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注目新刊:宮﨑裕助『読むことのエチカ』青土社、ほか

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★最初に、注目の新刊既刊を列記します。


『嘘の真理〔ほんと〕』ジャン=リュック・ナンシー(著)、柿並良佑(訳)、講談社選書メチエ、2024年5月、本体1,500円、B6判上製120頁、ISBN978-4-06-534715-7
『理性の呼び声――ウィトゲンシュタイン、懐疑論、道徳、悲劇』スタンリー・カヴェル(著)、荒畑靖宏(訳)、講談社選書メチエ、2024年5月、本体6,000円、B6判上製992頁、ISBN978-4-06-532809-5

『近代出版研究 第3号 特集「近代出版 調べる技術」』近代出版研究所(発行)、晧星社、2024年4月、本体2,300円、A5判並製320頁、ISBN978-4-7744-0820-0



★講談社選書メチエのシリーズ内シリーズである「le livre」で初めてとなる翻訳書2点が同時発売されました。まず『嘘の真理〔ほんと〕』は、フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy, 1940-2021)による『La vérité du mensonge』(Bayard, 2021)の全訳です。バイヤール社の「小さな講演会」からの一冊。同シリーズからはナンシーの『恋愛について』(メランベルジェ眞紀訳、新評論、2009年)も刊行されています。「ナンシーが「これまでで一番難しい」テーマ、〈嘘〉について語った楽しい哲学入門」(版元紹介文より)。ナンシーはこう書きます。「嘘は根本的に、まさしく他人への関係なのです」(33頁)。「嘘とは関係が断ち切られることです」(34頁)。「真理というのは、私が話すとき、私が他人の信頼を求めていて、その信頼がすぐに得られるということです。このような信頼が、私たちが人間であり、話す存在だという単純な事実に絶対必要な条件となっているのです」(35頁)。


★次に『理性の呼び声』は、米国の哲学者スタンリー・カヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)の学位論文がもとになっている代表作『The Claim of Reason: Wittgenstein, Skepticism, Morality, and Tragedy』(Oxford University Press, 1979; Reprinted with a new preface, 1999)の訳書。「ウィトゲンシュタインやオースティンの日常言語哲学から、ソローやシェイクスピアなどの文学、また映画、音楽をも横断し、これ以上なく透徹した論理と文体が、哲学の限界を切り開く。言語哲学、認識論、道徳理論を揺さぶり、大陸哲学と分析哲学を調和させ、哲学に人々の日常の「声」を呼びもどすとき、そこに立ち現れるものは何か。アメリカ哲学の巨人が遺した、哲学史に残る傑作」(カバー表4紹介文より)。メチエでもっとも分厚く、もっとも高額な書目となりました。


★『近代出版研究』第3号は、特集「近代出版 調べる技術」。版元紹介文によれば「出版業界紙、白ポスト、風俗壊乱絵葉書、新聞の欄外記事と版次、饅頭本、明治期のパブリッシャーズ・マーク、出版流通の社史、税関検閲、読書週間の起源、1980年代のカセットブックなどなど……これまでほとんど論じられなかった近代出版の様々なテーマを取り上げます。〔…〕稲岡勝(近代出版史)・田村俊作(図書館学)、安野一之(検閲研究)、安田理央(アダルトメディア研究)といった斯界の重鎮から、メディア史の大澤聡、大尾侑子、ライトノベル研究の山中智省、近代神道史の木村悠之介、都市計画論の辻原万規彦ら気鋭の学者、さらには戸家誠、神保町のオタ、松﨑貴之、雅子ユウ、松永弾正といった在野研究者まで、ユニークな執筆陣がまたもや揃いました」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。今号も業界人必読ではないでしょうか。



★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『読むことのエチカ――ジャック・デリダとポール・ド・マン』宮﨑裕助(著)、青土社、2024年5月、本体3,600円、46判上製426頁+xxiv頁、ISBN978-4-7917-7645-0
『現代思想+(現代思想2024年6月臨時増刊号)15歳からのブックガイド』青土社、2024年5月、本体1,800円、B5変型判並製182頁、ISBN978-4-7917-1465-0

『現代思想2024年6月号 特集=〈友情〉の現在』青土社、2024年5月、本体1,600円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1466-7

『言論統制――情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 増補版』佐藤卓己(著)、中公新書、2024年5月、本体1,500円、新書判592頁、ISBN978-4-12-102806-8

