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注目新刊:『HAPAX 13 パンデミック』夜光社、ほか

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『HAPAX 13 パンデミック』夜光社、2020年11月、本体1,500円、四六判変形並製208頁、ISBN978-4-906944-21-7
『緊急提言 パンデミック――寄稿とインタビュー』ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社、2020年10月、本体1,300円、46判上製128頁、ISBN978-4-309-22810-5
『命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる』ジャック・アタリ著、林昌宏/坪子理美訳、プレジデント社、2020年10月、本体2,700円、四六判上製324頁、ISBN978-4-8334-2387-8
『欲望の資本主義4――スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦:コロナ危機の本質』丸山俊一/NHK「欲望の資本主義」制作班著、東洋経済新報社、2020年10月、本体1,600円、四六判並製212頁、ISBN978-4-492-37128-2

★『HAPAX 13』は特集「パンデミック」。フランコ・ベラルディ(ビフォ)、ラウル・ヴァネーゲム、村澤真保呂、高祖岩三郎、李珍景、の各氏らによるテクストをはじめ、15篇を収録。平素の当誌らしく、状況にコミットする海外の無記名テクストも4篇収められています。なかでももっとも紙幅が咲かれているのは、江川隆男さんへのインタヴュー「哲学とは何か――パンデミックと来るべき民衆に向けて」(30~71頁)。十代から現在までの半生を音楽や読書や著書とともに振り返るもので、前口上にはこう書かれています。

★「これら〔江川氏の著書の数々〕がこの世界ではほぼ黙殺されていることは江川哲学の栄光である。今回、パンデミックを主題化するにあたり、いちはやく気象哲学の重要性を提唱してきた江川にその軌跡と核心、そして気候変動/コロナについて聞いた」(30頁)。『HAPAX』の特異性は、たとえ書き手のシグネチャーが明示されていようといまいと、つねにコレクティヴ、集団的な協働性へと開かれた場を目指そうとする試みに存するように思われます。有形無形の社会解放の運動が生成する現場へと向かう眼差し。

★『緊急提言 パンデミック』は、日本オリジナル版の一冊。「人類は新型コロナウィルスといかに闘うべきか」(タイム、2020年3月15日)、「コロナ後の世界」(フィナンシャル・タイムズ、3月20日)、「死に対する私たちの態度は変わるか?」(ザ・ガーディアン、4月20日)の3篇のエッセイに、NHK-Eテレで2020年4月25日に放送された道傳愛子氏による緊急インタヴュー「パンデミックが変える世界」を併せ、書き下ろしの序文を付したもの。「私たちが直面している最大の危険はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ」(9頁)。暴力にあふれる貧しく分裂した世界への転落危機を強く警告しています。

★『命の経済』は『L'Économie de la vie』(Fayard, 2020)をもとに、著者が最新データに基づく加筆を行ったものの全訳。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。アタリはコロナ禍以前の世界に戻ることは不可能だと述べ、「悲惨な展開も前向きな展開も等しく加速させる、残酷な促進剤」(25頁)としてパンデミックを捉えています。書名にもなっている「命の経済」とは、「パンデミックとの戦いに勝利するために必要」で「パンデミックによって必要性が明らかになった」(214頁)物事の生産と維持を推進して「命を守る」(286頁)経済政策のこと。「世界のどこであっても誰かが伝染病に感染しないことは、全員の利益なのだ」(192頁)という彼の言葉こそ「ニューノーマル時代」の標語としたいものです。

★『欲望の資本主義4』は、NHK-BS1のスペシャル番組3本「欲望の資本主義2020~日本・不確実性への挑戦~」(2020年1月3日放送)、シリーズ・コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」(4月18日放送)、同シリーズ「回復力の攻防戦」(7月5日放送)における、経済学者ジョセフ・スティグリッツと、歴史学者ニーアル・ファーガソンへのインタヴューをまとめたもの。「未公開部分も多数収録」と帯文に歌われています。ファーガソンは『憎悪の世紀』(上下巻、早川書房、2007年)で20世紀を論じましたが、今回のインタヴューでも「憎悪が再び世界や時代を支配することのないようにしなければなりません」(46頁)と強調しているのが印象的です。

★続いてまもなく発売となる新刊6点を列記します。

『柄谷行人発言集 対話篇』読書人、2020年11月、本体7,800円、A5判上製函入940頁、ISBN978-4-924671-45-4
『生き方について哲学は何が言えるか』バーナド・ウィリアムズ著、森際康友/下川潔訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09791-0
『国家と市場――国際政治経済学入門』スーザン・ストレンジ著、西川潤/佐藤元彦訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,700円、文庫判560頁、ISBN978-4-480-51014-3
『古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル』フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,350円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51015-0
『解放されたゴーレム――科学技術の不確実性について』ハリー・コリンズ/トレヴァー・ピンチ著、村上陽一郎/平川秀幸訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51022-8
『オイラー博士の素敵な数式』ポール・J・ナーイン著、小山信也訳、ちくま学芸文庫、2020年11月、本体2,000円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51020-4

