『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[9]後期哲学』G・W・ライプニッツ著、西谷裕作/米山 優/佐々木能章訳、工作舎、2019年9月、本体9,500円、A5判上製456頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-512-2
『マクティーグ――サンフランシスコの物語』フランク・ノリス著、高野泰志訳、幻戯書房、2019年9月、本体4,000円、四六変上製502頁、ISBN978-4-86488-178-4
『独裁者のブーツ――イラストは抵抗する』ヨゼフ・チャペック著、増田幸弘/増田集編訳、共和国、2019年9月、本体2,500円、菊変型判上製180頁、ISBN978-4-907986-63-6
『靖国を問う――遺児集団参拝と強制合祀』松岡勲著、航思社、2019年9月、本体2,200円、四六判上製232頁、ISBN978-4-906738-40-3
『時宗年表』髙野修/長澤昌幸編、平凡社、2019年9月、本体4,600円、A5判上製240頁、ISBN978-4-582-70360-3
『現代思想2019年10月号 特集=コンプライアンス社会』青土社、2019年9月、本体1,400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1387-5
『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』ジョン・コルベット著、工藤遥訳、カンパニー社、2019年9月、本体1,600円、小B6判並製168頁、ISBN978-4-910065-00-7
『ヴァルター・ベンヤミン――闇を歩く批評』柿木伸之著、岩波新書、2019年9月、本体860円、新書判並製240頁、ISBN978-4-00-431797-5
『読書実録』保坂和志著、河出書房新社、2019年9月、本体1,800円、46変形判上製216頁、ISBN978-4-309-02829-3
『書くこと 生きること』ダニー・ラフェリエール著、小倉和子訳、藤原書店、2019年9月、本体2,800円、四六判上製400頁、ISBN978-4-86578-234-9
『メアリ・ビーアドと女性史――日本女性の真力を発掘した米歴史家』上村千賀子著、藤原書店、2019年9月、本体3,600円、四六上製416頁/口絵8頁、ISBN978-4-86578-241-7
『いのちの森づくり――宮脇昭 自伝』宮脇昭著、藤原書店、2019年9月、本体2,600円、四六変判上製424頁、ISBN978-4-86578-230-1
『兜太 TOTA vol.3〈特集〉キーンと兜太――俳句の国際性(Sept. 2019)』藤原書店、2019年9月、本体1,800円、A5並製200頁/カラー口絵8頁、ISBN978-4-86578-240-0
★『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[9]後期哲学』は第7回配本。「モナドロジー」(1714年、西谷裕作訳)を含む8篇(うち書簡集が3篇)が収められています。解説によれば「モナドロジー」は「ほぼ同時に書かれた「理性に基づく自然と恩寵の原理」〔同じく第9巻所収〕とともに、彼〔ライプニッツ〕の最晩年の思想を全般的かつ簡潔に示したものであり、彼の「哲学的遺著」といわれている」。「ライプニッツは、必要あるときは「予定調和論者」という筆名を使い、自分の学説を「モナドロジー」と読んだことは一度もなく、本書の草稿類も標題をもっていない。この名の由来は、1720年ケーラーがみずから作ったと思われる写本をもとにして、本書のドイツ語訳を『モナドロギーについての教説』という標題のもとに発表したことによる」(242頁)。新装版第Ⅰ期は、あと第1巻『論理学』の配本の残すのみとなりました。
★『マクティーグ』は「ルリユール叢書」の第2回配本。著者のフランク・ノリス(Frank Norris, 1870-1902)はアメリカの小説家で、訳書は何点かありますがいずれも古い書目で品切。『マクティーグ』の原書『McTeague: A Story of San Francisco』は1899年刊で、既訳に『死の谷――マクティーグ』(上下巻、石田英二/井上宗次訳、岩波文庫、1957年) があります。帯文に曰く「ゾラをも凌ぐアメリカ自然主義の最高の宿命小説。怪物シュトロハイムに映画「グリード」〔1922年〕を作らせた、ノアール文学の先駆的作品」。同時代の作家シオドア・ドライサーは本作を「偉大な小説」と讃えています。