『トロツキー・イン・ニューヨーク 1917――革命前夜の10週間』ケネス・D・アッカーマン(著)、森田成也(訳)、平凡社、2024年5月、本体6,500円、A5判上製456頁、ISBN978-4-582-44715-6

『実録・苦海浄土』米本浩二(著)、河出書房新社、2024年5月、本体2,500円、46判上製228頁、ISBN978-4-309-03181-1

『抒情の変容――フランス近現代詩の展望』廣田大地/中野芳彦/五味田泰/山口孝行/森田俊吾/中山慎太郎(著)、幻戯書房、2024年5月、本体4,300円、四六上製360頁、ISBN978-4-86488-298-9



★青土社新刊より3点。まず『読むことのエチカ』は、宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ, 1974-)さんが修士論文から四半世紀にわたる各媒体への寄稿や口頭発表に加筆修正を施して、書き下ろしの序論を加え、一冊にまとめたものです。カバー宣伝文に曰く「テクストという他者との遭遇。読むこと、見ること、書くこと、話すこと、聞くこと、判断すること。読み解くことの不可能性を前にしながら、わたしたちは日々テクストに向き合い、コミュニケーションをとり、生きている。ジャック・デリダとポール・ド・マンのテクストに真摯に向き合いながら織りなす、わたしたちの生と切っても切り離せない、「読むこと」の省察と実践」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★「本書のタイトルは、特定の倫理や規範を提案しようとするものではないし、なんらかの読書術を示そうとしているのでもない。それはむしろ、あらゆる規範的な法を宙吊りにする、読解不可能性の(法なき)法のまえでテクストに応答すること、そのような仕方で読むことの出来事に開かれてあろうとすることへの誘いを試みるものである」(序論、31頁)。「読解不可能性の法に触れてはじめて、テクストをそのつど一回一回の経験において読むことが問題になる。そのつどの一回的な行為、まさしくそのような特異性において読むことの経験が問題になるのである。そこに賭けられているのは、読むことの責任、テクストに応答する責任である。裏を返せば、そのような応答責任を負う可能性に開かれていることにこそ、読むことの自由があるのだ」(同)。「彼ら〔デリダとド・マン〕が遺したテクストに記された読解の身振りのなかから、読むことの新たなエチカを発明すること」(同、36頁)。


★次に『現代思想+〔プラス〕』は、通常号よりひとまわり大きいサイズの新しい試み。誌名のロゴも今風に変わっています。編集後記には「プラス」シリーズについて特に言及はありませんが、版元ウェブサイトの内容紹介文には「考えることを人生にプラスする」とあります。その端緒となる「15歳からのブックガイド」は、32のキーワードを掲げ、それぞれに1冊ずつ寄稿者に本を紹介してもらうというもの。キーワードを列記しておきます。医療、歴史、政治、思想、法、多様性、フェミニズム コミュニケーション、家族、心、傷、哲学、宗教、文学、環境、占い、科学、数学、宇宙、自然、AI、言語、芸術、建築、ファッション、食、仕事、経済、身体、抵抗、古典、未来。

★最後に『現代思想2024年6月号』。特集は「〈友情〉の現在」です。版元紹介文に曰く「あいまいな〈友情〉のかたちを捉える。「家族」や「恋人」という枠組みには収まらないつながりが切実に考えられつつある今、〈友情〉はいかなる可能性もしくは問題を秘めているのか――。シスターフッドの再評価やホモソーシャルへの批判といった昨今の潮流に目を向けつつ、これまで見過ごされてきた関係のあり方や〈友情〉という概念そのものに正面から向き合いたい」と。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。大田ステファニー歓人さんが「現代思想」に寄稿するのは今回が初めてのようです。次号7月号の特集は「ノーバート・ウィーナー(仮)」改め「ウィーナーとサイバネティクスの未来」とのこと。


