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注目新刊:『現代思想2019年1月号 特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ』ほか

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a0018105_23073635.jpg『現代思想2019年1月号 特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ』青土社、2018年12月、本体1,700円、A5判並製310頁、ISBN978-4-7917-1375-2
『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里著、角川書店、2018年12月、四六判並製272頁、ISBN978-4-04-400212-1
『人文学の論理――五つの論考』エルンスト・カッシーラー著、齊藤伸訳、知泉書館、2018年12月、本体3,200円、4-6判上製246頁、ISBN978-4-86825-287-8


★「現代思想」誌は近年では創刊40周年となる2013年1月号に「特集=現代思想の総展望」を年頭に組み、その後、2014年1月号「特集=現代思想の転回2014:ポスト・ポスト構造主義へ」、2015年1月号「特集=現代思想の新展開2015:思弁的実在論と新しい唯物論」、2016年1月号「特集=ポスト現代思想」、2017年1月号「特集=トランプ以後の世界」、2018年1月号「特集=現代思想の総展望2018」、2019年1月号「特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ」と続いています。「現代思想の総展望」は創刊号である1973年1月号の特集名でもあり、1974年1月号「全頁特集=現代思想の総展望'74」、1979年12月号「特集=現代思想の総展望」、1983年1月号「特集=現代思想の総展望'83」と受け継がれていきます。


★2013年以降の1月特集号はいわば年末年始のまとめであり、版元営業マンにせよ書店員にせよ司書にせよ読者にせよ最低限この号だけはチェックしておくべきものです。最新版である「ポスト・ヒューマニティーズ」は同名のブックフェアが大型書店で開催されている通り、人文書なかんずく哲学思想書の最前線を書棚において視覚化する試みに資するものとなっています。特に飯盛元章さんによる「ポスト・ヒューマニティーズの思想地図と小事典」はキーワード、キーパーソンに加え人物相関図が付されており、分類や棚編集に関わっている人々にとって参考になるはずです。


★巻頭の討議、小泉義之/千葉雅也/仲山ひふみ「思弁的実在論「以後」とトランプ時代の諸問題」は、同じく千葉さんが参加しておられる鼎談本、千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』とともにひもとくのが良いかと思います。共通点は千葉さんの上着や司会者としての立場という以上に、次の発言に表れていると感じます。「旧来的な人文主義を引き継ぐということに対して、何か齟齬を来すような理論的方向性が出てきている。それは現状ではアカデミズムとぶつかるかもしれないが、今後のアカデミズムはそういうものをむしろ養分にしていくのかもしれない」(26頁)。


★いっぽう『欲望会議』の最後の方で千葉さんは、文化におけるそうした齟齬の消極的な側面を次のように分析しています。「20世紀を通して、ありとあらゆるジャンルでほとんどのパターンが出尽くしてしまい、もはや新しいものを作れなくなっている。すでにあるもののアレンジにしかならない状況になって、その中で育ってきている人たちは、新しいものをつくるという意識がほとんどないというか、昔の素材をシャッフルしてどうにかなるみたいな感じになっていると思うんですよね」(266頁)。「その状況と、身体の境界をつくりだせないということは、たぶんつながっているんです。あらゆる文化ネタが、もう出尽くしてしまったということと、みんなが共感の時代になっているということは、たぶんイコールだと思う。要するに、未知がないわけですよ。新しいコンテンツがないというのもそうだし、「他者」という新しいコンテンツもないんですよ」(267頁)。


★「現代人は、かつての、つまり20世紀までの人間から、何か深いレベルでの変化を遂げつつあるのではないか」(序、7頁)という千葉さんの仮説は、千葉さん以前にも様々な論者が主張してきたことです。しかし、だからと言ってその内容が凡庸であるわけではありません。人間の変容にはそれだけ長い時間がかかるし、人間はそもそも変化し続けているということを意味しているでしょう。書店や図書館ではいかなる新刊も従来の分類に立て分けようとせざるをえないわけですが、そこからはみだしていくコンテンツによって分類は定義し直されなければならないし、必要とあれば暫定的な新しいラベルを作成することも重要です。新たな人間像が、従来の人間像を見る視点からは捉えられないものなのかどうかについては、人間どうしの様々な差異や、人間と動物、人間と機械の境界が少しずつ書き換えられつつある「非人間化」の現在においては、困難な問いであることでしょう。


