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注目新刊:F・G・ユンガー『技術の完成』人文書院、ほか

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a0018105_03322095.jpg『技術の完成』フリードリヒ・ゲオルク・ユンガー著、今井敦/桐原隆弘/中島邦雄監訳、F・G・ユンガー研究会訳、人文書院、2018年10月、本体4,500円、4-6判上製340頁、ISBN978-4-409-03101-8
『その後の福島――原発事故後を生きる人々』吉田千亜著、人文書院、2018年10月、本体2,200円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-409-24122-6
『増補 明治思想史――近代国家の創設から個の覚醒まで』松本三之介著、以文社、2018年10月、本体3,700円、四六判上製327+15頁、ISBN978-4-7531-0348-5

★ユンガー『技術の完成』はまもなく発売。ドイツの作家エルンスト・ユンガー(Ernst Jünger, 1895-1998)の3歳年下の弟であるフリードリヒ・ゲオルク・ユンガー(Friedlich Georg Jünger, 1898-1977)が1946年に上梓し、49年と53年に増補された『Die Perfektion der Technik』の本邦初訳本です。底本は53年版ですが、この版で『技術の完成』第二書としてカップリングされた『機械と財産』(初版は1949年)は訳出されていません。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は、フリードリヒ・ゲオルクの日本語訳書としても初めてのものです。今井さんは「訳者解説1」で、本書をシュペングラー、クラーゲス、ニーキッシュ、そして兄エルンストなどの流れを汲んで書かれたものと位置づけ、「公刊前後からハイデガーやハイゼンベルクらの注目を浴び、特にハイデガーの技術論には少なからぬ影響を与えたと考えられる」と評しておられます。内容については本論の後に付された「内容概説」に端的に要約されており、まずここから読んでもいいかもしれません。その議論は古びていないどころか驚くほどの先見性をもって現代人に迫ってきます。「技術はユートピア主義者が考えるような牧歌的生活に行き着くのではなく、惑星規模で組織化された収奪として終る。搾取の原理は総動員へと、そして総力戦へと高まっていく。技術的進歩と戦争遂行」(第43章の要約、279頁)。兄エルンストの『労働者』(月曜社、2013年)とともに、ユンガー兄弟が透視したダークな未来像には戦慄を覚えるばかりです。



★吉田千亜『その後の福島』は発売済。『ルポ母子避難』(岩波新書、2016年)に続く単独著第2弾。福島の原発事故の被害者の肉声に寄り添った貴重なルポです。「政府の言う「復興の加速化」は「早期帰還」や「福島再生」とセットで使われることが多いが、実態としては原発事故の支援制度や賠償の終了も意味している。「復興」、すなわち政府の思い描く原発事故の収束への流れの中で、被害を受けた一人ひとりが翻弄され続けてきた」(7頁)と著者は指摘します。復興大臣が二代続けて「自立」や「本人の責任」と漏らして被害者を突き放す態度に出ていることの無残さと、ある中学生が著者に書き送った「私をみつけてくれてありがとうございます」という言葉の間にある、数えきれない現実の一端を本書は教えてくれます。「原発事故は、終わっていない」と結ぶ著者は、この繰り返されてきたかもしれない言葉に見かけ以上の真実の重みを与えています。


★なお人文書院さんでは先月、福永光司(ふくなが・みつじ:1918-2001)さんの著書3点を新装復刊されました。『道教と古代日本 新装版』(初版1987年)、『道教と日本文化 新装版』(初版1982年)、『「馬」の文化と「船」の文化――古代日本と中国文化 新装版』(初版1996年)です。いずれも日本古代と中国文化、とりわけ道教との密接な関係の軌跡を追った労作です。新たな読者との出会いのきっかけを作ろうとされる出版社の真摯な努力に深い感銘を覚えます。



