」が付されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。文化一般のみならず出版界を考える上でも重要であり、特に第6章「人気と稀有と――読むことの界に関する探究」は必読かと思います。「われわれの質問紙調査からは、本を読むことは相対的に不人気な活動であることが明らかになった」というギクリとする一文から始まり、非常に興味深い具体的な分析が続きます。やや高額な本ですが、それだけの価値はあります。


★『世界を揺るがした10日間』は光文社古典新訳文庫の「ロシア革命100周年企画」第2弾(第1弾は先月刊行の『ロシア革命とは何か――トロツキー革命論集』森田成也訳)です。文庫で刊行された同書の訳本には、原光雄訳(上下巻、岩波文庫、1957年)、大崎平八郎訳(角川文庫、1972年)、松本正雄/村山淳彦訳(上下巻、新日本文庫、1977年)、小笠原豊樹/原暉之訳(ちくま文庫、1992年) などがあり、長く読み継がれてきたベストセラーでしたが、いずれも紙媒体では品切中。タイミングの良い新訳刊行となりました。たった100年前の話と読むのか、遠い昔の話と読むのか、読み手によって様々な感慨を呼び起こす本です。


★ちくま学芸文庫の今月新刊6点から3点のみ挙げると、『社会分業論』は『宗教生活の基本形態――オーストラリアにおけるトーテム体系』(山崎亮訳、2014年)に続く、ちくま学芸文庫でのデュルケームの訳書第2弾。親本は青木書店版「現代社会学大系」第2巻(1971年刊)で、底本はPUF版第7版(1960年刊)。文庫版解説は菊谷和宏さんによるもの。大著ですが分冊ではなく全1巻のままなのは幸いでした。 『鏡の背面』は新思索社版(1996年刊)の文庫化。巻末に「「ちくま学芸文庫」版再刊に寄せて」と題された訳者あとがきがあります。『定本 葉隠〔全訳注〕中』は「葉隠聞書」五~七を収録し、巻末解説「『葉隠』の中心思想とその問題点について――聞書六の74を手掛かりに」は岡田大助さんが執筆されています。来月発売の下巻で全三巻完結です。


★なお同文庫の今月新刊にはチラシ「ちくま学芸文庫創刊25周年フェア」が挟み込まれており、ちくま学芸文庫で読む「思想の星座」20世紀西洋編/日本編の二つのダイアグラムが掲載されています。これは同フェアのウェブサイトにも掲出されているもの。同フェアは今月から全国主要書店で順次開催し、以下の4点6冊が復刊されるとのことです。松田壽男『古代の朱』、稲田浩二編『日本の昔話』上下巻、ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』上下巻、アドルノ『プリズメン』。特にベンヤミンはこの機会を逃さない方が良いと思います。なお、先月末まで紀伊國屋書店チェーンで展開していた、紀伊國屋書店創業90年記念特別企画「知の絆を未来につなげ――河出文庫×ちくま文庫・ちくま学芸文庫合同フェア」でも復刊が行なわれており、河出文庫で、ボルヘスほか『ラテンアメリカ怪談集』鼓直編、寺山修司『青少年のための自殺学入門』の2点、ちくま文庫で荒俣宏『パラノイア創造史』、中島梓『美少年学入門』の2点、合計4点が復刊されています。オリジナルグッズプレゼントの応募期間は終了しましたが、復刊書はまだ入手可能なので、こちらも見逃すことなく購入しておきたいところです。



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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『柄谷行人書評集』柄谷行人著、読書人、2017年11月、本体3,200円、四六判上製600頁、ISBN978-4-924671-30-0
『映画時評集成 2004ー2016』伊藤洋司著、読書人、2017年11月、本体2,700円、四六判上製528頁、ISBN978-4-924671-31-7
『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』青土社、2017年11月、本体1,800円、A5判並製294頁、ISBN978-4-7917-1355-4
『ミルクとはちみつ』ルピ・クーア著、野中モモ訳、アダチプレス、2017年11月、本体1,400円、四六変型判並製208頁、ISBN978-4-908251-07-8



★書評紙「週刊読書人」で知られる株式会社読書人さんはこれまで長らく、書店新風会の年度版『棚づくりに役立つ ロングセラー目録』を発売してこられましたが、このたび自社本出版にも進出されることとなりました。その第一弾が『柄谷行人書評集』と、伊藤洋司さんの『映画時評集成 2004―2016』です。前者は「朝日新聞」に掲載された107本の書評(2005~2017年)を中心に、68年から93年に執筆された書評、作家論、文芸時評、さらに1971年から2002年に発表された文庫解説、全集解説など、単行本未収録作51本も併載され、本書のために書き下ろされた「あとがき」が付されています。書評委員となることによって「『世界史の構造』その他の著作を書くのに必要な最新の文献に継続的に目を通すことができた」と述懐しておられます。