★『言論統制』は、カバーソデ紹介文によれば内容は以下の通り。「戦後のジャーナリズム研究で、鈴木庫三は最も悪名高い軍人である。戦時中、非協力的な出版社を恫喝し、用紙配給を盾に言論統制を行った張本人とされる。超人的な勉励の末、陸軍から東京帝国大学に派遣された鈴木は、戦争指導の柱となる国防国家の理論を生み出した教育将校でもあった。「悪名」成立のプロセスを追うと、通説を覆す事実が続出。言論弾圧史に大きな変更を迫った旧版に、その後発掘された新事実・新資料を増補」と。旧版は2004年刊。「はたして実在の鈴木庫三は本当に「知的ならざる軍人」だったのだろうか。鈴木庫三が残した膨大な著作、論文、日記、手稿から浮き上がるのは、それとはまったく異なる姿である」(序章、58頁)。なお、紹介文にある新資料については「増補版あとがき――言論弾圧史から言論統制史へ」に説明があります。


★『トロツキー・イン・ニューヨーク 1917』は、米国の作家、歴史家、法律家のケネス・D・アッカーマン(Kenneth D. Ackerman)の著書『Trotsky in New York, 1917: A Radical on the Eve of Revolution』(Counterpoint Press, 2016)の全訳。ただし凡例によれば献辞と謝辞は割愛とあります。版元紹介文に曰く「ロシア革命直前の1917年1~3月、第一次世界大戦参戦へと舵をきる米国ニューヨークにいたトロツキーの活動とその影響を、英・独スパイたちの暗躍を含め、生き生きと描く」と。帯には斎藤幸平さんの推薦文が載っています。「ロシア革命前夜に、トロツキーが資本主義の中心地ニューヨークで繰り広げる数奇な人生の一章は、まるで小説か映画のようで、ページをめくる手が止まらない」と。


★「日本語版序文」には次のように書かれています。「トロツキーがニューヨークを訪れたのは1917年初めのことで、歴史の主役になる直前のことだった。しかし、誰もがそのことを知らなかったようである。トロツキーは口止めしたり、自分を隠したりするような人ではなかったから〔…筆者にとって〕驚きだった。/トロツキーがニューヨークに滞在した約10週間という短い期間は、アメリカそのものが大きく変化しつつあった時期と重なっていた。その間に、第一次世界大戦への参戦という苦渋の決断がなされた。トロツキーはこの時期、古い政治的主流派の支配を脅かすことに時間を費やし、また、ヨーロッパ戦争へのアメリカの参加をめぐって世論が激しい議論をしているなか、大いに目立つ役回りを演じた。彼は、何十年にもわたってアメリカの左翼政治を形成することになる若い信奉者たちのグループを惹きつけた。この経験は、ロシアに帰国してからの数か月間において、レーニン、ロシア、革命に対するトロツキーのアプローチに一定の影響を与えたと思われる」(vi頁)。


★『実録・苦海浄土』は、帯文に曰く「石牟礼道子と渡辺京二、その後の世界を変えるふたりの闘争は、伝説の雑誌「熊本風土記」から始まった――知られざる『苦海浄土』誕生の秘密に迫るノンフィクション」と。元新聞記者で著述家の米本浩二(よねもと・こうじ, 1961-)さんは渡辺さんから資料の提供を受け、本書を執筆されました。最終章である第11章は、渡辺さんの逝去の一ヶ月前に米本さんがお聞きになった話を再構成して掲載しています。「石牟礼さんとの出会いは決定的だった。世界を見る目が変わったものね。世界、この世の中の実在、自然をふくんだ実在というものを見る目が、感じ方が、彼女に教えられて変わったと思います。あのひとと出会って心からよかったと思うね。食事づくり、原稿の清書、資料整理、部屋の掃除……。できるだけのことをしました」(199頁)。巻末には「熊本風土記」の総目次が付されています。


★『抒情の変容』は、仏文研究者6氏の論考を収めたフランス抒情詩論集。帯文に曰く「ボードレール、バンヴィル、ユゴー、ルヴェルディ、フォラン、レダ、エマーズら19世紀から21世紀までのフランス近現代詩をめぐり、「抒情詩(poésie lyrique)」「抒情性(lyrisme)」「抒情主体(sujet lyrique)」の三つの詩学概念を問う」と。「本書は、フランス抒情詩に関する最新の研究動向を専門家以外の方々にも分かりやすく紹介する入門書であるとともに、2018年に発足した「フランス抒情詩研究会」によるこれまでの研究の成果をまとめた第一弾の報告書でもある」(序文、5頁)。「今後も第二弾、第三弾と成果を上げていくことを目指したい」(同、10頁)とのことです。目次詳細は版元ブログ「幻戯書房NEWS」をご覧ください。

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