『西田幾多郎全集 別巻 倫理学講義ノート 宗教学講義ノート』石川県西田幾多郎記念哲学館編、岩波書店、2020年9月、本体12,000円、A5判上製函入450頁、ISBN978-4-00-092545-7
『第二帝政の国家構造とビスマルクの遺産――大衆社会とデモクラシー』C・シュミット/F・ハルトゥング/E・カウフマン著、初宿正典編訳、栗原良子/柴田尭史/瀧井一博/宮村教平訳、風行社、2020年8月、本体5,500円、A5判上製226頁、ISBN978-4-86258-130-3
『神を待ちのぞむ(須賀敦子の本棚8)』シモーヌ・ヴェイユ著、今村純子訳、河出書房新社、2020年8月、本体2,900円、46変形判上製512頁、ISBN978-4-309-61998-9
★『倫理学講義ノート 宗教学講義ノート』は『西田幾多郎全集』完結後に発見された直筆ノートを「精確に翻刻、注解、解題を付して全集の別巻として刊行する」(版元紹介文より)もの。京大に着任した1910年の「倫理学講義ノート」、1913年の「宗教学講義ノート」を収録。全集第14巻、第15巻に続く「講義ノートⅢ」に位置づけられています。巻頭口絵では直筆ノート2葉をカラーで収載。解題と後記は浅見洋さんによるもの。欧語で記されている箇所が多いこともあってか、全篇横組です。巻末に人名索引あり。月報は付属していません。
★『第二帝政の国家構造とビスマルクの遺産』は、プロイセン・ドイツ帝国の政治家ビスマルク(Otto von Bismarck, 1815-1898)が「ドイツの第二帝政の構造、その崩壊、北ドイツ連邦憲法(1867年)やドイツ帝国憲法(1871年)」(編訳者解題より)に与えた影響などを検証するための、独自のアンソロジーです。収録された4本は以下の通り。
★カール・シュミットの論考2本「第二帝政の国家構造と崩壊──軍人に対する市民の勝利」(原著1934年;栗原良子訳)、「19世紀の歴史におけるローレンツ・フォン・シュタインの地位」(原著1940年;瀧井一博訳)と、前者に対するフリッツ・ハルトゥングによる書評「第二帝政の国家構造と崩壊」(原著1935年;柴田尭史訳)、そしてユダヤ人法学者エーリヒ・カウフマン(Erich Kaufmann, 1880-1972)によるビスマルク論「帝国憲法におけるビスマルクの遺産」(原著1917年;宮村教平訳)。
★シュミット「19世紀の~」は『ユリスプルデンティア : 国際比較法制研究』第3号(ミネルヴァ書房、1993年)収録のものの再録ですが、「編訳者がごく一部に修正を施した箇所がある」と編訳者解題に特記されています。
★『神を待ちのぞむ』は、作家の須賀敦子さんの没後20周年記念出版であるシリーズ「須賀敦子の本棚」の完結篇となる第8巻。シモーヌ・ヴェイユの主著のひとつ『Attende de Dieu』1950年の、半世紀ぶりとなる新訳。既訳には田辺保/杉山毅訳(勁草書房、1967年10月)や渡辺秀訳(春秋社、1967年11月)があり、それぞれ再刊実績があります。後者は今年8月に新装版が出たばかりです。ペラン神父による序文と結び、および各テクストへのまえがき、そしてヴェイユによる手紙と論考から成ります。ペラン神父のパートは初版本を底本とし、手紙パートは1966年のファイヤール版、論考パートは2008年のガリマール版全集第4巻第1分冊を底本としているとのことです。シリーズ完結記念特別栞として、監修者の池澤夏樹さんによる「本棚の前の会話」が挟み込まれています。
★続いてまもなく発売となるちくま学芸文庫の10月新刊5点を列記します。
『中東全史――イスラーム世界の二千年』バーナード・ルイス著、白須英子訳、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体2,000円、文庫判768頁、ISBN978-4-480-51001-3
『十五年戦争小史』江口圭一著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,300円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51006-8
『バロック音楽――豊かなる生のドラマ』礒山雅著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,200円、文庫判304頁、本体1,200円、ISBN978-4-480-51007-5
『武家文化と同朋衆――生活文化史論』村井康彦著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51008-2
『内村鑑三交流事典』鈴木範久著、ちくま学芸文庫、2020年10月、本体1,300円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51009-9