★『映画時評集成 2004―2016』は「週刊読書人」連載「映画時評」を中心にまとめられた一書で、映画作家5氏(青山真治、黒沢清、パスカル・フェラン、ギヨーム・ブラック、ペドロ・コスタ)との対談7本、さらに映画本の回顧、青山真治さんと伊藤さんがそれぞれが選んだ「映画ベスト300」などが収録されています。蓮實重彥さんの推薦文が帯に記されています。曰く「その感覚と知性と筆力の幸運な融合を真に四っとすべき批評家が、ここに登場する」と。刊行を記念して、以下のトークイベントが今月末に予定されています。


◎『映画時評集成2004―2016』刊行記念トーク&サイン会

出演:黒沢清(映画監督)×伊藤洋司(中央大学教授・フランス文学専攻)
日時:2017年11月28日(火)19時~
場所:東京堂ホール(神保町・東京堂書店本店6階)
料金:500円(要予約:東京堂書店 03-3291-5181)


★『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』は、分析哲学ガイド、分析哲学の実践、分析哲学のハードコア、分析哲学との対話、分析哲学のハイブリディゼーション、の5部構成で、第一線に経つ20名の寄稿を読むことができる必読文献です。各論文の参考文献は、哲学思想書のご担当者ならチェックしておいて損はありません。ちなみに青土社さんは2017年10月27日(金)12:00から2017年12月27日(水)11:59まで期間限定で開催されている、楽天ブックスの「謝恩価格本フェア」(全品45%OFF)に参加されておられます。見逃せません。



★クーア『ミルクとはちみつ』はアダチプレスさんの約1年ぶりの新刊。原題は『milk and honey』で2014年刊。全米100万部のベストセラー詩集で、すでに世界30か国で翻訳されているそうです。ルピ・クーア(Rupi Kaur, 1992-)さんはインド生まれで、幼少期にカナダに移住。『ミルクとはちみつ』は2014年、彼女が21歳の時に自費出版した第一詩集で、翌2015年にはカナダの出版社Andrews McMeel Publishingから再刊されました。「傷つくこと」「愛すること」「壊れること」「癒やすこと」の全4章で、181篇の詩と92点の自筆イラストを収めています。版元さんによれば彼女は160万ものフォロワーがいる「インスタ詩人」の代表的存在なのだそうです。本書の一節「半分は刃で半分はシルク」(30頁)という言葉は、男性にとっての本書を表わす上で最適な表現のように感じます。「あなたは/絶対に/あなたの正直さを/伝わりやすさと引き換えにしてはだめ」(202頁)と彼女は書いています。先月には『太陽と花々』という第二詩集が英米語圏で発売されています。



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今月末発売:笠井叡『金鱗の鰓を取り置く術』現代思潮新社

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舞踏家でありオイリュトミストの笠井叡さんが今月末(11月27日)、現代思潮新社さんから大著『金鱗の鰓を取り置く術』をご刊行になります。「きんうろこのえらをとりおくじゅつ」と読むそうです。パンフレットには、目次詳細などの書誌情報のほか、笠井さんご自身による紹介文「「金鱗の鰓を取り置く術」のために」や、高橋巖さん、鈴木邦男さん、萩尾望都さんの推薦文が掲載されていますが、これらは書名のリンク先からご覧いただけますし、版元さんのウェブサイトの同書ニュース欄でPDFが配布されています。なお、来年1月から1年間、月1回ずつ、本書をめぐるワークショップが天使館で開催されるとのことです。詳しい日程や定員や参加費についてはリンク先でご確認いただけます。「完全に目覚めた社会意識、人間関係、国際意識を保持しつつ、「肺呼吸から鰓呼吸への変換」を、実践するためのWSです。社会活動・芸術活動・政治活動のための新しい出発」とのことです。



金鱗の鰓を取り置く術(きんうろこのえらをとりおくじゅつ)
笠井叡著
現代思潮新社 2017年11月 本体20,000円 A5判上製貼函入832頁 ISBN978-4-329-10007-8

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注目新刊:上村忠男『ヴィーコ論集成』みすず書房

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
みすず書房さんより、今月、上村さんのヴィーコ論をまとめた大冊が刊行されました。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


ヴィーコ論集成
上村忠男著
みすず書房 2017年11月 本体10,000円 A5判上製520頁 ISBN978-4-622-08665-9
カバー表4紹介文より:学問に必要なのは、認識可能なものと不可能なものを区別する原理である。主著『新しい学』を筆頭に、徹底した学問批判を展開したイタリアの哲学者ジャンバッティスタ・ヴィーコ(1668-1744)。今まさに学ぶところの多いその透徹した思考と生涯を研究してきた第一人者による長年にわたる論考を、ここに一書にする。学者としての緻密さと思想家としての奥行きを兼ね備えた、著者のヴィーコ研究の集大成。
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