★その点、カッシーラーが示唆した文化学(もしくは人間学)としての人文学は、人間の変化を見とどける長距離の射程を意識しているように思われます。1942年に公刊された『Zur Logik der Kulturwissenschaften. Fünf Studien』の新訳『人文学の論理』においてカッシーラーはこう述べています。「或る主観が――そこで問題となるものが或る個人であれ、或る時代の全体であれ――他の主観のなかへと解消され、それにまったく献身すべく我を忘れる用意ができているときにはいつも、新たな、いっそう深い意味で自分自身を発見するのである」(173~174頁)。『人文学の論理』はかつて『人文科学の論理――五つの試論』(中村正雄訳、創文社、1976年)として日本でも親しまれてきました。カッシーラーの「シンボル形式の哲学」が提示する総合的な人間理解がその真価を問われるのはむしろ21世紀においてなのかもしれないと感じます。


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★続いて、まもなく発売となるちくま学芸文庫5点をご紹介します。


『インドの思想』川崎信定著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、240頁、ISBN978-4-480-09872-6
『増補 死者の救済史――供養と憑依の宗教学』池上良正著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09899-3
『ラーメンの誕生』岡田哲著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09900-6
『現代の初等幾何学』赤攝也著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、192頁、ISBN978-4-480-09897-9
『不思議な数eの物語』E・マオール著、伊理由美訳、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,500円、400頁、ISBN978-4-480-09908-2


★『インドの思想』は1993年に放送大学教育振興会より刊行された単行本の再刊。巻末に文庫版あとがきが加えられています。「長い歴史を持ち、多くの異なった民族からなり、異なった伝統文化を併存させる国インドでは、日本人には想像できないほど、人々の考え方の振幅も大きいのです。そしてそれだけにインドは、豊かな精神的伝統を持った国でもあるのです」(3~4頁)。


★『増補 死者の救済史』は、2003年に刊行された角川選書版の増補文庫化。親本に対する書評への応答として発表された「靖国信仰の個人性」(2006年/2008年)が改稿されて補論として巻末に収められ、さらに文庫版あとがきが追加されています。「祭神への「つつしみ」や「敬意」とは、決してそれを一括して「殉国の英雄」として褒め称えることでも、「侵略戦争の犠牲者」として同情することでもない。〔…〕246万の英霊というとき、そこには246万通りの死があり、246万の生の軌跡があり、246万組の遺族がいたのだ。この当たり前の事実に冷静に立ち返ることが、今こそ重要になっていると思う」(補論、334頁)。


★『ラーメンの誕生』は2002年刊のちくま新書からのスイッチ。「ラーメンは、いつ頃、どこで、誰が創作したものなのか。たくさんの資料を収集し調べてみたが、万民が認めるようなルーツの特定はできない。なかなかの難問なのである。札幌説・東京説・横浜説など、ご当地をルーツとするさまざまなエピソードがある。〔…〕このことは、例えば、そば切りの起源に、信濃説・甲州説・塩尻説などがあり、決定的な資料が発掘されない限り、優劣がつけにくいのに似ている」(20頁)。


★『現代の初等幾何学』は1988年に日本評論社から刊行された単行本の再刊。巻頭に「文庫化に際して」、巻末に「文庫版付記」が追加されています。「本書は初頭幾何への入門書であると同時に教科書でもある。これまでの幾何の本の多くは、率直にいえば問題集であって、数学書とは言えない。/それに反し、本書は問題が解けるようになるまでを懇切に説明している」(3頁)。「数学の本質は有限論理主義なのである」(186頁)。


★『不思議な数eの物語』は1999年に岩波書店より刊行された単行本の再刊。原書は『e:The Story of a Number』(Princeton University Press, 1994)で、底本は若干の追補と変更が施された1998年版です。訳者は2013年に逝去されており、新たな訳者あとがきや解説は付されていません。「ネーピア〔John Napier, 1550-1617〕および自然対数の底eを主役にしたまとまった解説書としては、1994年刊行の本書が世界最初のものであろう」と訳者あとがきに帰されています。