★『柄谷行人発言集 対話篇』はまもなく発売。1971年から2018年に至る単行本未収録対談55篇を収録。総勢47名の対談者の名前は書名のリンク先をご覧ください。複数回登場するのは、福田和也さんが最多の3回(99年2回、2004年1回)で、そのほか6氏は2回ずつ。秋山駿さん(72年、77年)、岩井克人さん(84年、91年)、島田雅彦さん(94年、99年)、大西巨人さん(96年、2000年)、渡辺直己さん(99年、2017年)、佐藤優さん(2007年、2017年)です。柄谷さんは「あとがき」で次のように述べておられます。

★「私はこれまでに対談集を15冊も出している。しかし、今ふりかえってみると、対談は難しいものだと思う。それはインタビューではないし、褒め合いであってもいけない。かといって、アカデミックな討論のようなものでもない。無造作に見えるとしても、対談には、ある種の役割分担、筋書きのようなものがある。それは日本独特の文化なのかもしれない。たとえば漫才のように。〔…〕漫才とは、旧来の儀礼的な「萬歳」にマルクス的な弁証法が加えられたものだ。そのことが、今や〔…〕まったく忘れられている」(892~893頁)。編集担当のAさんによる力作索引(事項、文献、人名)も素晴らしい、圧倒的な大冊です。

★ちくま学芸文庫の11月新刊は5点。『生き方について哲学は何が言えるか』は、産業図書から1993年に刊行された単行本の文庫化。『Ethics and the Limits of Philosophy』(Fontana Press, 1985)の全訳で、文庫化にあたって2006年にRoutledgeから刊行された最新版を参照したとのことです。文庫版訳者あとがきによれば最新版では「本文に一部省略と最小限の訂正があり、原注には多少の補遺があった」と。これらの反映も含め、修正が多数あったとのことです。バーナド・ウィリアムズ(Sir Bernard Williams, 1929-2003)はイギリスの哲学者。訳書に『道徳的な運――哲学論集一九七三~一九八〇』(勁草書房、2019年)があります。

★『国家と市場』は、1994年に東洋経済新報社より刊行された『国際政治経済学入門――国家と市場』を文庫化したもの。書名の正副が逆になっています。原書はPinter Publishresより1988年に初版が、そして第2版が94年に出版された『States and Markets』です。底本は第2版。訳者まえがきには追加の文言はありませんが、巻末に新たに東京大学教授の鈴木一人さんによる解説「グローバル化時代の国際政治経済権力構造とは何か」が加えられています。スーザン・ストレンジ(Susan Strange, 1923-1998)は、イギリスの国際政治経済学者。文庫化された訳書に『カジノ資本主義』(岩波現代文庫、2007年)、『マッド・マネー』(岩波現代文庫、2009年)があります。

★『古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル』は、文庫オリジナルの初訳。イギリスのノンフィクション作家のフィリップ・マティザック(Philip Matyszak, 1958-)による『古代ローマ旅行ガイド』『古代アテネ旅行ガイド』に続く第3弾の文庫です。原書は『Legionary: The Roman Soldier's (Unofficial) Manual』(Thames & Hudson, 2009)。「ローマ帝国軍兵士になるためのマニュアルとして執筆された、架空のガイドブック」(カバー裏紹介文より)です。設定としてはトラヤヌス帝時代が舞台とのことで、カラーページを含む多数の写真やイラスト、豆知識などとともに、古代ローマ史を学ぶことができます。巻末には用語集、参考文献、索引があります。

★『解放されたゴーレム』は、化学同人より2001年に刊行された『迷路の中のテクノロジー』の改題文庫化。『The Golem at Large: What You Should Know about Technology』(Cambridge University Press, 1998)の全訳です。文庫化にあたり、「科学論の歴史展開とポスト・トゥルースの時代」と題された文庫版訳者あとがきが付されています。帯文に曰く「チェルノブイリ原発事故、スペースシャトル爆発、エイズ・・・7つの事例で示す科学技術の本質」。「「確実で価値中立的な知識」という素朴な科学観を退ける」(カバー裏紹介文より)科学社会学の成果です。『七つの科学事件ファイル――科学論争の顛末』(化学同人、1997年)の続編。

★『オイラー博士の素敵な数式』は「Math&Science」シリーズの新刊。2008年に日本評論社より刊行された単行本の文庫化です。原書は『Dr. Euler's Fabulous Formula: Cures Many Mathematical Ills』(Princeton University Press, 2006)。『虚数の話』(青土社、2000年)の姉妹編で、「人類が複素数の発見に至った長く苦しい道のり」(10頁)を歴史的に解説した前著で省略せざるをえなかったという数学的解説を展開したもの。文庫化にあたって訳者による「文庫版の刊行によせて」という一文が加わっており、親本での誤記誤植が改められていることが窺えます。「数学、物理学、電気工学の研究のヒント」として活用できるだろう、と訳者は本書を評価しています。


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