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注目新刊:デリダ『絵葉書Ⅱ』『メモワール』水声社、ほか

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『絵葉書Ⅱ――ソクラテスからフロイトへ、そしてその彼方』ジャック・デリダ[著]、若森栄樹/大西雅一郎[訳]、水声社、2022年12月、本体5,000円、A5判上製355頁、ISBN978-4-8010-0691-1
『メモワール――ポール・ド・マンのために』ジャック・デリダ[著]、宮﨑裕助/小原拓磨/吉松覚[訳]、水声社、2022年12月、本体5,000円、A5判上製344頁、ISBN978-4-8010-0656-0

『読むことのアレゴリー』ポール・ド・マン[著]、土田知則[訳]、講談社学術文庫、2022年12月、本体2,000円、A6判576頁、ISBN978-4-06-530227-9

『ミシェル・フーコー ――権力の言いなりにならない生き方』箱田徹[著]、講談社現代新書、2022年12月、本体800円、新書判112頁、ISBN978-4-06-530458-7

『アーモンドの樹――ウォルター・デ・ラ・メア作品集2』ウォルター・デ・ラ・メア[著]、脇明子[訳]、橋本治[絵]、東洋書林、2023年1月、本体2,400円、A5変判上製166頁、ISBN978-8-8721-830-7



★水声社さんの「言語の政治」シリーズで、デリダの訳書2点『絵葉書Ⅱ』『メモワール』が刊行されました。『絵葉書Ⅱ』は、2007年の第Ⅰ巻刊行以来の続刊で完結篇。2分冊になったのは訳書の事情で、原著『La carte postale. De Socrate à Freud et au-delà』(Flammarion, 1980)は全1巻です。訳書第Ⅱ巻に収録されているのは、「思弁する――「フロイト」について」「真理の配達人」「「まったく」あるいは「すべて」について」の3本。ラカンとの対決が刻印された重要書です。


★『メモワール』は、『Mémoires pour Paul de Man』(Galilée, 1988)の全訳。「本書は、デリダがフランス国外での活動の原動力となった「アメリカにおける脱構築」についてみずから考察すべく、ポール・ド・マンの著作を読み解くことを通じて、記憶と喪の諸問題について新たな議論を展開して見せた書物」(「訳書あとがき」より)。ド・マンの死後に発覚した若き日の反ユダヤ的発言をめぐっては、デリダは本書第二部で次のように論じています。


★「ポール・ド・マンの戦争とは結局、〔…〕この人間が彼自身のうちで生きて耐え忍ばねばならなかった戦争である。彼はこの戦争であった。ほぼ半世紀のあいだ、この試練はたんに私的なだけの苦悩にとどまることはできず、それゆえこれは戦争であった。〔…〕それはなおひとつの秘密であり、数々の秘密の坩堝である。しかし今日、こうした人間がそうした経歴の途中でいくつかの悲劇、断絶、分断、「乖離」によって引き裂かれることはありえなかった、などと真剣に想像でできる人はひとりもいない。いかにしてド・マンはこれらの内面的な葛藤を外面的に耐え、また引き受けたのか。いかにしてド・マンは、いくつもの世界、歴史、記憶、言説、言語がひしめきあうこの居住しえない不調和に住まっていたのか」(190頁)。


★『読むことのアレゴリー』は、2012年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。巻末特記によれば、文庫化にあたり訳文に若干の訂正を施したほか、書誌情報がアップデートされているとのことです。「外在的な批評の隆盛に負われる昨今の批評潮流は、ともすれば、内在的な読みの枢要性を失念しがちである。今、『読むことのアレゴリー』を改めて読み直す意味は、明らかにそこにあると思われる。一人でも多くの読者が本書を手にし、「読むことの不在」を脱する糸口をそれぞれの形で模索してくださるなら、訳者にはそれにまさる喜びはない」(「学術文庫版訳者あとがき」より)。


★『ミシェル・フーコー』は、昨秋創刊された新書内シリーズ「現代新書100〔ハンドレッド〕」の最新刊。「今を生きる思想」の総題のもと9月より、ショーペンハウアー、アレント、宇沢弘文、フロムが、100頁ほどのヴォリュームで解説されてきました。今回のフーコー本では「1970年半ばから1980年代におあけてのフーコーの思想を権力論から統治論への展開として捉える。そして、権力をめぐるフーコーの議論のポイントを明らかにしたうえで、権力論が統治と主体という概念を組み込んで大きく展開していくようすを描き出す」(11~12頁)。


★『アーモンドの樹』は、『ウォルター・デ・ラ・メア作品集』全3巻の第2巻。第1巻『アリスの教母さま』は12月に発売済です。表題作「アーモンドの樹」のほか、「鉢」「姫君〔プリンセス〕」「はじまり」、の合計4篇が収録されています。なお、昨年9月に白水Uブックスの1冊として発売された『アーモンドの木』(和爾桃子訳、エドワード・ゴーリー挿絵)とは、表題作を除き、収録作品が異なるようです。白水版の収録作は7篇(「アーモンドの木」「伯爵の求婚」「ミス・デュヴィーン」「シートンの伯母さん」「旅人と寄留者」「クルー」「ルーシー」)です。