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★最後に最近出会った新刊を列記します。


『ナーブルスィー神秘哲学集成』アブドゥルガニー・ナーブルスィー著、山本直輝訳、中田考監訳、作品社、2018年12月、本体4,800円、A5判上製336頁、ISBN978-4-86182-730-3
『アメリカ侵略全史――第2次大戦後の米軍・CIAによる軍事介入・政治工作・テロ・暗殺』ウィリアム・ブルム著、益岡賢/大矢健/いけだよしこ訳、作品社、2018年11月、本体3,800円、A5判並製726頁、ISBN978-4-86182-689-4
『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』スーザン・ソンタグ著、管啓次郎/波戸岡景太訳、河出書房新社、2018年12月、本体3,000円、46変形判並製368頁、ISBN978-4-309-20762-9
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン著、斎藤真理子訳、河出書房新社、2018年12月、本体2,000円、46変形判上製192頁、ISBN978-4-309-20760-5



★『ナーブルスィー神秘哲学集成』は、18世紀オスマン朝シリアのスーフィー思想家アブドゥルガニー・ナーブルスィー(1641-1731)の神秘哲学にかんする著作2点、「存在の唯一性の意味の指示対象の解明」と「イスラームの本質とその秘儀」全7章の日本語訳を収めた、本邦初訳の貴重な一冊。巻頭に監訳者による序「末法の神学――存在一性論とは?」、巻末に訳者解説「ナーブルスィーとその思想」を配しています。


★『アメリカ侵略全史』は『Killing Hope: U.S. Military and C.I.A. Interventions since World War II』(Zed Books, 2014)の全訳。原著初版は『CIA:忘れられた歴史』という書名で刊行され、その後大幅な増補改訂版が1995年に刊行。さらに2000年、2003年と改訂版が上梓され、2014年には最新版(アップデート版)が出版されています。「米国が第二次世界大戦後に世界中で行った政治的・軍事的介入の包括的な記録」(訳者あとがき、708頁)であり、大著ながら世界10か国で翻訳されているとのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本に関する記述は本文にはありませんが、益岡賢さんによる訳者あとがき「世界と日本の「本当の戦後史」を知るために」では言及があります。ちなみに著者の既訳書『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003年)第18章「選挙操作」ではCIAが1958年から70年代にわたって国政選挙において自民党に資金援助してきたことが暴かれています。なお著者ブルム(William Blum, 1933-2018)は先月亡くなっています。閑却しえない重要書です。



★『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』は、川口喬一訳『ラディカルな意志のスタイル』(晶文社、1974年)以来の新訳。原著『Styles of Radical Will』は1969年刊。共訳者の波戸岡さんのブログ記事によれば「[完全版]と銘打っているのは、日本では分冊となっていた「ハノイへの旅」(『ハノイで考えたこと』〔邦高忠二訳、晶文社、1969年〕)と、いずれの訳書にも未収録の「アメリカで起こっていること」が、原書通りの位置〔第Ⅲ部〕に収まっていることに由来します」。管さんの訳者あとがきによれば、旧訳『ラディカルな意志のスタイル』が収めている第Ⅰ部と第Ⅱ部の新訳を管さんが担当し、第Ⅲ部の2篇を波戸岡さんが担当されたとのことです。目次を以下に転記しておきます。




沈黙の美学
ポルノグラフィ的想像力
みずからに抗って考えること――シオランをめぐって

演劇と映画
ベルイマンの『仮面/ペルソナ』
ゴダール

アメリカで起こっていること
ハノイへの旅
訳者解説「解釈者から訪問者へ――ソンタグ・リポートの使用法」(波戸岡景太)
訳者あとがき(管啓次郎)


★『すべての、白いものたちの』は、2016年に上梓された『흰(The White Book)』の訳書。著者のハン・ガン(韓江、Han Kang:1970-)は韓国の作家で、これまでにブッカー賞受賞作の『菜食主義者』(きむふな訳、クオン、2011年)を含む4点の訳書があります。今回の新刊が5点目。書き出しはこうです。「白いものについて書こうと決めた。春。そのとき私が最初にやったのは、目録を作ることだった。/おくるみ/うぶぎ/しお/ゆき/こおり/つき/こめ/なみ/はくもくれん/しろいとり/しろくわらう/はくし/しろいいぬ/はくはつ/壽衣」(7~8頁)。ページの白さに変化があることに気づいて目を凝らしてみると、本文が5種類の白い紙に刷られていることが分かりました。驚くべき繊細な美しさ。「汚されても、汚れてもなお、白いものを。/ただ白くあるだけのものを、あなたに託す」(48頁)。装幀は佐々木暁さんによるものです(ソンタグの新刊も佐々木さんによるもので、こちらも白を基調としてデザインが際立っています)。イ・ランさんによる本書への書評「友達に代わっての生活」が明日発売となる『文藝 2019年春季号』に掲載されています。



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