★『独裁者のブーツ』は「チャペック(1887-1945)による、反戦/反ナチ/反ファシズムをテーマとしたイラストや諷刺画・戯画を集めた、日本語版オリジナル編集」(凡例より)。表題作の「独裁者のブーツ」(1937年)への序において、詩人であり評論家のヨゼフ・ホラはこう述べています。「いくつかの国では、知性の光があることで安心しきった国民が自分の考えをもつことに臆病になり、なにも考えずにしたがわされてきた。高い台座にある一側の独裁者のブーツを絶えず仰ぎ見てしたがっていれば、国民はなにも考えずにすむ。〔…〕当然だ。無秩序な状況では、どんな世界でも秩序について語る。国民には秩序が必要で、権力に憑依された独裁者の靴が何百万という民衆の靴に催眠術をかけ、壮大な行進を指揮する」(11頁)。「独裁者のブーツは、国民を支配下に置くがために彼らに愛国心と純血主義が欠けていると責めたて、簡単な仕事だとだまして英雄的に活躍したいという本能を食いものにしてきた」(12頁)。「時代を代表するイラストレーターは、独裁者の靴の身振りをとらえるたびに悪夢にさいなまれていたようだ。しかし、そうではない! それはチャペックの悪夢ではなく、私たちすべてに横たわる悪夢なの」だ(同頁)。
★『靖国を問う』は、高槻市の小中学校や京都・大阪の大学で教職を長らく務め、靖国合祀取消訴訟や、安倍首相参拝違憲訴訟の原告団に加わってきた松岡勲(まつおか・いさお:1944-)さんの初めての単独著。「戦争遺児の靖国集団参拝」と「靖国強制合祀と戦争体験の継承」の2部構成。「反天皇制市民1700」誌での連載が元になっているとのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「今回明らかにできたのは、戦前・戦後の遺族援護機構の継続関係、地方組織での連続性(連隊区司令部から民生部世話課への移行)だった。今後はさらに地方の遺族会結成時での戦前の人脈との関係(軍人援護会、軍隊等)について調べたい」とあとがきにあります。
★『時宗年表』は北条時宗(ときむね)の年表ではなく、踊念仏で有名な鎌倉仏教の一派、時宗(じしゅう)についての年表。開祖は一遍(いっぺん:1239-1289)。巻頭の「はしがき」によれば本書は、望月崋山編『時衆年表』(角川書店、1970年)以後の研究成果を反映させた成果とのこと。特徴として以下の3点が帯(表4)に掲出されています。「この半世紀の日本史研究、時宗研究の進展を十全に反映」、「1200年代諸島から2019年4月まで、800年にわたる時宗教団関係記事を収載」、「西暦・和暦・干支・天皇・将軍を記し、浄土教関係に力点を置きつつ災害や世相など日本史関係記事も併載」。
★『現代思想2019年10月号』の特集は「コンプライアンス社会」。石戸諭さんと武田砂鉄さんによる討議「オピニオン/ファクトとどう向き合うのか――メディアとコンプライアンスの過去・現在・未来」をはじめ、20篇の論考を収録。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。デヴィッド・グレーバー「ブルシット・ジョブ現象について」(芳賀達彦/酒井隆史訳、45~52頁)はグレーバーの単著へと続くその端緒となった論考です。樫村愛子さんは「「あいちトリエンナーレ2019」におけるコンプライアンス」という論考を寄稿されています(70~75頁)。
★『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』は、アメリカの音楽批評家であり、ミュージシャン、プロデューサー、キュレーターでもあるジョン・コルベット(John Corbett, 1963-)による『A Listener's Guide to Free Improvisation』(University of Chicago Press, 2016)の訳書。附録として、音楽批評家の細田成嗣(ほそだ・なるし:1989-)さんの選書・選盤による「飽き足らない即興音楽の探索者たちのために」が付されています。訳者の工藤遥(くどう・はるか:1986-さんが運営するカンパニー社さんの書籍第一弾で、扱い書店は書名のリンク先に記載されています。リンク先では、本書に対する大友良英さん、佐々木敦さん、毛利嘉孝さんの推薦文も読むことができます。