★『中東全史』は英国の歴史家ルイス(Bernard Lewis, 1916-2018)によるイスラーム通史『The Middle East: 2000 Years of History from the Rise of Christianity to the Present Day』(1995年)の訳書『イスラーム世界の二千年――文明の十字路中東全史』(草思社、2001年)を改題し文庫化したもの。新たに「文庫版のための訳者あとがき あれから二十年のイスラーム世界」が付されています。訳文改訂の有無については特記がありませんが、校閲への謝辞がありますから、調整があったものと見るべきかと思われます。
★『十五年戦争小史』は歴史学者江口圭一(えぐち・けいいち:1932-2003)さんによる、満州事変から日本敗戦までの通史。親本は青木書店より1986年に刊行され、91年に新版が出た単行本です。文庫化にあたり、加藤陽子さんが解説「日本と中国の過去と未来を考えるための通史」を寄せておられます。「必ず入手して座右に置いて貰いたい本として参考文献のトップに載せ続けた思い出深い本」とのこと。
★『バロック音楽』は「バッハ研究の第一人者」である礒山雅(いそやま・ただし:1946-2018)さんが「荘厳な教会音楽や華麗なオペラ誕生の背景、伊独仏英各国の事情、作曲家たちの思考錯誤などに注目し、その歴史的意義」(版元紹介文より)を論述したもの。親本は1989年、NHKブックスの1冊として刊行されています。文庫版解説として、寺西肇さんが「バロック音楽の〈光と影〉」と題した一文を寄せておられます。
★『武家文化と同朋衆』は「室町時代、足利将軍に仕え、将軍家のサロンにおいて、茶や華、香、室内装飾などを担当した〔…〕アートディレクター的集団」(版元紹介文より)である同朋衆の実像に迫り、「同朋衆を通して武家文化の構造と特質を繰り返し考察した」(文庫版あとがきより)研究書(三一書房、1991年)を増補して文庫化したもの。2016年に発表された「室町文化と同朋衆」が補論として加わっているほか、旧版の手直しが何か所かあるとのことです。巻末に橋本雄さんによる解説「「場」と芸能の室町文化論」が付されています。
★『内村鑑三交流事典』は文庫オリジナル。序章「内村鑑三略伝」と、内村と交流のあった252名を取り上げた本章「内村山脈の人々」から成る、読む辞典です。内村鑑三年譜、巻末に人名索引あり。内村鑑三没後90年となる2020年を飾るにふさわしい労作です。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『漢字の体系』白川静著、平凡社、2020年9月、特価本体8,000円(2021年3月31日まで)/定価本体8,800円、4-6判上製函入1136頁、ISBN978-4-582-12817-8
『中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌 第3巻 かわる――生命誌からみた人間社会』中村桂子著、鷲田清一解説、藤原書店、2020年9月、本体2,800円、四六変判上製312頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-280-6
『現代思想2020年10月号 特集=コロナ時代の大学――リモート授業・9月入学制議論・授業料問題』青土社、2020年9月、本体1,500円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1404-9
★『漢字の体系』は、白川静(しらかわ・しずか、1910-2006)さんによる「文字学の締めくくり」(帯文より)となる、全編書き下ろしの「最後の字書」(同)。第一部は65の主題別に約700字、第二部は277の声符ごとに分類し約1800字を収めています。手始めに自身の名前に使われている漢字の由来や意味などを調べてみると、新しい発見があるはずです。今年いっぱいの応募締切による購入特典として、2021年の白川静カレンダーがプレゼントされるとのこと。2021年3月31日まで特価で販売。
★『かわる――生命誌からみた人間社会』は、「中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌」全8巻の第6回配本となる第3巻。「生命を基本に置く社会へ」「ライフステージ社会の提唱――生命誌の視点から」「農の力」「東日本大震災から考える」「科学と感性」の5部構成で20篇を収め、「はじめに」「あとがき」が加えられています。解説は鷲田清一さん、月報6は稲本正「理科系と文科系の垣根を越えて」、大原謙一郎「ゲノムのミネルバ」、鶴岡真弓「生命の「森羅」と「渦巻文様」、土井善晴「生命誌と家庭料理」を収録。
★『現代思想2020年10月号 特集=コロナ時代の大学』は、版元紹介文に曰く「コロナ下で引き起こされた大変動を契機に、大学の今とこれからを考える」特集号。佐藤郁哉さんと吉見俊哉さんの討議「知が越境し、交流し続けるために――大学から始める学び方改革・遊び方改革・働き方改革」をはじめ、17篇の論考を収録。『現代思想』誌は今月には11月臨時増刊号「総特集=鈴木大拙」と、11月通常号「特集=ワクチンを考える」を発売予定です。