★松本三之介『増補 明治思想史』はまもなく発売。1996年に新曜社から刊行された単行本の増補版です。帯文には「明治150年に贈る本格的な明治思想通史」とあります。補論として「夏目漱石の個人主義――思想の構造と特質」(242~301頁)が追加されています。これは本書の二つの立場――「近代天皇制国家の主要な特徴と考えられる政治的価値の優位という価値志向と、その克服へ向けての可能性を探る」こと(303頁)と「私的な個の領域が析出され自立化する可能性を探る」こと(304頁)――のうち、後者の主題に関連するものだと「増補版あとがき」では示されています。この補論は「自立と自由を主張した個」の、「内向きの自己中心主義ではなく、すべての個人の自立と自由を認める普遍性と社会に向って開かれた姿勢」としての「個の覚醒」の行方を探るものとして、当初構想されていたようです(309頁)。「漱石の個人主義の思想が、明治末期の自然主義文学などと同様に、文学の枠を超えて日本思想史、とくに社会思想史または政治思想史の視点からしても注目すべき多くの問題を提示していることは言うまでもないことであろう」(310頁)と松本さんは指摘されています。「国家とはつねに一定の距離を保ちつつ個人の自主自尊という自己本位の自由を保持する姿勢を貫くことができた」(301頁)と松本さんが評した漱石の個人主義に、現代人は何度でも学び直すことができるのではないかと感じます。


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★発売済の10月文庫新刊から注目書をいくつか取り上げます。


『世界史の哲学講義――ベルリン 1822/23年(上)』G・W・F・ヘーゲル著、伊坂青司訳、講談社学術文庫、2018年10月、本体1,490円、464頁、ISBN978-4-06-513336-1
『ソーシャル物理学――「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』アレックス・ペントランド著、小林啓倫訳、草思社文庫、2018年10月、本体1,200円、426頁、ISBN978-4-7942-2357-9
『中世の覚醒――アリストテレス再発見から知の革命へ』リチャード・E・ルーベンスタイン著、小沢千重子訳、ちくま学芸文庫、2018年10月、本体1,700円、592頁、ISBN978-4-480-09884-9
『戦争の起源――石器時代からアレクサンドロスにいたる戦争の古代史』アーサー・フェリル著、鈴木主税/石原正毅訳、ちくま学芸文庫、2018年10月、本体1,500円、448頁、ISBN978-4-480-09890-0
『つくられた卑弥呼――〈女〉の創出と国家』義江明子著、ちくま学芸文庫、2018年10月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09891-7
『ミトラの密儀』フランツ・キュモン著、小川英雄訳、ちくま学芸文庫、2018年10月、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-480-09892-4
『科学の社会史――ルネサンスから20世紀まで』古川安著、ちくま学芸文庫、2018年10月、本体1,300円、384頁、ISBN978-4-480-09883-2



★ヘーゲル『世界史の哲学講義(上)』は、文庫オリジナル。『ヘーゲル講義筆記記録選集(12)世界史の哲学講義――ベルリン 1822/23年』(Felix Meiner, 1999)を底本とし、編者まえがきと本文を全訳したもので上下巻に分かれます。本文は、ベルリン大学で行われた講義の初年度を三名の聴講者の筆記録を元に再現したもので、帯文には「オリジナル「歴史哲学講義」ついに本邦初訳」と謳われています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。上巻には、序論「世界史の概念」と、本論「世界史の行程」の第一部「東洋世界」(中国、インド、ペルシア、エジプト)を収録。来月発売となる下巻では第二部「ギリシア世界」、第三部「ローマ世界」、第四部「ゲルマン世界」を収めます。


★ちなみに今月、講談社学術文庫ではピレンヌ『中世都市』も文庫化されていますが、私の利用する某チェーン店では配本なしで購入できませんでした。初版部数がヘーゲルより少ないということを意味するのかもしれません。後日別のお店で探そうと思います。


★ペントランド『ソーシャル物理学』は2015年に草思社より刊行された単行本の文庫化。原著は『Social Physics: How Good Ideas Spread-The Lessons from a New Science』(Penguin Press, 2014)です。目次詳細は、アマゾンやhontoなどのオンライン書店に掲出されています。社会物理学とは、「情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学」である、と著者は説明しています(21頁)。カバー裏紹介文には「企業などの組織運営のあり方を根本から変え、都市計画や社会制度設計に大きなインパクトを与える“新しい科学”」とあります。ペントランド(Alex Paul "Sandy" Pentland, 1951-)はMIT教授。既訳書に『正直シグナル――非言語コミュニケーションの科学』(みすず書房、2013年)があります。