★このほか、昨年言及できていなかった水声社さんの注目既刊書を列記します。注目書はこれらだけではないのですが、ここでは購入したものに限ります。


『監査文化の人類学――アカウンタビリティ、倫理、学術界』マリリン・ストラザーン[編]、丹羽充/谷憲一/上村淳志/坂田敦志[訳]、水声社、2022年12月、本体5,000円、四六判上製440頁、ISBN978-4-8010-0694-2
『金融人類学への誘い――トレーダーたちの日本と夢の終わり』宮崎広和[著]、木村周平/深田淳太郎/早川真悠/高野さやか[訳]、水声社、2022年11月、本体3,200円、四六判上製300頁、ISBN978-4-8010-0673-7

『ガリレオ書簡集――天文学的発見から聖書解釈まで』ガリレオ・ガリレイ[著]、小林満[訳]、水声社、2022年11月、本体3,500円、A5判上製246頁、ISBN978-4-8010-0405-4

『有限存在と永遠存在――存在の意味への登攀の試み[改訳決定版]』エーディト・シュタイン[著]、道躰章弘[訳]、水声社、2022年11月、本体8,000円、A5判上製608頁、ISBN978-4-8010-0682-9

『バタイユ書簡集 一九一七‐一九六二年』ジョルジュ・バタイユ[著]、岩野卓司/石川学/大木勲/神田浩一/谷口亜沙子/永井敦子/長井文/中里まき子/中山慎太郎/福島勲[訳]、水声社、2022年7月、本体10,000円、A5判上製719頁、ISBN978-4-8010-0561-7



★『監査文化の人類学』と『金融人類学への誘い』の2点は、叢書「人類学の転回」の既刊書。いずれも、ビジネス街の書店さんで売れてほしい、啓発的な内容です。前者『監査文化の人類学』は、『Audit Cultures: Anthropological Studies in Accountability, Ethics and the Academy』(Routledge, 2000)の全訳。編者ストラザーンによる序論のほか、10本の論考が収録されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認下さい。アカウンタビリティとは会計説明責任のこと。「本書の寄稿者たちが捉えてきたのは勢力を拡大し続けている一種の文化である」(15頁)とストラザーンは言います。原著刊行から22年後、監査文化を問う視座の必要性はいっそう高まっています。


★『金融人類学への誘い』は、米国ノースウェスタン大学教授の人類学者、宮崎広和(みやざき・ひろかず, 1967-)さんによる『Arbitraging Japan: dreams of capitalism at the end of finance』(University of California Press, 2013)を日本の若手研究者が翻訳し、著者本人が調整したもの。岩井克人さんが推薦文を寄せています。曰く「アービトラージに夢を託し、その終焉に自らの人生を重ねる金融トレーダーと人類学者との邂逅が生み出した最高峰のモノグラフ」。アービトラージとは「裁定取引」のこと。


★「私は1980年代後半以降の日本の金融市場においてアービトラージ業務を専門とする日本人トレーダーのグループがこのカテゴリーをどう用いたのかを論じる。私が考察するのは、アービトラージの理論や技法に触発された思考や想像、夢である。〔…〕日本の証券会社のトレーディング・ルームにおいて、アービトラージという考え方が幅広い思考実験や想像力を触発した具体的な仕方に注目することで、金融の理論や技術が資本主義批判の着想の源になりうることを示したい」(31頁)。


★『ガリレオ書簡集』は、「イタリアルネサンス文学・哲学コレクション」の第5弾。国定版全集を底本とし、ケプラー宛からクリスティーナ大公母宛まで22本を収録。帯文に曰く「ガリレオの知的活動の軌跡を立体的に浮かび上がらせる書簡を選び収録」と。同コレクションの続刊予定には、フィチーノ『人間の生について』河合成雄訳、が予告されています。


★『有限存在と永遠存在』は、2019年に上梓された訳書の改訳決定版。原著は1937年刊の『Endliches und ewiges Sein)』で、底本は新版全集の第11巻および12巻の合本版(2006年/2013年刊)です。本書を頂点とするシュタインの思想を訳者が概括したという『聖エーディト・シュタインの永遠哲学』が同時に刊行されています。


★『バタイユ書簡集』は、ミシェル・シュリヤ編『Choix de lettres 1917-1962』(Gallimard, 1997)の全訳。付録としてブランショからバタイユへの書簡が添えられています。帯が本来付いているようですが、私が購入した時は残念ながらなかったです。シュリヤはご存知の通り、『G・バタイユ伝』(上下巻、河出書房新社、1991年)の著者。

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