★『ヴァルター・ベンヤミン』は広島市立大学教授の柿木伸之(かきぎ・のぶゆき:1970-)さんの初めての新書。ベンヤミン論としては『ベンヤミンの言語哲学――翻訳としての言語、想起からの歴史』(平凡社、2014年)に続くものです。「時代と斬り結ぶベンヤミンの批評的な思考は、言語、芸術、そして歴史への根底的な問いに収斂するにちがいない。これらの事柄への問いを掘り下げることは、二十一世紀の今ここにある危機を見通しながら、歴史のなかで言葉に生きる可能性を模索することであり、かつ芸術の美が生きること自体を見つめ直させる力を発揮する回路を、現代における芸術とのかかわりのうちに探ることでもある。ベンヤミンが残した書を読むことによってこそ喚起されうるこうした思考へ読者を誘うのが、本書の狙いとするところである」(20頁)。
★『読書実録』は「すばる」誌に2017年8月号から2019年3月号にかけて計4回掲載されたテクストを単行本化したもの。「筆写のはじまり」「スラム篇」「夢と芸術と現実」「バートルビーと人類の未来」の4部構成。「バートルビーと人類の未来」では弊社刊、ジョルジョ・アガンベン『バートルビー』に掲載した、アガンベンの論考、「バートルビー」の新訳、訳者の高桑和巳さんの解説、さらには私が考案した帯文まで引いていただいており、入念に考察を加えておられます。「スラム篇」でも弊社刊、ジャン・ジュネ『公然たる敵』を取り上げていただいています。写経にも似た書物の筆写は、作家の保坂さん自身の思考と分かちがたく繋がっています。「小説家にとって小説を書くことは、テーマとか思想を書くことでなく何より、日々書くことだ、お坊さんがお経を毎朝読経するのと同じことだ。〔…〕私は「読書実録」を書いたわけだが、中身は私に書き写しをさせた文が次の文を呼び寄せた。/書き写しをしているとかつて読んだ文が活性化するのだ、ただ目と頭だけで読むのより書き写しをする方が文が文を呼び起こす、記憶のどこかに仕舞い込まれていた文が新しい力を得て、出たくてうずうずする。/するとそれは、人間の肯定になった」(208頁)。
★『書くこと 生きること』はハイチに生まれカナダで活躍する作家ダニー・ラフェリエール(Dany Laferrière, 1953-)の自伝的インタヴュー『J'écris comme je vis. Entretien avec Bernard Magnier』(La passe du vent, 2000)の全訳。ジャーナリストのベルナール・マニエとの対談。原題は直訳すると「僕は生きるように書く」。「生いたち」「読書という体験」「書くこと」「「ぼく」って?」といったパートに分かれ、「ラファリエールの著作の全容を的確に把握したうえで、彼の生い立ちに始まり、身内のこと、ハイチ社会について、移民の境遇、豊富な読書体験、作家生活、そして執筆にまつわる逸話にいたるまで、じつに多岐にわたる内容」が語られている、と訳者の小倉さんは評価しておられます。
★『メアリ・ビーアドと女性史』は、アメリカの歴史家であり、「アメリカ女性史研究のパイオニア」(まえがきより)である、メアリ・ビーアド(Mary Ritter Beard, 1876-1958)をめぐる「決定版評伝」(帯文より)。「メアリ・ビーアドの形成」「歴史を書く――女性史研究の先駆者として」「戦後日本とメアリ・ビーアド」の3部構成。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。リンク先では訂正表のPDFも公開中。著者の上村千賀子(うえむら・ちかこ:1942-)さんは群馬大学名誉教授で、『女性解放をめぐる占領政策』(勁草書房、2007年)などの著書があります。
★『いのちの森づくり』は副題にある通り、宮脇昭(みやわき・あきら:1928-)さんの自伝。2013年12月から2014年2月にかけて「神奈川新聞」に全63回にわたり連載された「わが人生」に大幅加筆修正を施して第Ⅰ部として収録し、第Ⅱ部には一志治夫さんによる「詳伝年譜(1980年~)」を配し、第Ⅲ部には2008年9月にパレスホテルで行われた講演の要旨をもとに加筆修正した「日本の森を蘇らせるため、今私たちにできること」が収録されています。「日本全国の植生調査に基づく浩瀚の書『日本植生誌』全10巻〔至文堂〕に至る歩みと、“鎮守の森”の発見、熱帯雨林はじめ世界各国での、土地に根ざした森づくりを成功させた“宮脇方式での森づくり”の軌跡」(帯文より)。
★『兜太 TOTA vol.3』の特集は「キーンと兜太――俳句の国際性」。同誌の編集顧問を務められていたドナルド・キーンさんが、今年2月に他界されたことを受け、キーンさんと金子兜太さんの交流を辿り直しつつ、「俳句を世界に開いていくための手がかりを考え」ようという試み(巻頭言より)。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。
+++