★ルーベンスタイン『中世の覚醒』は2008年に紀伊國屋書店から刊行された単行本の文庫化。原著は『Aristotle's Children: How Christians, Muslims, and Jews Rediscovered Ancient Wisdom and Illuminated the Dark Ages』(Harcourt, 2003; 2004年のペーパーバック版では副題のthe Dark Agesがthe Middle Agesに変更)です。「文庫版訳者あとがき」によれば文庫化にあたり「多くの修正を施した」とのことです。また、今回の文庫版では山本芳久さんによる解説「「信仰」と「理性」の「紛争解決」」が付されています。ルーベンスタイン(Richard E. Rubenstein, 1938-)は米国ジョージ・メイソン大学教授。既訳書に『殺す理由――なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』(紀伊國屋書店、2013年)があります。訳者は『中世の覚醒』と同じく小沢千重子さんです。


★フェリル『戦争の起源』は1988年に河出書房新社より刊行され、1999年に新装新版が出版された単行本の文庫化。原著は『The origins of war from the Stone Age to Alexander the Great』(Thames and Hudson, 1985)。「先史時代の戦争」「古代近東の戦争」「アッシリアとペルシア――鉄の時代」「古典期ギリシアの戦争」「軍事革命」「アレクサンドロス大王と近代戦の起源」の全6章。巻末に参考文献や索引があります。文庫化にあたり森谷公俊さんによる解説「古代軍事史の刷新――ギリシア中心主義を超えて」が付されています。フェリル(Arther Ferrill, 1938-)はワシントン大学教授。訳されているのは本作のみです。


★義江明子『つくられた卑弥呼』は2005年にちくま新書の一冊として刊行されたものの文庫化。「女が聖なる部分を担って、男は世俗の部分を担う」という平板な聖俗二元論を退け、「『魏志』倭人伝の中の卑弥呼以外の女性たちの状況、邪馬台国の男女と政治のありかた全般に視野を広げ」、「『魏志』倭人伝の記述だけを問題とするのではなく、文字資料が豊富になる七、八世紀ごろの資料から見えてくることを確かめ、そこからさかのぼって三世紀ごろの状況をとらえ直す」試みです(11頁)。新たに付された「文庫版あとがき」には「新書刊行後、学問研究の分野では、いくつか大きな進展があった」として「女性首長論の深化」や「女帝論の転換」などが説明されています。義江さん自身は本書以後の女帝研究を『日本古代女帝論』(塙書房、2017年3月)としてまとめておられます。



★キュモン『ミトラの密儀』は1993年に平凡社から刊行された単行本の文庫化。原著は1899年に初版が刊行された『Les mystères de Mithra』の第三版(1913年)です。訳者後書き」によれば第二版(1902年)と第三版では「かなり大幅な増補改訂が行なわれ」たとのことです。訳出にあたりさらに「英訳と独訳を参照し、両者に重要な変更や訂正が見出される場合はその点を考慮に入れた」とあります。文庫化にあたり、前田耕作さんが解説「甦るユーラシア文化融合の精神史」を寄せておられます。「本書を読み返し改めてフランツ・ヴァレリー・マリ・キュモンの複数文化が遭遇・交差する壮大な歴史を宗教史の視座から読み解く強靭な知性に圧倒され」たと述懐されています。ベルギーの考古学者キュモン(Franz-Valéry-Marie Cumont, 1868-1947)の既訳書にはもう一冊、同じ訳者による『古代ローマの来世観』(平凡社、1996年、品切)があります。


★古川安『科学の社会史』は1989年に南窓社から刊行され、2000年に増訂版が上梓された単行本の文庫化。Math & Scienceシリーズでの文庫化にあたり「若干の加筆・修正を施した」と書名の扉裏に特記されています。「文庫版あとがき」によれば、横組が縦組に変更されたものの本文は「ほぼ原形のまま」にしており、巻末注と索引は横組のままで、「本文中にあった人名の生没年は省き、初出外国人名の英文表記は人名索引に移動」させ、紙幅の関係で若干の図版の掲載を見送ったとのことです。帯文に曰く「約500年にわたる歴史を明快にまとめた定評ある入門書」とのこと。目次は以下の通りです。


増訂版まえがき
まえがき
序章 社会における科学
第1章 二つのルネサンスから近代科学へ
第2章 キリスト教文化における近代科学
第3章 大学と学会
第4章 自然探究と技術
第5章 啓蒙主義と科学
第6章 フランス革命と科学の制度化
第7章 ドイツ科学の勃興とその制度的基盤
第8章 科学の専門分化と職業化
第9章 産業革命とイギリス科学
第10章 アメリカ産業社会における科学
第11章 科学とナショナリズム
第12章 戦争と科学
終章 科学・技術批判の時代
文庫版あとがき

図版出典
人名索引
事項索引


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