『スピノザ全集(Ⅲ)エチカ』上野修[訳]、岩波書店、2022年12月、本体4,800円、A5判上製函入382頁、ISBN978-4-00-092853-3
★『エチカ』は、上野修さんと鈴木泉さんの共編による岩波書店版『スピノザ全集』(全6巻、別巻1)の第1回配本。凡例によれば「翻訳にあたっては、『遺稿集』ラテン語版をもとにしたモロー編スピノザ全集(第四巻)に概ね依拠しつつ、2010年に発見された、いわゆるヴァチカン写本の異文をできるかぎり尊重し、反映させた」とのことです。当初の予定では、工藤喜作(くどう・きさく, 1930-2010)さんの単独新訳で進んでいましたが、逝去により叶わなかったと巻末解説に記されています。第2回配本は、2023年3月発売予定の第Ⅴ巻『神、そして人間とその幸福についての短論文』と予告されています。3か月ごとに続巻が出るとのことです。
★巻頭の「日本語版『スピノザ全集』への序文」に曰く「私たちは、完成時期が未定であるモロー編全集の完結を待つことなく、スピノザ研究が一程度進んだ現代会を最適の時機と判断し、新訳による『スピノザ全集』を刊行することにした。すなわち、ゲプハルト版を基礎資料としつつも、その後およそ百年にわたって進められてきたスピノザ研究の成果を採り入れ、とりわけ、各著作の新しい校訂版や進行中のモロー編全集を適宜参照し、新たな校訂を加えて翻訳を作成する、というのが基本方針である。本全集は、今日ではテクストの真正性が否定されている科学論文二つを除外したうえで、スピノザの全著作を収める」(p.iii-iv)。
★科学論文二つというのは、ゲプハルト版全集第4巻に収められていた「虹の代数学的計算」「偶然の計算」のことかと思われます。
★次に、弊社がお世話になっている著訳者の最近の著書を列記します。
『崇高のリミナリティ』星野太[著]、フィルムアート社、2022年12月、本体2,600円、四六変形判上製300頁、ISBN 978-4-8459-2035-8
『現代思想2023年1月号 特集=知のフロンティア――今を読み解く23の知性』青土社、2022年12月、本体1,600円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1441-4
『構造と自然――哲学と人類学の交錯』檜垣立哉/山崎吾郎[編著]、勁草書房、2022年12月、本体4,000円、A5判上製260頁、ISBN978-4-326-10314-0
『ソレルスの中国――オリエンタリズムの彼方へ』阿部静子[著]、水声社、2022年10月、本体2,000円、四六判上製173頁、ISBN978-4-8010-0668-3
★『崇高のリミナリティ』は、東京大学准教授の星野太(ほしの・ふとし, 1983-)さんのデビュー作『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)をめぐる対談5本(2017~2018年)を中心に、書き下ろしの序論「崇高のリミナリティ」と、「崇高をめぐる50のブックガイド」を付した1冊。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。なお、星野さんは青土社の月刊誌『現代思想』の1月号に論考「オラリティの感性論」(181~189頁)を寄せておられます。
★『構造と自然』は副題にある通り、現代思想における哲学と人類学の交錯の諸相をめぐる論文集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。久保明教「構造とネットワーク――レヴィ=ストロース×ラトゥール」、檜垣立哉「レヴィ=ストロースの哲学的文脈――構造と時間/自然と歴史」、近藤和敬「デュルケムはパンドラの箱を開けたか――思考の非個人主義と非人間主義」など、9本の力作論考が収められています。
★『ソレルスの中国』は、仏文学者の阿部静子(あべ・しずこ, 1943-)さんが『慶應義塾大学日吉紀要フランス語フランス文学』で2014年から2020年までの間に4回発表してきた論文を大幅に加筆修正したもの。「ソレルス作品の織り糸として外在化されてきた」(16頁)という、作家の「内なる中国」像に迫る試み。
★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』ヴァレリー・ラルボー[著]、西村靖敬[訳]、幻戯書房、2022年12月、本体4,500円、四六変判上製456頁、ISBN978-4-86488-264-4
『尹致昊日記(2)1890‐1892年』尹致昊[著]、木下隆男[訳注]、東洋文庫、2022年12月、本体4,000円、B6変判上製函入560頁、ISBN978-4-582-80911-4
『増補新版 テロルの現象学――観念批判論序説』笠井潔[著]、作品社、2022年12月、本体4,200円、四六判並製532頁、ISBN978-4-86182-953-6
★『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』は、ルリユール叢書の第28回配本、39冊目。帯文の文言を借りると、英米、中南米、イタリアなど諸国の文芸作品を翻訳したコスモポリタン作家ラルボーが、500余名の文人をめぐってその翻訳の理念、原理、技法を分析したという評論集(1946年)の完訳であり、本邦初訳とのこと。巻末の人名索引は簡単な人物紹介が付いていて手間が掛かっています。
★『尹致昊日記(2)』は、平凡社「東洋文庫」第911巻。朝鮮近代の知識人尹致昊(ユンチホ, 1865-1945)の日記全15巻のうちの第2巻。1883年から1889年を扱う第1巻は上下巻に分かれていて8月に発売済。第2巻では「米国での進行と民族意識の葛藤を吐露する」(帯文より)と。東洋文庫次回配本は来月、グルバダン・ベギム『フマーユーン・ナーマ――ムガル朝皇帝バーブルとフマーユーンに関する回想録』の予定。
★『増補新版 テロルの現象学』は、2013年1月の新版から約10年を経て、補論Ⅱ「観念的暴力と象徴的暴力――ユートピアの現象学へ」を加えたもの。巻頭の「はじめに」では、この補論は「ジュディス・バトラーの非暴力論を検討しながら『テロルの現象学』の集合観念論の深化を試みたもの」と紹介されています。また、本書の続編として『ユートピアの現象学』が予告されています。